展示会に見るMRI技術の変遷(ITEM in JRC 国際医用画像総合展)(富士フイルムヘルスケア)
●2005
2002年に発表した「APERTO」から3年,特にハード面の改良が加えられ,さらに進化を遂げた「APERTO Inspire」(新製品)。磁場均一度を向上させ,かつより長く品質を保つ新技術アクティブシミング「Super Shim」を搭載。高磁場装置特有のCHESS法による脂肪抑制が可能となった。また,新たに造影パフュージョンをオプションで設定できる。高磁場領域の機能に踏み込みつつ,オープンの持つ解放性や経済性,患者へのやさしさを維持した装置となっている。
●2006
今回MRIでは,3月31日に認可されたばかりの新製品2機種を発表しております。1つが0.3Tのオープンタイプ永久磁石型MRI装置「AIRIS Elite」です。この装置は,デザイン的にはAIRIS II Comfort を更に進化させた2本柱で,最上位機種である「APERTO Inspire」(0.4T)の技術を0.3T装置に投入した,AIRIS II シリーズの最高機種です。画質,撮像時間,FOV,S/Nのいずれも従来の0.3T装置を上回り,日立独自のアクティブ・シム“SuperShim”(オプション)を搭載することで,脂肪抑制法であるCHESS法なども可能となります。
もう1つが,ユーザーの要望に応えて,「高機能をより使い易く」に重点を置いて開発した超電導型1.5T MRI装置「ECHELON Vega」です。この装置はトンネル型ですが,短軸構造(160cm)となっており,デザインはオープンを意識しているほか,短時間撮影,操作性の向上などによりスループットを高め,“患者さんへの優しさ”を機能や画質の面で図っています。また,そのためにテーブルは最大2800mmのロングストロークタイプが標準搭載されているほか,コンソールは,操作性にこだわったWindowsベースの新しいタイプで,RFコイルは8チャンネル48エレメント,最大32チャンネルまでを可能としてパラレルイメージングに対応しています。
(八杉幸浩 MRIマーケティング統括部課長)
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●2007
● アプリケーションの充実で高画質撮像を可能に
MRIは,超電導型1.5TMRI装置「ECHELON Vega」と永久磁石型オープンMRI装置「APERTO Inspire」が展示された。2006年に発売を開始した「ECHELON Vega」はガントリ長160cmのショートボアタイプを採用し,検査中の被検者の圧迫感軽減に配慮した設計になっている。最大傾斜磁場強度が30mT/m,スリューレートが150T/m/sと,強力な傾斜磁場性能を持つ。テーブルのスライド長は業界最長の2800mmロングストロークタイプで,足から入っていけるメリットがあり,閉所恐怖症の被検者などに有用である。また,高い撮像機能を実現するためのアプリケーションが充実している。高い静磁場均一性を維持する"HOSS",高速撮像法"RAPID",脂肪抑制技術"Water Excitation",動きのアーチファクトを補正する"RADAR",非造影MRA"Non-CE MRA",高画質MRA総合技術"FITT"などを搭載し,1.5装置でありながら,3T装置と同程度の画質が得られるとの評価を得ている。装置とともに,これまでに導入された施設で得られた臨床画像も多数展示発表された。
(取材協力:伊藤陽一さん MRIマーケティング本部部長)
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●2008
● 診断能の向上につながる新アプリケーションが登場
MRIブースでは,永久磁石型0.3TオープンMRI「AIRIS Elite」と,超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」が展示された。
0.3Tでありながら,高画質が得られるAIRIS Eliteは,そのコンパクトな設計と,横方向にスライドするテーブルやフットスイッチなどによる操作性の良さと開発性に優れたオープンデザインで,クリニックを中心に高い支持を得ている。このAIRIS Eliteと0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」の新アプリケーションとして,造影検査を支援する「ASCENDING 6.0」が登場した。これにより,X線を用いたDSAのような画像が得られるTRAQ(Time Resolved Acqisition)や,TRAQによって造影到達を画像で確認しながら撮像を開始できるFLUTE(Fluoro Triggered Exam),血液の信号を抑制して血管内腔の信号を落とし,血管壁を描出するBlack Blood Imagingなどが可能となった。
超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」では,使用経験から生まれたユーザーの声を生かして開発された,多数のアプリケーションが発表された。なかでも,特にユーザーから高く評価されているアプリケーションとして,「H-sinc」,「TIGRE/3D-GEIR」,「NATURAL」が紹介された。 「H-sinc」は,STIR法とCHESS法の両方のメリットを組み合わせ,脂肪を安定的に抑制する手法である。RF照射不均一に強く,広範囲でも安定した脂肪抑制が可能である。「TIGRE/3D-GEIR」は,腹部や乳房撮像における息止めダイナミック撮像用の脂肪抑制併用高速連続撮像シーケンス「TIGRE」と,IR併用グラディエントエコーによる高速なT1強調撮像機能「3D-GEIR」を組み合わせた3D高速撮像法であり,短時間でも高コントラスト・高空間分解能を得ることができる。また,感度分布を計測して補正対象画像の感度補正を行う「NATURAL」では,受信コイルの感度分布の影響を考慮し,より診断しやすい画像を得ることができるようになった。
