AMED,世界初のプロジェクションマッピング技術を応用した手術ガイドシステム「-Medical Imaging Projection System -MIPS(ミップス)」開発
~産官学連携開発プロジェクトが遂に実用化へ~
2020-2-4
図1 今回開発した手術ガイドシステム
三鷹光器(株)・京都大学医学部附属病院・パナソニック(株)は,2015年度から2017年度に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療分野研究成果展開事業産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)の支援を受け,従来エンターテインメントの場でのみ普及されていたプロジェクションマッピング※注1の技術を応用し,医療現場で課題になっていた臓器が動いたり変形したりしてもリアルタイムに追従し手術ガイドを行う,世界初の支援システム「Medical ImagingProjection System:MIPS(ミップス)」を開発した(図1)。
MIPSは医薬品医療機器等法に基づき,2019年11月20日に「一般名称:ICG蛍光観察装置」としてクラスⅡ医療機器※注2 の製造販売承認を取得した。(承認番号:30100BZX00214000)
●開発の背景
以前より術前に取得したCT・MRIなどの体組織情報を基に,病巣の位置確認などのシミュレーションや術中ナビゲーションを行う機器は開発されてきたが,術中の体組織変形などによる位置ズレに対して課題があり,リアルタイムな手術ガイドは困難であった。
近年,インドシアニングリーン(ICG)※注3 という蛍光薬剤を使用した蛍光ガイド手術により血管及び組織の血流評価,乳がんや悪性黒色腫※注4 におけるセンチネルリンパ節※注5 の位置の同定を簡便かつ低侵襲に行うことができ,外科領域において臨床応用が広まっている。
肝臓外科分野においては肝がん患者の肝区域切除術を行う際にがんが存在する肝区域の血流を遮断し,その後 ICGを血中に注入することで,切除するべき肝区域と温存する組織の切離ラインを赤外線カメラで描出することが可能。また,乳腺外科分野においても,がん細胞の転移を検査するためのセンチネルリンパ節生検を行う際に,肉眼では判別することが困難なリンパ節の探索に広くICG蛍光ガイド手術が用いられている。
しかし,現在の手術法における最大の欠点は,外科医(術者)が近赤外蛍光画像を術野ではなく,外部のモニター画面上でしか確認できないことであり,頻繁に術野から目を離しモニターを確認する必要があるため,術中ガイド機器として正確性と操作性に課題があった(図2)(図3)。
●開発成果
プロジェクションマッピング技術を用いて近赤外蛍光観察で得た体組織の血流情報等を直接臓器に投影することにより,術者は患部に集中することができ,また,プロジェクションマッピングによる今までにない直観的なリアルタイムガイドと,状況に応じて自在に装置を的確に患部に向けることが出来るアームシステムを使用することにより,課題解決を図った(図2,図3,図5)。
これまでの課題を解決するべく蛍光観察カメラとマッピング用のプロジェクターを同軸光路上に配置することで,患部観察情報と投影映像にズレ(±2㎜以下)が生じない仕組みを開発し,臓器の移動や体組織の変形にリアルタイム(0.2秒以内)に追従し,直視下での手術継続を実現可能にした(図1,図2,図4,図5,図6)。
これらの効果によって手術の安全性の向上が期待できるだけでなく,手術時間の短縮や出血量の減少,臓器機能の温存など手術の負担を減らすことができ,これにより術後の回復もスピードアップが期待され,がんの予後改善,QOL向上,健康寿命の延長に貢献できると期待されている。
プロジェクションマッピングを応用したリアルタイム手術ガイドシステムはこれまでに無く,-Medical Imaging Projection System-「MIPS(ミップス)」は世界初の革新的な装置になった。
●波及効果,今後の予定
近年,ICGなどの蛍光ガイド技術は国内外の学会・研究会で多くの注目を集めており,学術論文の掲載数も急激に伸びている。その中でも日本はこの分野においての先進国であり,海外展開においてアドバンテージを有している。更に日本国内では ICGの保険適用の範囲について,従来「肝機能検査,循環機能検査,乳癌・悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の同定」という効果・効能であったものが,2018年に「血管及び組織の血流評価」まで保険適用が拡大されたため,ICG蛍光法を用いた蛍光ガイド手術法は今後さまざまな診療科において応用が期待されており,より安全で正確な手術の支援による手術時間の短縮・出血量の減少により,がんの予後改善,QOL向上への貢献が期待されている。世界初のプロジェクションマッピングを応用したリアルタイム手術ガイドシステムは大きな可能性を秘めており,今後の発展が期待されている。先ずは日本国内で実績を集め,順次海外展開を計画している。
●本研究へのAMED支援
本研究開発は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療分野研究成果展開事業産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)「プロジェクションマッピングによる近赤外画像の可視化とリアルタイムナビゲーションによる手術システムの開発」(研究開発期間:2015年10月-2018年3月)の支援を受けた。
※用語解説
注1)プロジェクションマッピング
プロジェクションマッピング(projection mapping)とは建築物や立体物の表面を正確に計測し,その対象面にピッタリと重なるように調整した映像やコンピューターグラフィックスをプロジェクターなどで投影し貼り合わせる技術であり,イベントや広告,エンターテインメントの場で利用されている。
注2)クラスⅡ医療機器
医療機器のクラス分類は,日本の一般的名称(JMDN,Japanese Medical Device Nomenclature)とGHTF(The Global Harmonization Task Force)のクラス分類ルールにより,人体に与えるリスクの程度により4段階に分かれている。不具合が生じた場合でも,人体へのリスクが極めて低いと考えられるメスやハサミなどはクラスⅠ医療機器に分類され,埋め込み型の人工心臓など患者への侵襲性が高く,不具合が生じた場合,生命の危険に直結する恐れがあるものはクラスⅣ医療機器に分類される。クラスⅡ医療機器には MRIや超音波診断装置などが分類されており,MIPSは製造販売するために安全性・信頼性の審査を受け,クラスⅡ医療機器として厚生労働大臣の承認を受けた。
注3)インドシアニングリーン(ICG)
50年近く前から肝機能検査薬として使用されており,静脈注射で投与されたICGの時間経過に伴う血中濃度の変化を測定することで,肝臓の色素排泄機能を検査する目的で一般的に広く使用されてきた。近年では血中,体組織中に投薬されることによりタンパク質と結合し,780nmの近赤外光を照射すると830nmの蛍光発光を示す性質を利用し,特殊な赤外線カメラで撮影すると830nmの蛍光を白黒映像として捉えることが可能であり,血流の確認,体組織の血流評価,リンパ節の探索などに使用されている(図7)。
注4)悪性黒色腫
皮膚がんの一種でメラノーマとも呼ばれる。メラニンを産生する細胞やほくろの細胞が悪性化した腫瘍と考えられているが,詳しい発生原因は不明。
注5)センチネルリンパ節
センチネルリンパ節とは,乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリンパ節と定義される。このセンチネルリンパ節を発見,摘出し,更にがん細胞があるかどうか(転移の有無)を顕微鏡で調べる一連の検査をセンチネルリンパ節生検と呼ぶ。
●製品に関する問い合わせ先
三鷹光器(株)
担当:中村 勝之(なかむら かつゆき)取締役 先端医療機器開発室長
TEL:0422-49-1491 FAX:0422-49-1117
E-mail:m_salse"AT"mitakakohki.co.jp
●報道に関する問い合わせ先
京都大学総務部広報課 国際広報室
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:comms"AT"mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
●AMED事業に関する問い合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
産学連携部産学連携課
TEL:03-6870-2214 FAX:03-6870-2242
E-mail:sangaku-i"AT"amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変更。