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放射線部門におけるタブレット導入のノウハウ池田 龍二 氏(熊本大学医学部附属病院医療技術部診療放射線技術部門)

2012-4-27

池田 龍二 氏

池田 龍二 氏

医療施設のIT化の一環として,モバイルデバイスの導入が進む中で,放射線部門における利用も進んでいる。しかし,検査画像の精度管理などの観点から,その導入には十分な検証が必要であり,また運用にあたっても部門内,施設内でのコンセンサスが重要である。今回は池田龍二氏が放射線部門での運用経験をもとに導入のポイントについて解説する。

■はじめに

放射線部門においてタブレット端末を導入する目的は,画像参照と放射線画像情報システム(以下,RIS)の利用,さらには病院情報システム(以下,HIS)の閲覧,検査説明,インフォームド・コンセントなどが挙げられる(図1,2)。なかでも画像参照,RISの利用を目的とした導入を検討している場合が多いのではないだろうか。
本稿では,当院で試験運用を行った経験をもとに,放射線部門にタブレット端末を導入する際に検討すべき重要なポイントについて,使用経験だけでなく,ハードウエアの性能を含めて解説する。

図1 タブレット端末を使ったRISの情報共有

図1 タブレット端末を使ったRISの情報共有

図2 救急外来でのタブレット端末の活用

図2 救急外来でのタブレット端末の活用

 

■どのタブレット端末を選択するか?

試験運用を開始したのは2010年末であるが,それから2年,すでにタブレット端末の性能は格段に向上している。これはまさに「ムーアの法則」に則った進化である。IT業界同様に,われわれもこの法則によって変化することを想定しながらシステム構築の検討が必要である。personal digital assistant(PDA)が発売された当初は,医療分野においてポータブルデバイスとして積極的な利用が期待されたが,現状PDAと称された機器のほとんどは市場から消えている。
エンドユーザーが利用している範囲でのHISやRISなどのアプリケーションのほとんどはoperating system(OS)がMicrosoft Windowsベースで動いている。それに対し,タブレット端末のシェアは,Apple社のiOSとOpen Handset Allianceが発表しているAndroidが大半を占めている。これに,Microsoft社のOSが続く形となっている。
では,われわれはどのような目的でタブレット端末を選べば良いのか? さらに難しく考えてしまいそうだ。既存のアプリケーションを動かしたいのであれば,Windows系のOSを選択するか,仮想化を利用してiOSやAndroid端末で利用できるシステムの構築が必要となる。費用対効果,導入の目的をしっかりと検討したタブレット端末の選択が必要である。

■3パターンのシステム構築

既存の画像サーバ,RISをタブレット端末で利用するためのシステム構築の方法として,大きく3つに分けることができる。

1つ目は,既存の各アプリケーションがWebベース,リッチクライアントに対応し,タブレット端末で対応したWebブラウザが利用できれば,OSに限定されない選択が可能となる。もしくは,ここでWindowsタブレット端末を導入し,既存のアプリケーションを動かすことも1つの方法である(図3)。

図3 パターン1:直接アクセス

図3 パターン1:直接アクセス

 

2つ目は,既存のサーバとは別に別途タブレット端末がアクセスするための専用サーバを立てる方法である。前述の方法よりもコストがかかるが,専用アプリケーションによる操作性の向上などのメリットが挙げられる。ただし,データの二重管理やセキュリティの維持など導入コスト以外のシステム管理業務の増加が懸念される(図4)。

図4 パターン2:専用サーバ

図4 パターン2:専用サーバ

 

3つ目は,既存サーバとタブレット端末間にremote desktop protocol(RDP)やvirtual network computing(VNC)を利用してアクセスする仕組みを構築する方法である。この場合,1つ目同様に既存アプリケーションが利用できるメリットがあるが,アプリケーションが指で操作しやすいgraphical user interface(GUI)になっているかは重要なポイントである。また,インフラの整備も重要であり,前述の2パターンよりも,さらにオフラインでの利用が難しいといった欠点がある(図5)。

図5 パターン3:RDP,VNCの利用

図5 パターン3:RDP,VNCの利用

 

■タブレット端末の輝度は?