さらに,永久磁石型装置で高画質を得るために培ったノウハウを生かして開発されたアプリケーションとして,良好なMRAが得られるFIT(Fine Tune Technology)が紹介された。
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●2009
● 永久磁石型と超電導型のオープンMRI新製品2機種が登場
MRIでは,0.3 Tの永久磁石型オープンMRI「AIRIS Vento」と,1.2Tの超電導型高磁場オープンMRI「OASIS」の新製品2機種を展示した。
ブース中央に展示されたAIRIS Ventoは,永久磁石型0.3TオープンMRI「AIRIS Elite」の上位機種。従来の永久磁石型オープンMRI装置の特長である高機能・高画質・高い経済性を保ちながら,コンピュータ系を一新した。高磁場装置と同じプラットフォームを採用し,さらなる画質向上が図られているほか,高磁場装置で使用されているパフォーマンスの高い高速画像演算ユニットを採用したことにより,従来と比較して30倍以上の演算スピードを実現した(同社比)。このほか,コンパクトな装置であるため,施設のスペースを有効活用できるメリットもある。シールドルームも小さくできるため,付帯設備の費用を抑えることが可能。さらに,運転に必要な電力も小さいため,大規模な設備投資が不要で,ランニングコストも抑えることができる。また,新たなカラーデザインコンセプトの下に,新しいカラー・ラウンドフォルムデザインを採用。より患者さんに安心感を与えるデザインとなっている。
一方,OASISは,超電導磁石の採用により,高い静磁場強度をオープンデザインで実現したオープンMRIのフラッグシップ装置。米国では昨2008年に発売され,すでに50台以上を受注,30台以上が稼働している。ガントリの開放角度が270°,開口部の高さが44cmと開放性に優れているため,体格の大きな患者さんでも容易に撮像することができる。また,ガントリにはT/R Bodyコイルが内蔵されており,受信コイルを装着しないコイルレス撮像も可能。Large Jointコイルを使用することで,頭部撮像時にも横向きなどの楽な姿勢で撮像することができるため,閉所恐怖症の患者さんにも有用である。これらの特徴によりOASISが実現するきわめて自由度の高い検査環境を,日立メディコは“FreeStyle―磁遊撮像―”と名付けて紹介していた。さらに,OASISには体動アーチファクトを抑制する“RADAR”など,Echelon Vegaと同じアプリケーションを搭載。日立メディコのパラレルイメージング技術である“RAPID”も垂直磁場方式で初めて実現し,撮像時間の短縮も可能にする。また,同社が独自開発した垂直磁場方式のソレノイド受信コイルを使用できるため,均一性の高い高画質な画像を提供できることも特長である。高い静磁場強度とオープンデザインを合わせ持つOASISは今後, IVRやスポーツ科学の分野,fMRIなどへの活用も期待されている。
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●2010
● RADAR,VASC-ASLなど1.5TのECHELON Vegaのアプリケーションを中心に紹介
MRIでは,今回,実機展示はなかったが,1.5TのECHELON Vegaに搭載したRADAR(Radial acquisition regime)やVASC-ASLなどの血管系のアプリケーションをメインに紹介した。RADARは体動のアーチファクトに強い撮像技術だが,日立のRADARの特長としてシーケンスや部位を選ばずに撮像でき画質がよいことで,ルーチン検査で使用できる。また,RADARを使った超短TEシーケンスである「μTE」による整形領域における関節軟骨・腱などの画像を紹介した。
非造影MRAでは,頭部の血流画像の撮像は従来から行われてきたが,腹部や下腿部の血管を広範囲に撮像するVACS-ASLや脳出血の早期診断に可能なVACS-EPIなどの撮像法とその臨床画像を紹介していた。RADARや非造影の撮像法も,息止めや静止が難しい患者でもアーチファクトを低減でき,造影剤を使わない血管撮影法など,患者に"やさしい"検査を提供するアプリケーションをそろえてきたことをアピールした。
また,超伝導のオープンMRI「OASIS」は,テーブルがガントリ内で横移動でき,広い空間で撮像できる。ECHELON Vegaで開発したRADARなどの高磁場のアプリケーションはすべて搭載している。特に,整形領域でリング型のソレノイドコイルを使う検査では高画質の画像が得られている。受信コイルは各メーカーがマルチチャンネル化を図っているが,ソレノイドコイルは単体でマルチチャンネル以上のパフォーマンスがあり,均一度が高く感度が高いという。膝や関節などの動態検査やFluoroscopyなども可能で,治療などへの活用が期待される。
また,日立メディコは,4月11日に高磁場オープンMRI「OASIS」をテーマにしたランチョンセミナー「高磁場オープンMRI『OASIS』の有用性と可能性」を開催した。藤井正彦氏(神戸大学大学院医学研究科准教授)を座長にして,日本サッカー協会(JFA)メディカルセンター副センター長の土肥美智子氏が,日本での第1号機が導入されたJFAメディカルセンターでのOASISの使用経験について,整形外科領域での高磁場オープンMRIの可能性を中心に講演を行った。
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●Spring of 2011
