VARIAN RT REPORT

2025年1月号

人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.25

Eclipse v18.0の使用経験

野間 和夫(滋賀医科大学医学部附属病院放射線部)

はじめに

当院は,放射線治療システムの更新を行い,放射線治療計画装置「Eclipse v18.0」(バリアン社製)を導入した。これにより,複雑な技術で実現される高精度放射線治療の品質を担保し,安全に治療を行うことが容易となった。そして,Eclipse v18.0を使用してすぐ体感できたのが,治療計画立案時の計算速度が高速化されたことである。今回の機器更新で高精度放射線治療の効率化が大きく進歩したことを実感したので,機能ごとに紹介する。

リーフモデルの変更(Enhanced Leaf Modeling:ELM)について

Eclipse v18.0では,機能の進化により,さまざまな高精度放射線治療の計画を立てやすく進化しているが,それを支えるモデリングの部分から強化されている。高精度放射線治療計画の複雑さが増す中,これまでのMultileaf Collimator (MLC)モデリングは,dynamic MLCのアパーチャーの動作における線量計算で誤差が生じるという課題に直面していた。以前のMLCモデリングは,ラウンドリーフ形状ではなく,リーフエンドを直線とした簡略化されたMLCモデルを使用していた。MLCがより複雑に動作する高精度放射線治療において,より高精細なモデリングを採用することは,線量分布を計算する上で重要となる。そこで,Eclipse v18.0では,強化されたMLC減衰モデルであるELMが搭載された。ELMは,ラウンドリーフ端形状,ドライブスクリューの切り抜き,およびリーフ本体の厚さが考慮されており,より実測に近い計算ができるようになった(図1)。Van Eschらの研究論文1)では,ELMがMLCの先端と軸外線量分布のモデル化において優れていることが示されている。小照射野を使用した高精度放射線治療が増加している現在の放射線治療では,この進化は重要となる。

図1 小照射野のMLCギャップを介した軸外線量の計算結果

図1 小照射野のMLCギャップを介した軸外線量の計算結果

 

MCO(Multi Criteria Optimization)について

MCOでは,スライダーバーを用いてターゲットとリスク臓器(organs at risk:OAR)のトレードオフ関係をダイナミックかつリアルタイムに調整できる。新たにマウス操作によって等線量曲線のラインを直接つかんで動かすことで,局所の線量補正が直感的に行えるisodose line drag機能が使用できるように機能強化された(図2)。このMCOは,複数の最適化結果を基に,計画者がスライダーバーを利用し視覚的に線量分布,dose volume histogram(DVH)を確認しながら,臨床的にバランスの取れた治療計画の立案を支援する機能である。MCOを使用することで,ターゲットの線量を維持しながら,OARの線量をさらに削減できる可能性があるかを確認することができる。従来であれば,最適化パラメータを調整し,手動で見つけていた作業であり,MCOのトレードオフ関係による比較がなければ,OAR線量のさらなる削減の可能性に気がつけないこともありうる。MCOの利点は,このような今まで確認できなかった最適解の短時間での発見や,通常のマニュアルの最適化では見つけることのできないプランの限界を把握できる点にある。マニュアルで最適化された計画の多くは,まだ調整の余地があったのではないかという疑問を,トレードオフの調整方法としてisodose line dragでは,マウス操作によって等線量曲線を直接つかむことで局所の線量補正が直感的に行えるようになり,解消した。

図2 MCOスライダーバー調整とisodose line drag

図2 MCOスライダーバー調整とisodose line drag

 

SBRT NTO(Normal Tissue Objective)について

Eclipseの「HyperArc」に搭載されているSRS NTOは,頭部定位放射線治療において,標的間を含む正常脳への線量を抑えた治療計画を簡便に立てられるようになっている。さらに,本バージョンでは,体幹部定位放射線治療におけるNTO(SBRT NTO)が新たに搭載可能となり,extracranialにおいても急峻な線量分布を簡便に作成できるようになっている。肺がんSBRTのケースでは,線量の広がりを抑えた急峻な線量分布を作成することができている(図3)。

図3 SBRT NTOを用いた線量分布(肺がん)

図3 SBRT NTOを用いた線量分布(肺がん)

 

最適化計算で使用する線量計算アルゴリズムFTDC(Fourier transform dose calculation)の不均質補正の向上について

最適化計算中に使用される線量計算アルゴリズムであるFTDC(GPUを効果的に使用するフーリエ変換線量計算)は非常に高速であるが,肺組織などの不均質な物質中では誤差が生じることが報告されている。最適化計算中のこれらの誤差は,最終線量計算に用いる線量計算アルゴリズムAcuros XB(AXB)やanisotropic analytical algorithm(AAA)による中間線量計算により補正可能である。しかしながら,最適化計算中と最終計算での線量のギャップは,計画者にとって望ましくないものである。改良されたFTDCは,TERMAスケーリングモデルの実装が行われており,これにより,従来の繰り返しの最適化サイクルが削減できている(図4)。FTDCの不均質補正はユーザーにより,inhomogeneity correction level「High」「Normal」とパラメータの選択も可能となっている。

図4 最適化計算で使用する線量計算アルゴリズム

図4 最適化計算で使用する線量計算アルゴリズム

 

ESAPI〔Eclipse Scripting API(Application Programming Interface)〕について

スクリプト機能を搭載した治療計画装置が増え,標準機能となりつつある。治療計画立案およびプランチェックにスクリプトを組むに当たり,標準的な機能だけではなくプログラミングの知識は必須と考えているが,治療計画装置の標準機能ではできない作業をスクリプトで行うことによって「機能拡張」が実現可能であり,今後,人工知能(AI)とスクリプト機能を利用しフルオートでの治療計画をいつの日か実現できればと考えている。Eclipseでは,古くからスクリプト機能が提供されてきたが,臨床的利用においても書き込み可能なスクリプトとスクリプト承認を含む Eclipse Automation機能セットが追加されたv15.5以降は,スクリプト機能(ESAPI)が大きく進歩している(図5)。Eclipse v18.0でのスクリプトの作成は,非臨床用Eclipse(T-BOX)にVisual Studioをインストールして行う
ことができる。実際に使用したところ,予想以上に簡単にスクリプトを作成可能であり,当院ではField IDの名称を自動で書き換えるスクリプトを作成して,臨床機のEclipse v18.0で使用している(図6)。

図5 EclipseのバージョンによるESAPI機能の違い(Varian APIs handbook p.14 Chapter 2. ESAPI basicsより引用転載)

図5 EclipseのバージョンによるESAPI機能の違い
(Varian APIs handbook p.14 Chapter 2. ESAPI basicsより引用転載)

 

図6 ESAPI機能のスクリプトの作成と実行

図6 ESAPI機能のスクリプトの作成と実行

 

最後に

今回,Eclipse v18.0を導入したことで,さまざまな高精度放射線治療の計画立案が容易になった。また,スクリプト機能の充実と簡便さにより,フルオートでの治療計画の実現に向けて少し近づけたのではと思っている。そして,やはり計算速度の向上は,Eclipse v18.0を扱うすべてのスタッフから称賛を得ている。今後,さらに進化しわれわれを驚かせていただけるような革新的な治療計画装置,治療計画用ソフトウエアが開発されることを期待している。

●参考文献
1)Van Esch, A., Kulmala, A., Rochford, R., et al. : Testing of an enhanced leaf model for improved dose calculation in a commercial treatment planning system. Med. Phys., 49(12): 7754-7765, 2022.

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