札幌市東区のLSI札幌クリニック(山田有則院長)は、札幌市営地下鉄東豊線の北13条東駅から徒歩1分に位置し、PETやMRIなど高度医療機器を導入した画像診断センターとして紹介検査やがん検診・人間ドックなど二次予防医療を中心に提供する。同クリニックに、2022年8月、キヤノンメディカルシステムズのデジタルPET-CT「Cartesion Prime」が導入された。検診サービスでのPET-CTの運用と、Cartesion Prime導入をきっかけに構築されたDICOM RRDSR(Radiopharmaceutical Radiation Dose Structured Report)を用いた国際標準運用フローに基づく投与情報の電子化運用について、放射線科の原田智也技師長に取材した。
同クリニックの診療の7割を占めるのが、各種のがん検診や人間ドックなどの予防医療だ。がん検診や脳ドック、脳機能(認知症)ドックなど豊富なメニューをそろえ、ほかにも免疫細胞療法やもの忘れ外来など専門外来も開設する。画像診断機器は、1.5T MRI2台(1台は「Vantage Orian」)、CT1台などを整備。高度医療機器の共同利用として地域医療機関からの紹介検査にも対応する。核医学関連では、SPECT1台のほかCartesion PrimeなどPET-CT2台と頭部・乳房専用機も稼働する。PETの検査件数は1日平均16件。サイクロトロンとホットラボを設置して、院内でPET用放射性薬剤の製造を行い、FDGのほかにアルツハイマー型認知症の原因タンパクの検査が可能なアミロイド検査用の薬剤(フルテメタモール)の製造にも対応する。スタッフは医師が山田院長以下7名、診療放射線技師は原田技師長含め10名などとなっている。
Cartesion Primeは、2台目のPET-CTとして導入された。原田技師長は導入の経緯について、「1台目の装置が8年以上経過し、バックアップも考えて2台体制での運用を検討しました。当クリニックの検査の7割が人間ドックで、装置の不具合による検査のキャンセルは受診者への迷惑となるだけでなく、施設の信頼も失います。2台体制で検査枠の拡張や遅延撮像などを考慮した枠の設定など、柔軟な運用が可能になることも期待しました」と述べる。
選定では、半導体検出器の装置であること、撮像時間が短縮できること、快適な検査環境の提供と価格をトータルに検討した。原田技師長は、「検診がメインの当クリニックでは、検査のスループットの向上が大きなポイントでした。検査効率の向上だけでなく、検査時間の短縮は受診者にとってメリットになります。また、同時に受診者が快適に検査を受けられる装置であるかも考慮しました」と述べる。Cartesion Primeの半導体検出器は、体軸方向27cmの広い有効視野を持ち、280ピコ秒未満のTime of Flight(TOF)時間分解能で高画質化を図り、CT部分の80列CTと併せて高精度な検査を提供する。また、78cmのワイドボアやワイド天板、47.5cmまで下がる低床寝台などで、快適な検査空間を提供する。これらの高い性能と価格のバランスの良さからCartesion Primeが選定された。
Cartesion Primeでは1ベッドあたりの収集時間は約90秒で、体軸方向の広い有効視野も相まって、検査時間が平均7分半程度と大幅に短縮した。原田技師長は、「検査件数や検査枠は以前と変えていませんが、撮像時間が短くなったことで1件の検査に余裕を持って対応できるようになりました。画質についても、半導体検出器とTOFによって向上し、読影する医師からも高い評価を得ています」と述べる。Cartesion Primeではディープラーニングを用いて設計された画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)」が搭載されている。画質向上や被ばく低減効果が 期待できる本機能の適用により、従来に比べ約20%の線量低減につながっている。
また、Cartesion Primeでは低床寝台やフットスイッチなど、受診者に配慮した機能が搭載されている。原田技師長は、「低い位置まで寝台が下げられ、小柄な方や高齢の患者さんでも寝台の乗り降りが楽にできます。また、寝台の操作が可能なフットスイッチにより、両手を使って患者さんのポジショニングができます。こういった細やかな気配りは国産メーカーならではと感じました」と言う。
