FEATURE
待望の新型MRI「ECHELON Synergy」登場
技術解説
ワイドボア1.5T超電導型MRIシステム「ECHELON Synergy」
AI技術を活用してMRI検査のワークフローを効率化し,検査時間の大幅な短縮を実現
2023-5-25
図1 1.5T超電導型MRIシステムECHELON Synergyの外観
富士フイルムヘルスケアは,MRIシステムの新しいモデルとして,70cmの開口径を持つワイドボア1.5T*1超電導型MRIシステム「ECHELON Synergy(エシェロン シナジー)」*2(図1)を2023年3月27日に発売し,4月14日〜16日にパシフィコ横浜 (神奈川県横浜市) で開催された「2023国際医用画像総合展(ITEM 2023)」に出展しました。
ECHELON Synergyは,撮像時に断層画像の位置・角度の自動設定が可能な機能やノイズ除去技術など,人工知能(AI)技術*3を活用した機能・技術を搭載したMRIシステムで,検査ワークフローの効率化と検査時間の大幅な短縮が期待できます。本稿では,特徴的な3つの機能と,新しく臨床現場にご提案したい3つのアプリケーションについて解説します。
ECHELON Synergyの3つの特徴
1.「ワンタップ」で撮像の実行をアシストするさまざまな機能
撮像目的部位を磁場中心に移動するために,これまでは被検者に対してガントリ手前でライトローカライザーを照射し,磁場中心へ寝台を送り出していましたが,ECHELON Synergyは,ワンタップで撮像の実行をアシストするさまざまな機能を搭載しています。ガントリ前面に備えられたタッチパネルのスタートボタンで本機能を起動するだけで,寝台を装置内に移動でき,さらには磁場の中心で対象部位をスキャンできるように寝台の位置を自動的に調整します。
また,撮像時には,AI技術を活用したスライスライン設定サポート機能により,取得する断層画像の位置・角度を自動で設定することが可能*4で,さらには,頭部MRAのクリッピング画像を自動で作成することができる*5など,スキャン後の画像処理まで自動で実行するため,MRI検査のワークフローの効率化が期待できます(図2)。
2.簡単なスライド操作でセッティング可能な受信コイル
これまで複数のパーツに分かれていた頭頸部用受信コイルを一体化し,アタッチメント交換が不要な一体型頭頸部コイル「FlexFit Neuroコイル」を新たに開発しました。頭頂部のレバーをスライドさせると,頭部側のコイルと連動してクッションが付いた首側のコイルも動き,被検者の頭部形状にフィットしたセッティングが可能です(図3)。このセッティングにより,従来の「WIT Posterior Head/Neckコイル」と「WIT Anterior Headアタッチメント」を組み合わせた撮像に比べて,信号ノイズ比(SNR)の向上が期待できます(図4)。また,被検者の頭部を固定するための追加のパッドなどを挿入することなく,備え付けのベルトを操作するだけで,頭部を固定できるので,従来よりも頭頸部のセッティングの簡便化が期待できます。
3.短いスキャン時間でも高画質な画像を取得できる画像処理技術
MR画像のスキャン時間と画質はトレードオフの関係にあり,高画質な画像を得るためにはスキャン時間を長くする必要があります。ECHELON Synergyは,繰り返し演算処理を行う独自の高速撮像法「IP-RAPID」と,AI技術を活用して新たに開発したノイズ除去技術「Synergy DLR」を組み合わせることで,より短時間で高画質な画像の取得が期待できます(図5,6)。
Synergy DLRは,すべての2Dのシーケンスおよび3Dのシーケンスに適用することが可能です。また,静音化機能「Soft Sound」を併用することで被検者のストレスを軽減して動きを抑え,アーチファクトを抑制した画像を得ることが可能になります。
臨床現場にご提案したい3つのアプリケーション
1.HiMAR Plus(磁化率アーチファクト低減技術)
体内に金属インプラントがある被検者を撮像する場合,磁化率アーチファクトにより,インプラント付近の信号が欠損したり,画像に歪みが生じることが知られています。今回,MRI向けに新しく開発された「HiMAR Plus」は,異なる周波数帯域で励起および受信した信号から得られる複数の画像を合成し,アーチファクトを抑制する技術です。この技術により,従来のfast spin echo法よりも磁化率アーチファクトの低減が期待できます(図7)。
2.Multiphase ASL(非造影灌流撮像)