日立1.5T超電導MRI装置「ECHELON RX」
● “Solid Workflow MRI”登場
ECHELON RXは,高度なMRI技術と最新のテクノロジーを融合し,超電導MRIの高精度画像とシンプルな操作性を実現した最新のMRI装置です。
新たなワークフローの実現
ECHELON RXコイルシステムは,高感度受信コイルの採用だけではなくワークフローまで考慮した受信コイルシステムです。RXコイルシステムにより,常に設置されている脊椎コイルに頭部用コイルをセッティングするだけで,頭部・全脊椎の撮像が可能です。また,頭部用コイルをテーブルに置いたままでの腹部撮像が可能です。
高い静磁場均一度& HOSS
磁石の静磁場均一度は重要な基本スペックです。ECHELON RXでは,FOV500mmの広い撮像空間と高い磁場均一度を実現しました。さらに,高次シミング機能HOSSの搭載によリ,被検者が入った時に乱れてしまう磁場均一性を補正することが可能です。
New Design Patient Table
ECHELON RXは新開発のPatient Tableを採用。フットスイッチによって,Patient Tableの上下・前後動作が可能です。操作者の両手がフリーとなリ,被検者へのきめ細かなケアが可能です。
Suggestion UI
撮像条件を変更する際の条件設定を補助する機能です。設定できない条件が入力されたとき,設定可能なパラメータの代替条件を複数表示します。その際,各条件における画像のSNRや撮像時間が表示されます。
●2012
●快適性と高画質を両立した世界戦略製品1.5T MRI 「ECHELON OVAL」が登場
RSNA2011(第97回北米放射線学会)で発表された「ECHELON OVAL」が日本国内で正式リリースとなった。ECHELON OVALは,北米で主流となっているワイドボア市場に投入する世界戦略製品と位置づけられたハイエンドシステムで,日立グループの技術を結集して実現した横74cmの楕円ワイドボアが特徴。これまで,MRIの選定においては,“快適性”か“高画質”かの選択をしなければならなかったが,ECHELON OVALの登場により,快適性・高画質を両立した装置の導入が可能になる。ワイドボアや幅63cmのワイドテーブルは,空間を広くして被検者の快適性を向上させるだけではなく,オフセンタースキャンを容易にし,高画質な画像の取得を可能にする。3T装置では一般的な2ch独立制御RF照射システムを採用し,RF均一度の向上が図られており,特に乳房撮影などにおいて有用性を発揮する。
また,トータルワークフローの最適化をめざし開発された“Workflow Integrated Technology(WIT)”も特徴の1つ。これまで,MRI撮像はさまざまな工夫により検査時間の短縮が図られ続けてきたが,コイルの載せ替えに非常に時間を要していた。それを改善するのが,WIT RF Coil systemである。頭部撮像ではアタッチメントの載せ替えだけで頭部,頭頸部,頸部の撮像が可能で,体幹部撮像においても,着脱可能なWIT Spine coilを移動することでFeet First撮像に容易に対応する。また,Spine coilとTorso coilを組み合わせることでコイルを体幹に巻き付けて撮像することができ,高感度な撮像が可能となる。着脱可能なWIT Mobile Tableは,斜め方向(60°まで)からガントリ部に接続可能で,狭い検査室でも使いやすい。テーブル左右にはアームボードを搭載し,広いワークスペースを確保するとともに,垂直に立てることができるため,被検者のサポートやガードになる。ほかにも,ガントリの前面に設置されたWIT Monitorでは,患者情報の確認や編集,心電同期信号やコイルの接続状況を確認できるなど,検査全体を通してのスループットの向上が図られている。
MRI装置では,国内市場向けの超電導1.5T MRI 「ECHELON RX」も展示された。ECHELON RXは,高精度診断画像とシンプルな操作性の両立をめざして開発された装置。ITEM2011が開催中止となったため,ITEMにおいては初披露となった。
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●2013
●MRI:3T MRI「TRILLIUM OVAL」が日本初登場
RSNA2012で参考展示され,4月に日本とグローバルで同時発売となった3T MRI装置「TRILLIUM OVAL」が,日本で初披露となった。2012年4月に発売された1.5T MRI装置「ECHELON OVAL」のコンセプトを継承し,さらなる高画質化を図って臨床的可能性を拡大した。TRILLIUM OVALがラインナップされたことにより,同社では,0.25〜0.4Tの永久磁石型オープンMRIから,1.5,3Tの高磁場装置までがそろうことになり,幅広いユーザーへのMRI装置の提供が可能になる。
TRILLIUM OVALの大きな特長は,快適性と高画質の両立と,“WIT”によるワークフローの向上である。横74cm,縦65cmの楕円形ワイドボアは,テーブルに横たわった被検者の身体の形に合わせたデザインで,被検者が楽な姿勢で検査ができる快適な空間を実現している。横方向に拡張したことで,肩などの磁場中心での撮像が困難な部位でも,横63cmまで広げたテーブルの左右に被検者を移動させることで高画質の画像を得ることができる。傾斜磁場コイルを楕円にすることは,従来は技術的に困難であったが,日立グループが持つ核融合炉のプラズマを制御するシミュレーション技術と高度な解析技術により,楕円傾斜磁場コイルパターンが実現した。
