2013-2-1
茅野 秀介 氏
(ザイオソフト株式会社 代表取締役)
ザイオソフト(株)は,今年創業15周年を迎える。最先端のコンピュータ技術に裏打ちされた圧倒的な製品開発力で3D画像処理の世界をリードしてきた同社だが,2010年に発表された新しい画像処理技術“PhyZiodynamics”など,次世代に向けた技術開発への期待は大きい。2012年3月に就任した茅野秀介代表取締役社長に,ザイオソフト15年の中での技術開発のポイントと,さらに高度で多様化する画像診断領域での3Dワークステーションの役割と今後の展望についてインタビューした。
●桁違いの処理スピードを実現して,三次元画像処理を実用レベルへ
─15周年を迎えるザイオソフトを振り返っていかがですか。
茅野:ザイオソフトは,1998年に前社長の松本和彦とともに,私を含めて4名で創業しました。当時はマルチディテクタCTが登場したばかりの頃で,三次元処理ワークステーション(3DWS)は高価なUNIXマシンを使って,長い処理時間をかけてようやく表示されるという状況でした。その中で,ザイオソフトは他社に先駆けてボリュームレンダリングを大幅に高速化することで,三次元画像を実用的なレベルまで押し上げられたと自負しています。これが可能になったのも,最先端のコンピュータ技術を熟知した開発メンバーによる,ハードウエアの本来の性能を引き出せる高い技術力があったからです。
製品としては,M900(1998年発売)から始まり,ZIOSTATION(2005年発売),ziostation2(2010年発売)と発展してきましたが,コンピュータの最先端技術をベースとして,画像処理のパフォーマンスとユーザビリティの向上に注力してきたことが,3DWSでの大きなシェアに繋がっていると考えています。
─最先端の技術開発では,どこにポイントをおいてきましたか。
茅野:創業当初からわれわれは,医用画像処理の領域で常に新しいことにチャレンジしていくこと,そしてより便利に実用性を高めていくことの2つを軸にして開発に取り組んできました。
前者では,開発初期の段階で従来とは桁違いのスピードを実現できたのも,チャレンジすることで課題をクリアした成果であり,それによって当時はまだ“おもちゃ”程度の扱いだった三次元画像を一気に実用レベルまで押し上げ,新たな市場の創出に繋がりました。また,3DWSの処理能力の向上とマルチディテクタCTの普及によって,3Dデータで解析したいというニーズが出てきました。代表的なものは冠動脈解析で,現在では欠かせないツールになっていますが,当初はゼロから取り組み,これだけ一般的に利用されるところまで発展しました。このようなニーズはどんどん多様化しており,MRIやマルチモダリティのフュージョンなど複雑かつ高度化し続けています。
後者では,3Dの作成業務の支援が大きなターゲットです。3DWSの黎明期には,どこの施設でも3Dデータの中の不必要な部分を手作業で削除するというプロセスを時間をかけて行っていました。そういった大変な作業を支援していきたいというところから,ユーザーからの大きな要望も受け,自動化やワークフローの改善をはじめとする作成業務の支援機能の開発に積極的に取り組んできました。
このような両面において,より良いものを開発するために妥協することなく真摯に取り組み,技術的革新を続けていくのが当社の使命だと考えています。
●ユーザーとのコミュニケーションを重視してニーズを理解した開発を進める
─開発の体制について教えてください。
茅野:当初は少人数だった開発チームも,技術の高度化,アプリケーションの多様化にあわせて大きな部隊に育ってきました。新たな解析アプリケーションの開発,ユーザーインターフェイスの改善,安定性・スケーラビリティ・パフォーマンスの改善と幅広く,積極的に開発を進めています。当社の特徴のひとつでもありますが,レンダリング,解析などを含めほとんどの部分を自社内で開発していますので,ユーザーの要望やフィードバックに対して,的確かつ柔軟に対応することが可能です。
また,開発体制として,情報がタイムリーに共有され相互に連携して製品開発を行えるよう,スムーズなコミュニケーションを重視しています。開発にかかわるすべてのスタッフが,WSに搭載するこの機能がなぜ必要で,どのように使われるかを理解した上で,開発,評価,改善を行っていくことが,より良い製品づくりには欠かせません。そのような環境をユーザー,販売会社も含めて構築し,製品に反映させていきたいと考えています。実際に,国内の大学病院などいくつかの医療機関とは緊密に連携させていただいており,新しい技術へのコメントをいただいたり,開発陣が訪問してヒアリングさせていただいたりしています。そういった機会でいただけるご意見は,私たちにとって貴重な財産ですので,直接的な製品の改善のためにも,今後の開発の指標としても,大変ありがたく製品開発のいろいろな面に反映させていただいています。
