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MRI検査のリスクマネージメント 特別座談会MRIの安全を考える─吸引事故と被検者にかかわる事故の実態と対策





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MRI は現在,日本国内で数千台が稼働し,CT と並んで画像診断に欠くことのできない役割を果たしており,最近では,3T装置の普及による高磁場化が進んでいます。MRIはX線による被ばくがないことが特長ですが,強力な磁場に伴うリスクがあることは忘れがちかもしれません。検査室内への強磁性体の持ち込みによる吸引事故やペースメーカ・人工内耳・クリップ・ステント等の体内埋め込み型デバイス(インプラント)による事故が代表的なリスクと言えます。特に,強磁性体の持ち込み・吸引事故は,減るどころか増えているのが実態です。一方,最近, MRI検査が可能な体内埋め込み型デバイスや,検査室内への持ち込みが可能な非磁性体製品が増えてきたことで,検査の可否について判断に迷うようなケースも少なくなく,複雑化するリスクへの対応は難しくなっていると言えます。このような状況下,MRIに携わる関係者有志による任意団体「安全なMRI検査を考える会」(http://www.di-lab.jp/mrisafety/)が発足し,安全啓発活動の一環としてMRIの安全運用をテーマにしたDVD を制作しました。そこで小誌2014年6月号では,MRIの安全管理をテーマにした特集を企画。冒頭,同会の発起人である平野浩志氏(信州大学),土橋俊男氏(日本医科大学),土'井 司氏(大阪大学)による,吸引事故の防止をはじめとするMRI検査における安全性の確保をテーマにした座談会を実施しました。
●2014年6月号[MRI検査のリスクマネージメント ─吸引・発熱・体内インプラント事故の対策を考える─]

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2014-6-1

特別座談会

MRIの安全を考える
─吸引事故と被検者にかかわる事故の実態と対策

出席:「安全なMRI検査を考える会」発起人
http://www.di-lab.jp/mrisafety/     
平野 浩志
土橋 俊男     
土'井  司
司会進行:編集部

 

イントロダクション:MRI検査のリスクとは何か
─最大のリスクは吸引事故─

(司会)MRI検査では,装置そのものの強力な静磁場や撮像法などの物理・原理に起因するリスクをはじめ造影剤など,さまざまなリスクがあることが知られています。まず最初に,MRI検査の安全性を議論するに当たり,リスクにはどのようなものがあるかについて簡単に整理してみたいと思います。

土橋:MR装置では常に強力な静磁場が発生しているので,その静磁場に起因するリスクがあります。それから,RFパルスの照射によるリスク,傾斜磁場のスイッチングに関するリスクなどがあります。そして,超電導磁石の冷却に用いる液体ヘリウムが気化するクエンチも,MRIのリスクに分類できると思います。
具体的には,静磁場に起因するリスクでは,今一番問題になっている強磁性体の吸引事故が挙げられます。RFパルスでは,体内金属だけではなく,通常の状態でも発熱の可能性があり,火傷の事例なども報告されています。また,傾斜磁場に関してはあまり取り上げられていませんが,神経刺激の可能性もあることは考えておかなければいけないでしょう。液体ヘリウムが気化するクエンチは酸欠になるリスクがあり,患者さんを大至急検査室外に避難させる必要があります。非常にまれなケースですが,知っておく必要があると思います。

平野:MR装置や撮像法以外のリスクの1つに造影剤による副作用があります。近年,ガドリニウム造影剤が腎性全身性線維症(NFS)発症のリスクファクターとなることが報告され,慎重な対応が求められるようになっています。また,検査中は,ガントリ内の患者さんの急変を察知しにくいことがあり,救急対応が遅れるというリスクもあります。

土'井:意外に閉所恐怖症もリスクと言えます。操作者が閉所恐怖症に気づかない場合もあるので注意が必要です。

(司会)さまざまなリスクがある中で,特に注意しなければいけない,安全を喚起しなければいけないリスクにはどういうものがあるでしょうか。

土橋:やはり,静磁場による吸引事故だと思います。吸引事故は非常に多く,場合によっては人命にかかわりますので,これが一番重要だと思います。

平野:2001年にアメリカで,MRI検査中に酸素ボンベが飛んで患者さんが死亡する事故が起こった*1という事実があるにもかかわらず,その後も酸素ボンベが吸引される事故がなくなりません。日本画像医療システム工業会(以下,JIRA:http://www.jira-net.or.jp/index.htm )のデータによれば,むしろ増加する傾向にあるというところが大きな問題です。患者さんの生命が危険にさらされるリスクはもちろん,MR装置の損傷による損害は甚大で,一番防止しなければいけないことだと思います。

*1:参考文献 高原太郎:緊急リポート─米国MR室で起こった酸素ボンベ吸着事故について. INNERVISION, 16・11, 76-79, 2001.

