innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

20年以上継続運用している電子カルテは現場主導で内製開発─バージョンアップを繰り返しながら運用するメリットと今後の課題 
須貝 公則(社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院 情報管理部) Claris FileMakerを使ったアプリケーション開発

2024-12-18

北海道内に12医療機関・16介護事業所を運営

社会医療法人孝仁会は,1989年の釧路脳神経外科病院(現・釧路脳神経外科)開設以来,現在では北海道内に病院(4施設)・診療所(8施設)を運営している。2007年には,釧路脳神経外科病院,星が浦病院(1996年開設),新くしろ病院(2004年開設)の3病院の脳神経外科・消化器外科などの急性期入院診療部門を集約し,より高度な急性期医療の提供を目的とした釧路孝仁会記念病院を基幹病院として開設した。法人本部の情報管理部は釧路孝仁会記念病院(199床)を拠点とし,グループすべての施設の医療情報システムの構築・運用を担っている。
当法人における医療情報システムの最大の特徴は,2005年からローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を基盤とした医療情報ネットワークを構築・運用している点である(札幌孝仁会記念病院のみベンダー製電子カルテ導入)。電子カルテ・オーダリングシステムのみならず,管理医療機器に該当する一部のシステムを除いて,多くの部門システムもFileMakerプラットフォームで開発。12名の専任職員が所属する情報管理部が,各病院および診療所すべての電子カルテ運用をはじめとする法人内の医療情報システムの開発から保守までを担っている。

脳神経外科から始まった電子カルテの内製開発

内製開発を始めたのは,1999年に釧路脳神経外科病院(当時)で医用画像ファイリングシステムを導入したことがきっかけだ。院内でネットワーク環境を構築した際に,患者の診療情報も同時に参照したいという現場の要請から,FileMakerプラットフォームによる診療情報データベースを構築した。FileMakerによる電子カルテ構築はその後,2003年度の厚生労働省の地域医療機関連携のための電子カルテ導入補助事業に申請・採択されたことで,本格的な取り組みが始まった。
電子カルテを内製化しようとした背景には,1999年に診療録の電子媒体による保存が認められ,法人としても電子カルテは今後必須になるとし,釧路孝仁会記念病院でもベンダー製の病院向け電子カルテを検討したことにある。しかし,当時のベンダー製電子カルテを見た医師から自分たちに合ったシステムではないという意見があり,当法人の業務に合った使いやすい電子カルテを検討することになった。そこでFileMakerで患者情報を管理しているのだから電子カルテも内製開発できるのではないかという現場の声があったことが,情報管理部による電子カルテ開発着手の動機である。
構築した電子カルテ(医療情報システム)は大きく分けて,外来・入院カルテ,オーダリング,検査予約,PACSやリハビリテーション,看護支援といった部門システムなどで構成されており,各システム間で情報連携を確立している(図1,2)。一方,医事会計システム,透析システム,アウトソーシングしている給食事業のシステムなどはベンダー製システムを導入し,FileMakerと連携している。医事会計システムについては,診療所および釧路孝仁会記念病院以外の病院は「日医標準レセプトソフト(ORCA)」(日本医師会ORCA管理機構)と連携。釧路孝仁会記念病院のみ急性期医療に対応できるベンダー製の医事会計システムを運用している。なお,情報管理部には2名の日医IT関係認定資格者が在籍しており,FileMakerとORCAのデータ連携をはじめ,保守・運用のすべてを情報管理部で行える環境になっている。

図1 FileMakerプラットフォームによる電子カルテを中心としたシステム構成図

図1 FileMakerプラットフォームによる電子カルテを中心としたシステム構成図

 

図2 FileMakerプラットフォームで開発した電子カルテ画面

図2 FileMakerプラットフォームで開発した電子カルテ画面

 

