Interview─ヘルステックへの期待を語る ヘルステック産業の振興には海外展開を視野に入れて官民一体の取り組みが求められる 畦元将吾 氏

2023-11-20


畦元 将吾 氏

ヘルステック産業の振興には海外展開を視野に入れて官民一体の取り組みが求められる
ヘルステックの製品・サービスをパッケージ化した認知症ソリューションなどの展開によるさらなる成長に期待

畦元 将吾 氏
衆議院議員,医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)事務局長

医師の偏在化など医療が抱える課題の解決に貢献し,ヘルステックが産業として発展していくためには,どのような取り組みが必要なのか。衆議院議員で,医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)事務局長を務める畦元将吾氏にヘルステックへの期待を取材した。

医師の偏在化の解決にはDXを実現し医療の質と生産性の向上を図ることが必要

─日本の医療が抱える課題と医療のデジタルトラインスフォーメーション(DX)の重要性をお聞かせください。

超高齢社会が進む中で医療費の増大が問題となっているほか,今後,生産年齢人口が減少していくことが予想されており,医療現場の人材不足が懸念されます。2024年4月から勤務医に対する労働時間の上限規制が設けられるなど,医師の働き方改革が進んでいますが,日本では長年にわたり医師の偏在化が大きな課題となっており,地域や診療科によって医師数に偏りがあります。
医師の偏在化については,地域医療に関する関係省庁会議が,2005年に「医師確保総合対策」を発表し,医療計画に基づく,地域医療の確保,医療連携体制の構築,大学医学部における地域枠の拡大を行うなど解決に向けて取り組み,一定の成果を上げてきたものの,現状はまだ十分とは言えません。
そこで期待されるのが,医療DXです。自由民主党の政務調査会,社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部の健康・医療情報システム推進合同プロジェクトチームでは2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」を取りまとめて「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」を進めて医療情報に関する諸課題を解決し,医療の質の向上などを実現するための方策を提言しました。この提言を受けて,政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え,持続可能な経済を実現~(骨太方針2022)」を閣議決定しました。2022年10月には,岸田文雄内閣総理大臣を本部長とする医療DX推進本部が設置されています。今後は,全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報の標準化が進み,これが医師の偏在化の解消につながると期待しています。例えば,専門医が不足している地域でも,診療情報を共有することによって,遠隔地にいる専門医が診療にかかわることが可能になり,医療資源が十分でなくてもそれを補い,質の高い医療を提供できるようになります。

─医師の偏在化に加えて,医師の働き方改革が進むと,さらに医療資源に影響が及ぶ可能性がありますが,DXによって解決できるでしょうか。

現在多くの医療機関が,医師の働き方改革への対応に追われていると思います。今後,日本の生産年齢人口が減少していく中で,社会全般で労働者の確保は重要な課題であり,医療機関も例外ではありません。医師だけでなく,ほかの医療従事者,事務職員など,多くの職種が人材不足になることが予想されます。これは介護従事者についても同じことが言えます。
この課題を解決するには,医療現場の生産性向上が必須であり,デジタル技術の活用が期待されます。デジタル技術の中で,最も期待が集まっているのが生成AIなどのAI技術です。これまで人が行っていた業務の一部をAIが補うことができれば,業務負担が軽減し,効率化が進みます。例えば,画像診断支援AIを用いれば,画像診断医の読影時間の短縮につながり過重労働を防げるとともに,見落としなどのリスクも低減して,医療の質の向上も期待できます。

─医療DX推進施策が進んでいますが,これまでのところどのように評価していますか。

岸田総理を中心とした医療DX推進本部の下,厚生労働省など関係省庁が協力して,工程表に基づいて施策を進めており,順調に進んでいると考えています。2024年度からは中小病院向けの電子カルテの開発も始まることになっており,全国医療情報プラットフォームでは,電子カルテの診療情報提供書,退院時サマリーなど3文書6情報の情報共有が可能となります。2030年にはすべての医療機関で電子カルテが稼働する見込みです。全国医療情報プラットフォームが運用されれば,情報共有だけでなく蓄積されたデータの活用も期待されます。このデータをどのように活用していくかが重要なポイントであり,医療現場だけでなく,ヘルステック産業の育成という視点も踏まえた施策が求められます。

