医療放射線防護連絡協議会
第24回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催
テーマは「放射線被ばくと医療安全ー原発事故の課題からー」
2013-12-17
会場風景
医療放射線防護連絡協議会は,2013年12月13日(金)に国際交流研究会館国際会議場(国立がん研究センター内:東京都中央区)において,第24回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。医療放射線防護連絡協議会は,1990年から年次大会として,CTの原理となるX線回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在である高橋信次氏(1912~85年)の名前を冠した講演会を毎年12月第2金曜日に開催している。2010年からは,高橋氏に師事し,放射線防護において国内外で大きな業績を残した同協議会前会長の古賀佑彦氏の名前を冠したシンポジウムを併催している。
今回は,「放射線被ばくと医療安全ー原発事故の課題からー」をテーマに,教育講演1題と高橋信次記念講演1題,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,最後に参加者を交えた総合討論が行われた。会場には,放射線安全に関わる医療関係者を中心に約100名の参加者が集まった。
初めに,医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏が開会の挨拶に立ち,2013年度の事業報告や来年度の活動内容の紹介を行った。
教育講演では,三浦雅彦氏(東京医科歯科大学)が座長を務め,鈴木 元氏(国際医療福祉大学)が「低線量・低線量率被曝を考える」と題して講演した。鈴木氏は,福島原発事故後の対応で放射線防護政策に対する不信感が国民に植え付けられてしまったことで,対策の正当化や,メリットとデメリットの評価による対策の適正化といった科学的議論が冷静に行えなくなっている現状を指摘。講演では,特に極低線量率の遷延被ばくについての研究・調査を整理して解説し,低線量・低線量率被ばくリスクを考察した。現時点ではリスクモデルのコンセンサスがない低線量・低線量率被ばくでは,過大評価になると考えられるものの,LSS(原爆被爆生存者の寿命調査)のリスク係数を用いてLNTモデルで低線量被ばくを演繹する手法が,介入の正当化における保守的なリスク評価には使用できるとして,住民への説明では,これを用いてリスクの値ごろ感を平易に伝えることがポイントであると述べた。そして,今後の課題として,素線量を意識した基礎研究の充実を提言した。
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続いて行われた高橋信次記念講演では,佐々木氏が座長を務め,長瀧重信氏(長崎大学名誉教授,放射線影響協会理事長,元放射線影響研究所理事長)が「医療・放射線影響から見た原子力災害における医療分野の役割」と題して講演を行った。長瀧氏は,チェルノブイリ原発事故の調査結果など,これまで蓄積されてきたデータから,個人の被ばく線量から推定される健康影響について解説。そして,福島原発事故後の住民を対象にした初期(約1年)の個人被ばく線量に関する報告から,福島原発事故での放射線が健康被害の原因になっておらず,将来も健康影響は起こらないと考えられることを説明した。そして,それを踏まえた上での今後の健康管理のあり方や,避難指示区域への帰還に向けた課題などについて述べた。
午後は,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「放射線被ばくとリスクコミュニケーション」をテーマに4名のシンポジストが講演を行った。座長は,菊地 透氏(協議会総務理事,自治医科大学)が務めた。
最初に,桐生康生氏(環境省環境保健部放射線健康管理担当参事官)が登壇し,「福島第一原発事故に伴う住民の放射線被ばくの現状」をテーマに発表した。環境省の放射線健康管理担当参事官室は,2012年9月の原子力規制委員会発足と同時に設置されたもので,住民の被ばく状況の把握を主要な業務のひとつとしている。桐生氏は,事故後の住民の内部被ばくや外部被ばくの状況について報告するとともに,線量把握・評価,健康管理,医療に関する施策のあり方などを専門的な観点から検討するために,「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が新しく設置されたことを報告し,今後,住民の被ばく状況の検討・評価が行われていくと述べた。
次に,星 北斗氏(星総合病院)が,「福島県民健康管理調査についてー甲状腺検査を中心に」と題して講演を行った。星氏は,県医師会の代表として企画段階から県が主催する県民健康管理調査検討会に参画し,座長を務めている。事故後直後の混乱で,国民に根付いてしまった放射線への不安や国に対する不信感により,運営が困難を極めた検討会の状況を振り返りつつ,県民健康管理調査や18歳未満を対象にした甲状腺検査の経緯や概要,11月に初会合を行った甲状腺検査評価部会について説明した。また,医療者への放射線教育の重要性を述べるとともに,リスクコミュニケーションの観点からも,放射線や健康影響に関する誤解の発生についての議論を行う必要があると述べた。
3題目に,大森純子氏(聖路加看護大学)が登壇し,「リススコミュニケーションの向こう側ー放射線防護からはじまる健康文化の形成ー」をテーマに発表した。大森氏は,事故後,時間の経過とともに,子どもの外遊びや食事の制限による発達上のリスクや,不安の抱え込みによる孤立状況,家族関係の崩壊危機,またそれらと連動する社会的な不穏状態や不安に起因する心身症状といった,心理社会的な問題が表出してきていると指摘。その中で,地域の健康文化,特に原発周辺自治体では放射線防護文化を,住民とともに形成する保健師の役割について,看護におけるコミュニケーションの基礎を交えて解説した。
最後に,大野和子氏(京都医療科学大学)が「医療被ばくとリスクコミュニケーション」と題して講演を行った。大野氏はまず,患者との信頼関係に基づき「リスクを超えて利益を保証する」という医療行為のリクスコミュニケーションの基本を再確認した上で,患者被ばく管理と従事者被ばく管理について解説した。そして,医療被ばくにおける患者不安の特徴と対応のポイントを説明し,放射線診療の臨床上の必要性を患者に理解・納得してもらうことの重要性を強調した。
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最後に,演者・シンポジストが登壇し,菊地氏による進行のもと,「原発事故の課題を医療放射線安全に生かすには」をテーマに総合討論が行われた。討論の前には,中村仁信氏(彩都友紘会病院)が,「リスクコミュニケーションが上手くいかない理由」と題して指定発言を行った。中村氏は,放射線に対する固定された先入観やゼロリスク志向,また一般には理解が難しいことにより,放射線に関してはリスクコミュニケーションが容易ではない実情を述べ,低線量率放射線被ばくによる放射線ホルミシスについて紹介した。総合討論では,さまざまな質問や意見が交わされ,福島県内で医療活動に従事している参加者からは,現在の住民の心情やこれからの課題などについても報告された。
●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・水・金のみ)
FAX 03-5978-6434
Email jarpm@chive.ocn.ne.jp
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html
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