医療現場で現場発信の業務改善 ノーコードツール「kintone(キントーン)」の実力 
河田ひとみ(医療法人社団 医聖会 八幡中央病院 患者サポートセンター)
kintone(キントーン)を使ったアプリケーション開発

2025-1-8


はじめに

医聖会グループは,京都府⼋幡市を中⼼に3つの病院(⼋幡中央病院,京都⼋幡病院,学研都市病院)と5つの介護施設などを運営している。急性期から回復期,⽣活期まで幅広く医聖会がサービスを提供している。医聖会グループでは2020年から,サイボウズが提供しているノーコードツール「kintone(キントーン)」を活⽤した業務改善を⾏っている。キントーンはブラウザ上でアプリを作成し,アプリ内に⼊⼒した情報をグループ内で共有できる便利なツールである。今回は,現場発信の業務改善をノーコードツールが実現した事例をいくつか紹介する。

現場の意⾒をアプリに反映できる柔軟⼒

当グループでは,外注アプリと内製化アプリの2種類のアプリが存在する。外注アプリは業務改善の伴⾛⽀援として,業務委託している業者が作成して運⽤保守を行っている。内製化アプリは,業務委託業者から研修を受けて当グループの職員が作成して運⽤保守を⾏っている。導⼊当初は外注アプリが多かったが,徐々に内製化アプリが増えている状況である。
現場は新しいアプリの要望や,既存アプリの修正依頼を出す(図1)。それを受け,基本は内製化を⾏うが,複雑であったりヒアリングに時間のかかるような内容は外注化するなど,すみ分けている。両者で情報共有を⾏い,互いのアプリを⾒られる状況なので,現場の要望に柔軟に対応できる環境となっている。簡単な要望であれば,即⽇アプリの修正が実施される。少し複雑な変更が必要な場合は,1週間ほどかかることもあるが,従来のシステムと⽐較すれば短期間で要望が反映されていると感じている。

図1 要望アプリ

図1 要望アプリ

 

キントーンで稼働管理,採⽤応募管理

実際,当グループでは200個を超えるアプリが稼働している。直接病院の運営に関わるアプリから,間接的に関わるアプリなどさまざまである。共通点としては,情報共有に課題のあった業務をアプリ化して,共有に関する業務負担の軽減を図っている点である。稼働管理アプリでは,各施設の稼働情報や施設基準に係る数値を管理している(図2)。アプリ導⼊前は会議の際,各施設がそれぞれ実績を⼊⼒した資料を収集してまとめていた。リアルタイムの状況を知りたい場合,各施設の担当者に電話で連絡するなどをして情報把握に努めてきた。アプリ導⼊後は,各施設の担当者が情報を直接キントーンに⼊⼒する。⼊⼒された情報は許可されたユーザーのみ閲覧できる。会議前だけでなく,必要な時に情報に安全にアクセスできるため,稼働管理業務の負担は⼤幅に軽減された。
採⽤応募管理にも活⽤している。応募者の情報をキントーンで管理している(図3)。フェーズに合わせて,閲覧できるユーザーを変更するように設定している(⼈事部から確認依頼を受けた場合,依頼を受けた看護部⻑が応募者の情報にアクセス可能となる)。⼈事部としては,現在何名が選考中なのか,今週の⾯接予定は何名で,明⽇は何名いるのかなどを,キントーンですべて確認することが可能となった。⾯接記録もキントーン上の別アプリに記録するようにした。稼働管理同様に,情報を知りたい時に閲覧できるようになり,採⽤業務の負担も⼤きく軽減された。

図2 稼働管理アプリ

図2 稼働管理アプリ

 

図3 採用応募フロー図

図3 採用応募フロー図

 

