「Claris FileMaker」によるアプリケーション開発のポイント
田中 元規(Claris International Inc. Claris 法人営業本部 セールスエンジニア,医療情報技師)
Claris FileMakerを使ったアプリケーション開発
2024-12-18
はじめに
「Claris FileMaker」は,米国に本社を置くClaris International Inc.(旧・FileMaker, Inc.)(以下,Claris)が提供しているローコード開発プラットフォームである。FileMakerの歴史は古く,1985年のリリースから約40年間バージョンアップを続け,現在ではFileMaker 2024 (製品バージョン21)が最新バージョンとなっている。ClarisはApple Inc.の100%子会社として安定した経営基盤を持ち,常に最新のテクノロジーとセキュリティを採用し進化している。現在では世界で100万以上,日本国内で約20万の組織で利用されている。
製品の特徴
FileMakerの特徴は,大きく3つに分けられる。
・クロスプラットフォーム
・閉域ネットワークでの利用
・柔軟性と世界標準のセキュリティ
1.クロスプラットフォーム
Claris FileMaker Proは,WindowsとmacOSの両方でアプリケーションの開発と利用が可能である。スタンドアロンでも動作するため,医療従事者が普段利用するパソコンで研究データの入力,集計,分析に活用されている。医療データには機微な情報が含まれるため,データベースファイル自体をAES256にて暗号化して安全に保管できる。
ClarisはAppleの子会社であるため,「iPhone」や「iPad」との親和性が高く,カメラとの連係やNFC(Near Field Communication)の読み込み,医療用医薬品に用いられるGS1データバー限定型バーコードの読み取りといった複雑な処理も,Swiftなどのプログラミング言語を使用することなくFileMaker標準のスクリプトステップや関数を組み合わせることで,高度なアプリケーションが作成ができる(図1)。
2.閉域ネットワークでの利用
電子カルテを中心としたネットワークは,外部との通信を遮断した閉域ネットワークで運用されることが多い。多くのローコード・ノーコード製品はインターネット接続が必要だが,FileMakerはオンプレミスのサーバ環境で運用可能であるため,電子カルテの閉域ネットワーク内でも使用できる。Claris FileMaker Serverは,Windows Server,macOS,Ubuntu Linuxに対応しており,医療機関や行政機関,地方自治体での導入実績が豊富である。
また,CSV,ODBC,OData,APIなどのインターフェイスを標準搭載しているため,患者の基本情報や検査データなどを活用して他システムとのデータ統合も可能である(図2)。
3.柔軟性と世界標準のセキュリティ
医療技術の進化や診療報酬改定に伴う変更に対応するには,ソフトウエアの柔軟性が重要である。そこでFileMakerを導入することによって,医師や現場スタッフが自らアプリケーションを柔軟に開発できることは,大きな利点となる。画面レイアウトや帳票の作成,フィールドやボタンの追加などの基本的な機能はノーコードで直感的に操作でき,複雑な処理には340以上の関数や190以上のスクリプトステップを組み合わせることで実現可能である。
さらに,高度な機能を組み込むには,SQLクエリやJavaScript,cURLオプションを用いたAPI連携などが標準機能として用意されており,アドオンなどの追加費用なしで実装ができる。
診療報酬の請求漏れをチェックするカスタムAppを院内で開発した事例もある(https://www.innervision.co.jp/ad/suite/filemaker/usermade/202203sunagawa
)。
情報の収集や検索に「Microsoft Excel」を利用することがあるが,Excelは表計算ソフトでありデータベースではない。数万件,数十万件のデータや何百,何千という項目を扱うのは不得手であり,多人数での同時入力や検索にも不向きだ。FileMakerはリレーショナルデータベースであり,テーブル間を関係づけることができるため柔軟な拡張性がある。また,入力値の制限や入力自動化などを設定することによって入力の揺れを抑えることができるので症例レジストリなどでも多く活用されている。データはCSV,XML,Excelなどの一般的なフォーマットで出力できるので,高度な統計は統計解析ソフトに任せることで効率を上げることができる。
FileMaker Serverは内部認証だけでなく外部認証にも対応し,Windows Server Active Directoryをはじめとして,カスタマイズ可能なOAuth 2.0外部認証をサポートしている。アクセス制御では,アプリケーションへのアクセスレベルを決定する権限を定義できる。保存されたデータに対してはAES 256ビット暗号化,転送中のデータに対してはTLS1.2暗号化をサポートする。
学習リソースと支援体制
FileMaker の学習をサポートするため,日本独自の書籍『Claris FileMakerガイドブック 基礎編・実践編・運用管理編』が提供されている(PDF版は無料)(図3)。この書籍をベースとした有償トレーニングコースもあり,東京・名古屋・大阪・福岡で実施されている。
また,全国の開発者の知恵を借りることができるオンライン上のClaris コミュニティでのQ&A環境が提供されているほか,Clarisパートナーによるトレーニング動画もYouTube「FileMakerの自習室」に800本以上公開されている。
全国のClarisパートナーが提供する伴走支援によって,セキュリティに不安のないシステムの構築や,短期間でのシステム稼働も可能である。
ほかの医療現場での動向を知るには日本ユーザーメード医療IT研究会(https://j-summits.jp
)がある。FileMakerを含めたITツールを用いて医療現場に蓄積された業務に関する知識や経験を生かし,医療の質を高め,真に医療関係者に役立つITを考えることを目的として活動している。
AIを活用する今後のプラットフォームの進化
Appleの子会社であるClarisは,AIの活用を積極的に進めており,AppleのMLモデルを用いた機械学習や画像からの文字認識,OpenAI社のモデルを活用したセマンティック検索など,自然言語を理解した検索機能を実装している。インターネット接続を前提としたAIモデルが普及するなか,Claris FileMakerのようにオンプレミス環境でも稼働し,複数のAIモデルを選択できる拡張性を提供するローコード開発プラットフォームは希少である。
医療現場でiPhoneやiPadの活用が進むなか,Clarisが提供する最新のテクノロジーは,医療現場の効率化を今後も継続的に向上させることが期待されている。改善サイクルを繰り返すためには,プラットフォームのアップデートが不可欠であることは言うまでもない。
結 論
FileMakerは,医療現場に蓄積された業務の知識や経験を生かし,医療従事者自らがITシステムを構築するためのプラットフォームとして,多くの医療関係者に支持されている。病院の経営支援や働き方改革を実現するシステムを柔軟に構築でき,医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる存在として今後も重要な役割を果たすだろう。