[腹部領域]3T MRIの全身body DWIの撮像法と有用性
落合 礼次(医療法人社団如水会 今村病院放射線科部長)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月18日(木)開催
2022-4-25
検討の背景
body DWIは全身の検査が可能で,治療効果判定や病変の検出に優れている。また,骨シンチグラフィやPET検査と比較し医療費が抑えられ,患者の費用負担も少なくすむ。特に最近では,前立腺がんの骨転移の評価法として施行されるようになった。
しかしながら,body DWIではEPI-DWIを使用するため磁化率変化の影響を受けやすく,また,病変の感度を上げるためには脂肪抑制が重要で,単一の脂肪抑制法だけでは不十分である。さらに,画像を複数取得し,結合して長尺画像を作成するため,各画像において磁場中心から離れた部分における画像歪みの影響や,輝度調整などの補正が重要である。これらを克服する必要から,3Tよりも1.5TのMRI装置の方が安定した画質を取得しやすい。
われわれは,3T MRIによるbody DWIの画質改善に取り組み,有用な検査法としたので解説する。
画質改善の検討
1.つなぎ目の対策
つなぎ目の対策ではパラメータを変更した。頭頸部領域stationの「Chemical Shift」のNormalとReverseを切り替えると,リードアウトの傾斜磁場を反転させて歪みの向きを変えることができる。画像を比較すると,Normalの方がつなぎ目の歪みが少ない画像を得られた。
また,富士フイルムヘルスケアのMRIでは,コンソール上で輝度情報を用いた補正処理が可能である。まずstation間の輝度不一致を補正した上で,オプティカルフローを利用して位置歪みを補正し,継ぎ目領域の輝度補正合成と,体軸方向の輝度ムラを補正する処理を行うことができる。オプティカルフローとは,画像中のある点や図形が次の瞬間にどの方向へ,どの程度の距離を移動するかを示すベクトルである。画像結合処理機能“Image Stitching”の位置歪み補正では,寝台を移動させ被写体の一部をオーバーラップさせた画像を取得し,寝台移動で変化した傾斜磁場の非線形性による位置歪みの対応点を検出する。検出した情報を基に,位置補正用マップ(オプティカルフロー)を作成し,磁場歪みなどによる歪みを“位置ズレ”と見なして線形補間による補正が行われる。
2.B1の工夫
3T特有のB1ムラ(RF照射の不均一)による画質低下を抑制するため,アームレストを使って腕の高さを変更しポジショニングを工夫した。また,spineコイルの巻き付け機能を使用することで,SNRの向上を実現した。
3.展開不良の対策
展開不良への対策ではパラメータを変更した。「Anti aliasing(NPW)」のSize(%)を100から150に変更することで,展開不良をFOVの外側へ移動させた。
4.モーションの対策
モーションへの対策としてパラメータを変更した。「NSA(加算回数)」を4から8へ,「スライス枚数」を67から65へ,「Multi Acquisition」を4から2へ,「TR」を4000から5099へ変更した。scan timeは3分44秒から4分21秒になったが,SNRが向上し,モーションアーチファクトを低減した画像を得られた。
5.脂肪抑制の対策
画質向上で最も重要な脂肪抑制については,2つの対策を行った。1つ目は,パラメータの「RF Duration」をNormalからLongに変更することで,簡易的に
水だけを励起し,脂肪抑制画像の画質を向上させた。一般的なSSGR法は,90°と180°パルスのスライス選択時の傾斜磁場極性を反転させて水のみを励起するが,RF Durationでは90°と180°パルスのスライス選択時に傾斜磁場強度を大幅に変更し,水だけを励起する。reverse機能を用いないため,磁場の不均一に強く,脂肪のケミカルアーチファクトの軽減に有用である。
2つ目は,パラメータの「IET」を0.74から0.87と0.61に変更した。それに伴い,「Bandwidth(kHz)」は250から333.4と166に自動変更された。異なる2つのバンド幅を用いてケミカルアーチファクトの位置をずらすと,得られた画像を加算することで水の信号は加算平均されるが,アーチファクトは位置がずれるため信号が低くなることを期待した対策である。この対策により,脂肪のケミカルアーチファクトをさらに軽減することができた。
6.上腕への対策
上腕への対策では,感度補正マップ取得時にFOVを長方形にして腕を入れないようにすることで,不均一になりやすい腕周辺の信号を持ち上げないようにした。その結果,上腕からのアーチファクトが低減し,SNRが向上して骨や神経の描出が改善された。
7.その他の対策
以上6項目の改善に加え,頸部の信号低下に対応するためポジショニングを工夫した。NVコイル使用時は,背側はコイルに密着するが,前面ではコイルと被写体に距離があり,これが信号低下の原因と考えられた。そこで,背側にマットを追加することで,前面と後面のコイルと被写体の距離を均一化し,頸部の信号低下の抑制を図った。
また,NSAの影響も検討した。従来は,b0を1回,b1000を6回または8回の加算回数としていたが,b0を2回・b1000を6回とすることで歪みを改善することができた。現在はバージョンアップに伴い,4 stationで撮像し,NSAはそのままで,「Multi Acquisition」を2から1にして半分の時間で臨床活用している。
臨床画像
以上の検討を行い,画質改善を図ったbody DWIの臨床画像を提示する。
症例1(図1)は,70歳代,男性,前立腺がんの症例である。body DWIでは,高SNRで脂肪抑制の効いた画像を得られており,転移は確認されなかった。また,通常,前立腺がんの判定に用いられるCHESS法とbody DWI法の画像を比較すると,CHESS法のb-2000と同等の画像をbody DWI法のb-1000で得られることが確認できる。
症例2(図2)は,70歳代,男性,前立腺がんで,全身の骨転移とリンパ節転移がある症例である。body DWI法では,PET画像のように骨転移やリンパ節転移の状況を把握できる画像を取得できた。全身の撮像では,T2強調画像やT1強調画像も同時に撮像しており,いずれも歪みのない画像を取得できる。
症例3(図3)は,80歳代,女性,乳がんで骨梁間型転移がある症例である。骨梁間型転移はCTでは指摘が難しいとされているが,body DWI画像では転移の指摘は容易である。このように,body DWIは全身の骨転移を検索する画像として有用である。
今後もさらなる画質改善に取り組み,臨床的な有用性を確認していきたい。
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