機能強化に対し現場の職員から建設的な意見が挙がるように

FileMakerを基盤として内製開発した電子カルテの運用メリットは,第一に医療現場での使い勝手や自院の業務プロセスにジャストフィットしたシステムを構築できることだ。当初は,医師・看護師・検査部門などと情報管理部で電子カルテ作成委員会を立ち上げ,仕様を検討してFileMakerでプロトタイプを作成し,委員会で実際に操作して評価してもらいながら改修に努めてきた。そうしたアジャイル開発のプロセスを繰り返してきたことにより,エンドユーザーと開発部門の意思疎通が図られ,現場の職員から建設的な意見も多く挙がるようになった。実際に運用評価しながらリリースされるため,操作研修にかかる時間を短縮でき,機能追加によりさらに使い勝手を向上させていくことができる点,しかもスピーディに対応できる点がFileMakerプラットフォームの最大のメリットと言える。

医療情報システムの大幅なコスト削減を人材に投資

導入や更新費用を含む運用コストでも,大きなメリットがあると考えている。ベンダー製電子カルテと比較計算をしていないものの,内製開発の場合,当法人の11の医療施設で導入・運用しているFileMakerのライセンス費用(約2000ユーザー,年間1200万円)と,ハードウエアの調達コストだけで運用は可能になる。唯一ベンダー製電子カルテを導入している札幌孝仁会記念病院における導入および更新費用を参考にすると,コストメリットが際立つ。
医療DXの推進が叫ばれる中,当院はFileMakerを活用し,医療情報システムの内製化で20年を歩んできた。これにより,大幅なコスト削減を実現し,節約した資金を医療サービスの向上や人材投資などに充てている。当法人の情報管理部には現在12名が専任職員として在籍し,私を除いて20代から40代までの各年代層で構成できている。情報管理部では,FileMaker内製開発に限らず,ネットワークやハードウエア管理などを含めてすべての施設を運用管理し,医療情報だけでなく幅広いIT知識を持つ人材が意欲を持って働ける環境を整えることをめざしている。また,今後も現在の内製開発したシステムを継続運用していくためには,毎年人材を確保し,育成していくことが重要な課題である。現在のところは地元の工業高等専門学校などでシステムに関する教育を受けた若い人材を確保できているが,地方都市でのIT人材の採用には厳しい現実がある。

内製化による課題

内製開発を続けてきたことにより,現場職員の一部では気軽に情報管理部に改修や機能追加を依頼でき,即座に対応してもらえるという風潮になりがちな点が課題として挙げられる。病院として必要な仕組み・機能なのか,ある部門で要望している機能なのか,それとも個人の要望なのか,情報管理部でヒアリングを重ねながら開発・実装すべき機能なのか見極めが重要になる。現在は,改修・追加機能などの要望は電子カルテの掲示板に入力してもらうようになっているが,当該部門長に確認の上,実装するかを検討している。

医療DX施策への対応

近年,政府主導で医療DXの具体的な施策が次々と打ち出され,医療行政も大幅に変わっていくことが想定されている。それらへの対応も自前のシステムであるがゆえに大きな課題である。対応済みの健康保険証のオンライン資格確認に次いで,電子処方箋への対応作業を現在進めている段階である。また,電子カルテ情報共有サービスへの対応は,2025年9月の運用開始に向けシステム改修を進める計画である。

 

(すがい きみのり)
社会医療法人孝仁会情報管理部課長。情報系専門学校卒業後,地元のソフトハウスにて17年間の勤務を経て,2001年に医療法人孝仁会情報室に入職。FileMakerに出会い,各種オーダ,部門システムなどを開発。2002年秋ごろから電子カルテの開発を開始し,開発・稼働していた各種オーダ,部門システムと連動。2003年夏ごろに釧路脳神経外科で電子カルテ稼働開始。以降,各法人内施設にも順次導入する。なお,法人概要はホームページ参照(http://www.kojinkai.or.jp/about/corporate-profile.html )。

【関連コンテンツ】