2025-3-17
医療情報を共有する仕組みを構築し医療DXを推進
2022年6月7日に閣議決定された骨太方針2022において,「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」を施策の柱に,国を挙げて医療DXを推進することが示された。2023年6月2日に策定された工程表に沿って,現在,各施策が推進されている。
全国医療情報プラットフォームは,オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し,レセプト・特定健診等情報に加え,予防接種,電子処方箋情報,自治体検診情報,電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームであり,その仕組みの一つとして「電子カルテ情報共有サービス」の整備が進められている。2024年度の診療報酬改定で新設された医療DX推進体制整備加算では,「電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること(経過措置2025年9月30日まで)」が施設基準の一つとして盛り込まれた。
本サービスは,2025年1月より順次全国10地域でモデル事業を開始しており,2025年度中に準備が整った医療機関等から運用が開始される。
4つのサービスで3文書・6情報を共有
電子カルテ情報共有サービスは,オンライン資格確認等システムのネットワークを活用し,全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテ情報を共有するための仕組みである。医療機関で発生する3文書(診療情報提供書,健診結果報告書,退院時サマリー),および傷病名などの6情報を,電子カルテ情報共有サービスにHL7 FHIR形式で登録することで,以下の4つのサービスにより,紹介先の医療機関や全国の医療機関等・医療保険者・国民が情報を閲覧することができる(図1)。

図1 電子カルテ情報共有サービスの概要 (第183回社会保障審議会医療保険部会資料より引用転載)
1.診療情報提供書送付サービス
診療情報提供書および添付される退院時サマリーを電子カルテ情報共有サービスに登録することで,紹介先の医療機関と共有することができる。宛先指定が必須となっており,紹介先の医療機関とのみ情報を共有できる。登録した情報は,電子カルテ情報共有サービスの文書情報管理データベース(DB)に6か月間保存される。ただし,紹介先医療機関が受領した後は,1週間程度後に自動消去される。
2.健診結果報告書閲覧サービス
各種健診結果を医療保険者および全国の医療機関等や本人等が閲覧できるサービスで,特定健診,後期高齢者健診,事業主健診(一般定期健康診断),学校職員健診などが対象となる。登録した情報は,電子カルテ情報共有サービスを経由してオンライン資格確認等システムの健診文書管理DBに保管され,医療保険者や全国の医療機関等が閲覧することができる(顔認証付きカードリーダーによる患者本人の同意が必要)。また,本人がマイナポータルで閲覧できる。登録した情報は5年間保存される。
3.6情報閲覧サービス
電子カルテに登録された患者の6情報,すなわち傷病名,薬剤アレルギー等,その他アレルギー等,感染症,検査(救急,生活習慣病に関する項目),処方情報(診療情報提供書から抽出)を,電子カルテ情報共有サービスを経由してオンライン資格確認等システムの臨床情報管理DBに保管することで,顔認証付きカードリーダーによる患者本人の同意の下,全国の医療機関等が閲覧できる。患者本人がマイナポータルで閲覧することも可能。登録した情報は,傷病名,アレルギー情報,感染症は5年間,検査は1年間もしくは直近3回分,処方は100日間もしくは直近3回分が保存される。
なお,傷病名,アレルギー情報,感染症は,長期保管フラグを設定することで5年を過ぎても継続して保管される。また,まだ患者に説明できていない場合や診断を確定できる段階にない場合を想定し,傷病名には未告知/未提供フラグを設定できる。
4.患者サマリー閲覧サービス
従来,医師が患者に紙などで情報共有している治療上のアドバイスを電子的に共有できるサービスで,傷病名および療養上の計画・アドバイスと6情報を組み合わせた患者サマリーを,患者本人がマイナポータルで閲覧できる。また,患者本人の判断でマイナポータルの画面を医師に見せることが可能。
サービス活用によるメリット
電子カルテ情報共有サービスの活用により,国民,医療機関等,医療保険者がさまざまなメリットを得られると期待されており,2024年9月の社会保障審議会医療保険部会では,次のようなメリットを挙げている。
1.患者・被保険者のメリット
日常診療のみならず,救急時や災害時を含めて,全国の医療機関等で患者の医療情報を踏まえた,より質の高い安全な医療を受けることが可能になることに加え,外来での待ち時間が減るなど,より効率的な受診が可能となる。また,自分の医療情報等を健康管理や疾病予防に役立てることができる。
2.医療機関等のメリット
日常診療や救急時・災害時に,患者の医療情報を踏まえた,より質の高い安全な医療を提供できる。また,事務コストの削減効果が見込まれ,効率的な働き方が可能となり,魅力ある職場環境の実現・医療の担い手の確保にも資する。
3.医療保険者のメリット
全国の医療機関等で3文書・6情報が共有されることで,より効率的な医療提供体制となる。また,健診結果をこれまでよりも迅速かつ確実に取得でき,速やかな保健指導や受診勧奨が可能となるほか,健診結果を電子化する手間が削減できる。さらに,カルテ情報の二次利用により,医療・介護サービスの費用対効果や質の評価に関する分析が可能となる。
導入では事業費の1/2を補助
本サービスを導入する医療機関は,電子カルテの情報をHL7 FHIR形式に変換するために電子カルテシステムを改修する必要がある。これに対して国では,20床以上の病院を対象に,改修事業費の1/2を補助している(図2)。オンライン資格確認等システムおよび電子処方箋管理サービスの運用(電子処方箋管理サービスは運用予定を含む)を開始した上で, 2031年3月31日までに改修事業を完了し,同年9月30日までに申請する必要がある。

図2 医療機関への補助(電子カルテ情報標準規格準拠対応事業) (第183回社会保障審議会医療保険部会資料より引用転載)
◎ ◎ ◎
電子カルテ情報共有サービスの詳細については,厚生労働省のWebサイトを参照されたい。情報を有効に活用することで,より質の高い医療を効率的に提供可能な医療環境を実現できると期待される。