機能拡張に必要なカスタマイズもノーコード

キントーンは便利なツールであるが,標準機能でできることは限られている。当グループでは,いくつかオプションで機能を拡張するサービスを導⼊している。キントーンは,JavaScript(JS)やCascading Style Sheets(CSS)で機能を拡張することが可能である。ただし,当グループにはそういった⾔語に⻑けた⼈材はいない。いたとしても,その職員だけが扱える機能は属⼈化しやすいため,積極的に導⼊しようとも考えていなかった。また,現場のアプリに対する要望はキントーンの標準機能だけではカバーできないものが多く,カスタマイズが必須であった。そこで,ノーコードでキントーンをカスタマイズすることが可能なサービス,アールスリーインスティテュートの「gusuku Customine(グスクカスタマイン)」を早い段階から導⼊した。標準機能ではできないアプリ間集計や,フォントサイズやカラーの変更などをノーコードでカスタマイズが可能となる(図4)。ほかのシステムなら簡単に設定できるような項⽬も,キントーンだとカスタマイズが必要となる。在庫管理システムや複数アプリをまたいだ定時集計なども実現可能で,医聖会グループでも活⽤している。

図4 gusuku Customineを用いたカスタマイズ例

図4 gusuku Customineを用いたカスタマイズ例

 

全職員が活⽤可能なプラットフォームに

キントーンは1ユーザーごとに課⾦されるサービスである。積極的に活⽤できる環境であればよいが,普段は利⽤しないといった職員も多いのが現状である。⽉に数回情報を⼊⼒するためにアカウントを付与しなくてもいいように,Webフォームから⼊⼒された情報をキントーンに保存するサービスを利⽤している。トヨクモが提供している「FormBridge(フォームブリッジ)」というサービスであるが,アンケートフォームや研修参加申請フォーム,新型コロナワクチンの接種予約受付フォームなど,⽤途に合わせたWebフォームが作成可能である。フォームのリンクは⼀般公開から,パスワード制限やIP制限など,職員以外がフォームにアクセスできないようにすることも可能である。
従来アンケートを実施する場合,アンケート⽤紙を配布して記⼊後回収し,回収した⽤紙を「Microsoft Excel」などに⼊⼒して,集計後報告資料を作成するまでが⼀連の流れであった。キントーンに運⽤を変更してからは,QRコードやリンクなど,複数の⽅法でアンケートに回答できるようにした。回答は,リアルタイムに集計され,アンケート終了後にはそのまま集計結果を資料として利⽤できるので,業務負担軽減につながった。
職員としては,キントーンを利⽤しているイメージはない。しかし,アンケートなどはキントーンと連携サービスで設定されており,会議で⽤いられる資料はキントーンから出⼒されている。直接操作を⾏う職員は少ないが,全職員が実は活⽤しているサービスとなる。

より活⽤の幅を広げていく

現状契約しているキントーンのスタンダードコースでは,アプリを1000個まで作成することが可能である。導⼊当初は⼋幡中央病院の患者サポートセンターのみ利⽤していたが,看護部や⼈事部,臨床⼯学科など,利⽤する部⾨や施設が増えてきた。利⽤するアプリやユーザーが増えると,アプリ作成者の育成やカスタマイズの範囲など新たな課題が⽣まれている。規模が⼤きくなったとしても,現場の意⾒を第⼀に現場主体の開発という考え⽅がブレないように各担当者との情報共有を⾏っていきたいと思う。
基幹システムとの連携であるが,電⼦カルテや介護ソフトとキントーンをつなげることも可能と聞いている。当グループでは基幹システムとの連携は⾏っていない。キントーンは電⼦カルテや介護ソフトの代⽤サービスにはまだならないと考える。コストや技術的なハードルもあると考える。当グループでは今後も,情報の集約,共有分析に特化してキントーンを活⽤していこうと考える。

 

(かわた ひとみ)
八幡中央病院患者サポートセンターセンター長。京都第二赤十字看護専門学校を卒業後,京都第二赤十字病院(泌尿器科・耳鼻咽喉科科・外科・救命救急センター)に勤務。その後,佛教大学教育学部を卒業し,京都府医師会看護専門学校で専任教員として勤務。その後は,300床程度の総合病院勤務を経て,2022年7月より現職。


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