オンライン資格確認の今後の展望とマイナンバーカードと健康保険証の一体化の取り組みについて
中園 和貴(厚生労働省 保険局 医療介護連携政策課 保険データ企画室長)
2023-3-22
オンライン資格確認の概要と今後の展望
オンライン資格確認等システムは,マイナンバーカードのICチップに保存された電子証明書を用いて,社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会に設けたデータベースにアクセスし,保険資格の確認を行うとともに,患者の同意の下,健康・医療情報の提供を受ける仕組みである。医療機関・薬局の窓口などに専用の顔認証付きカードリーダーを設置し,マイナンバーカードの顔写真データと窓口で撮影した本人の顔写真とを照合し本人確認を行うとともに,健康・医療情報の提供に関する患者の同意を取得する。
オンライン資格確認には,主なメリットが2つある。1つは,期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求・返戻対応や手入力による手間などの事務コストを削減できること,もう1つはマイナンバーカードを用いて確かな本人確認を行うことにより,患者の同意の下,医療機関・薬局で特定健診結果やレセプトベースでの薬剤情報・診療情報の健康・医療情報を閲覧できるようになり,より多くの種類の正確な情報に基づいた,より良い医療を受けられる環境が整備されることである。
また,オンライン資格確認は災害時でも有効に活用することができる。通常,医療情報などの閲覧にはマイナンバーカードによる本人確認が必要であるが,災害時には,患者の同意の下,氏名・性別・生年月日・住所の4情報などによる本人確認で閲覧を可能とする機能も備えている。災害時において,普段かかっていない医師などの診療を受ける際にも,日常で飲んでいた薬の情報を正確に伝える・知ることができれば,より良い医療の提供につながるものと考えている。
オンライン資格確認には,(1) 全国の医療機関・薬局がネットワークにより安全かつ常時接続されていること,(2) 医療情報を個人ごとに把握し,本人の情報を確実に提供することが可能であること,(3) 患者の同意を確実にかつ電子的に得ることが可能であることなどの機能があり,厚生労働省としては,このような機能を基に,データヘルスの基盤として,閲覧・活用できる情報をさらに拡大していくこととしている。2023(令和5)年1月からは電子処方箋の運用が開始され,薬剤情報のリアルタイム連携が可能となり,重複投薬の回避などの効果がより高まることとなった。また,2023(令和5)年5月からは閲覧できる診療情報に手術情報も追加される予定である。さらに,2022(令和4)年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え,持続可能な経済を実現~(骨太方針2022)」においては,「全国医療情報プラットフォームの創設」が盛り込まれている。今後,オンライン資格確認等システムのネットワークを発展的に拡充し,レセプト・特定健診等情報に加え,電子処方箋情報,予防接種情報,自治体検診情報,電子カルテなどの医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームの構築をめざすこととしている。
オンライン資格確認の推進
2022(令和4)年6月の骨太方針2022では,オンライン資格確認について,保険医療機関・薬局において,2023(令和5)年4月からの導入を原則として義務づけることなども政府の方針として示された。これを踏まえ,同年8月10日の中央社会保険医療協議会(中医協)において,(1) オンライン資格確認の導入の原則義務化(療養担当規則などの改正),(2) 医療機関・薬局向け補助の拡充,(3) 診療報酬上の加算の取り扱いの見直しが答申などにより示された。また,答申の附帯意見においては,「関係者それぞれが令和5年4月からのオンライン資格確認の導入の原則義務化に向けて取組を加速させること。その上で,令和4年末頃の導入の状況について点検を行い,地域医療に支障を生じる等,やむを得ない場合の必要な対応について,その期限も含め,検討を行うこと」とされた。
8月10日の中医協答申附帯意見を踏まえ,同年12月23日の中医協においては,やむを得ない事情がある保険医療機関・薬局は,期限付きの経過措置を設けることなどの答申が示された。
経過措置の対象は,(1) 2023(令和5)年2月末までにシステム事業者と契約締結したが,導入に必要なシステム整備が未完了の場合,(2) オンライン資格確認に接続可能な光回線のネットワーク環境が整備されていない場合,(3) 訪問診療のみを実施している場合,(4) 改築工事中・臨時施設の場合,(5) 廃止・休止に関する計画を定めている場合,(6) その他特に困難な事情がある場合が挙げられ,それぞれの類型ごとに期限が定められるとともに,導入支援のための財政措置の期限も延長することとなった。