また,4ch-4port独立制御可能なRF照射コイルを採用し,RF照射不均一による画像ムラを抑制する「OVAL Drive RF/OVAL Drive QS(Quad RF Shim)」により高画質を実現。高精細な高速撮像が可能となり,機能イメージングや代謝物イメージングのルーチンでの適応も実現の可能性が見えてきた。
さらに,トータルワークフローを改善した「WIT(Workflow Integrated Technology)」により,使い勝手やスループットの向上が図られている。WIT RF Coil systemは,寝台に常時据え置き可能なSpineコイルとWIT Posterior Head/Neckコイルを基本に,各部位はアタッチメントの交換のみで撮像可能で,セッティング時間を短縮することができる。また,着脱可能で50cmの高さまで下げることができるWIT Mobile Tableや,被検者情報をガントリ全面のモニタで確認・編集できるWIT Monitorなどにより,患者・操作者両方の負担が軽減し,検査全体のワークフローの最適化が可能になる。
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●2014
●MRI:国内導入が始まった3T装置や,1.5T「ECHELON RX」の新バージョンを紹介
2013年に,3T MRI装置「TRILLIUM OVAL」がラインナップに加わったことで,永久磁石型オープンタイプから高磁場超電導装置までフルラインナップとなった日立のMRIは,累計出荷台数6600台,78か国で稼働している。日立の特徴でもあるペイシェントフレンドリーなオープンMRIも,1994年の0.3T装置「AIRIS」の誕生から20周年を迎え,ブースの一角にはその歴史を振り返るコーナーも設置された。
縦74cm×横65cmの楕円形ボアを持つTRILLIUM OVALは,モックアップが展示され,来場者は開放的な検査空間やポジショニングのしやすさを実際に確かめていた。3Tでは原理的にRF照射不均一による画像ムラが生じやすいが,TRILLIUM OVALにはこれを均一化するために独自RFシミング技術“QUARTET”を搭載した。Blink Scanにより高速にRF照射分布を取得し,4ch-4port独立してRF照射波形を制御することで,ムラのない画像を取得できる。国内での導入がスタートしており,ブースでは全領域の臨床画像も展示された。
1.5T MRI装置「ECHELON RX」は,新しいシステムソフトウエア「ORIGIN4」を搭載した新バージョンが紹介された。ORIGIN4により,狭窄などによる血行動態変化の視認性向上を図る“BeamSat TOF”や下肢非造影MRA“VASC-FSE”,磁化率変化に強い脂肪抑制“FatSep”などの新しいアプリケーションが搭載可能となり,臨床的有用性がさらに向上した。既設装置のバージョンアップにも対応する。ECHELON RXは,最小設置スペースが23m2で,従来のオープンMRIからの入れ替えも可能な高い設置性や,頭部コイルや脊椎コイルを寝台に設置したまま他部位を撮像できるワークフローの良さも特徴となっている。
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●2015
● DKIや乳房MRSなど高機能アプリケーションを実装した「ECHELON OVAL type ORIGIN 5」を発表
MRIコーナーには,3T超電導MRIシステム「TRILLIUM OVAL」の実機を展示するとともに,ITEM開幕直前にリリースされた1.5T超電導MRIシステム「ECHELON OVAL type ORIGIN 5」をアピールした。2012年発売のECHELON OVAL,2013年発売のTRILLIUM OVALは共に,日立独自の技術により世界で初めて開発された楕円形の傾斜磁場コイルを採用したMRI装置。横74cm×縦65cmの楕円形ボア,幅63cmのワイドテーブルにより,体格の大きな被検者やオフセットでの撮像が可能になることが大きな特長である。傾斜磁場コイルが楕円形でありながら,高画質で均一性の高い画像を得ることが可能である。
新しいシステムソフトウエアが搭載されたECHELON OVAL type ORIGIN 5には,臨床での有用性が高い高機能アプリケーションが実装された。日立が,DWI,DTIに続く第三世代のディフュージョンと位置づけている“DKI”は,従来のディフュージョンが正規分布による自由拡散を前提に分子拡散を解析しているのに対し,制限拡散を前提として,神経組織や細胞組織によって制限を受けている分子拡散の実際を反映した画像を得ることができる。すでに,パーキンソン病の鑑別への有効性などの論文も発表されるなど,これまで得られなかった画像により臨床に新しい価値が提供されることが期待される。
また,特定の血管にプレサチュレーションパルスを選択的に打つことで,血流信号を消すことができるselective MRA“BeamSat TOF”が,従来の頭部領域に加え,腹部血管へも適用可能となった。肝硬変患者などの門脈の血行評価に利用でき,従来の造影検査に比べ,侵襲なく,容易に検査することができる。
腹部領域から始まった体動低減機能RADARは,MRAへも適用が可能になり,“all round RADAR”としてECHELON OVAL type ORIGIN 5に実装された。救急で痙攣している患者でも動きを低減した頭部MRAを得ることができ,診断に役立つ可能性がある。
現在,日立が最も注力しているアプリケーションの一つがコンソール上で解析できるMRSであるが,今回,従来の頭部に加え乳房のMRSも可能になった。この機能は,“ワンクリック計測,ワンクリック解析”と呼ばれ,ボタン一つで簡単にMRS解析ができる。微量代謝物であるコリン(Cho)の信号を解析することで,化学療法の治療効果判定などに活用できる可能性がある。