MRI検査におけるさまざまな事故の実際
─点滴スタンドなど,金属類が飛んで行く!─

(司会)それでは,MRI検査における事故と対策についての具体論に入っていきたいと思います。例えば,日本医療機能評価機構(以下,JCQHC:http://jcqhc.or.jp/ )の2013年のレポート*2では,MRI検査室への磁性体(金属製品など)の持ち込み事故の事例が報告されています。日本磁気共鳴医学会(http://www.jsmrm.jp/ )や診療放射線技師会(http://www.jart.jp/ ),JIRAなどでも,アンケート結果などをまとめて報告していると思います。JCQHC の資料によると,2004〜2013年までの約10年間,毎年数件程度の持ち込み事故が報告されています。この発生件数を多いと見るか,少ないと見るか,その辺はどうでしょうか?

*2:「MRI検査室への磁性体(金属製品など)の持ち込み」(医療安全情報No.10)について。2012〜2013年の2年間に報告された事例5件の内訳は,シリンジポンプ・輸液ポンプ2件,酸素ボンベ1件,磁性アタッチメント構造の義歯1件,清掃器材1件となっている。

図1 MRI装置吸着事故推定件数の年度別推移 (出典:日本画像医療システム工業会)

図1 MRI装置吸着事故推定件数の年度別推移
(出典:日本画像医療システム工業会)

 

平野:年に数件以内というのは氷山の一角だと思います。

土橋:あるメーカー1社で,1年間に確か37件の吸着事故があったという発生件数が報告されています。ということは,わが国でMRIを販売しているメーカーは現在5社ありますから,単純に5倍すると185件にもなってしまいます。JIRAから出されている吸着事故推定件数も,2012年度は200件近くになっています。

平野 浩志 「安全なMRI検査を考える会」発起人 信州大学医学部附属病院放射線部 診療放射線技師長

平野 浩志
「安全なMRI検査を考える会」
発起人
信州大学医学部附属病院放射線部
診療放射線技師長

(司会)メーカーがつかんでいる情報ということは,装置を止めてしまってその復旧に向かった件数ということでしょうか。

土橋:そうですね。かなり大型のものを吸引したということは想像できます。

(司会)3.0T装置もだいぶ増えてきましたが,磁場強度が上がっていることが吸引事故に与える影響についてどのようにお考えですか。

土橋:確かに3.0Tでは吸引力は増しますが,吸引され始める場所は1.5Tでも3.0Tでもほぼ同じなので,印象的にはそれほど変わらないと考えている方が多いかもしれません。しかし,実際の吸引力は3.0Tは非常に強いので,気づいた時には手遅れになります。

(司会)いろいろな磁場強度の装置を複数使っておられる施設も多いと思いますが,バラツキがあることで油断が生じることもあるのではないかと思います。

平野:弱い磁場強度に慣れて慢性的になって,安全に対する認識が薄れる傾向があるのではないかと感じています。強い磁場強度に変わった時に,そういう感覚が宿っているスタッフはちょっと危険ではないかと思います。

土橋:0.3Tの永久磁石装置などでは,ガントリに本当に近づかないと引っ張られません。ですから,病棟からのストレッチャや車椅子などをそのまま入れて検査の準備を行っている施設があるかもしれません。例えば看護師さんなど,担当技師以外のスタッフがそのような経験からくる固定観念を持ってしまって,1.5Tや3.0Tでも同じ対応をしてしまうということはあるのかもしれません。

図2 磁性体の吸引実験

図2 磁性体の吸引実験

1)磁性体持ち込み事故とその対策

(司会)では,実際に起こった吸引事故の事例を具体的に挙げていただけますでしょうか。

土'井:事故に対するアンケートを取ると,点滴スタンドの吸引事例が最も多いです。強磁性体が周辺にあることを操作者がわかっているのに,それでもなお吸引してしまったという事例があります。操作者が操作している間に,別のスタッフが点滴スタンドを持って入ってしまったというケースや,MRI検査に慣れている患者さんがたまたま点滴スタンドを持っていて,操作者が前の患者さんを下ろしたり器具の準備をしている間に入ってきて吸引したというケースがあります。
そうなればMR装置の磁場を消磁させて処理するしかなく,復旧には多くの時間と費用がかかりますので大きな損失です。さらに万一,患者さんがケガをしたりすることがあれば大変な問題となりますので,それだけは避けたいと思っています。

