2020-10-5
はじめに
2020年4月1日施行の「医療法施行規則の一部を改正する省令」(平成31年厚生労働省令第21号)では,医療法施行規則第1条の11に規定されている「管理者が確保すべき安全管理の体制」として,医療に係る安全管理,院内感染対策,医薬品に係る安全管理,医療機器に係る安全管理,高難度新規医療技術に加え,診療用放射線に係る安全管理が規定された。
本改正の経緯としては,厚生労働省で2017年4月〜2019年3月に開催された「医療放射線の適正管理に関する検討会」の報告書で,診療用放射線の安全管理体制の確保を規定し,責任者の配置,指針の策定,研修の実施,被ばく線量の管理および記録が求められた。特に,被ばく線量の管理および記録は,対象を相対的に被ばく線量が高い,「エックス線CT装置(以下,CT)」「血管撮影装置(循環器型エックス線透視装置)」「放射性同位元素及び陽電子断層撮影用放射性同位元素を用いた検査」とし,診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)に基づく線量および放射性同元素投与量の管理,最適化の取り組みについて求めている。
経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development:OECD)によると,日本は人口あたりのCTの台数が世界一であり,CT検査が受けやすい環境も相まって,CTによる患者の被ばく線量も非常に高い。そのためか,CT開発メーカーは被ばくの低減に力を入れており,低被ばく化への議論もさまざまな場面で行われている。先に紹介した改正省令への対応についても,CTについては非常によく耳にするが,血管撮影装置についてはそれに比べ多くない。
そこで,本稿では,血管撮影装置における被ばく線量の管理と記録について当院での取り組みを紹介する。
施設紹介
当院は,埼玉県上尾市で地域に密着した医療を提供する総病床数733床,44標榜科の施設である。
主な放射線関連機器は,一般撮影装置7台,X線移動装置6台,外科用X線撮影装置4台,マンモグラフィ3台,X線TV装置6台,血管撮影装置3台(Hybrid OR含む),CT 3台,MRI 3台,核医学装置2台,放射線治療装置1台で,診療放射線技師は常勤64名である(2020年4月1日現在)。
また,日本診療放射線技師会が認定する「医療被ばく低減施設認定」を,2010年2月に,全国17番目に取得しており,線量管理システムは2015年1月にGE社の「Dose Watch」を導入している。さらに,2019年度より東陽テクニカが販売するQaelum社の線量管理システム「DOSE」の試運用を開始した。
血管撮影装置における被ばく線量管理
放射線被ばくによる人体への影響は,確率的影響と確定的影響に分けられ,血管造影検査では,発がんおよび遺伝的影響のリスク指標である確率的影響より,閾線量が存在し,それ以下の被ばくでは放射線障害が発生しないことが明らかになっている確定的影響の管理が,特に重要である。
「IVR に伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」や「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」では,あらかじめ施設の管理目標として皮膚線量の上限値を定めておくこととされ,患者や術者の確定的影響の発生を防止することが重要と記載されている。
したがって,検査終了後には当該検査での皮膚障害発生リスクを評価し,主治医や担当看護師,血管造影検査スタッフと共有できるシステムづくりが望まれる。検査中にリアルタイムで患者皮膚被ばく線量を把握できれば,検査終了後迅速に評価が可能であるが,リアルタイムに照射角度ごとの総線量を表示できる血管撮影装置やスキンドーズモニタを使用しながらの検査でなければかなわない。一過性の紅斑は,数時間以内に発生するため,検査終了後,遅くとも当日中には患者皮膚被ばく線量を把握し評価することが望ましいと考える。
