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遠隔医療の最新動向と今後の展望 
長谷川高志(特定非営利活動法人 日本遠隔医療協会 特任上席研究員)

2024-7-10

遠隔医療の概況

2019(令和元)年度診療報酬改定でオンライン診療料が創設され,COVID-19のパンデミック下で対象疾患や初診適用について期間限定ながら規制緩和されたことが起爆剤となり,オンライン診療や遠隔医療の推進機運が高まり,初診の恒久的緩和や医学管理の対象拡大につながった。
2024(令和6)年度診療報酬改定は厳しいものだったが,遠隔医療に限れば推進機運は持続し,早くから中央社会保険医療協議会(中医協)でも前向きの方針が示され1),へき地や難病に関するオンライン診療などへ新たな評価が多数加わった。一方で,内科系学会社会保険連合(内保連)加盟学会からの要望が軒並み不採択となるなど,手放しで喜べない厳しい結果だった。
遠隔医療に消極的と思われていた厚生労働省の対応は以下のとおり,大きく変化している。
・D to D形態の遠隔医療は専門医の地域的偏在の緩和策として評価されていたが,医師の働き方改革の推進手法としてさらに積極的に扱われている。
・D to P形態,特にオンライン診療について,不適切な診療や安全性への懸念から規制が長期間続いたが,へき地や医師偏在,医師の働き方改革などへの対策として積極的な扱いに転じた。
・一方で,利用規模の拡大は期待に届かず,実施件数はまだ多くない。
抑制的風潮は去り規制も減ったが,さまざまな遠隔医療への診療報酬の評価の拡大は遅れ,新規技術への評価を導くどころか,従来からの研究成果の活用さえ期待ほど進んでいない。ベビーブーム世代が後期高齢者となる2025年あるいは高齢者人口がピークを迎える2040年の社会保障システムの諸問題への改善ツールとして期待されるので,効果的な遠隔医療の推進策を講じて,社会的要請に応える必要がある。2024年度診療報酬改定の状況分析から,推進のための視点を整理したい。

2024年度診療報酬改定で加えられた新たな評価

2022(令和4)年度診療報酬改定から遠隔医療への評価が進み始めたが,2024年度改定でも多数の重要な評価の新設が続いた。代表的なものを以下に列記する。
オンライン診療における患者側での看護師による診療補助について,看護師等遠隔診療補助加算としての評価が新設された。へき地診療所とへき地医療拠点病院が適用対象である。D to P with N形態として以前から重視されていたが2),ついに診療報酬上で評価された。
遠隔死亡診断の補助に関する評価が,D to P with Nへの評価新設に併せて遠隔死亡診断補助加算として新設された。
難病患者の診療について,D to P with D形態の評価として遠隔連携診療料があり,てんかんの一部について診断確定以降の治療でも算定が認められていた。遠隔連携診療の評価は高まり,今次改定では指定難病全般で治療への算定に拡大した。
情報通信機器を用いた疾病管理として,在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料(CPAP療法)がオンライン診療(情報通信機器を用いた診療)で算定可能となった。デバイス治療に関するオンライン診療の評価の新設であるが,遠隔モニタリング加算との組み合わせには広がっていない。通院精神療法も情報通信機器を用いた診療での評価が始まった。海外で利用実績があるが,やっと日本国内でも評価された。
超急性期脳卒中加算の見直し,脳血栓回収療法における遠隔連携の評価など,医師偏在地域における基幹施設との適切な連携が医療DXの一環として取り上げられた。
急性期治療に対する遠隔医療として,遠隔ICUの診療報酬上の評価が,特定集中治療室遠隔支援加算として取り入れられた。2022年度の前回改定では社会的理解が不十分で収載に至らなかったが,対象施設の要件(特定集中治療室管理料5・6)の新設など条件が整備されて,収載につながった。
情報通信機器を用いた歯科診療として初診・再診の評価が新設され,特定疾患療養管理料などの指導管理や遠隔連携診療料が併せて導入された。歯科への導入だけでも大きな変化だが,医科でさまざま議論された事柄の経験から,指導管理や連携への評価が一気に導入された。
情報通信機器を用いた診療では,ほかにも対面診療の初診,再診,外来診療料の増点に伴う見直し,慢性腎臓病の透析予防指導管理の新設や小児特定疾患カウンセリング料の見直し,医療的ケア児に対する入院前支援など,評価対象が増えた。遠隔医療と関連が深いSaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)のデジタル療法の管理料や材料費も,保険医療材料改革による変更が進んでいる。
一方で,エビデンス不足として採択されなかった要望は多く,遠隔医療としての研究が進んでいる意外な対象も少なくない。遠隔分娩監視装置によるハイリスク妊婦管理料,心臓ペースメーカーの植込型心電計の場合の遠隔モニタリング加算,頭痛ダイアリーによる慢性頭痛の遠隔診断,頭痛患者の遠隔連携診療加算や支援技術管理,遠隔心大血管リハビリテーションオンライン管理指導料,デジタル脳波判読の遠隔診断などが一例である。