土橋:当院では,医療従事者が絡んだ点滴スタンドや車椅子の吸引事故は1件も起こっていません。ところが,院内では2回,磁場を落とすような大きな吸引事故が起こっています。2回とも医療スタッフではなく,搬送業者やメーカーの方が修理中に大きな物を飛ばしたというケースです。
1例目は,MR装置のバージョンアップの時です。磁場を落とさずに実施できるバージョンアップだったので,MRI検査室のドアを閉めておいて,手前で荷物をほどいて中に入れていいものだけを持って入るという約束になっていましたが,何回もやっているうちにドアを開けっ放しにしていたようです。次に来た人が,ドアが開いていたのでそのまま中に入ったために,あっという間にかなり大きな鉄板が飛ばされて装置に吸着し,大変なことになったということがあります。10人ぐらいでロープで引っ張ったのですが全然取れなくて,バージョンアップを中止して磁場を落として処理し,再度磁場を立ち上げてからバージョンアップをやり直すということがありました。バージョンアップ中でガントリ側に誰もいなかったのは幸いでしたが,非常に大きな音がしたことと,カバーはピストルで打ち抜かれたように穴がきれいに開いていて,ものすごい状態でした。
もう1つの事故は,メーカーの修理中です。MR装置の寝台に入っている強磁性体の部品交換だったのですが,磁場を落とさずに作業を行っていて,部品のネジを緩めてフリーになった瞬間に鉄の塊が2つ飛んでいって,まったく取れなくなってしまったということがありました。作業マニュアルでは,磁場を落として部品交換を行うことになっていたようです。作業者がケガをしなかったのが幸いでしたが,部品も壊れましたし,大変な事態でした。

平野:私はMRI検査には直接携わっていないので報告を受けるだけですが,ヒヤリハットで危ないと思ったことはあっても,大きな物が吸引したという事例は聞いていません。

図3 さまざまな吸引事故の例 点滴スタンドや酸素ボンベ,ストレッチャなど大型の備品で発生している

図3 さまざまな吸引事故の例
点滴スタンドや酸素ボンベ,ストレッチャなど大型の備品で発生している

 

(司会)びっくりするような事故例もありましたが,その後どのような防止対策を取られたのでしょうか。

図4 MRI対応のものは一目でわかるようにしておくことがポイント

図4 MRI対応のものは一目でわかるようにしておくことがポイント

土'井:MRI検査室の中に持って入れる素材の点滴スタンドが販売されています。そこで,MRI対応の点滴スタンドなどはテープでぐるぐる巻きにして目立つようにするなど,目で見てわかるようにしておくことが最も大事なことです。また,入口があちこちにあることがうっかりミスにつながるので,入口を1つにして,そこでMRI対応の点滴スタンドに付け替え,ストレッチャに乗せ替えるという対応が一番の基本になってくると思います。
装置によっては寝台を外せますから,寝台を室外に持ってきて,そこでストレッチャから患者さんを乗せ替えるということを守ることが大切だと思います。

土橋:MRI検査室のドアを開けっ放しにしたことで事故が起こっていますから,ドアは絶対に開けないということで,「開放厳禁」と大きな字でドアに貼ってあります。
MRI専用の非磁性体と専用ではない強磁性体の備品がありますが,どちらであろうと検査室にはストレッチャや点滴スタンドを持ち込まないようにするということにしておけば間違いはありません。当院では,天井にレールを付けて,点滴だけを持って入ることにしています。ストレッチャも土'井さんが言ったように中に入れず,脱着式の寝台を外に出して入れ替えをしています。また,脱着式でない寝台でも,装置に付属している専用のトローリーを使用し,検査室内で患者さんを寝台に乗せ替えることがないようなシステムを作っています。
先ほど平野さんが言ったように,看護師さんは基本的に中に入ることはありません。患者さんが急変した時を除いて通常,放射線科以外の医療スタッフはMRI検査室の中には絶対に入らないことにしています。それは院内に周知してありますから,一般の職員はMRI検査室に入ることはありません。
今は非磁性体の備品がたくさん販売されていますが,吸引事故を最終的になくすことをめざすのであれば,そういうものも使わないシステムを作るべきです。2種類あるとヒューマンエラーで間違うこともあるので,1つしかない,間違いようがないシステムを作ることが一番良いのではないかと,最近思うようになっています。ただ,徹底するのはなかなか難しいところもあります。

