2020-10-5
当グループの概要
戸田中央医科グループ(以下,TMG)は埼玉県を中心に東京都,神奈川県,千葉県,静岡県に29の病院を有し,総病床数が6357床,職員数が1万5192名の医科グループである。線量管理の対象となる装置の稼働数はCT(30台),血管撮影装置(11台),核医学装置(2台)の合計43台となる。年間検査数はCT:17万8541件,血管撮影:4683件,核医学:2453件,年間合計18万5677件の検査を施行している(2019年実績)。また,PACSは,被ばく線量管理対象施設24施設中,22施設で「NOBORI」(NOBORI社)を導入している。そのほか2施設は他社システムを運用しており,今回は他社システム運用中の1施設を加えた23施設での統合管理をめざした。
選定基準
被ばく線量管理システムを導入するに当たり,以下の基準で選定を行い,最終的に3社まで絞りNOBORI社が販売する「MINCADI(ミンキャディ)」(A-Line社)に決定した。
「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行等について」(医政発0312第7号)に基づいた線量管理ができることを基本条件とし,以下の4項目を重視した。
(1) クラウド型またはグループ内1システムで統合管理が行えること
(2) 施設(現場)での設置作業・メンテナンスが簡便であること
(3) コストパフォーマンスに優れていること
(4) 操作性・拡張性に優れていること〔人工知能(AI)搭載などの発展が容易〕
選定理由
(1) クラウド型またはグループ内1システムで統合管理が行えること
選定基準の中で最重要視したのはクラウド型のシステムであるという点である。2010年に導入をしたPACSでは,TMGの基幹病院である戸田中央総合病院に48TBのサーバを導入し,virtual private network(VPN)にてグループ病院と接続し,統括管理を行うことでコスト削減を実践した。しかし,メンテナンスには非常に苦慮した経験があり,現PACS更新時にはグループ内にサーバを設置する必要性,メンテナンスの煩雑化,更新時の労力軽減を考慮した結果,完全クラウド型のNOBORIを採用した。そのような経緯もあり,線量管理システムもクラウド型であることを最重要視した。
(2) 施設(現場)での設置作業・メンテナンスが簡便であること
MINCADIは,専用アプライアンスサーバの「NOBORI-CUBE」を1台増設することで設置が完了し,LANやインターネット回線はPACSのインフラを利用するため,一切の追加工事などを必要としなかった。検討した他社システムは,専用回線や新たにゲートウェイサーバの設置が必要となり,機器メンテナンスの負担増大が予想された。
また,被ばく線量管理の参照には専用端末を必要とせず,インターネットへ接続可能な端末があればブラウザを利用し結果参照およびシステムの設定が可能である。
(3) コストパフォーマンスに優れていること
イニシャルコストは,ほとんどの施設でNOBORIを導入していたため,MINCADI導入関連ではほぼゼロであった。各装置からDICOM Radiation Does Structured Report(以下,RDSR)出力するための設定費用は発生してしまうが,MINCADIはCTからRDSRを取得する必要性がなく,今回の医療法施行規則の一部改正の範囲では血管撮影装置および核医学装置からはRDSR出力の設定費用が発生した。しかし,CTの台数に比べ両装置は少ないこともあり,イニシャルコストの削減にも大きく寄与した。ランニングコストもNOBORI同様月額制であるため,ハードウエアの更新,メンテナンスを含め定額で利用でき,突然の出費も発生しない。また,NOBORIと同筐体(NOBORI-CUBE)であるため,ハードウエアの信頼性も高い。さらに,故障時もリモート診断を行い,代替運用のための切り替え作業も即実施され,運用を止める必要はない。
さらに,専用の参照端末を必要とせずインターネット回線に接続できる端末であれば,どのような端末でも線量情報の閲覧が可能である。これもコスト削減には有効であると考えた。
(4) 操作性・拡張性に優れていること(AI搭載などの発展が容易)
操作性については,基本的に多機能と操作性は反比例すると筆者は考えている。多機能ではなくとも必要な設定はでき,シンプルなユーザーインターフェイス(以下,UI)であることを重要視した。その点,MINCADIは必要最低限の機能を有し,UIもシンプルでコンセプトに合致した。また,拡張性に関しても必要十分で,各種のサービスが提供される「NOBORI PAL」も含め,問題ないと判断した。
システム構成
当グループの導入は,図1に示すようにクラウドであるため非常にシンプルである。MINCADIは,NOBORI PALの1サービスとして提供されるため,前述のように別途にサーバなどを導入することなく,NOBORI(PACS)導入22施設でNOBORI-CUBEを追加することにより,運用可能となった。また,他社製PACSを運用している施設でも,既存のVPNを利用しMINCADI用NOBORI-CUBEと既存PACSを連携することにより,容易に運用を開始することができた。
運 用
他社の被ばく線量管理システムも同様と思われるが,プロトコールの紐づけ作業“Aline-ment”(図2)を行う必要性があり,CT(施設により異なると思われる)では膨大な作業が必要となるが,自動化する機能が年内にリリースされるので,負担軽減されると予想している。現段階ではデータの蓄積期間であるため,実運用としてはこれから本格化する。
評 価
MINCADIの特徴的な機能として,臓器線量計算が実装されている。これについて,CTはRDSRがなくとも線量計算されると前述したが,CT装置固有のキャリブレーションデータを利用することで,個人被ばく線量(図3)を算出できる。今後,個人被ばくを管理する上では重要なファクターになると思われる。
また,クラウドならではの機能として,MINCADI導入施設間での他施設の同一モダリティ比較や,他施設同一機種比較を行える(図4)。これは診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)との比較だけでなく,自施設のベンチマークが行え,客観的に自施設の線量を評価することが可能で,プロトコール改定の指標になると考える。さらに,グループ病院向けの機能としてグループ病院間のみの比較も行え,施設名も開示されている(図5)。各施設での線量の確認,取り組みなどが把握でき,管理部門としては非常に有用と考える。
最後に
MINCADIは,現段階ではクラウドを利用した数少ない被ばく線量管理システムであり,その特性を生かした機能を装備している。とりわけグループ病院では,前述のように非常に強い武器になると考える。まだまだ十分満足できるシステムではないかと思うが,その分,潜在能力は無限大と感じている。実際に導入決定後に聞いた開発計画が数多くあり,今以上に導入時の負担軽減および導入後のユーザビリティが向上することが期待できる。また,Web会議方式によるセミナーなども計画していると聞いている。管理者を対象に今後の法令への対応などを情報発信,利用法など討論する場を提供することも重要と考える。
今後期待することは,たとえ多機能になってもシンプルな操作性を失わないことである。このシステムを利用するのは,専門性を有した医師・診療放射線技師ではないことも多々ある。不慣れな利用者が直感的に操作でき,患者説明にすぐ必要な情報が取り出せるように,開発を進めていただきたい。