今次改定への評価

指導管理や診療料などの基本的制度に関する評価が多数増えた。医師の働き方改革,へき地医療や難病,医師偏在地域の救急医療など,重要課題だが提供要件がシンプルなものが多い。
一方で,患者数や対象施設の多い遠隔医療では,適切な対象に提供を絞る要件づくりが難しい。不採択が多かった学会要望などは,臨床的有効性は実証されていても,提供要件に関する社会的エビデンスが不足と考えられる。単純な提供要件では条件が狭くて患者数が限られ,遠隔医療の規模が広がらない。
今次改定では,シンプルな提供要件への評価推進を急ぎ,難しい対象は後回しとなったと言える。臨床技術の研究が進んでいる遠隔医療手法でも,提供要件などの社会的研究は遅れており,評価が進まなかった。社会的視点を強めた取り組みが将来に向けて重要である。

将来の医療提供体制に向けて

大胆な社会保障制度の変革が不可欠な時代が迫っている。遠隔医療は変革の重要なツールと期待されているが,2024年度改定の状況を振り返ると,変革を導く力が十分とは考えにくかった。
2040年代の社会保障制度などに関する厚生労働省の資料3)によれば,「医療・福祉サービス改革プランの方向性」として,データヘルス改革,タスクシフティング,組織マネジメント革命,経営の大規模化・協働化がある。遠隔医療ではD to Dにおける施設間連携や診療情報共有の要件づくりが課題であり,支援・被支援施設間の障壁を下げ,診療管理を大きく融合できる制度設計が必要となる。
2040年代のもう一つ課題として,「健康寿命延伸プランの方向性」,つまり健やかな生活習慣形成,疾病予防・重症化予防,介護予防・フレイル対策/認知症予防がある。遠隔医療ではD to Pとしてオンライン診療やデジタル療法およびパーソナルヘルスレコード(PHR)の活用を広げる必要がある。現状ではへき地や難病向けが大きな位置を占め,疾病管理など大規模な対象への活用は遅れている。将来に向けて,疾病管理の普及,健康指導や維持期治療など診療報酬とその他財源をシームレスに適用する方策,難病に限らない疾患への支援など,変革が求められる。規制改革に誘導されてきた遠隔医療だが,次の方向性は多数の医療機関の協働や融合,診療報酬のみに閉じない社会的評価や財源のあり方など,多様性に富んだ新視点の構築が不可欠である。そのイメージがインテグレーテッドヘルスケア(図1)である。

図1 医療DXによるインテグレーテッドヘルスケア(包括健康管理)

図1 医療DXによるインテグレーテッドヘルスケア(包括健康管理)

 

●参考文献
1)厚生労働省 : 令和6年度診療報酬改定説明資料等について. 2024.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html
2)長谷川高志, 清水隆明, 鈴木亮二, 他 : 遠隔診療の有効性・安全性に関するエビデンスの飛躍的な創出を可能とする方策に関する研究. 日本遠隔医療学会雑誌,14(2) : 74-77, 2018.
3)厚生労働省 : 2040年を展望した社会保障・働き方改革について. 2024.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21483.html

 

(はせがわ たかし)
慶應義塾大学大学院にてコンピュータサイエンスを学ぶ。企業で遠隔放射線画像ビジネス,遠隔診療システムの研究に従事。大学に転じ,東北大学,国際医療福祉大学大学院,群馬大学医学部附属病院を経て,現在,特定非営利活動法人日本遠隔医療協会特任上席研究員。複数の厚生労働省科学研究費補助金事業で遠隔医療の制度などの研究に携わる。一般社団法人日本遠隔医療学会常務理事。内科系学会社会保険連合(内保連)遠隔医療関連委員会副委員長。