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2022年10月号

がん放射線治療の今を知る!~最前線の現場から No.2

東京慈恵会医科大学附属病院の事例(1)「Radixact」導入とその効果

藤井  武(東京慈恵会医科大学附属病院放射線部)

当院放射線治療部の紹介

東京慈恵会医科大学は,東京都港区に附属病院(当院),葛飾区に葛飾医療センター,狛江市に附属第三病院,千葉県柏市に附属柏病院の4つの附属病院を有しており,それぞれがリニアックを有し,放射線治療を行っている。当院の放射線治療部は,常勤医師5名,非常勤医師1名,診療放射線技師10名(専従・兼務含む,うち医学物理士1名),看護師4名(専従2名),事務員1名で運営している。
当院は,2020年1月に外来棟を新規竣工し,放射線治療部も外来棟の地下に移設された。移設と同時にTomo Therapyの最新プラットフォームである「Radixact」(アキュレイ社製)を導入し,2020年3月から稼働している(図1)。Radixact稼働に当たり,治療計画システム「Precision」(アキュレイ社製),「RayStation」(レイサーチ社製)も併せて導入した。治療計画システムによる臓器のオートセグメンテーションや非剛体レジストレーション(deformable image registration)などを利用することで,治療計画業務のさらなる効率化が図られた。
2021年度のRadixactの治療実績は,治療患者184名,うち体幹部定位放射線治療(SBRT)は4名であった。治療部位別では,頭部・頭頸部が120名(65%)と半数以上を占めており,次いで前立腺が44名(24%)となっている。

図1 当院のRadixact

図1 当院のRadixact

 

Radixact導入に至るまで

前述のとおり,2020年1月に新外来棟がオープンし,同年3月にRadixactによる1例目の治療を開始した。治療開始まで2か月弱の期間でアクセプタンスからビームコミッショニング,治療計画業務や照射業務の習得などを行わなければならず,非常にタイトなスケジュールであった。しかし,測定するビームデータなどはゴールドスタンダードデータを基準としており,品質保証(QA)/品質管理(QC)に必要な環境やプログラムが確立されていた。そのため,導入に際してビーム再測定などを行うこともなく,事前に定めたスケジュール内ですべてを終えることができた(図2〜4)。

図2 深部量百分率(percent depth dose:PDD) 実測値はゴールドスタンダードデータと一致している。

図2 深部量百分率(percent depth dose:PDD)
実測値はゴールドスタンダードデータと一致している。

 

図3 体軸方向プロファイル 実測値はゴールドスタンダードデータと一致している。

図3 体軸方向プロファイル
実測値はゴールドスタンダードデータと一致している。

 

図4 スターショット照射

図4 スターショット照射

 

これまでの治療機器との相違点

Radixactは,頭尾方向に135cmの治療範囲をカバーできるヘリカル照射が可能であり,汎用型リニアックでは2,3分割で行っていた全脳全脊髄照射も1回の照射で治療が可能となった。さらに,上下照射野のオーバーラップを気にすることなく治療できるため,上下照射野のつなぎ目変更のための作業時間などが不要となり,患者の負担が少ない治療を提供できるようになった。
画像誘導放射線治療(IGRT)においては,3.5MVのX線を用いたmegavoltage CT(MVCT)を撮影し,X,Y,Z方向の3軸に加えて,ビーム回転角度補正によるroll方向の補正を加えた4軸IGRTが可能となっている。また,治療カウチの調整は0.1mm,roll方向は0.1°単位で行え,より高精度な治療が可能となった。
患者セットアップは,治療計画時に設定されたレーザーポインタを体表面マーキングに合わせるだけで完了する。セットアップは非常に容易で,行程がシンプルであり,新たに放射線治療に参画するスタッフでも汎用型リニアックよりも短期間で全体の業務を担うことが可能となった。

日常業務における品質管理について

毎日の始業点検については,約1時間かけてTQA(tomotherapy quality assurance)と絶対線量測定を実施している(図5,6)。TQAはMVCTの検出器を用いたQAツールであり,電離箱線量計を使用せず,検出器に入射されるビーム出力やエネルギー,横方向の照射野形状などを測定可能である。TQAナビゲーション画面で測定データの解析結果が一覧表示され,許容範囲からの逸脱を視覚的に把握しやすく,さらに,メーカーもリモート接続で測定結果を確認できるため,トラブル発生時の一助となっている。
すべての治療計画においてバイナリマルチリーフコリメータを用いた強度変調放射線治療(IMRT)を行っており,治療計画ごとに絶対線量検証と三次元検出器による線量分布検証を実施している。TomoPhantomを用いた絶対線量測定では,電離箱線量計を複数個所に挿入でき(図7),標的とリスク臓器の絶対線量を1回の照射で測定可能となり,測定の効率化が図られている。

図5 TQA画面 TQAのメイン画面では,実施内容がカレンダー上で表示される。

図5 TQA画面
TQAのメイン画面では,実施内容がカレンダー上で表示される。

 

図6 Daily QA結果 解析結果は合否判定だけでなく,許容範囲のどこに位置しているかも明示している。

図6 Daily QA結果
解析結果は合否判定だけでなく,許容範囲のどこに位置しているかも明示している。

 

図7 患者QA絶対線量測定 360°回転するTomoPhantomを用いることで,治療計画に沿った測定が可能。

図7 患者QA絶対線量測定
360°回転するTomoPhantomを用いることで,治療計画に沿った測定が可能。

 

導入後に感じられた効果,業務効率化について

Radixact導入当初は,装置の特殊性や全症例でIGRTが必須となるなど,業務効率化にあまり寄与しないのではと考えていた。しかし,前述のとおり,全身のいずれの部位においてもレーザーポインタを体表面マーキングに合わせるだけで治療が可能であり,放射線治療の経験の浅いスタッフでも容易に患者セットアップが可能となり,多くのスタッフが短期間でRadixact治療に参画できている。また,Precisionによる治療計画は,jawコリメータの開度やヘリカルピッチ,線量制約などを入力すれば最適化計算が実行され,一定の反復計算の後,最終計算も行われるため,治療計画の簡略化や時間短縮などが可能となった。

おわりに

Radixact導入から2年が過ぎた。当院は今後も,IMRTや定位照射などの高精度放射線治療の担い手として,照射時間の短縮などさらなる業務の効率化に努めていく。また,幸いなことに当院近隣の放射線治療施設においても,Radixactが同時期に稼働している。Radixactに関する情報を共有し,近隣施設とともに治療技術向上に取り組んでいきたい。

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