R & D Interview 
第1回 1.5T MRI「ECHELON Synergy」受信コイル
臨床現場の声を取り入れセッティングが容易で高感度の頭頸部・腹部コイルを開発

2023-5-25


開発者へのインタビュー

千葉県柏市にある富士フイルムヘルスケア(株)柏事業所では,MRIの開発や製造が行われています。読者の皆さまは普段,完成したMRI装置しか目にすることがないと思いますが,診療放射線技師として20年間,病院勤務をしていた私も,皆さまと同じでした。しかし,富士フイルムヘルスケアに入社して,工場の開発者の方々と一緒に仕事をする機会もあり,医療機器を世に出すためにはさまざまな苦労の連続,また,熱い思いが込められていることを知りました。“縁の下の力持ち”である彼らを皆さまにも知っていただきたいと思い,今回から新たに「なかなか聞けない!開発者へのインタビュー」のシリーズを企画しました。
シリーズ第1回では,2023年3月27日に発売された,1.5T超電導型MRI装置の新たなラインアップである「ECHELON Synergy」のユニークな受信コイルを取り上げます。受信コイルの開発者である加藤和之さんと新井浩一さんにお話を伺いました。

(インタビュアー・文責 富士フイルムヘルスケア(株)ビジネス推進部 京谷勉輔)

 

加藤和之さん 富士フイルムヘルスケア(株) MS部 MX開発グループ RF設計チーム 研究マネージャー

加藤和之さん
富士フイルムヘルスケア(株)
MS部 MX開発グループ RF設計チーム 研究マネージャー

新井浩一さん 富士フイルムヘルスケア(株) MS部 MX開発グループ RF設計チーム

新井浩一さん
富士フイルムヘルスケア(株)
MS部 MX開発グループ RF設計チーム

 

インタビュアー

インタビュアー

 

臨床でMRIを操作する技師の視点を重視

─はじめに,これまでの経歴を含めて自己紹介をお願いします。

加藤:私は,この会社に入社する前に約10年間,診療放射線技師として病院に勤務していました。その後,この会社に入社してアプリケーショニストとして経験を積み,現在の開発に携わる仕事をしています。

新井:大学時代からNMRの研究をしており,その縁があって,この会社に入社してきました。入社当初,3T MRIの要素開発としてRF照射コイルの評価を担当しており,その経験を買われて現在の受信コイルの開発に携わるようになりました。

─加藤さんは,診療放射線技師として病院に勤務されていたとのことですが,工場内での開発に臨床経験が生かされている部分はあるのでしょうか。

加藤:そうですね。私は,臨床現場で使用していただく技師視点を常に大切にしていますので,同じグループ内でも技師視点の重要性を共有しています。そういう意味においては,臨床経験を生かしながら仕事をしていると言えますね。

多くの被検者にフィットする高感度なコイルをめざして

─今回発売されたECHELON Synergyでは,ユニークな形状の頭頸部受信コイルや,軽量かつ柔らかい素材の腹部受信コイルなど特徴的な受信コイルが搭載されていますが,どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。コンセプトも含めて教えてください。

加藤:MRI撮像は,受信コイルを被写体に密着した方が高い信号ノイズ比(SNR)が期待できるので,さまざまな部位や被検者の体格に対応する密着型受信コイルをめざし,2017年に富士フイルムヘルスケア(株)革新技術研究所(革新研)のメンバーとともに開発を開始しました。開発初期から技師,デザイナー,研究者,設計者がタッグを組んで,有用なコイルとは何かということを,ウエアラブルなタイプも含めて検討し,臨床現場の技師にヒアリングしながら追求しました。

─今回のコイル開発に当たり,臨床現場の技師の意見も含まれているのですね。開発の構想から製品化に至るまでに実にさまざまな苦悩があったかと思います。特に頭頸部受信コイルは,初めて目にするユニークな形状をしていますが,このような形状に至った経緯を教えてください。

新井:受信コイルの開発で重要なポイントは,より多くの被検者が使用可能であり,臨床に有益な画質となるように感度やエレメントの配置を調整することです。頭頸部用受信コイルのこれまでの課題として,リジット(外装が硬い)タイプのコイルでは多くの方が入るサイズで設計する半面,前額面側に大きなスペースが生じていました。また,頭部撮像は被検者の小さな動きでも画質に影響を与えるため,しっかりとした固定が必要ですが,固定具や補助スポンジなどを使用すると被検者セッティングに時間を要すことになります。これらの課題を解決するために,感度,使い勝手,被検者固定のすべてをクリアすることを追求した結果,このような形状となりました。

