医療放射線防護連絡協議会 
第25回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催
テーマは「原子力災害から学ぶ新たな医療放射線防護」

2014-12-16

放射線防護

医療被ばく

福島原発事故


会場風景

会場風景

医療放射線防護連絡協議会(佐々木康人会長)は,2014年12月12日(金)に国際交流研究会館国際会議場(国立がん研究センター内:東京都中央区)において,第25回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。医療放射線防護連絡協議会は,1990年から年次大会として, CTの原理となる回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在である高橋信次氏(1912~85年)の名前を冠した講演会を毎年12月第2金曜日に開催している。2010年からは,高橋氏に師事し,放射線防護において国内外で大きな業績を残した同協議会前会長の古賀佑彦氏(1935〜2010年)の名前を冠したシンポジウムも併催している。
今回は,「原子力災害から学ぶ新たな医療放射線防護」をテーマに,教育講演1題と高橋信次記念講演1題,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,最後に参加者を交えた総合討論が行われた。

はじめに,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏が開会の挨拶に立ち,2014年度の事業報告や来年度の活動内容の紹介を行い,「医療放射線防護倫理」という新たな概念の必要性を説いた。

菊地 透 氏(医療放射線防護連絡協議会)

菊地 透 氏
(医療放射線防護連絡
協議会)

   

 

教育講演では,細井義夫氏(東北大学)が座長を務め,柏倉幾郎氏(弘前大学理事・副学長)が「弘前大学における被ばく医療への取組と放射線教育」と題して講演した。弘前大学は,前学長が中心となって東日本大震災前から高度な緊急被ばく医療体制の構築と人材育成に取り組んできた。柏倉氏は,東日本大震災以前,震災時の対応,震災以後に分けて,その取り組みと成果を紹介した。

座長:細井義夫 氏(東北大学)

座長:細井義夫 氏
(東北大学)

柏倉幾郎 氏(弘前大学)

柏倉幾郎 氏
(弘前大学)

 

 

続いて行われた高橋信次記念講演では,大野和子氏(京都医療科学大学)が座長を務め,Jacques Lochard氏(ICRP主委員会副委員長)が「The ICRP Radiological Protection System and the Human Dimension─Some Reflections from Chernobyl and Fukushima(新たなICRPの放射線防護システムに向けた心理的影響と社会的影響の課題─チェルノブイリと福島原発事故の教訓から)」と題して講演を行った。
Lochard 氏は,チェルノブイリや福島の原発事故から学んだこととして,ICRPの理念でもある「道徳的倫理意識」というテーマを強調して講演した。講演は,(1) ICRPの体系や歴史的変遷,(2)個々の放射線防護,復旧体制(ICRP Pub. 111勧告の解説),(3)福島から学んだことの3部構成で進められた。ICRP体系は,科学的知見に基づき,便益を損なうことなき電離放射線防護や,放射線被ばくを管理・制御し,確定的影響を防止して確率的影響のリスクを減少させることなどを目的としている。2007年に公表されたICRP Publ. 103勧告では,初めて公式にstakeholders(利害関係者)の参画が盛り込まれた(www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf )。さらに,チェルノブイリ原発事故から20年以上経過した2009年に公表されたICRP Publ.111には初めて,長期汚染地域に居住する人々の防護が勧告され,一般市民による自助防護措置が重要とされた(itosan.s365.xrea.com/20110420-192047ICRP.pdf )。緊急時被ばくは20〜100mSv/年,現在被ばくは 1〜20mSv/年,長期の計画被ばくは1mSv/年未満におさめるという基準が勧告されているが,将来的には個々人の線量限度とICRP Publ.103で示された新しい個別の線量限度の相互関連を確立していくことが課題であるとした。最後に,尊厳(dignity)をキーワードに人々の自助的防護行動や知識の共有,stakeholderの関与が重要とし,新たな放射線防護文化への進化に福島は大きな役割を果たすと述べた。

座長:大野和子 氏(京都医療科学大学)

座長:大野和子 氏
(京都医療科学大学)

Jacques Lochard 氏(ICRP主委員会副委員長)

Jacques Lochard 氏
(ICRP主委員会副委員長)

 

 

午後は,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「原子力災害から学ぶ新たな医療放射線防護」をテーマに4名のシンポジストが講演を行った。座長は,菊地氏が務めた。
最初に,立崎英夫氏(放射線医学総合研究所)が,「原発災害後の医療関係者への放射線教育の充実に向けて」をテーマに講演した。立崎氏は,原発事故を契機に放医研の被ばく医療研修会などで受講生が被ばく事故に対して真摯に向き合うようになったことを評価しつつ,医療従事者全体の基礎知識の向上や,被ばくに対する関心の希薄化,また,行政による制度的サポートといった課題を解決しなければならないと述べた。
次に,大津留 晶氏(福島医科大学)が,「福島における医師・医学生への放射線災害医療教育の試み」と題して講演を行った。大津留氏は原発事故下の福島県において現地の声や不安を理解・解消するために,放射線被ばくに関連したメンタルヘルスに焦点を当てた福島県立医科大学でのカリキュラムを紹介し,科学的事実を被災者自らが実感として理解し,多くの情報から正しい情報を選択し,不要な心理的重圧から解放され新たな行動に踏み出せるよう支持できる医療者を育成することが大切だとした。
小西恵美子氏(長野県看護大学名誉教授)は,「保健師と看護学生に対する放射線防護の教育」をテーマに講演した。小西氏は,原発事故直後から放射線防護と公衆衛生看護の研究者・実践者の協働プロジェクトでこのテーマについて取り組んできており,原発事故を通して保健師,看護師に放射線教育のニーズが高くなったとして,既存科目へ放射線教育を組み込んでいくことが重要であると述べた。
シンポジウムの最後は,伴 信彦氏(東京医療保健大学)が「医療被ばくに関するアカウンタビリティ」と題して講演を行った。伴氏は先進国のエビデンスや福島における放射線被ばくのリスク・コミュニケーションから,患者への説明責任は線量やリスクの知識を伝えるだけでは完了せず,患者自身が自らの健康問題に対して自分でコントロールできるように支援していくことが大切だと述べた。
最後に,演者・シンポジストが登壇し,大野氏による進行の下,「原子力災害から学ぶ医療放射線防護の課題」をテーマに総合討論が行われた。討論の前には,中村仁信氏(彩都友紘会病院)が,「医療放射線の発がんリスク」と題して指定発言を行った。中村氏は,マサチューセッツとカナダで実施された胸部X線検査による発がんリスクの長期的追跡調査の報告から,“しきい値”の存在,ホルミシス効果が生じている可能性を示唆した。総合討論では,参加者を交え,教育やこれからの課題などについて活発な議論が交わされた。

立崎英夫 氏(放射線医学総合研究所)

立崎英夫 氏
(放射線医学総合研究所)

大津留 晶 氏(福島医科大学)

大津留 晶 氏
(福島医科大学)

小西恵美子 氏(長野県看護大学)

小西恵美子 氏
(長野県看護大学)

     
伴 信彦 氏(東京医療保健大学)

伴 信彦 氏
(東京医療保健大学)

中村仁信 氏(彩都友紘会病院)

中村仁信 氏
(彩都友紘会病院)

 

 

なお,平成27年2月27日(金)にはタワーホール船堀(東京都江戸川区)にて「医療関係者への放射線防護教育の課題」をテーマに,第36回「医療放射線の安全利用」フォーラムが開催される予定である。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・水・金のみ)
FAX 03-5978-6434
Email jarpm@chive.ocn.ne.jp
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html

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