2020-10-5
はじめに
2019年3月の改正医療施行規則の公布から線量管理などの準備を開始したが,改正後もまだまだ準備に終わりがないのが現状である。本稿では,当院がこれまで実施した線量管理の事例報告と「日本の診断参考レベル(2020年版)(以下,Japan DRLs 2020)」への対応について報告する。
どこでも「Radimetrics」−病院全体の線量管理の取り組み
一般的に線量管理などの業務は,放射線部内で検討されて,作業や報告が行われている。業務の中枢を担う線量管理システムを導入しても,放射線部内のクローズされた領域のみで運用されていないだろうか? 当院では医療法施行規則改正を契機に,病院全体で線量管理に対する意識が向上し,これに合わせて情報公開する運用を開始した。いわゆる,「どこでもRadimetrics」である(図1)。PACSからRadimetricsを連携起動することで,院内どこでも被ばく線量情報を表示できる。被ばく相談の際には,相談者の目の前で,電子カルテからパッと線量情報が表示されるため,理解を得やすい。見やすさを考慮して,グラフを多く採用したデフォルト設定にしている。
システム概要
各モダリティから出力されるDICOM画像やDose Report,Radiation Dose Structured Report(RDSR)を用いて,データ収集を行っている。造影剤インジェクタの注入データのみ,直接Radimetricsに送信される(図2)。
導入システム選定の理由
(1) 接続実績と納入実績:安定して稼働することを最優先に考えて,納入実績が十分な機種を選定した。(2) モンテカルロシミュレーション機能:被ばく線量の推定は,被ばく相談の際に患者の理解が得やすいと判断した。(3) 造影剤インジェクタの管理:血管外漏出やアレルギー,腎機能障害といったリスクが伴うために造影剤注入の管理が必要と考えた。
線量管理は準備が大切 ─導入からの線量管理の活動
1.プロトコールの使用頻度調査
Radimetricsを使用してプロトコール使用頻度調査を実施した。使用頻度調査はプロトコール整理の第一歩である。6か月間に総プロトコールの40%が使用され,60%が未使用だった(表1)。
2.チェックリストの活用
線量管理の完成度をチェックするために「チェックリスト」を活用している(図3)。現在の課題点を「見える化」する目的である。その結果,CT装置全体の平均点は73点だった。このチェックリストにより,「どこまでできたか」「まだ何が足りないか」という現状の課題を「見える化」することができた。
3.プロトコール見直しと確認作業
Radimetrics導入後6か月の時点で,CTDIvolの中央値を算出した。頭部CTの中央値は,81.4mGyだった。このプロトコールは,急性期脳梗塞用として高線量に設定している。しかし,外傷や術後フォロー検査では過剰な被ばくであるため,脳梗塞用CTと頭部ルーチンと頭部フォローのプロトコールを作成した。その結果,目的別にメリハリのある線量配分になった(図4)。
Japan DRLs 2020公表後の対策
1.CT
1)マスタプロトコールの整理
Japan DRLs 2020の対象となる項目に合わせて,中央値を算出するためのプロトコール群(マスタプロトコール)を整理した。
2)Japan DRLs 2020ではDRLs 2015より約10%の線量増加
Japan DRLs 2020では,標準体重が50〜60kgから50〜70kgに増加したため,2019年度の当院のデータを使用して中央値を比較した。結果として,全体的に5〜10%程度の照射線量の増加を確認した(表2)。
3)毎月の中央値の変動チェック
Japan DRLs 2020の対象項目について,中央値を月別に抽出し,診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)と比較した。胸部骨盤1相のプロトコールでは,5月に大規模なプロトコールの見直しを行い,6月以降の中央値が19.1%低下する結果を確認した(図5)。プロトコール見直しは,日本放射線技術学会撮影部会『X線CT撮影における標準化〜GALACTIC〜(改訂2版)(以下,GALACTICガイドライン)』を参照した。
4)小児CT
小児用プロトコールをGALACTICガイドラインにて見直した。加えて,中央値を算出するためにマスタプロトコールを用意した。
2.血管撮影
DICOM画像とDose ReportとRDSRのデータを基に管理している。RDSR取得により入射皮膚線量マップが表示できた。過線量に対して経過観察の目安になる(図1)。
課題:疾患と診療行為の記載がない。
血管撮影では,X線管出力を変更するためのプロトコールを数種類のみ使用している。そのため,DICOMタグに疾患別と診療行為別の記載がなく,Japan DRLs 2020にて指定されている検査や治療の項目別に分類することが難しい。
当院の対応:Radimetricsのタグづけ機能を使用して検査手技を分類している。
3.核医学検査
Radimetricsと核医学業務支援システムの両方で管理している。Radimetricsでは,投与薬品名は検査ごとにタグづけし,実投与量はマニュアル入力している。SPECT/CTのCT撮影による被ばく線量は,Dose Reportのデータを抽出して管理している。
考 察
1.実質20%の線量低減が必要
Japan DRLs 2020のDRLでは,全体的に10%程度の線量削減を求めている一方で,標準体重が10kg増加し,中央値は10%程度増加を認めた(表2)。つまり,Japan DRLs 2020ではDRLs 2015より20%程度の線量削減が求められていると考えるべきである。DRLs 2015のDRLを下回ることは容易な印象があったが,Japan DRLs 2020を下回ることは難しそうな印象だ。多くの施設でプロトコールの見直しが必要になるだろう。
2.線量管理の業務量が多く,時間外労働にも限界があり人員増も視野に
医療法施行規則改正に伴う放射線部内の準備(線量管理と記録,研修会・委員会,被ばく相談など)が,なかなか追いつかない。改めて,線量管理に関する業務量の多さに驚いている。医療安全部のように常勤のスタッフが数人必要な雰囲気を醸し出している。線量管理に対する加算の算定措置にも期待したい。
まとめ
医療法施行規則改正によって,病院全体として被ばくへの関心度は上がっている。われわれは「どこでもRadimetrics」のように「身近な線量管理」をはじめとして,放射線部門のみならず病院全体に役立つ仕組みを常に創造している。