2020-11-2
宝塚市立病院ならびに放射線治療センターの紹介
宝塚市立病院は地域医療支援病院として,地域の中核病院の役割を担っている。病院設立は1984(昭和59)年,病床数436床,阪神北医療圏(宝塚市,伊丹市,川西市,三田市,猪名川町)で唯一の災害拠点病院ならびに兵庫県指定がん診療連携拠点病院である。そして,放射線治療センターは2018年4月に開設され,2020年に3年目を迎えた。また,この放射線治療センターは,リニアックとしてトモセラピー「Radixact」(アキュレイ社製)が稼働しているリニアック1台施設であり,市内唯一の放射線治療施設である。2020年9月現在,放射線治療センターは,常勤治療医師2名,非常勤治療医師7名,診療放射線技師6名(専従,うち治療専門医学物理士1名,医学物理士3名,医学物理士試験合格者1名),看護師3名(専従2名),事務員2名の体制で運営している。主な導入システムは,Radixact のほか,計画用CT「Aquilion LB」(キヤノンメディカルシステムズ社製),治療計画支援装置「MIM Maestro」(MIM software社製)を使用している。2019年度の放射線治療新患者は267名,うち定位放射線治療(SRT)は7名,体幹部定位放射線治療(以下,SBRT)は23名で,治療部位別では前立腺(24%),肺(18%),骨(15%),乳房(11.6%)の順に多い。
Radixactとは?
ヘリカルCT技術と放射線治療技術を融合させたトモセラピーシリーズの最新プラットフォームであり,トモセラピーの旧シリーズと比べて,外観や仕様が異なる(図1)。
◦旧シリーズからの主な変更点
大きく仕様が変わった点は,線量率が1000MU/minに上がり,mega-voltage CT(以下,MVCT)撮影速度が1回転6秒に向上したことで,全体的にスループットが改善した。そして,カウチキャッチャーが新しく装備され,寝台精度の改善が行われた。また,MVCTに反復逐次近似法(IR法)が採用され,これにより,低ノイズ,高画質化が図られた。また,Radixactでは,専用の「Accuray Precision治療計画システム」が用意され,アダプティブ治療支援“PreciseART”や再治療計画支援“PreciseRTX”ソフトウエアなどもオプション装備された。さらに,旧シリーズから課題であった呼吸性移動対策の新しいソリューションとして,「Synchrony」オプションが追加装備された。
Synchronyオプション1)〜3)(図2)
Synchronyとは,動くターゲットに対して安全に放射線治療を行うための“追跡(TRACK)”“検出(DETECT)”“補正(CORRECT)”の独自の技術である。リニアックと直交に配置されたkVイメージング,光学カメラとLEDマーカーを用いた方法で,リアルタイム動体追尾が可能となった。
Synchronyのメリットとしては,呼吸抑制などが不要で患者さんの負担の軽滅,効率的な連続照射による簡便な運用と収益性向上,マージンの最小化による臨床的有用性と有害事象抑制への期待が挙げられる。さらに,フィデューシャルマーカーなしでも肺のターゲットを認識可能である。治療対象は,呼吸性移動を伴うターゲット(肺や肝臓など),非呼吸性移動を伴うターゲット(前立腺など)であり,3つの動体追尾モードが用意されている。
1. 動体追尾の仕組み (図3)
1回転最大6回のX線撮影で,ターゲットの三次元的な位置を把握,LEDマーカーの動きでターゲットを監視し,呼吸モデルが更新される。そして,図3(1),(2)を基に,相関モデルを作成,ターゲットの位置を予測し,この予測位置にJawとバイナリーマルチリーフコリメータ(MLC)がリアルタイムに同期してX線がコントロールされる。
2. Synchronyのターゲット精度
受け入れ試験(acceptance test procedure:ATP)として,motion tracking testsを実施,専用の解析ツールより,動体追尾のターゲット精度(RMS)1.5mm以内を確認,照射の中断,再開の確認を行っている。
3. Synchronyの線量精度検証
検証実験は,周期的に動く小さいターゲット(直径2 cm)に対して,標的体積(PTV)の95%に12Gy処方のヘリカル照射プランを作成し,線量分布は,「SRS MapCHECK 」(Sun Nuclear社製)で測定した。線量分布を図4,線量プロファイルを図5に示す。図4 aは静止状態,ターゲット動きなしの線量分布,図4 bは動きありでSynchronyなし,すなわち動体追尾しない場合の線量分布であるが,動きの方向に線量分布が間延びしている。図4 cはSynchronyあり,すなわち動体追尾した場合の線量分布であるが,動きなしの線量分布と一致しており,Synchronyの補正が有効に機能していることを示している。
Synchronyの臨床フロー(図6)
合同カンファレンスなどでSynchrony対象症例のピックアップを行い,対象症例に関しては,放射線治療科初診までに,診断用CTを利用してプレプランを作成,事前検討を行っている。そして,診察で治療方針が決定され,次に,計画用CTで撮影しプランを作成する。さらに,治療前にSynchronyのシミュレーションを行い,安全に治療が実施できるかを確認する。これで問題なければ,患者QAを経て治療が行われる。診察から治療までの待機期間は,当センターでは1週間程度としている。
Synchrony臨床例(図7)
2020年6月25日,日本初となるSynchronyの臨床1例目を経験した。1例目は肺のSBRTで,従来のinternal target volume(ITV)法と比較した場合,Synchronyを使用することで,ターゲットボリュームの縮小のほか,リスク臓器である肺線量や脊髄線量,肝臓の線量の低減が可能となった。1回の治療時間は約15分で,安全に治療が可能であった。2020年9月までに,本症例を含め肺4例,肝1例のSynchrony臨床を経験した。
おわりに
宝塚市立病院は,最新のRadixact 導入により,効率良く円滑に高精度放射線治療を実施している。そして,Synchronyのターゲット精度,線量精度は良好で,早期の臨床開始が可能であった。Radixact導入により,宣伝効果は大きく,集患も順調である。さらに,このSynchronyオプションの登場で,呼吸性移動対策で大きなアドバンテージとなることを期待している。
●参考文献
1)Schnarr, E., et al. : Feasibility of real-time motion management with helical tomotherapy. Med. phys., 45(4): 1329-1337, 2018.
2)Chen, G. P., et al. : Technical note ; Comprehensive performance tests of the first clinical real-time motion tracking and compensation system using MLC and jaws. Med. Phys., 2020(Epub ahead of print).
3)Ferris, William S., et al. : Evaluation of radixact motion synchrony for 3D respiratory motion ; Modeling accuracy and dosimetric fidelity. J. Appl. Clin. Med. Phys., 21(9): 96-106, 2020.
田中 正博 宝塚市立病院放射線治療センター
田ノ岡征雄 宝塚市立病院医療技術部放射線治療室
〒665-0827 兵庫県宝塚市小浜4丁目5-1
TEL 0797-87-1161
https://www.takarazukacity-hp.com
病床数:436床