平野:私が考えているのは構造的な対策です。検査室の前に“前室”を設けて,そこでいろいろな処置ができるようにするという方法です。土'井さんが言ったように,前室への入口を1か所にして,患者さんは前室で病棟のストレッチャからMRIの寝台に乗せ替えるようにします。その際,身体に金属が付いていないかなど,いろいろな情報を収集して患者さんに説明するということを徹底しています。ストレッチャ以外でも,例えば看護師さんが点滴スタンドを持ってきたら,前室で点滴スタンドを替えて,そこから先は看護師さんではなくわれわれ担当技師が持って入室するようにしています。つまり,MRI検査室に入る前にワンクッションを置く部屋があって,必ず前室で必要な処置を行うという対策を確実に行っています。

(司会)とにかく選択肢を増やさないようにしてミスを防ぐということですね。

平野:そうです。それから,先ほど土'井さんがお話されたように,MRI専用だと誰が見てもわかるような色,目印をつけることが重要です。

図5 MRI検査室の入口にセンサーを設置し,光と音で警告

図5 MRI検査室の入口にセンサーを設置し,光と音で警告

(司会)MRIの吸引事故を防止するためのシステムや運用における対策について,ご自身の施設の経験を踏まえつつご提案をお願いします。

平野:具体的に言えば,MRI検査室には患者さんと担当技師,担当医師以外は入らないように徹底することです。例えば当院は,MRI検査室の中は掃除範囲から外して自分たちで行っています。また,付き添いが必要な患者さんは,看護師さんではなく医師にお願いしています。そして,使わない時には施錠をすることも大事です。

土'井:清掃関係者になぜ危ないかという理由を説明してもなかなか理解してもらえないので,MRI検査室は怖いところだから入ってはいけないと説明しています。事務方にも周知しないと,火災報知機の点検とか空調のフィルタを替えるといった作業がありますので,非常に危険なところという意味で,前もって連絡するようにという通達を徹底しておく必要があります。

(司会)お二人のご提案は運用的な対策だと思いますが,システム的な対策についてはいかがでしょうか?

平野:ゲートシステムというものがあります。MRI検査室の入口に金属探知機を設置して,金属を身に付けた方などが近づくと警告を鳴らす仕組みですが,感度の設定が難しく,値段も高価です。当院では,前室に入ると膝の高さのセンサーが人の通過を感知して,フラッシュ光と「この部屋はMRI室です」という音声が流れるようにしてあります。光の刺激と音声で1回立ち止まって振り返ることで,「金属を持ち込んではいけないんだ」と気づく仕組みを作っています。お掃除の人たちはびっくりしますし,患者さんもそこで「あっ?」と立ち止まりますので,そういう面では非常に良い刺激になっています。

土橋 俊男 「安全なMRI検査を考える会」発起人 日本医科大学付属病院 放射線科技師長

土橋 俊男
「安全なMRI検査を考える会」
発起人
日本医科大学付属病院
放射線科技師長

土橋:当院では24時間稼働しているMRIには,患者さんの出入り口にセンサーがあって,磁性体を持って入ると「止まってください」というアナウンスが流れるシステムを設置しています。

平野:駐車場などで使う車止めのフレームをMRI検査室のドアの前につけておけば,ストレッチャは入っていかないですし,人も真っ直ぐ歩けなくて横から回って入るというような方法で注意を促しているというところもあるようです。

(司会)やはり人間ですからウッカリミスがありますので,運用とシステム両方の対策が必要ですね。ところで,患者さんが身につけているものの持ち込み事故については,どのような対策をとられていますか?

土'井:それほど大きな事故になることはないですが,画像が影響を受けたり,ヘアピンが飛んでいって刺さったりするかもしれないので,やはり危険です。検査前に,「金属類を持っていませんか?」と問診して,金属探知機を使って確認しています。ただ,金属探知機を使ったから見つかるというものではなくて,操作者が患者さんに対してコミュニケーションを取るためのツールとして使っています。 

土橋:時計や携帯電話,昔で言うとテレホンカードなどのカード類などが持ち込まれてしまったことがあります。当院では患者さんに説明する時に,「時計や携帯電話は壊れますから外してください」「鍵が使えなくなります」という言葉で,“壊れる!”ということを強調して言うようにしています。壊れると言うようになってから,持ち込み事故はかなり減りました。
ほかには,患者さんだけではなく,われわれが間違えてボールペンなどを持ち込んでしまうということもまれにですがあります。