なお,システムソフトウエアをバージョンアップすることで,既設装置でもこれらの高機能アプリケーションを使用することができる。この4月に発売されたのは,1.5TのECHELON OVALであるが,将来的には3T装置にも提供される予定である。
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●2016
● “ORIGIN5”を「TRILLIUM OVAL」に実装し,「ECHELON OVAL」では静音化技術が実用化
MRIでは,昨2015年に1.5T MRI「ECHELON OVAL」に搭載された新しいシステムソフトウエア“ORIGIN5”が,3T MRI「TRILLIUM OVAL」にも実装可能になったことが発表された。ORIGIN5は,信号取得から画像再構成処理までのすべての工程でノイズ低減処理を最適化する新画像再構成エンジン「REALISE」を搭載。これにより,従来と同時間撮像での高画質化,また,同空間分解能の画像取得を短時間化することが可能になる。高機能アプリケーションも数多く搭載し,脳の微細構造情報を得ることで神経変性疾患の早期鑑別などに役立つDKIや,脳神経領域において実用化していたMRSが乳房にも適用可能となっている。会場では,TRILLIUM OVALのモックアップとともに,新しく発売された従来の約2倍の感度を持つ頭部用32ch高感度受信コイルを展示。ORIGIN5と組み合わせ,高精細・高速撮像を実現するシステムとしてアピールした。
1.5T装置であるECHELON OVALについては,4月から静音化技術の搭載が可能になったことをアピールした。静音化技術は各社が発表しているが,日立の静音化技術は,従来と画質,検査時間をほぼ変えずに音圧をおよそ1/10に低減できることが特長である。この静音化技術を来場者に伝えるため,ブースの一角にはVR(virtual reality)を使った体験コーナーを設置。来場者が次々に静音化技術による効果と,OVALシリーズの特長である横74cm×縦65cmのオーバルボアを疑似体験した。
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●2017
● 快適性や経済性に配慮した1.5T超電導MRIシステム「ECHELON Smart」を国内初展示
MRIは,新製品の1.5T超電導MRIシステム「ECHELON Smart」が展示された。ECHELON Smartは,画質,スピード,快適性,エコロジー,設置性に特長を持つシステム。中でも特徴的なのが,撮像音を最大94%低減する静音化技術“SmartCOMFORT”の搭載で,撮像時間と画質を従来と変えることなく静音化を実現した。脳ドックで撮像される画像(T1強調画像,T2強調画像,T2*強調画像, FLAIR画像,MRA)に適用でき,モーションアーチファクト低減技術“RADAR”も併用可能である。また,高速ADコンバータを搭載し,ノイズ低減処理の最適化によるSNR向上,そしてRFシステム,グラディエントシステムのパフォーマンス向上により高画質化・高速撮像を可能にした。撮像時間は,頭部のDWI,FLAIR画像,T2強調画像,MARで約3分半,T1強調画像,T2*強調画像,頸部MRAを加えても約7分で検査を完了でき,静かな環境で短時間の頭部検査を提供する。ブースでは,SmartCOMFORTを体感できるVR体験コーナーも設けられた。
また,経済性や設置性の向上も図っている。“SmartECO”コンセプトとしては,液体ヘリウムを消費しないゼロボイルオフに加え,超電導状態を維持するための冷却装置を一定時間停止する省エネモードを搭載し,消費電力をMRI本体だけで17%低減。さらに,チラーや機械室の放熱量が低減することや電源容量を29kVAまで下げたことで,全体の消費電力低減につながる。MRIと機械室電源ユニット間のケーブルを延長したことで,自由度の高いレイアウトが可能になった“SmartSPACE”も大きな特長である。永久磁石型オープンMRIから超電導MRIへのリプレイスではスペースの確保が課題となる場合が多いが,ECHELON Smartの機械室は,検査室の隣室に限らず廊下を挟んだ離れた場所にも設置することができ,自由度の高い設計が可能となる。会場では,3パターンのレイアウト例を,ホログラム映像を用いて紹介していた。
ECHELON Smartはワークフローを簡略化することでスループットの向上も図っており,受信コイルは頭部用と脊椎用を常時据え置きのまま検査を行え,腹部用や関節用コイルは被検者に載せたり,巻き付けたりするだけで簡単にセッティングできる。新しく整形領域用の多目的コイルに8チャンネルコイルが追加されたことで,xyzの3断面でパラレルイメージングが可能になり,入室から退室までのトータルな検査時間のさらなる短縮に貢献する。
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●2018
●ECHELON SmartとTRILLIUM OVALの臨床活用の広がりをアピール
MRIシステムは,1.5T超電導MRI「ECHELON Smart」と3T超電導MRI「TRILLIUM OVAL」の2台を実機展示した。
