2023-1-16
はじめに
医療分野におけるデジタル化の進みは遅いと言われてきた。しかし,最近の動向では,国は医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を急速に進めようとしており,その中で,電子処方箋の議論が進んでいる。電子処方箋は,オンライン資格確認の仕組みの上で稼働することが計画されている。オンライン資格確認について,八尾市立病院の事例を紹介する。
オンライン資格確認とは
オンライン資格確認とは,医療機関等の窓口でマイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等により,オンラインで資格情報を確認する仕組みで,2021年10月より本格稼働し,全国の医療機関で導入が進められている。
オンライン資格確認における本人確認の方法は2パターンある。マイナンバーカードを提示された場合は,顔認証付きカードリーダーまたは窓口スタッフによる目視で顔認証を行う。または,マイナンバーカードの4けたの暗証番号を患者自身に入力してもらうことで本人確認をすることも可能である。健康保険証を提示された場合は,窓口スタッフが保険証の記号番号などをシステムに入力する。
マイナンバーカードや健康保険証のいずれも上記の方法で本人確認をした上で患者の資格情報を取得し,社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会が一元管理している資格履歴から患者の現在の医療保険資格の状況を確認することができる。
オンライン資格確認のメリット
1.レセプト返戻の削減
オンライン資格確認では,患者の保険資格がその場で確認できるようになるため,資格過誤によるレセプト返戻が減り,窓口業務が削減される。これに伴って,再申請できないことによる未収金も削減できる。
2.健康保険証の入力作業の削減
オンライン資格確認では,最新の保険資格を自動的に医療機関システムで取り込むことができる。今まで受付で健康保険証を受け取り,保険証の記号番号,氏名,生年月日,住所等を医療機関のシステムに入力する必要があったが,それらの手間を削減できる。
3.資格の一括照会
事前に予約されている複数の患者の保険資格が有効か,保険情報が変わっていないかを一括で把握することができる。
4.限度額適用認定証等の連携
限度額適用認定証等は,患者が保険者へ必要となった際に申請を行わなければ発行されなかったが,申請がなくても限度額情報を取得することができ,限度額以上の医療費を窓口で支払う必要がなくなる。
5.薬剤情報・特定健診等情報の閲覧
患者の薬剤情報・特定健診等情報を,患者の同意の上で,有資格者等が閲覧できる。
6.災害時の閲覧
災害時には,特別措置としてマイナンバーカードによる本人確認ができなくても,薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができる。
7.電子版お薬手帳との連携
これまで医療機関や薬局ごとに発行される調剤明細書等に記載されている薬剤情報を二次元バーコード等で読み込み,データを取り込んでいたが,マイナポータルを介して,レセプト情報に基づいた薬剤情報を一括して電子版お薬手帳に取り込むことができる予定である。
当院におけるシステム導入の経緯と実績
オンライン資格確認を行うためには,顔認証付きカードリーダーの導入,レセプトシステムや電子カルテシステムなどの改修,ネットワーク回線整備が必要となる。
社会保険診療報酬支払基金では,オンライン資格確認の導入に向けた医療機関等のシステム整備等を支援するため,国から医療提供体制設備整備交付金の交付を受け,医療機関等が行うオンライン資格確認の実施に必要な費用の補助および必要な物品(顔認証付きカードリーダー)を調達し,提供している。
八尾市立病院では,国の動向を踏まえて2021年度予算としてオンライン資格確認導入費用を設定した。その後の経緯は,表1のとおりである。
1.システム改修
オンライン資格確認端末の設置に伴い,電子カルテの改修費用と,院内ネットワーク回線の工事費用が必要になった。オンライン資格確認は,患者が受付をする周辺で行うことができるよう,初診受付周辺,地域医療連携受付周辺,救急外来受付周辺にオンライン資格確認端末を設置する必要があったため,ネットワーク回線や電源等の整備が必要だった。また,電子カルテで薬剤情報や特定検診情報を閲覧するためのシステム改修を行った。
2.患者側の事前準備
