業務アプリは現場で作る時代 医療現場で「kintone(キントーン)」を活用するポイントは 
瀧村 孝一(kinbozu株式会社 代表取締役)
kintone(キントーン)を使ったアプリケーション開発

2025-1-8


はじめに

ノーコード開発という⾔葉を聞いたことはあるだろうか? ソースコードを直接書かずにアプリやWebサイトなどのソフトウエアを開発することを指す。プログラミングの知識がなくても,業務に利⽤するアプリや病院のホームページを開発することができる。ノーコード開発は,医療現場のスタッフでもでき,業務改善に⼤きく進める可能性がある。今回はサイボウズが提供する「kintone(キントーン)」というサービスを医療現場で活⽤する⽅法を説明する。

業務アプリ構築クラウドサービス キントーンとは?

サイボウズがサービス提供をしている,Webデータベース型業務アプリ構築クラウドサービスのキントーン。ブラウザ上で情報を⼊⼒するプラットフォームが作成可能。直感的にアプリ開発ができ,情報⾃体はもちろん集計結果なども共有が容易となる。
テキスト情報であれば「⽂字列1⾏フィールド」,画像であれば「添付ファイルフィールド」と,⼊⼒する情報にマッチするフィールドを配置しながらアプリを作成する(図1,2)。アプリに⼊⼒された情報は「レコード」と呼び,集計やグラフ化することが可能である。レコードは同契約しているユーザーと,リアルタイムに共有することができる。さらに,機能を拡張すれば,情報を⼀般に公開することもできる。
セキュリティ⾯では,IPアドレス制限をかけて施設以外のネットワークからのアクセスを不可にすることも可能である。クライアント証明書を発⾏することで,IPアドレス制限下でも認証された端末のみアクセスさせることができるので,訪問先などでも情報を確認可能である(図3)。
便利なサービスであるが,運⽤を間違えると使いづらいサービスとなる。ここで3つの重要な運⽤ポイントをご紹介する。

図1 キントーンで作成した問い合わせ管理画面例

図1 キントーンで作成した問い合わせ管理画面例

 

図2 キントーンで作成した在庫管理画面例

図2 キントーンで作成した在庫管理画面例

 

図3 cybozu.com管理権限におけるセキュリティ設定イメージ

図3 cybozu.com管理権限におけるセキュリティ設定イメージ

 

1.運⽤コストについて理解すること
キントーンには,3つのコースがある。キントーンの標準機能を利⽤するライトコース,プラグインなど拡張が可能なスタンダードコース,エンタープライズ向けのワイドコース。ライトコースで運⽤できるのであれば,利⽤ユーザー数で運⽤コストが⾒えてくる。スタンダードコース以上になると,JavaScript(JS)開発やプラグイン・連携サービスの導⼊など,キントーン以外のコストも考える必要が出てくる。機能を拡張すると,データの⾃動集計やWebフォームに⼊⼒された情報をキントーンへ保存,メールやSMSの送信など,さまざまな機能を追加することが可能である。拡張の幅が広い分,運⽤コストも⾒えにくくなる。また,キントーン導⼊を内製化で⾏うか,外部業者に依頼するかによってもコストが変わってくる。運⽤コストを考えるに当たって,運⽤範囲についても検討する必要がある。

2.運⽤範囲について計画すること
キントーンを導⼊する範囲,どの業務まで活⽤するかが重要なポイントとなる。ライトコースでは200個,スタンダードコースでは1000個までアプリを作成することが可能である。数を⾒るとさまざまな業務に活⽤できるのではと考えるであろう。アンケート管理や職員管理,採⽤応募管理に稼働収益管理など,さまざまな業務アプリを作ることができるであろう。
ここでキーポイントとなるのが,電⼦カルテや会計ソフトなどと連携させるかどうかである。開発を⾏うことで,電⼦カルテの情報をキントーンに⾃動で登録することも可能である。キントーンの標準機能では難しく,汎⽤型のプラグインなどでは対応が困難なので,独⾃の開発が必要となりコストも⾼くなる。後者の会計ソフトであれば,メーカーにもよるが,APIを⽤いて情報連携を⾏うことが可能である。どちらともキントーンとは別途の費⽤がかかる。
業務改善は特定の部署や職種に限ったことではない。導⼊に関しては,特定の部⾨だけ利⽤するのか,法⼈全体で利⽤するのか,導⼊後に⽅向性は変わるとしても,導⼊前の時点で計画しておく必要がある。

