2016-11-1
はじめに
転移性脳腫瘍は,放射線治療患者のうち無視できない割合を占める。原発巣だけでなく頭蓋内腫瘍を制御することでQOLの向上が見込まれ,生存率改善も期待される。高齢者や長期生存が見込まれる患者では,局所照射である定位照射が,侵襲度の低さや全脳照射による副作用を避けられる点で,より適した治療方法であろう1)。従来の治療方法では,脳転移症例の治療個数に比例して治療時間が長くなり,治療の効率をいかに上げるかが課題であった。
本稿では,静岡がんセンターがリニアック「Novalis Powered by TrueBeam STx」(バリアン社/ブレインラボ社製)の更新に合わせて導入したブレインラボ社の新しい放射線治療計画ソフトウエア“Multiple Brain Mets SRS(Brain Mets)”を紹介する。
Brain Metsの特長
Brain Metsは,複数の脳転移巣を効率良く治療することに特化している。脳腫瘍の輪郭を描出した後,放射線治療計画が自動的に作成され,放射線腫瘍医はその治療計画を評価することに集中できる(図1)。CT・MRIのイメージフュージョン,リスク臓器のセグメンテーションも自動化されている。
最大の特長は,単一のアイソセンターで治療計画を作成し,1つのアーク照射で複数のターゲットを同時に照射することにある(図2)。最適化は線量集中性の指標をベースになされ,正常組織の線量を最低限にする2)。1つの寝台角度につき往復2アーク,最大5つの寝台角度を設定できるため,合計で最大10アークとなる。最大治療個数は10個である。複数のターゲットが1つのMLCリーフペアの進行方向に並んでいる場合,リーフペアを大きく開口させターゲット間の正常組織を照射することはせず,必ず1つのリーフペアで1つのターゲットを照射し,反対方向,あるいは他方向からのアークでもう1つのターゲットを照射する仕組みである。
なお,Brain Metsの現バージョンでは,リスク臓器は最適化において考慮されず,MLCリーフ位置のマニュアル微調整はできない。また,処方線量やセットアップマージンなどのパラメータ設定方法,ファントムに治療計画を移し込むQAモード,治療計画の保存などの機能改善については,次のバージョンアップで予定されている。
臨床使用の実際
治療計画のワークフローが大変にシンプルで直感的であり,最適化・線量計算を含めて数分という短時間で治療計画を作成できる。
単一のアイソセンターでの治療となるため,ターゲットごとにアイソセンターを置いて患者位置合わせをする手間が省け,治療時間を大幅に短縮できる。これは,患者にとって最大のメリットである。病院側にとっても,治療計画時間・治療時間の短縮は,日々の忙しい診療現場において大変有益である。治療患者数の増加,患者待ち時間の短縮にもつながる。
Brain Metsの良い適応は,小さくかつ球に近い形の多発性の脳転移である。腫瘍が大きい,または,脳幹や視神経といったリスク臓器に近接している場合は,従来のマルチアイソセンター方式による定位照射やIMRTが適している。
アイソセンターから離れた転移巣に対してはオフセンターでの照射となるため,位置精度・線量精度面の検証作業は導入時に必須である。
まとめ
Brain Metsは,多発性脳転移の定位放射線治療における新しいコンセプトを提供する。脳転移の個数が1個であろうと10個であろうとBrain Metsによって治療を効率的に進めることができる。
金野 正裕(静岡県立静岡がんセンター放射線・陽子線治療センター)
●参考文献
1)Yamamoto, M., et al. : Stereotactic radiosurgery for patients with multiple brain metastases(JLGK0901); A multi-institutional prospective observational study. Lancet. Oncol., 15・4, 387〜395, 2014.
2)Torrens, M., et al. : Standardization of terminology in stereotactic radiosurgery ; Report from the Standardization Committee of the International Leksell Gamma Knife Society ; Special topic. J. Neurosurg., 121
(Suppl.), 2〜15, 2014.
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