平野:エクササイズ用のパワーアンクルを足首につけているスタッフの吸引事故を結構聞くことがあります。

土'井:当院では全職員に,「パワーアンクルをつけている人はいますか」と尋ねたことがあります。最近は,看護師さんもズボンを履いているのでわかりませんから。

図6 患者さんが身につけている磁性体 アクセサリーやアイメイク,カラーコンタクト,湿布など,見落としがちなリスクに注意

図6 患者さんが身につけている磁性体
アクセサリーやアイメイク,カラーコンタクト,湿布など,見落としがちなリスクに注意

 

2)体内インプラント事故とその対策

図7 さまざまな体内埋め込みデバイス

図7 さまざまな体内埋め込みデバイス

(司会)体内埋め込みのインプラントに関する事故も問題です。最近は,MRIに対応しているデバイスがかなり出回ってきていますが,従来禁忌のものが添付文書では条件付きで緩和されているなど,MRI対応の周知徹底がなされていないのではないかと思われます。まず,MRI対応ではないインプラントの場合,どのような事故が考えられるのか,最近出回っているMRI対応インプラントにはどのように対応すべきなのか,この2点についてご説明ください。

土'井:以前,動脈クリップが外れるという事故例があり,インプラントが非常に注目されるようになりました。磁性体のデバイスに関しては質量が小さくても吸引されるので,非常に危険であるということが本来の考え方ですが,その磁性体の部分が少なくなったステントやクリップが徐々に開発され,販売されています。やはり品番を確認して,常にどの磁場強度でのMRI検査が可能かを添付文書で確認する習慣をつけておくことが大切です。発熱に関してはまだわかっていないことが多く,常に危険性があるということに変わりはありません。

(司会)インプラントは事前にどのようなチェックを行うのですか。

土'井:どういう種類のインプラントが入っているかは患者さんのカルテを見ればわかります。その後,デバイスの添付文書でMRI対応か否かを調べて判断します。当院では,使用したステントのMRI対応の可否について,担当した診療放射線技師がメモ欄に記載するようにしていて,MRI検査の現場にはできるだけ迷惑をかけないように努力しています。どうしても判断に迷う時は,3.0Tでの検査は控えるようにしています。

土'井  司 「安全なMRI検査を考える会」発起人 大阪大学医学部附属病院 医療技術部部長

土'井  司
「安全なMRI検査を考える会」
発起人
大阪大学医学部附属病院
医療技術部部長

平野:当院では,担当医が検査オーダを出す際,電子カルテにチェックする項目を作ってあります。患者さんに問診してくださいという注意書きや,手術経験があったらいつの手術か,どんなインプラントが入っているのか,材質は何かなどを記載して情報を共有できるようにしてあります。1978年以前のクリップや,戦争体験者は鉄砲の弾や破片などが危険だということをお知らせしています。それから,体内金属があれば,基本的には3.0Tでは検査しないことにしています。

土橋:体内インプラントも危険なものもあるので気をつけなければいけないのですが,国内ではこれまで,死亡事故のような大きな事故は起こっていません。磁性体の義眼がひっくり返って使えなくなったという例は聞いたことがありますが。
今,一番大きな問題点は,添付文書の記載の基準が決まっていないことです。施行可能な時期がバラバラだったり,添付文書改訂に伴ってMRI対応可能になっていたりということもあります。何の前触れもなく,添付文書上だけの変更なので,なぜそうなったかという明確な説明はありません。まったく材質が変わっていないのにMRI対応可能になることもありますので,混乱を招く原因の1つになると思っています。

土'井:経験上,MRI対応不可の金属のデータはありますが,同じ材質でもどういう形状のステントであるかによって,発熱などの影響は変わってくると思います。

3)新たなリスクが発生する可能性は?

図8 火傷のリスクがある金属が織り込まれた繊維の発熱

図8 火傷のリスクがある金属が織り込まれた繊維の発熱

(司会)さまざまなリスクの中で,最も危険度の高いものは吸引事故ということですが,今後,今までにない新しいリスクが発生する可能性はあるのでしょうか。

土'井:発熱に関してはあると思います。われわれが目視で確認できないところのアクセサリーもありますし,外せるものはすべて外していただきますが,何が影響するかまだまだわからないところがあります。

平野:汗で発熱するということもあります。MRIが巨大な加熱装置になりうるリスクを考えておく必要があります。

(司会)今後,3.0Tを超える磁場強度の装置が臨床で使われる可能性もあります。そうすると,リスクの種類や程度も変わってくるでしょうし,それに対応していく必要がありますね。