3.運⽤リスクについて把握すること
ノーコードだから現場でアプリを作成できる。キントーンの標準機能だけで考えれば,難易度はそこまで⾼くないと考える。アプリを作成して,公開運⽤まではマニュアルやチュートリアル動画を⾒れば設定できるであろう。
重要なのは,アプリを作成することではなく権限について理解すること。cybozu.com共通管理者は,ユーザーの追加や削除,ログインセキュリティの設定などが⾏える上位権限アカウントとなる。キントーンのシステム管理者は,アプリ管理やアクセス権などを設定可能となる。キントーン⾃体複雑に権限設定が可能である。アプリ作成の有無,アプリ・レコード・フィールドそれぞれに,閲覧や編集に削除などの権限を付与することが可能である。⼈事関連のアプリは⼈事部に所属しているユーザーしかアクセスできない(アプリ権限)。⼈事部に所属しているユーザーでも,⼊職前の情報は採⽤関係のユーザーにしかアクセスできない(レコード権限)。⼊職後も,課⻑職以上のユーザーしか住所などの個⼈情報にはアクセスできない(フィールド権限)。こういった設定も,許可されたユーザーであれば設定可能となる。
現場でアプリを作成できるという点ではいいが,逆に考えれば現場の設定次第で情報が簡単に公開されてしまう。設定一つで情報の公開・⾮公開が可能なので,キントーンの教育は必須であろう。セミナーや研修なども積極的に開催されているので,活⽤すべきであろう。基本的な知識から実践的なスキルなどを認定する認定資格試験があるので,キントーンスキルの判断材料としても活⽤できると考える。

汎⽤型サービスのメリット・デメリット

コロナ禍においては,ワクチン接種の受付や医療機関の受け⼊れ状況の共有などにキントーンが活⽤された。キントーンのアプリ開発は,従来⼿法のシステム開発に⽐べて開発期間が短い傾向にある。コストに関しても運⽤開始までのコストは抑えられる可能性がある。
ただし,キントーンは医療現場向けに特化して開発されたサービスではない。2024年時点で3万5000以上の企業・団体が利⽤しているサービスであるが,卸売⼩売業や製造業から医療福祉や⾦融業など多業種で活⽤されいてる汎⽤型サービスである。現場の要望をかなえるオーダメードシステムではない。オーダメードでほしい機能がそろったシステムが理想であるが,そういったシステム開発には時間とコストがかかる。では,キントーンのようなシステムが最適な選択かというとそうでもない。電⼦カルテのように必要な機能にオーダメードできる仕組みが必要な場⾯もある。
キントーンは毎⽉決まった⾦額発⽣するサブスクリプション⽅式のサービスである。オプションサービスなどを含めると,オーダメード開発した⽅が安価な場合もある。こういった背景から,値段の⾼い安いだけでシステム導⼊を検討することは危険と考える。キントーンは決して安いサービスではない。
医療現場は医師,看護師,社会福祉⼠など多職種が勤務する環境である。キントーンは,医療現場でも気軽に業務改善を始められる良さがある。標準機能にない機能は,JSやCascading Style Sheets(CSS)を⽤いた開発,連携サービスやプラグインなどを⽤いて拡張することが可能である。会計ソフトやチャットサービスなどとも連携できる,汎⽤性の⾼いサービスである。適切な運⽤範囲と運⽤コストの把握,運⽤リスクといったポイントをしっかり押さえて活⽤していただきたい。無料での試⽤も可能なので,製品がどういったものか知りたい場合30⽇間無料利⽤を活⽤していただきたい。


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