マイナンバーカードを健康保険証として利用するためには,事前にマイナポータル上での登録が必要となる。患者自身のマイナンバーカード読込対応スマートフォンやICカードリーダーで認証可能なPCで登録することができる。この環境のがない場合は,セブン銀行ATMでの登録も可能である。この事前準備が必要であることが広く知られていないため,初めての利用時には説明が必要である。
3.利用実績
当院におけるオンライン資格確認のこれまでの利用実績を表2に示す。導入後,保険資格確認作業の効率化が実現できている。最近では,限度額適用の患者からオンライン資格確認対応薬局を探してほしいといった問い合わせも出てきている。
表1 八尾市立病院におけるオンライン資格確認システム導入経緯
表2 八尾市立病院におけるオンライン資格確認の利用実績
現在の課題
1.マイナンバーカード・健康保険証
マイナンバーカードを取得している人は,国民全体の約半数で,まだまだ普及が進んでいるとは言えない状況である。また,個人認証番号が付与された健康保険証もすべての方に普及している状態ではない。健康保険証については順次更新されていくだろうが,まずはこれらが普及していかないことには,オンライン資格確認も進まない。健康保険証を廃止して,マイナンバーカードに一元化するとの報道もあるが,今後の普及が必須である。
2.薬剤情報,特定健診情報の閲覧期間
2022年の診療報酬改定では,薬剤情報・特定健診情報を確認したということで,診療報酬の加算が可能となっている。患者の同意を得た薬剤情報・特定健診情報は,国の基準では,24時間経過するとシステム上で閲覧できないようにする必要がある。しかしながら,患者の来院時に確認したとしても,24時間後にはその内容がわからなくなるため,カルテや薬歴に転記する必要がある。同意取得から閲覧期間終了までの期間の延長や,電子カルテなどに効率的に情報を連携する仕組みは必須である。
3.マイナンバーの有効期限
マイナンバーカードには有効期限があり,マイナンバー制度が創設された当初にカードを取得している場合は,順次更新しなければならない。更新には費用と手間がかかるため,マイナンバーカードのメリットが少ないと更新されない。マイナンバーカードのメリットについて啓発するとともに,取得や更新について,今よりもっと簡単で簡便な仕組みを期待したい。
4.オンライン資格確認端末の設置場所
当院では,オンライン資格確認端末は外来の受付周辺,救急に設置している。オンライン資格確認を行う患者は,まだまだ少ないので現在の台数で問題ないが,患者数が増えた場合,端末数を増やす必要がある。また,入院患者が入院後にマイナンバーカードを持参した場合,職員がカードを預かることはできないため,患者自身が設置場所まで移動する必要がある。
5.薬局でのオンライン資格確認
薬局で調剤を受けるときに,オンライン資格確認で,毎回資格認証する必要が出てくる。電子処方箋でもこの仕組みをベースに構築されるため,患者に薬局でもマイナンバーカードや健康保険証を提示すると薬剤確認ができることを啓発する必要がある。
6.薬剤情報
オンライン資格確認での薬剤情報確認は,レセプト情報を閲覧する仕組みになっている。レセプト情報は,少なくとも1か月前の情報であるため,直近の情報は反映されない可能性がある。国の予定では,電子処方箋の仕組みの上で,薬剤の重複チェックなどの仕組みが検討されている。最新の情報を基に,正確なチェックが可能になることを期待する。
まとめ
2023年1月に電子処方箋の仕組みが,オンライン資格確認の仕組み上で稼働することが予定されている。電子処方箋では,薬剤情報サーバが設置され,調剤情報が集約されると発表されている。また,電子版お薬手帳連携や,サーバ上での薬剤重複チェックなど新たなサービスも計画されており,安全な薬物治療に貢献できると期待される。
国は,さらに多くの地域でオンライン資格確認を含めたシステムの導入,マイナンバーカードの普及促進をめざすとしている。今後の動向を含め,最新情報を把握して医療分野のDXに乗り遅れないよう対応していくことが必要である。
(こえだ のぶゆき)
1991年摂南大学薬学部卒業。92年
八尾市立病院薬局に入局,2015年事務局参事,2021年より事務局次長。薬剤師,医療情報技師,診療情報管理士,病院経営管理士。日本病院薬剤師会総務部委員,日本医療情報学会評議員,日本クリニカルパス学会評議員/医療情報委員会委員(代行入力部会)/フォーミュラリ部会部会長などを務める。