土'井:もともと心臓に持病がある人などは磁場変動で影響が出ることも懸念されます。ペースメーカも条件付きMRI対応のものが発売されていますが,磁場変動で別の作用が起こる可能性もあるかもしれません。

医療現場での安全管理について

1)診療放射線技師に対する安全管理教育

(司会)医療現場での安全管理教育は重要な部分かと思います。どのような安全管理教育が行われているのか具体的にご紹介ください。

図9 MRI検査室入室前のチェックリストのポスター*3

図9 MRI検査室入室前のチェックリストのポスター*3

土'井:技師がMRI検査に配属された時に,安全管理教育を行っているケースが多いと思います。当院でもローテーションでMRIの部署に来た時に,安全管理についてのマニュアルを読んでもらい,習得しているかどうかのチェックリストを主任が確認して技師長に提出するということを行っています。

土橋:当院も同じで,ローテーションで異動の際には必ず安全管理教育を行ってから1人で担当させています。当院は24時間MR装置を動かしていますので,夜間はMRI担当技師以外でも1人で操作する必要があるため,基本的には安全管理教育を定期的に年2回,1時間ずつ行い,必ず1年に1回は受けるようチェックしています。

平野:当院は,新卒の技師には一般職員と同じレベルのMRIの安全管理教育を受けさせるようにしています。また,MRIの担当になった時には,安全管理面も含めて,マンツーマンで先輩が仕事を教えることにしています。一番大事なことは事故を起こさないということなので,安全が担保されないかぎり,当直も含めて1人で仕事をさせないようにしています。

(司会)関連学会や団体も講習会やセミナーなどをたびたび実施していますので,そういうところに参加するという方法もあるかと思います。また,JIRAのホームページにはチェックリストのポスターが用意されていて*3,購入して使えるようになっていますし,PMDAの医療安全情報など,いろいろなところで安全管理を喚起しています。

*3:JIRA法規・安全部会の安全管理情報頁 http://www.jira-net.or.jp/commission/houki_anzen/index.html から購入可能

2)看護師や職員,その他の関係者に対する安全管理教育

(司会)MRI担当の技師以外の医療スタッフや職員,業者さんなどに,MRIのリスクをどのように周知したらいいでしょうか。

土'井:病院全体のリスクマネジメント講習会の時にMRIの講習会を加えていただいています。全職員にMRIの危険性を理解してもらって,検査に対する協力をお願いしています。それから,年間100〜150人ぐらいの新規採用看護師さんには毎年,実際にMRI検査室に来ていただいて,問診の様子をはじめ,吸引力や騒音の体験もしていただいています。自分が体験したことや事前チェックの必要性を患者さんに伝えてほしいという意味で行っていますが,非常に役に立っています。

平野:当院も実際に現場に来て体験してもらっていますが,学生の時から見てもらうようにしています。やはり,身をもって感じるということは非常に大事です。講習会も看護師さんや医師だけではなく,全職員を対象にしています。MRIは簡単にできる検査ではなく,いろいろ注意しなければならないということを共通認識してもらうことが重要です。

3)MR専門技術者の役割と期待

(司会)日本磁気共鳴(MR)専門技術者認定機構*4が2006年に設立され,今年で9回目の認定試験が行われました。すでに500名近い認定技師を輩出しているとのことですが, MRIの安全管理に対してどのような役割を期待されていますか。

土'井:MR専門技術者が中心になって安全を担保し,病院のみならず地域の方々にも啓発活動を行っていただきたいと考えています。また,MR専門技術者が先頭に立って,学会活動などで技術や知識のレベルを上げていってほしいと考えています。MR専門技術者の認定試験には安全管理の項目がありますし,法規制などについては更新時に安全講習会を受けていただくことを義務づけています。

*4:日本磁気共鳴(MR)専門技術者認定機構  http://plaza.umin.ac.jp/~JMRTS/

安全なMRI検査に向けて
─「安全なMRI検査を考える会」が発足─

(司会)安全なMRI検査に向けて,安全情報やリスク情報をどのように周知徹底し発信していくかが問われていると思います。2011年に先生方が発起人となって,「安全なMRI検査を考える会」*5を設立され活動されているとのことですが,その経緯と会の目的などについてお聞かせください。

*5:2011年7月,平野浩志氏,土橋俊男氏,土'井 司氏,平出博一氏,石川 聰氏が発起人となり設立された任意団体。5月中旬に会のホームページを開設(http://www.di-lab.jp/mrisafety/ )。動画コンテンツとコミュニティサイトを活用した情報支援に取り組む。ホームページ内の誰にも相談できない時のレスキューサイト「コミュニティサイト」は2014年秋に公開予定。