12月23日の中医協答申においても,「本経過措置は真にやむを得ない事情に限定して対象を明確化し,最小限に留めるものであるという前提の下,延長を行わないこと」などの附帯意見が付されている。これを踏まえ,厚生労働省としては,引き続きオンライン資格確認の導入を推進していく。
マイナンバーカードと健康保険証の一体化の取り組み
マイナンバーカード1枚で受診していただくことで,患者において,健康・医療に関する多くのデータに基づいた,より良い医療を受けていただくことが可能となることから,マイナンバーカードと健康保険証の一体化を進め,2024(令和6)年秋に保険証の廃止をめざすこととしている。保険証の廃止に向けては,細部にわたりきめ細かく環境を整備する必要があり,医療を受ける国民,医療を提供する医療機関関係者などの理解を得られるよう,ていねいに取り組む必要がある。また,何らかの事情により手元にマイナンバーカードがない方が必要な保険診療などを受ける際の手続きについても検討が必要である。現在,デジタル庁に設置された「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」やその下に設けられた「専門家ワーキンググループ」において検討を進めている。
また,保険資格情報を確認するために健康保険証を利用しているが,現時点においてマイナンバーカードによるオンライン資格確認に対応していない場面・業態においても,今後オンライン資格確認が可能となるよう,その用途を拡大する必要がある。具体的には,(1) 訪問診療・訪問服薬指導・訪問看護・オンライン診療といった居宅でのオンライン資格確認の対応や,(2) 柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の施術所などにおいて資格情報のみを確認できる簡素な仕組みの構築が挙げられる。
訪問診療などにおいては,初回訪問(契約)時に医療関係者が持参したモバイル端末などを用いて,通常のインターネット回線により専用の「Webサービス(ポータルサイト)」にアクセスし,資格確認を行うとともに薬剤情報などの提供に関する患者の同意取得を実施することとしている。2回目以降の訪問においては,医療関係者が患者宅などを実際に訪問することから,患者のなりすましなどのリスクも低いため,医療機関等側において資格の有効性の確認を可能とする「居宅同意取得型」のオンライン資格確認の仕組みを検討している。オンライン診療においても同様の仕組みを活用し,患者本人のモバイル端末またはPCを用いてWebサービスにアクセスし,資格確認を行うとともに薬剤情報などの提供に関する同意取得を実施する予定である。これらの「居宅同意取得型」の実施は2024(令和6)年4月からをめざしており,オンライン資格確認等システムの開発に加え,医療機関などのシステム改修などの補助についても,今後実施予定である。
2023(令和5)年5月よりAndroidスマートフォンにマイナンバーカードの利用者証明用電子証明書が実装される予定であることから,これに対応したオンライン資格確認等システムの開発も並行して検討を進めており,2024(令和6)年4月までの実施をめざしている。
柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の施術所や健診・保健指導実施機関などを対象に,必要な資格情報のみを取得できる簡素な仕組みの構築についても検討している。この簡素な仕組みは,今後,オンライン資格確認義務化の例外医療機関などについても導入を検討している。この簡素な資格確認の仕組みは「資格確認限定型」と称して,2024(令和6)年4月からの開始をめざしている。
オンライン資格確認は,安心・安全で質の高い医療を提供するための医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤の整備につながるものと考えている。今後も,オンライン資格確認の用途拡大を着実に進めつつ,マイナンバーカードと健康保険証の一体化によるメリットを発信し,より多くの国民や医療関係者の理解を得ながらていねいに取り組んでいきたい。
(なかぞの かずたか)
2002年に厚生労働省に入省。老健局(介護保険),保険局(高齢者医療),年金局(年金事業運営・制度改革),医政局(医療法改正),情報化担当参事官室(データヘルス),障害者雇用対策課(障害者雇用における差別禁止・合理的配慮の施行)にて業務。滋賀県草津市役所,北海道大学公共政策大学院教員の出向経験も経て,現職。