認知症ソリューションなどを展開することで産業としての成長にも期待

─ヘルステック推進議連事務局長として,ヘルステック産業の重要性についてお聞かせください。

医療DXの実現に向けて政府が施策を推進していますが,医療をはじめ,健康,予防,介護の各分野でデジタル技術を活用していくことが必要だと思っています。その一つが,認知症対策への展開です。
超高齢社会が進み,2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が指摘されていますが,これに伴い認知症患者も増加します。2025年には認知症の高齢者人口が約700万人となり,65歳以上の5人に1人に達すると予想されています。認知症患者の増加は,医療・介護現場のひっ迫を招くだけでなく,介助などを行う患者の家族の経済的な負担,就労の機会減少などの問題もあり,日本全体で大きな損失になります。このような状況を踏まえて,2023年9月には,早期アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が承認されました。レカネマブの適応は早期アルツハイマー病の患者であるため,今後は早期診断が重要になってきます。現状,確定診断のためには脳脊髄液検査が行われていますが,侵襲性が高く,被検者の負担が大きいという問題があります。そこで,注目されているのがアミロイドPET検査です。アミロイドPET検査は,アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβの蓄積を画像化することが可能で,すでに一部の施設では検診などで用いられています。このアミロイドPETが保険適用となれば,アルツハイマー病の早期診断・治療が可能となるので,認知症対策として非常に有効です。
しかし,アミロイドPET検査については,診断を行う医師をはじめとした人的資源の不足もあり,普及に向けた課題となっています。この解決には,画像診断支援AIや,遠隔での検査・診断支援などのヘルステックを積極的に活用して,人的資源の不足をカバーすることがカギとなります。特に,医師の偏在化によって画像診断医が不足している地域では,AIや遠隔医療は非常に有用なツールになるはずです。
さらに,血液検査や脳の萎縮を診るMRI検査も含めて,認知症をスコア化して判定できるようなプログラム医療機器(SaMD)が,今後ヘルステックのベンチャーやスタートアップから登場すればよいと思います。一方で,認知症の診療にかかわる人材を育成するために,地方にいる医師でも学べるようなVR(virtual reality)をはじめとしたXR(extended reality)の技術を使ったトレーニング支援サービスなどがあれば,人材不足の解消に大きな効果があるでしょう。
また,介護分野でも認知症の方の介助のために,ロボットやセンサなどの需要が高まると思います。人材不足が深刻化している介護分野においても,ヘルステックへの期待は大きいです。

─産業としてヘルステックが成長することも大切ですが,どのようにお考えですか。

日本は世界に先駆けて超高齢社会が到来しています。それだけに,認知症の診療や介護もヘルステックを活用した最先端のものにできるはずです。検査から診断,治療,介護に至るまで,PETやサイクロトロン,ヘルステックの製品・サービスなど日本のすばらしい技術をパッケージ化し,認知症ソリューションとして展開できれば,今後日本に遅れて高齢化が進む海外に輸出できます。
反対に,海外から日本に認知症の検査を受けに来日してもらう医療ツーリズムも考えられます。これはインバウンド戦略としても重要です。いずれにしろ視野を広げて展開していくことによって,ヘルステックは産業として大きな成長が期待できます。

ヘルステック産業の振興には官民一体の取り組みが求められる

─ヘルステックの普及,産業としての発展に向けて,メッセージをお願いします。

ヘルステック産業の振興は,官民が一体となって取り組むことが求められます。ヘルステックは,日本の医療が抱える課題を解決するだけでなく,新たな産業の創出にもなり,雇用を生み出すことにもつながります。私としても,ヘルステック推進議連などの活動を通じて,ヘルステックが普及し,産業として発展していくために,今後も承認制度の見直しや保険収載のために尽力していきます。

(取材日:2023年10月24日)

 

(あぜもと しょうご)
広島市民病院,GE横河メディカルシステムズ株式会社(現・GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を経て,1999年に有限会社オフィス・アゼモトを設立。2019年に衆議院議員初当選(2期)。厚生労働大臣政務官などを歴任。現在,自由民主党副幹事長。ほかに医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)事務局長などを務める。


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