土橋:MRIのリスクと安全管理については,いろいろな団体や学会が多くの講習会を行っていますし,われわれも院内で実施していますが,残念ながら事故の件数は増加しているのが現状です。MR装置の増加や,24時間稼働している施設も増えたことで,MRIの検査件数が非常に多くなっていることも一因だと思います。講習会などが事故の減少に結びついていないのではないか,何か別の方法を考えなければと模索した結果,有志が集まってこの会を作りました。多くの人に幅広く効果的に啓発するためにはどうしたらよいか検討した結果,まず手始めに新たな手段として,映像を使って啓発することを企画しました。

平野:JIRAの法規・安全部会安全性委員会副委員長の平出博一さんのところには,各社から磁性体が引き付けられる吸引事故の報告がたくさん集まっている話を聞き,これを食い止めなければいけないと共通の危機感を持ったというのが話の発端です。日本放射線技術学会の医療安全対策小委員会に私と平出さんが所属していたこと,平出さんが映像製作会社の石川さん(GROW社)と接点があったということなどから,啓発用DVDを作製する方向で意見が一致しました。

(司会)会が作製した啓発映像は,『医療施設のためのMRI安全講習DVD』として2014年2月6日,JIRAが販売窓口となって販売を開始しました*6。医療従事者のための「MRI事故を防ぐために」,操作者のための「MRI検査を担当される方へ」,検査以外で入室する人のための「MRI室へ入る前に」,患者さんとご家族のための「MRI検査を受ける前に」の4巻からなっています。拝見しましたが,わかりやすく説得力のある映像で,啓発にとても有効ではないかと感じました。皆さんにどのように利用していただきたいですか。

*6:http://www.jira-net.or.jp/commission/houki_anzen/fr_topics_03_25.html

土橋:4巻はそれぞれ対象が異なっていますので,患者さん用のDVDは,例えば待ち合いやロビーのモニタに流すとか,医師や看護師さん用は安全講習会で流すとか,用途に応じて使い分けてほしいと思います。

土'井:MR専門技術者など,MRIの専門家がいない環境の方々に見ていただくのが本来の目的の1つかと思います。今までMRIに馴染みのない方々への啓発になればと思います。

平野:裾野を広げて,みんなが同じレベルでMRIの安全を意識していくことにつながればいいと思っています。患者さんも被ばくのことは心配しますが,同じように「磁場の力で何か起きては困るな」と感じるぐらいの安全に対する意識を持つようになってほしいです。MR装置導入時にDVDを入手して,このDVDをそれぞれの立場で見れば,必ず安全管理教育の裾野が広がると考えています。

土'井:「△△病院ではいろいろチェックされたのに,こちらではなぜチェックをしないんですか?」などと,啓発DVDを見た患者さんに言っていただければ,医療従事者にとって刺激になっていいかもしれません。

図10 『医療施設のためのMRI安全講習DVD』全4巻 (企画・協力:安全なMRI検査を考える会,製作・発行:(株)GROW,協力・販売:一般社団法人 日本画像医療システム工業会)

図10 『医療施設のためのMRI安全講習DVD』全4巻
(企画・協力:安全なMRI検査を考える会,
製作・発行:(株)GROW,
協力・販売:一般社団法人 日本画像医療システム工業会)

 

MRIの安全管理における今後の展望

土'井:誰もが事故を起こさないような環境を作っていきたいという思いで,MR専門技術者の認定機構を運営していますし,現場ではみんなが共通の認識を持ってMRI検査に臨むようにしていきたいという思いがあります。「安全なMRI検査を考える会」の活動に関しては,これからさまざまなメディアを使った情報発信を広げていける可能性を持っていると思っています。例えば,ステントやインプラントの情報や安全性に関するQ & Aを迅速に発信できるようなシステムができれば,有用ではないかと考えています。

土橋:やはり「安全なMRI検査を考える会」の裾野が広がって,いろいろな情報交換ができるようなかたちにしていければいいですね。この会を通して,とにかくいろいろな事故が起こっているということを知ってもらいたいと思います。同じMRIでも,施設の形態や規模によって発生する可能性のある事故というのは全然違います。ですから自分の施設で起こる可能性のある事故を拾い上げてもらい,うまく対応していく方法を発信していく会にしたいと思っています。