Multiphase ASLは,血流信号を飽和させた画像と血流信号を飽和させていない画像を差分することで,PLD(post labeling delay)によらず,従来のASL-perfusionよりも背景信号を抑制した画像を得ることができる撮像技術です。この技術を利用することにより,複数の異なるPLDの灌流画像を取得でき,血液到達の遅れをより正確に視覚化することができるようになりました(図8)。また,vascular crusherの役割を果たす「MSDE機能」と併用することで,血管内に残存するラベルされた血液の信号を抑制することも可能です。
ECHELON Synergyで撮像した灌流画像を「SYNAPSE VINCENT Core」*6で解析することが可能です。ECHELON Synergyで取得した複数PLDの画像からATT map(arterial transit time:ラベリングされた血液の到達時間)とATTを考慮したCBF map(cerebral blood flow:脳組織の血流)を作成し,血流動態をカラー表示および数値化することで評価を容易にするmapを作成することができます(図9)。
3.Quantitative Susceptibility Mapping(定量的磁化率マッピング)
ECEHLON Synergyでは,Quantitative Susceptibility Mapping (QSM) 解析に用いる3D multi-echo RF spoiled steady state acquisition with rewound gradient echo (ME-RSSG) シーケンスで複数エコーの絶対値画像と位相画像を撮像し,外部ワークステーションに転送することができます。QSM法は,組織間の磁化率の差を画像化する方法です1),2)。QSM法で得られる磁化率マップは,鉄やデオキシヘモグロビンなどの常磁性体は高輝度に,ミエリンやカルシウムなどの反磁性体は低輝度に描出できることが知られています。
SYNAPSE VINCENT Core*6は,複数のエコー時間の絶対値画像と位相画像から,脳区域ごとの定量値を算出することができます (図10)。QSM用マルチエコーデータセットのうち,第1エコーのT1強調絶対値画像から脳区域をセグメンテーションします。さらに,マルチエコー位相画像データセットからQSMを算出します。これにより,マルチエコーデータセットから,各脳区域の形態と磁化率変化について位置ズレなく同時に評価が可能となります。
●参考文献
1)Shirai, T., et al.:Quantitative Susceptibility Mapping Using Adaptive Edge-Preserving Filtering. Proceedings of the 23rd Annual Meeting of ISMRM, Toronto, 3319, 2015.
2)Shirai, T., et al.:Quantitative Susceptibility Mapping Using Adaptive Edge-Preserving Filtering: Comparison with COSMOS in Human Brain. Proceedings of the 24th Annual Meeting of ISMRM, Singapore, 1557, 2016.
*1 被検者が入る装置開口部を大口径(ワイドボア)にし,より快適な検査空間を実現した磁場強度1.5TのMRIシステムです。
*2 ECHELON Synergyは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3 AI技術の一つであるmachine learningを用いて開発しました。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
*4 最終的に操作者が提示されたスライス位置を確認し,必要に応じて手動で調整します。
*5 自動クリッピング処理後の画像に対し,最終的に操作者が表示画面上で結果を確認し,必要に応じてMIPタスクを用いて手動クリッピング処理を行います。
*6 富士フイルムの3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」の多彩な解析機能のうち,放射線科領域向けに特化した診断ワークステーションです。
SYNAPSE,VINCENTは富士フイルム株式会社の登録商標です。
販売名:MRイメージング装置 ECHELON Synergy
医療機器認証番号:305ABBZX00004000
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
医療機器認証番号:22000BZX00238000