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国産初のデジタルPET-CTを導入し高画質・高スループットの腫瘍検査を展開 〜80列CTとの組み合わせや最新の画

関西ろうさい病院

 

兵庫県尼崎市の関西ろうさい病院(林紀夫院長、病床数642床)は、阪神間の中核病院としてがん医療など高度医療の提供に力を注いでいる。同院の核医学診断科に、2021年6月、キヤノンメディカルシステムズのデジタルPET-CT「Cartesion Prime」が導入された。半導体光センサ(silicon photomultiplier:SiPM)の搭載による高い時間分解能と、ディープラーニングを応用した画像再構成技術“Advanced Intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”などでノイズ低減や検査時間の短縮を可能にする。同院におけるCartesion Primeの運用について、核医学診断科の河田修治部長、中央放射線部の崎谷英樹部長と雑賀基博主任に取材した。

核医学診断科・河田修治 部長

核医学診断科・
河田修治 部長

中央放射線部・崎谷英樹 部長

中央放射線部・
崎谷英樹 部長

雑賀基博 主任

雑賀基博 主任

 

高度医療を支える基幹病院としてがん医療などに注力

関西ろうさい病院は、尼崎市(人口46万人)を中心に阪神間における基幹病院の一つとして、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院などの指定を受け、救急医療を含めた高度医療を提供している。地域がん診療連携拠点病院には2007年に指定され、地域のがん医療の中心として手術、放射線治療、化学療法で質の高い医療を提供する。2013年には、最新の放射線治療装置を備えたがんセンターを整備するなど、最新の設備と体制でがん医療に当たっている。崎谷部長は、「労災病院として“勤労者医療”の役割もありますが、阪神間における地域医療を担う病院として“地域に生き、社会の要請に応える病院”として住民からの評価をいただいています」と語る。
放射線科は診断科と治療科があり、放射線診断科には医師6名、中央放射線部には46名(嘱託含む)の診療放射線技師が在籍する。モダリティとしてはCT4台(診断用3台、放射線治療計画用1台)、MRI3台(3T:2台、1.5T)などが稼働する。検査件数はCT3000件、MRI2000件(ともに月間)などとなっている。また、核医学診断科は、PET-CT1台とSPECT-CT、心臓専用SPECTを導入し、検査件数はPETが年間1058件、SPECT1163件(2020年度)となっている。河田部長は核医学診断科の診療について、「院内だけでなく地域の医療機関からの依頼検査も多いので、オーダをいただいた先生方にできるだけ早くレポートを返すように心掛けています」と述べる。

半導体検出器を搭載したデジタルPET-CTを導入

同院では2006年にPET-CTを導入、デリバリーFDG製剤を用いた腫瘍PET検査を行ってきた。今回はアナログPET-CT(他社製)からのリプレイスとなったが、河田部長は機種選定について、「技術の成熟したアナログPET-CTの選択も考えましたが、機種選定の過程でキヤノンメディカルシステムズからデジタルPET-CTが発売され、各社のラインアップがそろったことで、より高感度な撮像が期待できるデジタルPET-CTを選択しました。Cartesion Primeは先行する各社のデジタルPET-CTをキャッチアップしており、さらにコストパフォーマンスに優れていたことが選定のポイントになりました」と話す。
同院に導入されたCartesion Primeは、光センサに半導体(SiPM)を採用した国産初のデジタルPET-CTである。Cartesion Primeの半導体検出器は、シンチレータ面の100%カバレッジや、1対1カップリングによる効率的な信号収集によって、高時間分解能(280ピコ秒未満)を実現した。また、CTには80列の「Aquilion Prime SP/ i Edition」を組み合わせ、AiCE-iなどの最新の画像再構成技術を搭載することで、画像ノイズの低減ができ、より低被ばくで検査が可能となる。
選定の一つのポイントとなったのが検出器の有効視野だ。Cartesion Primeでは体軸方向の検出器幅が27cmとなっている。PET検査では全身の撮像を行う際にベッド(寝台)を移動させて撮像するが、検出器のカバーする範囲が大きいことで、撮像時間が短縮できる。実際に、従来は1回の検査で8〜9ベッドだったが、Cartesion Primeでは6ベッドでカバーでき、検査時間が効率化した。雑賀主任は、「1ベッドあたりの収集時間は2分と以前の機種から変更していませんが、Cartesion Primeでは有効視野が広く少ないベッド移動でカバーでき、検査全体のスループットが上がっていることを実感しています」と評価する。