技師と被検者に負担の少ないMRI検査を可能にする工夫

─頭頸部受信コイルを頭部に密着させるというのは,斬新な発想ですね。加藤さんは病院勤務の経験を踏まえ,どのような思いで開発に当たりましたか。

加藤:頭頸部受信コイルにおいては,臨床現場での経験から,MRI検査は被検者固定が重要であることは理解しており,また,きれいな画質を取得している施設ほど,固定に時間をかけていることもわかっていました。ここにかけている時間と手間を改善できれば,喜ばれるコイルになると強く信じ,ワンアクション,もしくはツーアクションで頭部の固定ができるような受信コイルの開発を心がけました。また,前頭部とコイルの隙間を埋めることができれば,頭頸部受信コイルとしてのブレークスルーが生まれるのではないかという思いがありました。そもそもわれわれは,「装置を売っているのではなく,画像を売っているのだ」という気持ちで開発に携わっています。

─「装置を売っているのではなく,画像を売っているのだ」という思いは頼もしいですね。頭頸部受信コイルの密着により信号ノイズ比の向上は期待できると思いますが,閉所恐怖症の被検者などは,密着を嫌う方もいると思います。何か対策として考えていますか。

新井:このコイルは,前側のお面を頭頂側から近づけてかぶせていくコイルとなっています。密着することでコイルは視野に入りにくくなるのですが,圧迫感が気になる方では,例えば,マスク部を顔にかぶせず,視界を遮らない状態(Open Head)でも撮像は可能です(図1)。

—昨今の事情から感染対策も重要だと思います。感染対策などを考えた際,コイルの清掃がやりづらそうですが,そのあたりの対応はどうでしょうか。

新井:この件に関しては,技師からのヒアリングでも多数のご意見をいただきました。それを受けて,アルコール耐性がある素材の使用を推進しました。

─従来の頭頸部用受信コイルと比較すると,今回の新しい受信コイルは可動域が大きいので故障のリスクも心配されますが,そのあたりはいかがでしょうか。

新井:通常,受信コイルの耐用年数を想定して反復操作の信頼性試験を行うのですが,今回の頭頸部用受信コイルでは,その3倍の信頼性試験を実施し,通常使用に耐えることを確認しています。

頭頸部用受信コイル

(1) セッティング前のコイルが開いた状態
(2) 頭頂部のレバー()をスライドすると頭部と頸部を包み込むようにコイルが閉じる
(3) コイルが閉じた状態
(4) ベルトを引くことで,よりしっかりした固定が完了する。固定具や補助スポンジは不要で,簡単・迅速にセッティングを行える。

 

図1 頭頸部受信コイルの通常例と半かぶり例

図1 頭頸部受信コイルの通常例と半かぶり例

 

広範囲を撮像できる腹部コイルはフレキシブルに利用可能

─次に腹部用受信コイルについてですが,どのくらいの大きさがあるのでしょうか。

加藤:標準搭載の腹部コイルの縦横の大きさは,54.5cm×72cmです。これまでのコイルと比較し,サイズが大きくなっていますが重量は軽くなっており,コイルの表面は柔らかい素材を採用していることから,扱いやすいコイルとなっています。

─比較的大きな腹部用受信コイルサイズだと思いますが,なぜ,この大きさになったのでしょうか。経緯を教えてください。

新井:欧米でレビューした際に,欧米人の体格でも巻き付けられることが側面の感度を保つ上で重要であるというご意見をいただき,現在のような大きさになりました。また,開発当初から縦置き,横置きが可能なコイルを想定していました。縦置きにして使用することで,日本人の体格に対しては,頭頸部用コイル,腹部用コイル,Spineコイルの3つの標準コイルで頭部~骨盤までの広範囲をカバーすることが可能になります(図2)。

腹部用受信コイル

(1) 縦置きにすることで体幹部の広い範囲をカバーできる
(2) 軽量で柔らかい素材で作られており,巻きつけるようにセッティング可能

 

図2 腹部用受信コイルの横置き,縦置きの使用例

図2 腹部用受信コイルの横置き,縦置きの使用例

 

─体格差に応じて使い分けができる,フレキシビリティの高いコイルのようですね。さまざまな工夫が施された新開発の受信コイルが,臨床現場で活用されることが期待されます。このたびは,受信コイルの開発における思いを熱く語っていただき,ありがとうございました。今後も技師視点に立った開発をお願いします。

販売名:MRイメージング装置 ECHELON Synergy
医療機器認証番号:305ABBZX00004000

*ECHELON Synergyは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。

 

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