2019-11-13
医療被ばくの線量管理・記録の義務化の動向
2018年度診療報酬改定において,月1回に限り300点を所定点数に加算することができる画像診断管理加算3ならびに100点を所定点数に加算することができる頭部MRI撮影加算(3T以上のMRI)が新設された1)。これらを算定するためには,施設基準を満たす必要があり,施設基準の中には,関係学会の定める指針として,日本医学放射線学会から2015年4月付で「エックス線CT被ばく線量管理指針」2)が開示されている。
また,2019年3月公布,2020年4月から施行される「医療法施行規則の一部を改正する省令」3)にて,「診療用放射線に係る安全管理体制について」が示され,2019年10月には,厚生労働省より「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドラインについて」(令和元年10月3日付,医政地発1003第5号)4)が通知されるとともに,日本医学放射線学会から「診療用放射線に係る安全管理体制に関するガイドライン」5),日本診療放射線技師会から「診療用放射線の安全利用のための指針モデル」6)が公表された。
「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドラインについて」の中で本稿に関連するのが,「診療用放射線の安全利用を目的とした改善のための方策に関する基本方針」である。この基本方針に対し,日本医学放射線学会ならびに日本診療放射線技師会では,医療放射線安全管理責任者が線量管理および線量記録を行うこととしており,血管撮影装置,CT,PET/CT,SPECT/CTなどの8機器ならびに放射性同位元素が,現状では対象となっている。ただし,当分の間,線量管理・記録対象放射線診療機器などを用いた診療であっても,線量を表示する機能を有しない放射線診療機器を用いるものについては,被ばく線量の記録を行うことを要しないとしている。そして,被ばく線量の評価は年1回以上行い,診断参考レベル(以下,DRLs 2015)を使用して検査プロトコールの見直しなどに反映させることとしている。日本医学放射線学会では,CT検査における線量記録はCTDIvolおよびdose length product(以下,DLP)をもって撮影部位と照合可能とし,血管造影における線量記録は面積空気カーマ積算値(air kerma-area product:PKA),患者照射基準点空気カーマ(air kerma at the patient entrance reference point:Ka, r)および透視時間をもって撮影部位と照合可能とし,核医学検査は放射性医薬品の名称と投与放射能量をもって行うこととしている。
被ばく線量管理システムの導入時のポイント
線量記録の様式には,Modality Performed Procedure Step(MPPS)や数値入力による放射線情報システム(RIS)上での線量記録,装置コンソール上に表示されている線量情報をセカンダリキャプチャ画像として画像サーバ上に記録したり,X線フィルムに記録したりする様式などがある。現状では,既存の記録を線量記録とすることができるため,必ずしも被ばく線量管理システムをすぐに導入する必要はないかもしれない。ただし,当院のように多くの放射線診療機器が稼働している場合,さまざまな線量記録様式から検査目的や画質などに考慮した上で,撮影条件の見直しや最適化を実施するには多くの労力を伴うことになるため,被ばく線量管理システムの導入が必須となる。
一方,各社の被ばく線量管理システムのパンフレットを見ると,各モダリティ対応,DICOM Rradiation Dose Structured Report(以下,RDSR)対応,撮影プロトコールごとの線量分布とDRLs 2015との比較,閾値を超えた線量値のアラート機能,患者ごとの検査情報の時系列表示と配布用レポート,カンファレンス機能,臓器線量算出,Web対応などが記載されており,一見すると各社の違いはなく,導入選定は購入価格や保守費用次第であるとも言える。しかし,自施設の環境下においてどのような目的で購入するのかを明確にしておかなければ,線量記録は蓄積できても施設内の放射線診療機器の分析を簡便に行うことはできない。
当院での被ばく線量管理システムの導入時のポイントは,RDSR未対応装置でも「検査プロトコール別の線量分析」と「患者個人別の線量分析」をできるだけ簡便にできる,または,ユーザーでそのように編集できる機能を有することが前提となった。特に,各放射線診療機器からのさまざまな線量情報をどのような標準検査プロトコールと紐づけし,DRLs 2015と比較するのか,患者の累積線量をどのように分析したりするのかといった視点は重要である。「AMDS(アミダス)」(アゼモトメディカル社)では,CT検査においては183個のMコード(標準検査プロトコール)を基にシリーズ単位で任意のDICOM tagと紐づけするリンケージ機能(図1)がある。そして,一度リンケージ機能で紐づけした後は自動で紐づけされ,線量情報を自動的に管理することができる。検査単位ではなくシリーズ単位で紐づけできるという利点は,例えば肝臓ダイナミックCTにおいて,平衡相が上腹部や胸部から骨盤部までといったさまざまなオーダに対しても適切な紐づけが可能となる。また,“AMDS DICOM”にて,画像のDICOM tagならびにRDSRのDICOM tagも参照可能なため,リンケージ機能によって,ユーザーのニーズが紐づけに反映できるという大きな利点がある。
被ばく線量管理システムの運用ポイント
当院は,2018年4月に「被ばく線量・撮影プロトコル管理チーム」を発足した。この管理チームは医師,看護師,診療放射線技師で構成しており,3か月ごとに会議を開催している。この会議で検討する資料は,被ばく線量管理システムを用いて作成している。現在,抽出している項目は,(1) 成人・小児年齢群に分けた検査プロトコールごとならびに放射線診療機器ごとの3か月間の線量値とDRLs 2015との比較,(2) 検査プロトコールごとの3か月間の高線量患者一覧,(3) 検査プロトコール単位での3か月間の線量分析・考察,(4) 3か月間における累積高線量患者一覧ならびに分析・考察としている。
また,被ばく線量管理システムは,放射線診療機器の更新時や検査プロトコールの更新時,ガイドラインなどの変更時の線量分析にも有用である。ただし,一概に線量数値のみを下げることが最適化ではなく,なぜ線量数値が高いのか,低いのかを分析することが重要である。そして,分析する際には,検査目的や画質を十分考慮することが必須である。図2に異なるメーカーの胸部単純CT検査のDLPとSD値を示す。施設内の同一検査はできるだけ画質と被ばく線量をそろえたいが,放射線診療機器のスペックによっては難しい場合もある。しかし,被ばく線量管理システムを用いた分析により,画質を無視した被ばく低減は避けることが可能である。また,AMDSではOCR機能により,RDSR未対応装置の分析も可能であり,線量とスキャン範囲,感電流,mAs,管電圧,SD,年齢,性別,身長,体重,BMIとの相関を求めることもできる(図3)。
●参考文献
1)厚生労働省 : 平成30年度診療報酬改定改定について. 2018.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
2)日本医学放射線学会 : エックス線CT被ばく線量管理指針. 2015.
http://www.radiology.jp/content/files/20150418_x-ray_ct_guideline.pdf
3)厚生労働省 : 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行等について. 2019.
http://jsnm.sakura.ne.jp/wp_jsnm/wp-content/uploads/2019/03/0b991eb1e78fb147b7db007c53e1d308.pdf
4)厚生労働省 : 診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドラインについて. 2019.
5)日本医学放射線学会 : 診療用放射線に係る安全管理体制に関するガイドライン. 2019.
http://www.radiology.jp/content/files/20191004_01.pdf
6)日本診療放射線技師会 : 診療用放射線の安全利用のための指針モデル. 2019.
http://www.jart.jp/activity/anzenriyou_guideline.html