ECHELON Smartは,画質,スピード,快適性,エコロジー,設置性が特長のシステムである。撮像音を最大94%低減する静音化や,オープンMRIからのリプレイスも可能な設置性が高く評価され,発売から約1年で世界販売台数58台となっている。静音化技術“SmartCOMFORT”はDWIにも適用可能となり,頭部ルーチン検査では,プリスキャンも含め静かな環境での検査を提供する。なお,SmartCOMFORTでは体動補正技術“RADAR”も併用が可能となっている。位置決めサポート機能“AutoPose”も搭載されており,例えば脳梗塞症例における発症後数時間の超急性期と数日後の亜急性期の画像を比較する場合にも,まったく同じ断面での比較が可能である。臨床画像の展示では,1回の脂肪抑制法FatSep撮像で,T2強調画像,またはT1強調画像と脂肪抑制画像のマルチコントラストを得る使い方を,撮像時間を短縮させる工夫として紹介した。
2013年に発売され,全国7大学をはじめ多くの施設で稼働しているTRILLIUM OVALは,臨床での使用経験が積み重ねられている。ブースでは,実機の展示とともに,さまざまな部位の臨床画像も供覧された。4ch-4portで独立制御可能なRF照射コイルによる高いRF均一性に加え,医師からの助言を得てアプリケーションのチューニングを行うことで,頭部や整形領域だけでなく,腹部,前立腺,乳腺など全身領域で使いやすい装置となっている。また,ECHELON OVAL(1.5T)においては,金属アーチファクト低減技術HiMARの搭載が可能になり,人工関節症例など整形領域における使いやすさが向上した。
●2019
●3T MRI「TRILLIUM OVAL Cattleya」と1.5T超電導MRI「ECHELON Smart Plus」を披露
MRIは,高機能アプリケーションを多数搭載した3T超電導MRIの「TRILLIUM OVAL Cattleya」と,新製品の1.5T超電導MRI「ECHELON Smart Plus」のモックアップが展示された。
新しくリリースされたECHELON Smart Plusは,“検査全体のスループット向上”をコンセプトに開発された,「ECHELON Smart」の後継機種。高速化と自動化のソリューション“SynergyDrive”により,被検者の入室から退室,後処理までのMRI検査全体の時間を短縮する。高速化においては,高速撮像技術“IP-RAPID”が実装された。IP-RAPIDは,アンダーサンプリングによるデータ収集と繰り返し再構成(IterativeProcess)による最適化・融合で,画質を維持しながら撮像時間を短縮することが可能で,撮像時間を約50%短縮しても,従来と同等の画像を得ることができる。被検者の負担を軽減できることはもちろん,救急においては頭部のスクリーニング(T2WI,T1WI,FLAIR,T2*WI,DWI,MRA)を約4分で撮像できるなど有用性が高い。IP-RAPIDは時間短縮だけでなく,従来と同等の撮像時間での分解能向上や,より広範囲の撮像に利用することもできる。ブースでは,マルチコントラスト(FatSep T2WI+FS)と組み合わせることで,脊椎や骨盤,関節,頭頸部などを5分程度で撮像するシーケンスや,広範囲DWIや同期併用も可能といった利点を紹介し,ルーチン検査を高速化,高画質化する装置であることをアピールした。
また,自動化においては,さまざまな操作を1アクションで自動化する“AutoExam”により時間短縮を図る。“AutoPose”による自動位置決めや,MRA撮像後に自動でクリッピング処理を行う“AutoClip”により,撮像から後処理,転送までの工程の自動化を進めることで,操作者の手間を軽減し,検査全体のスループット向上に貢献する。
TRILLIUM OVAL Cattleyaは,楕円形ボアを搭載した「TRILLIUM OVAL」のハードウエアの特長はそのままに,臨床価値を高める多数の高機能アプリケーションが搭載された。“QSM”は,従来の磁化率画像が磁化率“強調”画像であるのに対し,局所的な磁化率差を推定して磁化率を“定量化”する技術としてアピールされた。反磁性の石灰化と常磁性の出血を鑑別できるほか,脳への鉄沈着も画像化できることから認知症の早期診断への応用も期待されている。このほか,高速3D撮像シーケンスである“isoFSE”や,コントラスト調整が可能な“isoDIR”,フローアーチファクトを抑制し明瞭なプラークイメージングを実現する“isoMSDE”など,最新アプリケーションが実装されている。
●2021
●「ECHELON Smart Plus」が進化し,さらなる高速化・自動化を実現
ITEM開幕前日の2021年4月15日に,1.5T超電導MRI「ECHELON Smart Plus」の新バージョンが発売された。高速化と自動化のソリューションSynergyDriveが進化し,さらなる検査時間の短縮と高画質化を実現している。その要となるのが,高速撮像機能“IP-RAPID 2nd”と高画質化ソリューション“REALISE Plus”だ。IP-RAPIDは,アンダーサンプリングと繰り返し演算IPにより画質を維持したままノイズを低減し,撮像時間を短縮する機能。これまで3DはTOF-MRAのみに適用可能であったが,IP-RAPID 2ndではほかの3D撮像やコントラスト調整が可能な“isoDIR”など,適用範囲を拡大した。一方,REALISE Plusは,コイルの感度分布を踏まえた再構成など,複数のノイズ低減方法を組み合わせることでSNRを最大46%向上させることが可能な,IP-RAPID向けのノイズ低減技術である。IP-RAPIDは,画質を維持したまま撮像時間を約半分に短縮できるが,REALISE Plusを併用することで,画質を維持したまま約1/3に撮像時間を短縮することが可能になる。
展示では“Plus One”をキーワードに,IP-RAPID 2ndとREALISE Plusにより撮像時間を短縮し,従来と同じ検査時間で高精細3DやBSI(磁化率強調画像)などシーケンスを1つ追加する“Plus One Scan”を提案した。また,シーケンス追加以外にも,自由呼吸下での腹部撮像や全脊椎撮像,全身DWI,高分解能化など,より診断価値を高める検査への活用も紹介した。
