静岡県における電子カルテ情報共有サービスモデル事業展開について
五島 聡(浜松医科大学 放射線診断学講座 教授,浜松医科大学医学部附属病院 医療DX推進担当病院長特別補佐,医療情報部部長)
2025-3-17
電子カルテ情報共有サービスモデル事業の経緯
2024年3月に厚生労働省医政局特定薬品開発支援・医療情報担当参事官室より連絡があり,電子カルテ情報共有サービスに関するモデル事業への協力に関する連絡をいただいた。まずはwebでの打ち合わせを行い,事業の全容と厚生労働省の今後の展開についてディスカッションを行った。本モデル事業の内容は,いわゆる厚生労働省が進める「医療DX令和ビジョン2030」の基本的な構成要素となっており,「日本の医療分野のデジタル化を推進する取り組みで,医療の効率化と情報共有の改善を目指す」ために,(1) 全国医療情報プラットフォームの創設,(2) 電子カルテ情報の標準化および標準型電子カルテの開発,(3) 診療報酬DXが3本柱となっている。この中の(1) を展開するために今回の電子カルテ情報共有サービスモデル事業が計画されており,2025年3月までに完了する必要があった。
病院側としてはある程度のシステム改修や地域の他医療機関からの理解が必要であり,電子カルテベンダーとしてもシステム開発やクラウド構築などかなりの作業量が求められており,第一印象としてはモデル事業の達成は正直困難であろうと感じた。ただ医療における2040年問題に代表されるように,今後の人口動態変化を鑑みて医療情報は広く活用するものであり,DXの推進により医師不足や地域偏在などの問題が少しでも解決に向かうことのきっかけになればと本学学長や病院長と相談の上,2024年5月に正式にお引き受けする方向で厚生労働省へお返事をした。
モデル事業開始に向けた取り組み
事業の概要やシステム概要は他稿にも詳細に解説されていると思われるが,いわゆる3文書6情報についてHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)形式で他医療機関とクラウドを用いた情報交換を行うことが目的であり,理想的には広い地域での基盤構築が必要と考え急ピッチでさまざまな活動を行った。まずはダメ元で静岡県内の関連病院長に直接説明に伺ったが,意外にも,といっては失礼かもしれないが多くの病院長が「大学が主体で行ってくれるのであればぜひとも協力したい」と賛同の意を示してくれた。
また,静岡県や浜松市などの自治体にも厚生労働省から連絡が入っていたため情報混乱を避けるべく,すべての情報発信はわれわれに一元化し,自治体からもご協力いただけるよう,病院や自治体を含めたワーキンググループを形成した(図1,図2)。ここにはわれわれのほかに図1に示した5つの病院と自治体が参画しており,本ワーキンググループで丁寧に進捗情報を共有しながら電子カルテベンダーとも開発状況について情報の共有を図った。電子カルテベンダーにはNEC,富士通Japan,SBS情報システムの複数ベンダーが含まれており,それぞれの開発費用についても大幅な相違がないよう交渉し協力していただいた。各病院が負担する費用についてもモデル事業からの支給のみでは半分程度しか賄えないため,県や市からもサポートをしていただけることとなり,そのほかは病院で自己負担することで費用面は何とかクリアできた。電子カルテからいったんベンダークラウドに情報を上げ,FHIR変換を行った後に厚生労働省が用意する文書情報管理データベースへ情報を送り,紹介先病院とのやりとりを行う方向で進んでいった。最終的に厚生労働省から本システムについての正式な技術解説書が公開されたのが2024年10月であり,開始当初と若干異なることで確認が必要な点がいくつか含まれていた。また,退院サマリーや健診報告書のように電子カルテで直接書類を作成するのではなく,別途で文書作成システムが導入されているケースが多く,FHIR変換を見据えた電子カルテとの情報連携についても進めた。ベンダーからの最終見積もりやシステム構成についての確認作業が続き,2025年を迎えてようやく3月末までに本システムのテスト稼働が可能となるであろう段階までこぎ着けた。
現在は電子カルテベンダー側でシステムの最終構築を行う段階に至っており,2025年3月末には浜松医科大学医学部附属病院と浜松医療センターの2病院でHL7 FHIRを用いた情報通信を行うこととなっている。2025年度から静岡県内医療機関に順次展開を促していくことで静岡県とは話を進めている。

図1 電子カルテ情報共有サービスモデル事業ワーキンググループ

図2 厚生労働省との定期的web 会議の様子
今後の展望
今回のモデル事業においては主に病病連携の段階から始まっており,実際にモデル事業参画をお願いした病院においても病病連携をほぼ行っておらず,地元のクリニックとの病診連携がほとんどであるという話も耳にしている。
本事業は今後国内に広く展開していくこととなろうが,前半部分で述べたように本モデル事業は「医療DX令和ビジョン2030」のごく一部であることを認識し,特にクリニックや小規模病院における標準型電子カルテの普及と同様のHL7 FHIR連携基盤の構築が重要であると思われる。また,医療DXの推進により医療が抱える多くの問題解決につながり,医療リソースを国内に安定して届けることができる体制を維持できるよう期待している。
(ごしま さとし)
2000年島根医科大学医学部(現・島根大学医学部)卒業。2005年岐阜大学大学院医学研究科修了(医学博士)。同大学医学部附属病院放射線科臨床講師,ピッツバーグ大学(米国)放射線科留学Visiting assistant professorを経て,2016年に岐阜大学医学部附属病院放射線部准教授。2019年に浜松医科大学放射線診断学講座教授となる。2023年から同大学医学部附属病院医療情報部長,2024年から同大学死因究明画像診断センター長,同大学医学部附属病院放射線部長,医療DX推進担当病院長特別補佐を兼任する。