2013-12-1
大﨑往夫 先生
大阪赤十字病院消化器内科統括部長
Real-time Virtual Sonography(RVS)は,超音波画像と同じ断面のCTやMRIのMPR画像を融合させ,リアルタイムに表示するアプリケーションであり,2003年に日立メディコ(現・日立アロカメディカル)から発売された。肝癌のラジオ波焼灼療法(RFA)の術中モニタリング,画像ナビゲーションシステムとして開発されたRVSは国際的にも高く評価され,RFAにとって欠くことのできない治療支援ツールとして活用されている。開発から10年経過した2013年, RVSの新たな技術が大きな注目を集めた。画像同士の同期アルゴリズムを全面的に見直して,精度と操作性の向上を両立させた“シンプル・アジャスト”機能や“レジストレーション”機能を開発。熟練した術者でなくても簡単に使える,真の治療支援が可能なRVSに進化した。今回は,肝癌RFAの権威であり,RVS開発当初からのユーザーである大阪赤十字病院の大﨑往夫先生に,RVSの歴史を踏まえつつ,この度の進化への期待についてお話しをお聞きした。
●RFAにおけるRVSの有用性─RVSとの邂逅と10年間の使用経験
2003年の発売当初からRVSを使っていますが,初めて見た時には画期的な装置だと思いました。当時は,超音波の解像度が向上するとともに,マルチスライスCTによるボリュームデータの高分解能画像が得られるようになるなど,腫瘍の検出率が向上し,肝臓の小さな癌を見つけることができるようになりました。また,肝癌の治療においては,1999年に日本に本格的に導入されたRFAが,普及し始めた時期にあたります。
RFAは超音波ガイド下で穿刺を行うので,超音波画像上で確認できないと治療はできません。しかし,CTやMRIでは検出されていても,治療時の超音波では確認できないことが少なからずあります。また,背景が肝硬変の場合,いろいろな結節が数多く認められるので,どれが癌なのか,再生結節なのか,前癌病変なのか,超音波で判断するのは難しくなります。RFA時に,超音波画像と同じ断面のCTやMRI画像を融合させてリアルタイムに表示できれば,超音波だけではわからなかった腫瘍の位置を認識して確実な治療を行うことが可能になります。それを実現させたRVSは,治療支援装置として必須のすばらしい装置だと思いましたので,プロトタイプから使い始めました。
RFAは1999年から現在まで,約5千件実施しており,2003年からはそのうちの6割で造影超音波かRVSのいずれか,もしくは両方の治療支援手段を使っています。つまり,RFA全症例の4割にあたる約2千件のRVS使用経験があるわけで,おそらく日本で一番件数の多いユーザーではないかと自負しています。
●RVSの進化の軌跡─10年間の変遷を振り返る
■第一世代:2003年〜
最初のシステムは,超音波装置(EUB-8500)とワークステーション(WS),プローブに取り付ける磁気センサーという構成で,WSのモニタにリアルタイムの超音波画像,同一断面のCTのMPR画像が並んで表示されるものでした。その後,超音波装置のコンソール上にRVSが表示されるようになります。第一世代では,CTの参照画像は1時相のみでした。
■第二世代:2006年〜
1時相のみだったCTのMPR画像が,動脈相,門脈相,平衡相,リピオドール相など,3〜4相を同時に表示できるMulti-phase型のRVSに進化しました。
■第三世代:2009年〜
Multi-phase型のマルチウインドウでは1つ1つの画像が小さくなるので,参照画像をボタン1つで切り替えられるようになりました。また,参照画像にマーキングができるようになりました。
この10年間で,あまり大きな変化ではないのですが,少しずつ進化してきたことがわかります。
●2013年,画期的な進化を遂げたRVS
2013年6月,第四世代と言えるRVSの最新機能が登場しました。RVSの超音波画像とCTやMRIのMPR画像の断面を同期させる方法が根本的に変わったのです。これは,かつてない画期的な進歩だと思います。
■シンプル・アジャスト機能
これまでのRVSは,画像同士を面で同期する位置合わせでした。手順としてはまず,体軸として胸骨の下端(剣状突起)をCTのMPR画像と合わせ,次に,肝臓内の主要な血管(主として右門脈の分岐部)を目印に微妙なズレを調整し同期させていきますが,断面が回転したり,呼吸によるズレが生じたり,慣れないとなかなか難しい操作でした。操作にはある程度の熟練が必要で,誰でも簡単に使えるものではありませんでした。