画像参照の利用を想定した場合,タブレット端末の画面表示性能が重要である。特に最大輝度,輝度比や階調曲線がgrayscale standard display function(GSDF)へ対応しているか調べておきたいところである。そこで試験運用期間中に,われわれは第一世代のApple社iPad,Samsung社Galaxy Tab, Cisco社Ciusと既存の臨床で利用しているラップトップPCを比較した。
図6に各端末の階調曲線を示す。当然であるが,各端末ともGSDFとは異なった階調となっており,どの端末で画像を参照しても異なった見え方となり,画像表示一貫性の確保は難しい。今回測定した3端末ともに,最高輝度は300cd/m2を超えていた。ただし,測定の際の画面明るさの設定をmaxに設定しているので,実際の運用の場合にはこれより低い状態に設定して利用されることが予想される。

図6 タブレット端末の階調曲線

図6 タブレット端末の階調曲線

 

輝度比においても,表1に示すように,どれも臨床で利用しているラップトップPCよりも高い結果が得られ,最高輝度および輝度比においては,現状のラップトップPCよりも高スペックであることが示された(2011年発売されたiPhone 4Sにおいては,メーカー表記で最高輝度500cd/m2と掲載されている)。
スペック的には十分な輝度と輝度比を担保できているが,後は階調がGSDFに対応できるようにハードウエア側での対応,もしくはアプリケーション側で対応することで,より精度の高い画像参照の環境が提供されることを期待したい。

表1 タブレット端末の輝度比較

表1 タブレット端末の輝度比較

 

■タブレット端末の画面解像度は?

前述同様に画像参照時に問題となるのが,画面解像度である。既存の画像参照システムとして利用されている医用画像表示装置の解像度は,1M:1280 × 1024,2M:1600 × 1200,3M:2048 × 1536,5M:2560 × 2048のピクセル数である。これに対してタブレット端末の解像度は平均的なところで,7インチで1024 × 600,10インチで1280 × 800である(2012年3月に発売された新iPadは,9.7インチで2048 × 1536となっており,3Mモニタと同じ解像度である)。
CT画像の解像度が512 × 512なので,7,10インチどちらのタブレット端末でも1画像であれば等倍で表示可能であるが,2画面比較になるとアプリケーションのGUIの配置などによって等倍表示が難しい(図7)。そのため,アプリケーション側での拡大・縮小のアルゴリズムによって画像の見え方が異なってくるので,利用する場合には注意が必要である。さらに,タブレット端末の種類によっては,アスペクト比がスタンダードサイズの4:3と異なり,ワイドサイズの16:9などが採用され,既存のアプリケーションによってはGUIの配置がずれたり,画面にフィットせずに,使いづらい場合が発生するので,事前に導入しようとしているタブレット端末の解像度とアスペクト比,アプリケーションの相性を確認しておくことが必要である。

図7 タブレット端末のサイズと解像度

図7 タブレット端末のサイズと解像度

 

■タブレット端末と保護シート

携帯電話に液晶保護シートを貼って,液晶面の汚れや傷から保護しているのと同様に,タブレット端末の液晶面にも保護シートが必要である。液晶保護シートにも“光沢あり” “光沢なし(つや消し)” “覗き見防止” など,さまざまな種類が販売されている。
これらのシートにはそれぞれ特徴があり,利用する環境によって,最高輝度や輝度比に影響するので,目的に応じた選択が必要である。
表1に示したデータは,保護シートを貼らずに暗室で液晶面に対して正面から測定したデータであり,表2は測定時の明るさを診察室程度の450luxにし,保護シートなし(No filter)と, 光沢あり(Glare), 光沢なし(Anti Glare), 覗き見防止(Privacy)の3種類のシートを貼って測定した結果を示す。光沢ありのシートを用いた場合には,環境照度が高くなることで,反射輝度が高くなり,最小輝度の値がほかの保護シートよりも高くなる。そのため,輝度比が著しく低下する。また,覗き見防止シートにおいては,シートが厚く,シートで液晶面からの光が吸収され,最大輝度がほかよりも100cd/m2低下する結果となった。

