2020-10-5
はじめに
2020年4月1日より「医療法施行規則の一部を改正する省令」が施行され,CT・核医学およびIVRの被ばく線量の管理・記録が義務化された。これに当たり当院では,インフィニットテクノロジー社の被ばく線量管理システム「INFINITT DoseM」を導入し,管理体制を構築した。本稿ではその導入と運用経験を紹介する。
選定理由
被ばく線量管理システムの導入に当たって,当院における 「医療被ばく管理」の方向性を検討し,被ばく線量管理システムに求める要件を以下のように定めた。
・マルチモダリティの医療被ばく管理ができる拡張性
・複数の線量情報〔DICOM Radiation Dose Structured Report(以下,RDSR),OCR,DICOM情報〕の取得に対応
・新たなLANの敷設や接続コストの抑制
・わかりやすい患者単位の医療被ばくレポート機能
・海外での豊富な導入実績
「医療法施行規則の一部を改正する省令」では,ガイドラインの変更があった場合,必要に応じて見直しが必要であると記載されており,ほかのモダリティ(一般撮影装置,マンモグラフィ,透視診断装置など)においても,将来的に被ばく線量の管理・記録が義務化される可能性が示唆されている。新たなモダリティの線量管理が必要となった場合のシステムの拡張性・接続コスト・サーバ/データの管理や運用実績などを総合的に考慮すると,既設PACSと同一メーカー製品であるINFINITT DoseM採用のメリットは大きかった。加えて,各装置から出力される複数の線量情報(RDSR,OCR,DICOM情報)を取得することが可能であり,線量情報の異なる装置間の比較や統計・分析が容易になると考えた。
また,INFINITT DoseMは根本杏林堂社の造影検査情報管理システム「CE Evidence」と連携し,造影剤の注入情報(種類・注入量・注入速度など)も同時に管理することができる。「被ばく線量」と「造影剤」の情報管理ができることは,CTの医療安全管理において非常に有用であり,導入の大きな理由となった(図1)。
当院は周産期母子医療センターとがんセンターを有していることもあり,患者から被ばく線量に関する相談を受ける機会も多い。可能なかぎりわかりやすく,ていねいな説明と資料を提供できるよう心がけているが,線量管理に用いられているCTDIvolなどの単位は一般には理解しづらい。INFINITT DoseMは,オプション機能によりCTの実効線量および臓器線量を推計し患者単位の線量レポートに表記できるため,説明資料として利用しやすい(図2)。
一方で,IVRでは視覚的・感覚的に被ばく線量を把握しやすい機能が実装されていないため,今後のアップデートに期待したい。
システム構築の工夫
INFINITT DoseMでは,線量情報の収集として,RDSRのほかにDICOMヘッダやDose Report画像のOCRによる読み取りも可能である。当院の運用としては,RDSRを撮影終了後にPACSに自動送信することとした。しかし,モダリティメーカーによってはRDSRの特定の記載値の「+/−」が他メーカーと異なる場合もあり,確認・修正作業に時間を要した。
核医学検査では,RISのオーダ名から事前登録した核種投与条件を取得し,核種情報・実投与量・実効線量を算出している。SPECT/CTにおいては,CTと放射性医薬品による被ばく線量を統合して管理している。
診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)との比較に重要となる身長/体重は,RISから各モダリティにModality Worklist Management(MWM)で送信し,DICOM画像に入力された値を取得している。RISの身長/体重の値は電子カルテから取得しているが,初診患者や救急患者の場合に入力されていないことがあるため,診療科など関係各所に広報し入力の徹底に努めている。
CTにおける実効線量および臓器線量は,RISのオーダ名から事前登録した撮影範囲で推計することとした。装置ごとのプロトコール名から撮影範囲を紐づける方法もあるが,複数台・複数メーカーの装置を有する場合,それぞれに対応表を作成する必要があり煩雑である。またRISのオーダ名からの紐づけにより,装置のプロトコールの変更/追加や,プロトコール内容を編集して他部位を検査することも可能となった。
運用・今後の予定
被ばく線量管理システムの導入に当たり,当院放射線技術部では,各モダリティ責任者へDRLに準じた被ばく線量の測定・調査と部内での報告を年1回行うことを義務づけることとした。そして,まとめた内容を医療放射線安全管理責任者に報告することとした。こうした体制を構築したことによって,部内全体の被ばく線量管理に対する意識が明らかに向上してきた。この雰囲気が一過性のものとならないよう努力していきたい。
CTでは被ばく線量の管理に加え,造影剤注入情報の管理も実施し始めた。現在は造影剤種類別の使用本数や撮影プロトコール別の造影剤使用量・注入速度などを確認している(図3)。
当院では線量管理システム導入時にCTも更新しており,すべての造影検査をdual energyで撮影している。造影剤使用量は基本的には従来どおりだが,腎機能が低下した患者で放射線科医師の指示があった場合は,造影剤を2割減量し仮想単色X線画像の電圧値を調整して撮影を実施している。今後は造影剤減量の効果や検査実施状況の検討に,造影剤注入情報を活用したいと考えている。また,現在は造影剤副作用が発生した患者の記録(副作用発生の有無など)を行うことができないが,造影剤副作用情報と造影剤注入情報が管理できると効率的に安全情報の管理ができるため,今後のアップデートを期待している。
2020年7月に「日本の診断参考レベル(2020年版)(以下,Japan DRLs 2020)」が発表された。CTでは小児において年齢別のDRLに加えて体重別のDRLが設定され,IVRではプロトコールが細分化された。これに準拠するためのアップデートを予定しているが,DRLに関してかなり大規模な変更が必要となると予想される。メーカー担当者としっかりと検証していく必要があると思われる。
まとめ
当院における線量管理システムの導入と運用経験を紹介した。導入に当たって,線量管理システムはそれ単体で被ばく線量管理ができるものではなく,管理体制と運用管理が重要であると痛切に感じた。また,Japan DRLs 2020への対応などの管理内容の変更や,新たに取り組み始めた造影剤注入情報の管理体制を充実させることができるよう,インフィニットテクノロジー社の協力をいただき取り組んでいきたい。