SynergyDriveを構成するアプリケーションの一つである操作性向上機能“AutoExam”は,撮像条件設定や位置決め,画像処理,画像表示,画像保存の機能を登録することで,ワンボタンで自動的に検査を行える機能で,特に手間のかかるMRAのクリッピング処理を自動で行う“AutoClip”は,臨床現場から高い評価を得ている。これまでAutoExamは頭部のみだったが,バージョンアップにより位置決めが難しい膝関節もワンボタンでの検査実施が可能になった。また,自動位置決めの“AutoPose”が肩関節にも適用可能になり,検査現場に“余裕をPlus”できることをアピールした。
会場では,ECHELON Smart Plusのモックアップを,MRI用ボア内映像投影システム「Smart Theatre」と組み合わせて展示した。Smart Theatreは,プロジェクターと鏡を使用し,プロジェクションマッピングの技術を用いてボア内上面にひずみのない映像を投影するシステムで,閉鎖性の高いMRI検査の環境を改善し,被検者がリラックスして検査を受けられるようにサポートする。空や海などの映像のほか,残りの撮像時間などのインフォメーションも表示でき,映像とリンクしたBGMの提供も可能。これまではプロジェクターを検査室外に設置するため工事が必要だったが,プロジェクターをノイズシールドされた本体ケースに内蔵することで,検査室内への設置を実現。工事が不要になることで,既存ユーザーへも提供が可能になった。なお,室内設置型のSmart TheatreはオープンMRIへの提供も開始している。また,MRI検査室内映像システム「Smart Window」は,検査室の壁に動画を投影するシステム。投影された光が入退室する患者に直接当たらないように,プロジェクターを高い位置に設置し,プロジェクションマッピング技術によりひずみのない映像を壁に投影する。撮像中も映像を表示できるため,頭部がガントリの外に出ている整形の検査などでは検査中の不安感を緩和できると期待される。
●2022
●“REiLI”など富士フイルムとのシナジーを生かした1.5T MRIのECHELON Smart Plus
MRIでは,検査自動化ソリューションであるSynergyDriveや高速撮像技術“IP-RAPID”を搭載した1.5T MRI「ECHELON Smart Plus」を展示した。ハードウエアの特徴として,顔の前面部分の覆いをなくしたオープンヘッドコイルと,MRIボア内映像投影システム「Smart Theatre」を紹介した。通常のヘッドコイルでは頭部全体をカバーするため顔の前面部分に覆い被さるような形状となっているが,閉所が苦手な被検者にとっては圧迫感を感じる要因にもなっていた。ECHELON Smart Plusのオープンヘッドコイルは,前面を開放したオープンなデザインになっているにもかかわらず,信号の受信強度は通常と変わらない性能を維持している。また,前面の覆いがなくなったことで,円背の患者や救急などで挿管された状態での検査も容易になる。Smart Theatreは,海や空などの開放感のある映像をボア内に投影することで,検査環境を向上するシステムだ。富士フイルムヘルスケアのSmart Theatreは,投影用のプロジェクタを検査室内に設置できることから大がかりな工事が不要で,また,ゴーグルなどを使わずにボア内に直接投影することで,開放感を損なわない運用ができることが特徴だ。プロジェクションマッピング技術を用いることで,ボア内でもひずみのない映像が投影できる。投影方法も,検査中に直接視聴できるボア内上部と,検査前にボアの側面に投影して心理的な圧迫感を避けるなどさまざまなスタイルで利用できる。
また,画像面では,今回,新たに富士フイルムの3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」の中から,放射線科領域向けの解析機能に特化したソフトウエア「SYNAPSE VINCENT Core」をリリースし,富士フイルムヘルスケアのCT,MRIと接続する端末で使用することができる。SYNAPSE VINCENT Coreでは,自動臓器認識機能を利用でき撮影後にすぐに各種の解析と3D画像の作成ができるほか,基本的な解析機能に加えて,MRIでは拡散強調画像からテンソル解析などの機能を利用できる(オプション)。
さらに,高速化,高画質化,自動化を実現するSynergyDriveは,富士フイルムのREiLIの下でさまざまな機能や解析が強化された。高画質化および高速化では“REALISE Plus”によって従来よりもSNRを最大で46%向上した。これによって,従来と同じ画質であれば時間短縮も可能あり,その時間を3D-GEIRやBPASなどシーケンスの追加が可能になることを紹介した。また,操作性向上機能の“Auto Exam”は頭部でのMRAの自動クリッピング処理“AutoClip”や膝関節の自動撮像など領域が広がっていることを紹介した。自動位置決めは精度が良いところをアピールした。
●2023
●AI技術を活用して画質やワークフロー向上を図った1.5T WideボアMRIの新製品「ECHELON Synergy」を展示
多くの新製品が並んだブースの中で,MRIコーナーではITEM直前の3月27日に発売された1.5T超電導型MRI「ECHELON Synergy」が大きな注目を集めた。ワールドワイドでは,昨年,米国・シカゴで開催されたRSNA 2022において一足先にお披露目されていたが,国内では初展示となった。ECHELON Synergyは,コイルや映像投影システムなどオープンMRIでの患者ファーストの検査環境や検査効率を追求してきた富士フイルムヘルスケアのコンセプトと,富士フイルムのメディカルAIブランド「REiLI」のもとで開発された「Synergy DLR」などが融合した製品であり,富士フイルムグループとしてのシナジーが生んだMRIと言えるだろう。