表1 タブレット端末の輝度比較

表1 タブレット端末の輝度比較

表2 450luxの環境における保護シートの輝度比較

表2 450luxの環境における保護シートの輝度比較

 

表3に,部屋の明るさは暗室のままで,斜めから液晶を見た条件での測定結果を示す。ここでは,覗き見防止シートの威力が発揮されていることが明確に示されている。これに対してほかのシートは,保護シートを貼らない状態とほとんど同じ結果となった。
本稿では,iPadと保護シートのデータを示したが,タブレット端末の違いによっても視野角の影響が発生するので,環境照度と合わせて注意が必要である。

表3 暗室で斜めから見た場合の保護シートの輝度比較

表3 暗室で斜めから見た場合の保護シートの輝度比較

 

■タブレット端末の携帯性

ラップトップPCではなく,タブレット端末を選択する理由は,携帯性と即起動して業務ができるところである。携帯性を考えた場合,両手が自由になる必要性の有無や,どの程度の時間携帯しておくかによって,タブレット端末のサイズや,機種の選択が変わってくる。白衣のポケットに収納するのであれば,10インチは厳しく,7インチがギリギリのところではないだろうか(図8)。また,片手に電話をとり,もう片方でタブレット端末が操作できるかも,大きさや重量,入力手段によって異なる。
バッテリにおいても,推奨稼働時間が3時間程度あると,特に画面輝度を上げた利用を考えている放射線部門での運用になると,さらに稼働時間は短くなり,席に着くたびに充電しなければならず,本来の携帯性のメリットが損なわれる。しかし,ハイパフォーマンスのハードウエアを要求し,利便性との天秤次第では最終的な選択の基準となる。

図8 タブレット端末のサイズの違いによる利用状況

図8 タブレット端末のサイズの違いによる利用状況

 

■アプリケーションの操作性と入力方法

スマートフォンやタブレットPCをすでに利用されている方は,感じていることであるが,専用アプリケーションの場合,GUIが整備されており,入力や選択が容易にできるよう工夫されている。これに対し,アプリケーションが十分に工夫されていないと,画面の半分を入力キーボードが占め,入力がしづらい現状となる(図9)。利便性を向上するためのGUIや入力方法の検討は必須である。ただし,入力デバイスに,ペンが利用できる場合,意外に既存アプリケーションのGUIのままの方が操作性も変わらず,使いやすい場合もあるので,導入前に一度検証することをお勧めしたい。簡単な検証方法として,タッチパネル式液晶モニタで操作性を検証するのも手段の1つである(マルチタッチ液晶モニタで操作性を動作検証した動画 )。

図9 GUIによる操作性の違い

図9 GUIによる操作性の違い

 

■まとめ

放射線部門におけるタブレット端末導入のポイントについて解説した。本稿では,基本的なセキュリティに関する注意点やインフラの整備に関する内容はページの関係から割愛したが,導入する上ではこれらの項目も必ず押さえていただき,システム構築の参考にしていただきたい。
なお,2011年12月18日に行われた第4回 3D PACS研究会での筆者演題「ココを押さえよう 放射線部門におけるTabletPC導入のポイント」の資料を公開 している。ご興味ある方はご参照いただきたい。

 

〈謝辞〉
本システムの試験運用に協力いただいた,横河医療ソリューションズ株式会社・高橋敬也氏,湊谷浩司氏,株式会社ワコム・木下 実氏,株式会社ナナオ・明官栄二氏はじめ多くの関係者の方々に感謝いたします。

 

◎略歴
(いけだ りゅうじ)
1995年に熊本大学医学部附属病院中央放射線部入職。2009年に佐賀大学医学部附属病院放射線部,2010年から熊本大学医学部附属病院医療技術部診療放射線技術部門。日本医用画像管理学会理事,PACS Innovation研究会世話人3DPACS研究会世話人放射線画像情報システム研究会世話人熊本画像情報システム懇談会世話人 ,熊本放射線診断テクノロジー研究会世話人などを務める。主な著書に「これで解決!! 医用画像可搬媒体の取り扱い」,DVDに「フィルムレスマスターセミナーDVD3 ネットワークの基礎」(ともにピラールプレス)などがある。

 

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