─販売体制についてはいかがですか。
茅野:創業当初から,アミン株式会社とは,開発会社と販売会社という関係で密接に連携して事業を展開してきました。日々の営業活動の中で得られたユーザーからの要望や反応からフィードバックされる情報はとても重要ですから,タイムリーに情報を共有し,開発やサポートなどに生かせるような体制をとっています。
独立系のワークステーションベンダーは,特定のメーカーに縛られずに連携できることが大きなメリットです。今の病院の環境は特定メーカーのCTやMRだけではなく,マルチベンダーになっているのが普通です。われわれはほとんどのモダリティメーカーと接続実績があり,PACSベンダーともスムーズなネットワーク構築を実現しています。当社としては,良い製品を提供することでユーザーから選んでいただくことが一番ですので,この姿勢を今後も変わることなく続けていきます。
●PhyZiodynamicsなどポストプロセッシングシステムとして臨床に役立つ情報を提供
─NantWorksグループに参画後の体制についておうかがいします。
茅野:2011年に,アメリカのNantWorks LLCに参画いたしました。NantWorksは,アメリカの投資家であるPatrick Soon-Shiong, M.D.によって設立されたヘルスケア,教育,科学通信技術などの会社からなる企業体です。ザイオソフトの参画はヘルスケア領域での画像処理技術を期待されてのことであり,これまでの通り医療向けのWSを開発し提供するという事業の目的を後押しするものです。ザイオソフトのアメリカ法人はQi Imagingとなり,NantWorksグループ内で当社とは兄弟会社となりましたが,これまでと変わらず緊密な関係のもとで,国内市場へのよりよい医用画像診断製品の提供のために活動を続けていきます。
─キー技術であるPhyZiodynamicsについてお聞かせください。
茅野:2010年に発表したPhyZiodynamicsは,3Dデータを元に独自の画像解析アルゴリズムと高速な計算処理によって,対象となる臓器などの三次元空間での動態を把握することで,変形する物体のレジストレーション,動態の詳細な観察と定量化,ノイズ抑制など幅広いアプリケーションを実現可能な技術です。3D画像データの次元を1つ広げることで,まったく新しい情報を取り出しています。PhyZiodynamics は,すでにziostation 2の要素技術としてMR 心筋ストレイン解析などのアプリケーションに応用されており,今後もPhyZiodynamicsの技術を活用した製品を続々と投入していきます。
─3DWSに求められる機能や役割が多様化していますが,今後の開発の方向性に変化はあるのでしょうか。
茅野:現在,3DWSで実現している機能は,撮影した画像データを処理して診断や治療に貢献できるデータとして提供するという意味で,画像の“ポストプロセッシング(後処理)”であると言い換えることができます。例えば,当社のPhyZiodynamicsもそのひとつで,元の3Dからポストプロセッシングによって新たな情報を生み出しているわけです。そのように広く捉えると進化は今後も続き,さまざまなアプリケーションを研究・開発していかなければいけませんし,クラウドでの提供などもWSの進化形のひとつであり,重要なターゲットとして開発を進めていく,ということになります。
医用画像処理技術には,取り組むべき課題はたくさんあります。3DWSをお使いいただいている医師や診療放射線技師の方々はWSを使った解析のアイデアをたくさんお持ちですし,解析の手法に関しても今後の課題である“定量化”など実現していきたいことは尽きません。同時に,当社のPhyZiodynamicsもそうですし,他にもCTの逐次近似画像再構成法などもそうですが,高度な解析が必要になればそれだけのパフォーマンスが求められることになるわけで,処理性能への要求はとどまることはありません。処理能力の向上とアプリケーションの開発は,車の両輪であり両方のバランスが取れていなければ前進することはできませんので,ユーザーの要望に応え新しいものを産み出し続けられるように全力で開発を進めていきます。当社としては,医用画像の向上に対してぶれることなく取り組み,3DWSがより良い医療の提供に対して貢献できるように開発を進めていきたいですね。
(2012年12月20日:文責 編集部)
◎略歴
茅野秀介(ちの・しゅうすけ)氏
1996年東京大学工学部卒業。1998年ザイオソフト株式会社設立,2001年専務取締役, 2010年取締役副社長,2012年3月代表取締役社長就任。