2015-7-21
昆 貴行 氏
はじめに
当院は北海道上川北部地域に位置し,診療科が内科,循環器内科,呼吸器内科,神経内科,消化器内科,糖尿病代謝内科,小児科,外科,心臓血管外科,呼吸器外科,整形外科,脳神経外科,産婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,泌尿器科,皮膚科,心療内科,精神科,放射線科,麻酔科,救急科の計22科,病床数359床(一般300床,精神55床,感染4床)を有する,第三次保健医療福祉圏の地方センター病院・救急告示病院である。2011年3月より電子カルテを稼働させている。
従来,当院の電子カルテに画像データを添付するためには,非常に多くのプロセスを経る必要があり,保存される画像の画質も低かった。デジタルカメラ(以下,カメラ)で撮影した画像データを,カメラとPCを接続し近傍のプリンタから紙媒体へ出力後,スキャナで電子カルテ内にスキャンデータとして保存していた(図1)。これらの問題を改善し,良質な診療記録の作成を行うための一助として,iPad miniを導入することとした。
前提条件
(1) 低価格で実現すること:画像データを電子カルテに取り込むといったシステムについては,すでに複数の先進事例があり,高機能でかつ利用しやすいものが多くある。しかし,それらは費用面で当院にて導入することが困難であった。そのため低価格で実現する方向を模索した。
(2) 簡単な操作で使用できること:システムを導入する上で重要な要素として操作性の問題が挙げられるが,今回は開発を行わない方針とした。想定される運用からさまざまなアプリケーションを実際に使用し,比較的扱いやすいものを選定した。
(3) 画質を改善すること:導入するシステムでは,画像を紙に出力することなく電子データのまま電子カルテに保存することにより,画質の改善を図った。
(4) ファイルサイズをコンパクトにすること:ファイルサイズをコンパクトにすることで,電子カルテサーバのストレージ容量の節約および電子カルテのレスポンスの低下を抑制することとした。
(5) 機器のメンテナンスおよび保守管理が容易なこと:機器保守の点から,故障時には予備機などの交換が必要となるが,迅速に対応できるもので,かつ機器の動作をある程度制御することが可能なこととした。
(6) 院内ネットワークのセキュリティレベルを低下させないこと:システムの導入により,院内ネットワークのセキュリティレベルを低下させることなく,現行のレベルを維持する方針とした。
デバイスの選定
当院では,USB接続の外部記憶媒体を電子カルテ端末へ接続することを禁止している。そのため,カメラの記録メディアをカードリーダで電子カルテ上に取り込むことはできず,非効率的である。Wi-Fi内蔵カメラもしくはWi-Fi SDカードを利用することも考えたが,固定IPで使用できないものも多く,機器の追加や更新を実施する際のリスクを考慮し不適とした。
細部の検討は必要であるが,モバイルデバイスを利用することとした。デバイスについては,AndroidもしくはiPadの端末どちらでも対応可能であったが,現場からは携帯しやすいサイズのiPadを使用したいといった強い要望があったため,iPad miniを採用した。
システムの選定
iPad miniを導入した場合,調達時期によってiOSバージョンが異なる恐れがある。また,iPad miniはWindowsと異なりOSのダウングレードができない。自院でiOSアプリを作成した場合,状況によっては追加調達した機器に合わせてアプリケーションを修正する必要があり非効率的であるため,Network Attached Storage(以下,NAS)を導入し,NASに付属するシステムを利用することで切り抜けた。このことで,導入期間の短縮および効率化も図ることができた。
システムの構成
(1) 本システムの稼働に伴い,院内ネットワークにNASを設置した。
(2) iPad miniの配布は病棟8部署および外来(救急科,整形外科,皮膚科,外科),そのほか透析部門,手術部門へ配布し運用することとした(図2)。既設のアクセスポイント(以下,AP)エリア外で使用する部門については民生品のAPを設置した。
(3) NAS上に部署ごとにフォルダを作成し,部署に配置されたiPad miniとひも付けた(図3)。
(4) iPad miniからNASの連携については,NASメーカーより提供されているアプリケーションを利用した。撮影したデータは既設のAP経由でNASにアップロードする(図4)。
(5) NASからの画像データ取得については,電子カルテの設置場所ごとにネットワークドライブを作成することで,ローカルディスクにデータを保存しているのと同様の操作で対応できるようにした。
(6) デバイス管理としてはApple Configuratorを使用することで,キッティング作業の効率化と配布デバイス動作の制限などが実現できた(図5)。
運用方法
(1) NASメーカー提供アプリケーションのカメラ機能を使用し撮影する。
(2) 画像データはアプリケーションによって既設のAP経由でNASに送信する。
(3) 電子カルテ端末からネットワークドライブ経由でNAS上のファイルを参照する。
(4) 電子カルテ標準機能のファイル取り込み機能を使用し,記事画面に登録する(図6)。
(5) NASに保存したデータは,保存後72時間で自動削除する運用とし,NASデータ量の増大化および貼り付けミスなどを抑制する方法とした。
結 果
(1) 撮影した画像データを即時にNASへ送信し,その画像を手動でカルテ画面に貼り付ける運用とした。印刷およびスキャン作業を削減することが可能となった。
(2) 従来の方法でのデータサイズは平均699.4KB〔画像サイズ:L判(89mm×127mm)〕で,iPad miniを利用した方法ではデータサイズが平均30.5KBとなり,95.6%のファイルサイズの圧縮を図ることができた(表1)。
(3) APの範囲内であれば場所を選ばずデータの送信が可能となり,利便性の向上が図られた。
(4) システム導入コストは,iPad mini 15台を含め一式数十万円程度で,本システムを稼働することができた。
まとめ
企画から運用まで,ほぼすべて病院独自で検討した。機器についても極力既存のものを流用し,それ以外のものについては民生機を活用することで導入費用の圧縮が可能となった。また,ランニングコストも不要である。仕様は自院ですべて把握できているため,仕様変更などについても迅速な対応が可能となった。
iPad miniはWebブラウザを利用する院内システムとの連携が可能であり,院内向けのポータルサイトを作成し,ポータルサイトからグループウエアおよび医薬品添付文書検索システムを起動させることができる。さらに,医療者と患者のコミュニケーション支援ツールとして,筆談機能および,外国語対応の指差し会話を実施するためのアプリケーションを導入した。これらにより,職員に対する薬剤情報を提供するインフラの充実およびコミュニケーション困難な患者に対する支援手段の一助となった。
モバイルデバイスは,従来のPCの汎用性およびPDAの携帯性を併せ持った非常にユニークなデバイスであり,モバイルデバイスに関連した導入事例の一例として,院内のベッドサイドでの活用や院外の利用ではクラウドベースの地域連携システムへの展開といったさまざまな状況下での事例が報告されている。病院情報システムにおいてモバイルデバイスが有用とされる場面が今まで以上に増加することで,業務のワークスタイルが変化していくと考える。今後当院におけるスマートデバイスの利活用を模索し,コンパクトで効果的な展開を行っていきたいと考える。
(こん たかゆき)
2001年,藤田保健衛生大学短期大学医療情報技術科卒業後,名寄市立総合病院勤務。病院情報システムの企画から導入,運用を担当。医療情報技師,診療情報管理士。