平野:皆さんがおっしゃっているように,安全な検査が実施できるように,今われわれが考えてできることを発信していきたいと思います。おそらくMRIの磁場強度はもっと上がっていきますので,この会がそれに対応した情報を発信していかなければならないと思います。映像の力も使いながらわかりやすく,患者さんも医療従事者もMRIの危険性を理解した上で検査が成り立っていくという共通の認識を持てるようにしたいと思っています。
それから,MR専門技術者の方たちとコラボレーションして,より多くの人たちと共通の安全を考えていくような会にしていきたいと思います。

(2014年2月28日実施)

(注)図1〜10は『医療施設のためのMRI安全講習DVD』より転載したものです。

 

医療施設のためのMRI安全講習DVD

医療施設のためのMRI安全講習DVD

一般社団法人 日本画像医療システム工業会(JIRA)は2014年2月6日より,『医療施設のためのMRI安全講習DVD』の販売を開始しました。
日本国内の医療機関では,MRIの強力な静磁場による金属類の吸引・吸着事故や火傷事故などが急増しています。そこでJIRAは,「安全なMRI検査を考える会」が企画し,マルチメディア動画工房GROW社が作製した,医療施設でのMRI安全運用のための講習用DVD『医療施設のためのMRI安全講習DVD』の制作に協力し,JIRAホームページより入手できるようにしました。
このDVDは,医療従事者向け,操作者向け,検査以外の入室者向け,患者さんとご家族向けの4枚組ですが,用途に応じて単品でも購入できます。それぞれのシーンにあわせて,勉強会,研修会,講習会,控え室,待合ロビーなどで視聴していただくことを想定しています。ショッキングな吸引事故の映像をはじめ,説得力のある収録内容は,MRIの安全啓発に大きな役割を果たすことが期待されます。

『医療施設のためのMRI安全講習DVD』

4枚組  セット価格    12000円(税別)
    単品価格    各3000円(税別)

・企画・協力 「安全なMRI検査を考える会」
  発起人:土橋俊男(日本医科大学),土'井 司(大阪大学),平野浩志(信州大学)
・製作・発行 (株)GROW
・協力・販売 一般社団法人 日本画像医療システム工業会(JIRA)

JIRAホームページよりご購入ください。
http://www.jira-net.or.jp/commission/houki_anzen/fr_topics_03_25.html

 

 

【情報提供先リスト】

・日本画像医療システム工業会(JIRA)
 http://www.jira-net.or.jp/index.htm
 安全管理情報(法規・安全部会)
 http://www.jira-net.or.jp/anzenkanri/top/index.html
 「医療施設のためのMRI安全講習DVD」販売ページ
 http://www.jira-net.or.jp/commission/houki_anzen/fr_topics_03_25.html
・日本磁気共鳴医学会
 http://www.jsmrm.jp/
・日本診療放射線技師会
 http://www.jart.jp/
・日本放射線技術学会

 http://www.jsrt.or.jp/data/
・日本医学放射線学会
 http://www.radiology.jp/
・日本磁気共鳴専門技術者認定機構
 http://plaza.umin.ac.jp/~JMRTS/
・厚生労働省
 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/iyaku/index.html
・日本医療機能評価機構(JCQHC)
 http://jcqhc.or.jp/
・医薬品医療機器総合機構(PMDA)
 http://www.pmda.go.jp/

【デバイスベンダーリスト】

・人工関節やボルトなどの医療機器(PMDA添付文書検索サイト)
 http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/whatsnew/companylist/companyframe.html
・バイオトロニックジャパン
 http://www.biotronik.jp
・日本メドトロニック
 http://www.medtronic.co.jp/index.htm
・セント・ジュード
 https://www.sjm.co.jp/index.html
・ボストンサイエンティフィック
 http://www.bostonscientific.jp/
・日本光電
 http://www.nihonkohden.co.jp/iryo/products/inner/01_com/concerto.html
・日本バイオニクス
 アドバンスト・バイオニクス
 http://www.bionics.co.jp/  
 http://www.bionicear.jp/
・日本コクレア
 http://www.cochlear.com/wps/wcm/connect/jp/home

【磁性体検知器ベンダーリスト】

・セキュリティーハウス
 http://www.securityhouse.net/location/hospital/for_MRI/
・三勢
 http://www.sansei-medical.com/company.html
・ニッカ電測
 http://www.nikka-densok.co.jp/product/product06/emd-28.html
・佐藤商事
 http://www.ureruzo.com/kinMDS-100.htm
・日本金属探知機製造
 http://www.orb.co.jp/jmdm/ichiran.html
・グライト商事
 http://griat.co.jp/metal_usage.html
・ディード
 http://www.deed-jp.com/
・フジデノロ
 http://www.fujidenolo.co.jp/

 

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