2011-12-19
仲井間 藤吾 氏
iPadなどのモバイルデバイスを用いたシステムは,比較的容易,かつ低コストで導入できるというメリットがある。なかでも,最近DICOMビューワ「OsiriX」による放射線検査画像の参照システムを構築する例が増えている。今回は,仲井間藤吾氏に国家公務員共済組合連合会立川病院における導入事例を解説していただく。
■iPad2とOsiriXの導入の背景について
立川病院は,2009年11月から高精細モニタ(台湾Chilin社製)を導入し,歯科口腔外科を除く診療科でフィルムレスの運用を開始した。当時,歯科口腔外科では診療台に設置する軽量薄型で,かつDICOM画像を見ることができるタブレット端末がなかったために,診療台付近の机に高精細モニタを設置してフィルムと高精細モニタで画像診断をしていた。それから約2年の間でApple社のiPadの医療業界への導入が増え始め,神戸大学医学部附属病院のiPadとDICOMビューワの「OsiriX 」*による画像診断の導入事例を参考に,2011年7月に導入検証を行った。導入検証で確認して,2011年9月から歯科口腔外科でiPad2での画像閲覧の運用(フィルムレス)を開始した。
*OsiriXとは,1991年にスイスのジュネーブ大学でMac OS用に開発されたオープンソースの画像処理ソフトウエアで,医療用画像と通信の標準規格であるDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)情報を,画像保存通信システム(PACS)の種類に関係なく利用できるようにしたものである。このソフトウエアは,CT画像を3D画像に再構成することもできる。また,無料でダウンロードが可能である。最新バージョンは, OsiriX 3.9.3で,Mac OS Xの最新バージョンとなるMac OS X Lion(10.7)でも対応可能である。今回,立川病院では,OsiriX 3.9.3(32bit版)を導入している。100%無償のオープンソースソフトウエアとして配布されているが,モバイル用「OsiriX HD 」は(iOS版)は有償(3500円)である。
■システムの方針
既存システム(東芝メディカルシステムズ社製PACS)とネットワークを利用して今回のシステムを実現させるため,医療情報経営企画室を中心に,ミットメディコ社,東芝メディカルシステムズ社で本システムの導入を実現した(図1)。
■まったく新しい仕組み
導入検証時に,当院の歯科口腔外科の木津英樹医長より,従来のOsiriX HDで運用していくのは,難しいと伝えられた。その理由は以下2点であった。
(1)毎回新規の画像データに対して,画像データを1度iPad2にダウンロードして画像閲覧するために,容量が多くなった場合,定期的に画像を削除しないと画像データをダウンロードできなくなる。これについては,患者データを1つずつ選択して削除することになる(図2)。
(2)操作に慣れていない人の場合,画面サイズのピンチイン(縮小),ピンチアウト(拡大)を間違え,コントラストの調節に失敗してしまい画像が見えづらくなる(図3)。
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上記2点を改善するための一番の対策が,Webサーバを利用する方法であった。これは,OsiriXの環境設定から設定を行う(図4)。
iPad2に標準搭載されているWebブラウザ「Safari」を利用した場合,サーバ内の画像データを使用するので,iPad2にデータをダウンロードする必要がない。また,Webブラウザによる操作を画面サイズのピンチイン(縮小),ピンチアウト(拡大)の機能だけにすることにより,コントラスの調整失敗を防止する(図5)。
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改善した点はそれだけではなく,OsiriXのWebサービス機能のHTMLを修正することにより,トップページの文字を大きくして不必要な検索項目を非表示にして,患者IDの検索を行いやすくした(図6)。
また,検索後の患者名の文字色とサイズを赤く大きくして,患者名を目立たせることにより,患者データの見間違いをしないように改善した(図7)。
■運用方法
新規で撮影されたモダリティ(CR,CT,RG)のDICOM画像は,PACSサーバに保存され,OsiriXサーバ(iMac)に自動転送される(図8)。iPad2のWebブラウザから,患者IDを入力しiMacに保存された画像を参照する(図9,10)。
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■システム導入の5つのメリット
本システムのメリットは次の5点である。
(1)フィルムレスを実現し,ランニングコストを削減する。
(2)ビューワ端末やストレージの増設が容易にできる。
(3)柔軟な拡張性のシステムである。
(4)最小限の構成で導入できるため導入コストを抑えられる。
(5)既存システム(PACS)との連動が可能である。
■今後の展望
今後の運用では,患者が診療台にいる間に,音楽を流したり,診断書の説明書などを電子化(PDF)して説明したりと,iPad2本来の機能も生かしていきたいと思う。
ローコストでありながら,DICOMビューワとして有効性の高く素晴らしいアプリケーションであるOsiriXは,ほかの診療科でも導入依頼があるため,iPad2とOsiriXの機能の素晴らしさを伝えていきたい。この2つの製品の機能の素晴らしさを理解していただければ,いま以上に医療業界で需要が増えていくのではないかと考える。
◎略歴
(なかいま とうご)
2005年千葉工業大学土木科卒業。2005~2009年にネットワークエンジニアとして官公庁系・金融系のネットワークを構築する。その後,国家公務員共済組合連合会立川病院医療情報経営企画室において,ネットワーク,システムの管理を担当している。