同クリニックでは、2023年5月から「IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)」の放射線被ばく監視統合プロファイルである「REM-NM(Radiation Exposure Monitoring for Nuclear Medicine)」による線量管理システムが稼働した。核医学検査では、患者に投与された放射性薬剤による被ばくを管理することが求められる。薬剤の投与量や時間などの情報管理は、静脈注射を担当するスタッフが手入力したり、投与機から出力された用紙の数値を再入力するなど、人為的な作業が介在することが課題だった。原田技師長は、「人による作業が発生すると、どうしても入力ミスなどのリスクが伴います。多くのものが電子化されペーパーレスが進む中で、正確な投与量による被ばく線量管理のためにも、検査運用を電子化したいと考えていました」と述べる。
医療情報システムの相互接続性を推進する国際的なプロジェクトであるIHEでは、医療被ばく線量管理システムのための国際標準運用フローとして放射線被ばく監視統合プロファイルが定められている。核医学部門を対象としたREM-NMでは、RRDSRを用いた装置やシステム間の運用フローが決められており、REM-NMに準拠した装置やシステムであれば、ネットワークを介して正確な情報の連携が可能になる。原田技師長は、「RRDSRに対応したCartesion Primeが導入されたことが、REM-NMでのシステム構築が動き出すきっかけとなりました。当院では、すでにREM-NMに対応した線量管理システムが導入されており、最終的にRRDSR出力できる投与機がそろったことで具体的に構築をスタートしました」と言う。2022年11月にキヤノンメディカルシステムズのほか、線量管理システム(RYUKYU ISG)、放射線情報システム(ジェイマックシステム)、PACS(富士フイルムメディカル)、投与機(住友重機械工業)のメーカー5社によるテスト運用を行った。原田技師長は、「装置間の接続はコネクタソンで確認されているものの、実際には挙動が違ったり、データが取得できなかったりと紆余曲折がありましたが、REM-NMの運用がついに実現できました。テスト実証でしたが、国内初の接続実証事例だと思います」と述べる。
■LSI札幌クリニックでのREM-NM*1運用概要図(IHE*2の国際標準運用フローに基づく)
線量管理システムの運用フローは、投与機はMWM(Modality Worklist Management)でRISから患者情報を取得し、投与情報と併せてRRDSRでPACSとSub-PACSに送信する。Cartesion Primeは、患者情報を基にSub-PACSから投与情報をRRDSRで取得して、検査後に画像をPACSに転送する(運用概念図参照)。稼働後の運用について原田技師長は、「手入力がなくなり入力ミスはゼロになりました。当院では、2か月に1回程度、PET-CT装置への情報入力の際に小数点位置の間違えや身長と体重を逆にしてしまうなどのミスがありました。これらのミスはSUVの値に直結するため、誤診につながる危険性を有しています。しかし、Cartesion Primeではコンソールボタンをクリックするだけで入力すべき情報を取り込むことが可能です」と述べる。
REM-NMによる電子化の取り組みは、国内ではまだ数施設にとどまっている。原田技師長は、「対応できるPET-CT装置はCartesion Primeのみであり、投与機やPACSなども、まだ対応していない製品があるのが現状です。今後、臨床現場のデジタル化が進むことは間違いないことですし、手入力を介するリスクを排除するためにも、国際標準に基づいた電子化の取り組みが広がっていくことを期待しています」と述べる。
国際標準にも対応するCartesion Primeが、安全で正確な核医学検査の環境の構築に貢献していくだろう。
(2023年5月25日オンラインにて取材)
*AiCE-iは画像再構成処理の設計段階でDeep Learningを用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見が含まれる場合があります。
一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名:PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000
LSI札幌クリニック
札幌市東区北13条東1丁目2-50
TEL 011-711-1331
https://www.lsi-sapporo.jp