それが今回,面ではなく軸で同期させる位置合わせ法 “シンプル・アジャスト”が開発されました。軸同期はまず,CTのMPR画像の軸方向(x,y,z)を体軸(脊椎)に合わせて登録し,リアルタイムの超音波画像とCT画像の同じ部位の一点を決定すると,三次元的に同期させることができます。軸同期とは言っても,超音波画像とCTやMRI画像の断面が完全に一致することは理論的にあり得ないので,途中で調整が必要になるケースもありますが,ほとんどは一点アジャストだけで位置合わせが完了します。いままでの面同期とはまったく違って,非常に使いやすくなりました。
そもそもRVSは,RFAを安全に確実に実施するためのツールですから,RVSを使うために熟練が必要では本末転倒です。ビギナーでも使いやすくという要望に応えてくれる進化だと思います。
■レジストレーション機能
同期させた画像が,磁場発生器の磁場のひずみでズレが生じる場合があります。新しいRVSでは,位置情報を登録し,同一検査内で登録した位置情報を呼び出すことが可能になりました。画面下に登録した一連のサムネイル画像が表示され,その中から必要な部位の画像を選択し復元することができます。つまり,RFAの流れに合わせて柔軟に対応することが可能になり,使い勝手が非常に良くなったわけです。
10年前に開発されたRVSと同様の機能は最近,他社のハイエンド超音波装置のほとんどに標準搭載されるようになりました。そのため,RFAの治療支援技術として,普及が加速している状況です。日立アロカメディカルはパイオニアとしてのプライドやプライオリティにかけて今回,他社より優れた機能を持つRVSを開発したと思います。シンプル・アジャスト機能とレジストレーション機能は,初めてRVSを見た時と同じくらいのインパクトがあると思っています。
●RVS,そして日立アロカメディカルに望むこと
RVSの同期の精度を根本的にさらに上げていく開発を行ってほしいと思います。超音波画像は呼吸で移動しますが,CTやMRI画像はそれに合わせて動くわけではありませんから,位置合わせにズレが生じて同期精度の低下につながり, RFAの成功率に影響します。放射線治療で,呼吸に合わせてターゲットに追従する呼吸同期を行っているように,呼吸に合わせて反応するような,同期の精度を上げる技術を開発してほしいです。
さらに,RVSのバーチャル画像上に穿刺ラインや仮想凝固範囲を示したり,いろいろなシミュレーションができるようにしてほしいと思います。
臨床現場に密着した柔軟な対応のアロカの社風と,堅実で誠実な日立メディコの社風が融合して日立アロカメディカルという新たな組織となったことで,化学反応と相乗効果を生み,確実な変革を行ってくれるだろうと期待しています。
●肝癌による死亡を減らすために
私自身はいま,肝癌のサーベイランス,早期診断,早期肝癌の治療,進行肝癌の治療など,肝癌に関するすべての領域に携わっています。超音波は早期診断に必須のモダリティであり,RFAにも欠くことのできない画像ガイドですが,RFAは初期の肝癌,つまり,小さくて数が少ない時期の治療法です。私はRFAに限らず,進行肝癌に対する経カテーテル動脈塞栓術をずっと行っていますし,2009年から進行肝癌に唯一認可された薬剤(ソラフェニブ)の評価も行いました。今後もいろいろな治療法を駆使して,総合的に肝癌治療のレベルを上げていきたいと思っています。
実はいま,日本では肝癌は減少しつつあり,治療成績も向上しています。年代ごとの累積生存率を見ると,明らかに1980年代,90年代,2000年代と良くなっています。ただ,世界的に見ると日本は,肝癌の死亡者数が中国に次いで世界第二位です。この順位を下げるために,肝癌死亡を減らす努力を続けていかなければならないと思っています。
(2013年10月11日 取材)
(注)第一世代,第二世代,第三世代,第四世代という用語は大﨑先生独自の表現です。
大﨑往夫(おおさきゆきお) 大阪赤十字病院消化器内科統括部長
(京都大学医学部消化器内科臨床教授,近畿大学医学部消化器内科非常勤講師)
1979年 神戸大学医学部卒業。同年 大阪赤十字病院内科研修医,93年同院内科副部長,2003年 同院内科部長,2004年 同院消化器科部長,2013年1月〜同院消化器内科統括部長。