[整形領域]膝関節MRIの進め方と今後の気になる新技術
新津 守(埼玉医科大学病院放射線科教授)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月11日(木)開催
2022-4-25
靭 帯
1.前十字靭帯(ACL)
ACLには,anteromedial bundle(AMB)とposterolateral bundleの2つの主要線維束があり,MRIで描出可能である。標準膝コイルを用いた撮像で膝を強く固定すると,完全伸展・過伸展となり,ACLは顆間窩の天井に押し付けられて密着し,AMBの走行や大腿骨付着部が不明瞭になる。ポジショニングでは,アンクルホルダーを外して膝下に小さなクッションを置くことで膝が平均15°屈曲となり,AMBの全長や大腿骨付着部などを良好に観察可能になる。
ACL完全断裂(図1)では,ACL中央部での断裂や大腿骨付着部での断裂が見られる。矢状断像だけでは診断が難しい場合もあるため,冠状断像や横断像で確認する必要がある。部分断裂も冠状断像や横断像で靭帯内部に高信号が確認できれば診断可能である。また,外側関節包靭帯またはanterolateral ligamentに強い牽引力が加わって生じるSegond骨折では,高確率でACLが断裂している。
2.後十字靭帯(PCL)
PCL断裂は少ないが,交通事故で受傷することがあり,ACLや側副靭帯,半月板の損傷を伴うことが多い。多くは不完全断裂で,靭帯全体,また辺縁部の線維は連続性を保つが,全長または一部に腫脹,高信号が見られる。そのため,信号変化に注意して観察しないと見落とす場合がある。ACL裂離骨折は若年者に多いのに対し,PCL裂離骨折は高齢者に多い。
3.内側側副靭帯(MCL)
MCLは浅層と深層があり,通常は浅層を指す。浅層は関節裂隙の5cm上方から,6〜7cm下方の脛骨内側部に付着するため,冠状断像は撮像範囲を絞りすぎないように留意する。
MCL断裂は膝の靭帯損傷の中で最も高頻度であり,下腿の外反により生じやすい。断裂はgrade 1(微細断裂)がほとんどで,靭帯線維の浅層に浮腫が生じる。時に非常に厚いMCLを認めるが,これは断裂後に靭帯が瘢痕組織に置換したもので,健常靭帯ではない。
4.外側側副靭帯(LCL)を含む外側支持組織
外側支持組織は主に,前方から順に腸脛靭帯(ITB),LCL,大腿二頭筋腱(BFT)で構成される。ITBの脛骨付着部(Gergy結節)の少し後ろにLCLが斜めに走行している。LCLとBFTは腓骨頭付着部で合同腱を形成し,矢状断像ではV字型に観察されるため,撮像範囲は腓骨頭まで含めて設定する。LCL単独損傷はきわめてまれであり,複合靭帯損傷で部分損傷することがあるが,治療ではACLなど機能的な障害となる損傷を主に対象とする。
外側で重要なのが長距離ランナーなどに多い腸骨靭帯炎である。ITBは人体最大の靭帯で,頭側に大腿筋膜張筋と大殿筋が付着する。膝の屈伸によりITBが大腿骨外側顆に対して前後に滑動し,繰り返す摩擦刺激により局所炎症が生じる。MRIではITBの大腿骨側直下に浮腫性変化が限局して見られるため,わずかな所見をとらえるためにfluid-sensitiveシーケンス(FS-PDWI,FS-T2WI,STIRなど)で撮像する必要がある。
半月板
内側半月板は半径が大きく開き気味で,外側半月板はより閉じたC字型をしている。血行がある外周1/3に生じた辺縁断裂は自然治癒も期待されるが,血行のない自由縁に生じた断裂の自然治癒は難しい。
1.放射状断裂(図2)
放射状断裂は自由縁から辺縁方向に伸びる断裂で,撮像スライスによって段差が生じ,矢状断像では三角形+台形,冠状断像ではグラデーションのように見られ,横断像は適切なスライスであれば全体を確認できる。放射状断裂を放置するとflap断裂に進展する。flap断裂では,断片が外周に落ち込む場合があるので注意する。内視鏡では内側半月板の下方は見にくいため,MRIで確実に診断する必要がある。
2.膝蓋骨外側脱臼による骨軟骨損傷
膝蓋骨外側脱臼では,外側に脱臼した膝蓋骨が還納時に大腿骨の外側顆にぶつかって骨挫傷が生じる。MRIでは,遊離骨片や微小な血腫,骨髄浮腫などを観察でき,特に膝蓋骨内側と大腿骨外側顆にペアで認められる骨髄浮腫がキー画像となる。骨髄浮腫が唯一の決め手となる場合が多いため,横断像とfluid-sensitiveシーケンスが必須となる。
軟 骨
1.「形」を見る
軟骨の形を見るためには高い空間分解能とコントラスト分解能が必要である。私は軟骨,半月板,靭帯をすべて観察するために,FSEで−90°パルスで縦磁化を強制的に回復し,短いTRでもT2強調を達成できるシーケンスを用いて,プロトン強調画像の関節液を高信号にした矢状断像を,靭帯,半月板を含む膝ルーチンとして頻用している。
軟骨欠損の評価では,Kellgren-Lawrence分類やICRS(International Cartilage Research Society)分類が用いられる。現状のMRIでは,形態学的に欠損を確認できるICRS grade 2(50%以下の欠損)以上を診断するが,軟骨欠損は放置すると数か月で進行してしまうため,より早期の検出が望まれる。
2.「質」を見る
そこで推奨されているのが,MRIを用いてT2マップやT1ρマップなどの複数の指標で信号変化を検知するcompositional MRIである(表1)。
・T2マッピング
T2マッピングは,マルチエコーSE法を使用し,各画素のT2値を計測してカラーコーディングして重ねる画像で,臨床機でも比較的容易に作成できる。水分含有量の増加によってT2値が延長し,移行層はT2値が高い。短所として,マジックアングルに依存する信号変化がある。
さらに,texture analysisでは,T2の上昇とともにT2値分布の不均一さを半定量的に評価することができる。
・遅延相軟骨造影MRI(dGEMRIC)
dGEMRICは,軟骨の本体と考えられるグリコサミノグリカン(GAG)が減少した変性部位にガドリニウムが集積することを利用した検査法であるが,検査時間が長く,多量のガドリニウムを使用すること,保険適用になっていないことなどから,国内では普及しないと考えられる。
・T1ρマッピング
T1ρマッピングは,造影剤を用いずにGAG濃度を評価できる手法で,spin lock timeを変えて数回撮像する。変性によるGAG濃度の減少で水分子運動が増大し,T1ρ値が延長する。多数の論文が報告されており,T2マッピングよりも有用との報告も多い。GAGを見るには最適な方法であるが,SAR(specific absorption rate)の上昇に注意が必要である。
・CEST
CEST(chemical exchange saturation transfer)は,amide proton transfer(APT)が脳腫瘍などに用いられているが,軟骨においては水酸基を対象とする。自験例では,T2マップと比べるとCESTマップでは軟骨や軟骨下骨の視認性が高いという結果を得た。
・ultra-short TE(UTE)
UTEでは,靭帯や腱などのT2値が短い組織を高信号に描出できる。UTEを用いたT2*マップで軟骨下骨を評価したところ,軟骨下囊胞を含めた軟骨下骨の変性を評価することができた。
●参考文献
1)Gold, G.E., et al., AJR, 193(3): 628-638, 2009.
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