ECHELON Synergyでは,ガントリの両サイドに設置された「ガントリーモニター」が目を引く。このガントリーモニターはタッチパネルになっており,表示された患者情報や検査内容などを確認してワンタップで検査がスタートできる。AI技術を用いて開発されたワークフロー向上技術「SynergyDrive」によって,寝台の中央移動,撮像中心決定が自動で行われ,操作者が検査室を出ると自動的にMRI検査がスタートする。さらにスキャン後の頭部MRAのクリッピングまでを自動で実行できMRI検査のワークフローを効率化できることを紹介した。また,ECHELON Synergyでは,ユニークな受信コイルも話題となった。頭頸部用受信コイル(FlexFit Neuro Coil)は,これまで複数に分かれていたコイルのパーツを一体化し,頭頂部のレバーをスライドさせると頭部側と首側のコイルが連動して動き,頭頸部全体をカバーしてセッティングできる。補助スポンジなどを用いずにベルトによって調整でき簡単に最適なフィッティングが可能だ。また,腹部用受信コイル(FlexFit Wide Coil)は54.5cmx72cmの大きさで,身体に密着できる柔らかい素材が採用されており,巻き付けてセッティングすることで感度の向上が期待できるほか,縦置き,横置きどちらでの使用も可能で広範囲をカバーできるのも特徴だ。また,画質の向上ではアンダーサンプリングと繰り返し演算処理を行う高速撮像法「IP-RAPID」と,新たに開発されたノイズ除去技術であるSynergy DLRによって,より短い撮像時間で高画質画像を取得することが可能になった。IP-RAPID,Synergy DLRとも撮影部位やコントラストを問わずに適用が可能でMRI検査の可能性を大きく広げるものだ。
そして,ECHELON Synergyの展示で来場者の目を引いていたのが,富士フイルムヘルスケアが力を注いできたMRIボア内映像投影システム「Smart Theatre」の新機能だ。Smart Theatreは,ボア内に映像を投影することで被検者の圧迫感や検査への不安を軽減するソリューションだが,あらかじめ用意されたコンテンツだけでなく,任意の映像が投影できるようにバージョンアップされた。これによって,例えば小児の検査などで操作室の母親の映像を投影することも可能で,検査を受ける子どもが安心できるような使い方が可能になるなど,さまざまな可能性が広がることをアピールした。
●2024
●完全ゼロヘリウムの1.5T超電導MRIやAI技術でモーションアーチファクトを除去するStillShotを紹介
MRIコーナーで大きくフィーチャーされたECHELON Smart ZeroHeliumは,独自の冷却機構によって完全ゼロヘリウムを実現した。MRI装置では,超電導状態を維持するため磁石を極低温(−269℃)に保つ必要があり,冷却媒体として液体ヘリウムが使用されている。液体ヘリウムは,気化すると700倍に膨張することからトラブル発生時の安全対策としてヘリウムガスを屋外に排出するための排気管の設置が必要となる。これによって,設置場所が制限されるほか,MRI装置の設置の際にも慎重な扱いが求められる。また,吸着事故などで磁場を落とした場合には専門のサービス員による復旧作業が必要で,2日以上のダウンタイムが発生する。さらに天然資源である液体ヘリウムは産出量が少なく,産出国も全世界で7か国と限られており調達や安定供給が難しい状況にあるのが現状だ。
ECHELON Smart ZeroHeliumでは,磁石を熱伝導率の高い金属で囲んで冷凍機による極低温を効率良く伝えることで冷却して液体ヘリウムを使わずに超電導状態を維持する機構を開発した。液体ヘリウムをまったく使わないことで,排気管などの設備が必要なく高層ビルなどこれまで設置の難しかった場所にも設置が可能になる。また,吸着事故などのトラブル時にはユーザー自身による復旧作業が可能で,装置のダウンタイムを削減して安定稼働が可能になる。
ECHELON Synergyには,新たに被検者の体動を検知する「Synergy Vision」が搭載された。Synergy Visionでは,ボア内に設置した2つのAIカメラで被検者の状態をモニタリングして,被検者の体動を検知する。体動があると通知音と画面表示で検査者に通知するほか,画像データにモーションアーチファクトが確認された場合,「StillShot」を利用して画像を改善できる。StillShotでは,Synergy Visionと連動して体動の影響のあるデータを除去し,画像再構成することでアーチファクトを抑制した画像を提供できる。体動を原因とするモーションアーチファクトの発生率は50%程度あると言われており,その多くが再撮像となりMRI検査のスループットに影響している。Synergy VisionとVisual StillShotによってモーションアーチファクトを検知して,その場で対応したり画像再構成で画像を改善することで,再撮像の頻度の低減が期待される。StillShotは,T1,T2,FLAIRをはじめ,3D画像を含めたあらゆる画像種で使用可能となっている。そのほかにもSeriesSaveでは,検査を中断した場合にそれまでの撮像データから繰り返し演算処理を行うことでデータ補完して画像を提供することができる。
また,AI技術を活用して新たに開発したノイズ除去技術「Synergy DLR」をバージョンアップして,トランケーションアーチファクトの低減や画像尖鋭度の向上を図った。画像種を問わず適用が可能で,高速撮像法「IP-RAPID」や体動アーチファクトを抑制する機能「RADAR」との併用も可能となっている。