当院では,血管造影検査における患者皮膚被ばく線量の管理方法として,検査終了後に照射角度ごとに透視線量と撮影線量を合算し,初期紅斑の閾線量である2Gy以下であるかを評価することとしたが,血管造影検査担当スタッフのコンセンサスを得るのに苦慮した。また,年間件数が2500件程度でも,検査終了後に患者皮膚被ばく線量を評価することは,予約状況や担当者の力量によって報告書を作成するまでの時間に大きな差が生じてしまった。
そこで,検査終了後,総被ばく線量が3Gy以下の場合は線量の記録のみ,3Gyを超えた場合は照射角度ごとの患者皮膚被ばく線量が2Gyを超えたかを評価することとし,図1のようなシートを作成し管理していた。
線量管理システムを用いた血管撮影装置における被ばく線量管理
患者皮膚被ばく線量の把握には,透視線量と撮影線量を合算して評価する必要がある。しかし,血管撮影装置によっては,照射角度ごとの撮影線量は記録として出力されるが,透視線量は総透視線量しか出力されない装置も存在する。その場合,照射角度ごとの撮影フレーム数の割合を算出し,透視時間をその割合で補正し,透視線量率に乗じて求めることで局所患者皮膚被ばく線量が算出でき,評価が可能となる。
線量管理システムのDOSEでは,照射角度割合をDICOM Radiation Dose Structured Report(RDSR)から求めることができるため,上記の作業が簡略化でき,患者の背部を観察する際,どこに注目すればよいかが一目瞭然で,皮膚障害の有無を精度良く検出することが可能である(図2)。また,入射皮膚線量マップを作成することも可能なため,上記の作業を不要とすることもできる。
これらの利点として,血管造影検査業務の効率化ができ,担当スタッフの業務量削減が可能となった。検査終了後,できるだけ早く患者皮膚被ばく線量を評価することは,患者安全のためと理解はしていても,担当スタッフのストレスとなっていた。特に,夜間緊急検査では顕著であり,本来持っているポテンシャルをパフォーマンスとして発揮できなくなる現象も発生しており,モチベーションの低下につながっていると考えられる事態も見受けられた。また,患者皮膚被ばく線量評価を失念する事例も発生していた。
線量管理システムでこの作業を担えることは,スタッフのストレス軽減にも有効であるととらえている。
線量管理システムを用いたDRLの管理
2020年7月3日に日本の診断参考レベルの改訂版である「日本の診断参考レベル(2020年版)(以下,Japan DRLs 2020)」が公表された。IVR領域のDRLは,2015年版に比べ項目が細分化され,DRL値も線量率だけでなく,患者照射基準点線量および面積空気カーマ積算値が追加された。
これに合わせ,血管撮影装置の線量管理についても変更する必要があるため,線量管理システムを利用し効率的な管理について試案を作成した。
現在,血管撮影装置の線量管理はStudy Description(検査記述)での集計を行っている。しかし,装置ごとに登録できる数が決まっており,細分化されたJapan DRLs 2020の項目には対応できないため,Acquisition Protocol(プロトコール名)で管理が可能か検討した。しかし,図3のとおり,1検査の中でさまざまなプロトコールで透視,撮影されている場合がほとんどであり,そのままでは効率的な管理として取り入れることは困難であった。そこで,各検査で使用するプロトコールのパターンごとにDOSEにあるグループ化機能を用いて振り分けることで,Japan DRLs 2020に対応できるか検証中である。グループ化機能を使用する際は,始めにDRLの各項目に対する紐づけの設定が必要だが,設定後は自動的に振り分けてくれる。DOSEの自由度の高いグループ化機能は非常に有用である。
まとめ
2020年は,「医療法施行規則の一部を改正する省令」の施行や,Japan DRLs 2020の公表などがあり,施設の放射線管理を変革する良い機会である。線量管理業務を一つのモダリティとしてとらえ,質の高い放射線管理を実践することは,ひいては患者安全に貢献することができるため,組織内で放射線管理の重要性を共有し,労力の数値化を行い,適正人員の整理を行い,担当者を配置することが望ましいと考えている。
本稿では,血管撮影装置の線量管理について紹介した。効率的な放射線管理の一助になれば幸いである。