27cmの有効視野やチラーレスで検査スループットが向上

Cartesion PrimeでのPET画像の評価について河田部長は、「デジタルPETでは空間分解能が向上しており、1TのMRIに匹敵すると感じています。PET-CTでは形態情報を持つCTとのフュージョン画像で読影しますが、解像度が上がったことでPETのみの画像で観察することが増えました」と述べる。
操作性について雑賀主任は、「他社製PET-CTからのリプレイスでしたが、診断用としてキヤノンメディカルシステムズのCTが稼働していましたので、操作にとまどうことはありませんでした」と言う。また、Cartesion Primeでは検出器の冷却に空冷を採用しチラー(冷却水循環装置)レスになっていることが特長だ。雑賀主任はチラーレスのメリットについて、「水冷では、チラーの故障で装置が熱暴走し検査ができないという経験をしました。Cartesion Primeでは空冷で故障の要素が少なく、メンテナンスなど管理面での不安が小さいので助かります」と述べる。また、雑賀主任は、Cartesion Primeでは寝台に延長天板を設置することで200cmまで検査できることを評価する。「頭頂部から足先まで全身の検査の際に200cmまでカバーできます。延長天板を設置したままで寝台が一番下まで下げられるので普段から付けたままで検査しています。脱着の必要がなく助かっています」とのことだ。
Cartesion Primeに搭載されているvariable Bed Time(vBT)機能では、関心部位ごとに1ベッドあたりの収集時間を変えて全身撮像が可能になる。体幹部は1ベッド3分、下肢は1ベッド1分などに設定でき、全身を効率的に撮像できる。河田部長は、「vBT機能を使うことで、全身撮像で足先の病変まで撮像したい時に、同じ収集時間で下肢までカバーできます」と述べる。

CaLMやAiCE技術などの画像再構成で高い検出能を生かす

同院では、PETの画像再構成にキヤノンメディカルシステムズの独自の再構成法である“Clear adaptive Lownoise Method(CaLM)”を採用した。CaLMは、Non Local Mean法をベースにしたノイズ低減画像再構成で、コントラストの劣化を抑えながら統計ノイズを低減することができる。河田部長は、「PETの画像再構成は解像度の向上やノイズの低減よりも、診断を間違えない、ミスリードしないことが重要です。CaLMでは、PSF(Point Spread Function)補正のON/OFFが可能で、ノイズを集積と思わせるような不自然な処理が少なくPET画像の評価が可能です」と述べる。
PET-CTのCTの画像再構成にはAiCE-iを採用した。AiCE-iは、キヤノンメディカルシステムズのCTやMRIにも搭載されているDeep Learning Reconstruction(DLR)である。2020年に改訂された診断参考レベル(DRLs 2020)では、PET-CTのCT撮影についても被ばく線量の指標が定められた。DRLs2020のPET-CTのCT撮影は全身(診療)でDLP=600mGy・cmだが、同院ではAEC(Auto Exposure Control)を使用しDLP=200mGy・cmと診断参考レベルよりも低線量で撮影している。雑賀主任は被ばく線量の低減とAiCE-iの適用について、「PET-CTのCT撮影はあくまで減弱補正が目的ですので、被ばく低減を第一に考えています。体格が大きい患者さんの場合、線量が不足してざらついた画像になることがありますが、AiCE-iを使うことでノイズが抑えられています。また、CT撮影ではVolume ECを使うことで部位によって最適な線量で撮影が可能です」と述べる。
Cartesion Primeでは、金属アーチファクト低減技術である“SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)”が利用できる。SEMARは、CT画像に対して義歯や人工関節などインプラントからの金属アーチファクトを低減する技術だが、PET-CTでの有用性について雑賀主任は、「PETの場合、FOVが700mmになりますが、Cartesion Primeでは拡大表示再構成によってCTについてもPET画像と同じ700mmでSEMARが適用できます。PETの減弱補正はCT画像で行いますが、アーチファクトがあると正確な補正が難しくなるので、FOV全体に適用できるメリットは大きいと感じています」と述べる。

図1 全身PET-CT画像(健常ボランティア) 半導体検出器を搭載したCartesion Prime(b)はTOF時間分解能が高く、見た目の分解と感度が向上し、アナログPET-CT(a)に比べて精細かつ均一性の高い画像が得られている。

図1 全身PET-CT画像(健常ボランティア)
半導体検出器を搭載したCartesion Prime(b)はTOF時間分解能が高く、見た目の分解と感度が向上し、アナログPET-CT(a)に比べて精細かつ均一性の高い画像が得られている。

 

脳神経や心臓領域のPET-CT検査の拡大に期待

現在、同院でのPET検査はFDGによる腫瘍検査が中心だが、今後は脳神経領域のアミロイドPETや心臓領域への拡大も期待される。アミロイドPETについては読影トレーニング・講習は修了ずみで、体制は整っていると河田部長は言う。
「Cartesion Primeの体軸方向の有効視野の広さは頭部撮像の際にも有効ですので、画質の良さと併せて期待しています」
がん医療のみならず幅広い診療分野で地域の高度医療を担う同院の診療にデジタルPET-CTが貢献する。

(2021年8月31日オンラインにて取材)

 

関西ろうさい病院

独立行政法人 労働者健康安全機構
関西ろうさい病院
兵庫県尼崎市稲葉荘3-1-69
TEL 06-6416-1221
https://www.kansaih.johas.go.jp

 

 モダリティEXPO

 

一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名:PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000

※AiCE-iは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

 

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