形態画像と機能画像の臨床診断における融和:3DQPMの応用を通して
原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)
[第二部]
2019-4-25
われわれは現在,日立製作所とQPM(Quantitative Parameter Mapping)に関する共同研究に取り組んでいる。QPMとは,一連のスキャンで任意のコントラスト画像を合成できる,いわゆるSynthetic MRIである。現在,製品化されているSynthetic MRIは2Dがほとんどであるが,日立のQPMは3Dで撮像できることが大きな利点である(W.I.P.)。
本講演では,3DQPMの概要を説明した上で,症例を提示し,実臨床における有用性や可能性について紹介する。
3DQPMとは
3DQPMは,異なる撮像パラメータの複数の元画像から,最小二乗フィッティングにより,さまざまな定量値マップを算出できる。日立の3DQPMは,元画像の撮像パラメータセットが最適化されていることと,パルスシーケンスシミュレータによる輝度関数が大きな特長となっている。
3DQPMの輝度関数は,シミュレータを用いて,TR,FA,θ(RF phase),T1,T2*を組み合わせた約20万通りの輝度値を計算して,数値的に構成している。それを,最小二乗フィッティングにより高速にカーブフィッティングすることで,T1値やT2値といった定量値を求めている。
一連のスキャンでマルチコントラスト画像を得る手法としてはfinger printingが知られているが,finger printingはLibraryを用いるため多くの元画像データが必要となる。これに対して,3DQPMは最小二乗フィッティングを用いることで,補完による連続関数化が可能となっている。
3DQPMでは,T1強調,T2強調,T2*強調,プロトン密度強調(PWD),FLAIR,B1,QSM,Water,Fatといった,多因子の3D定量画像と強調画像を抽出することができる。
3DQPMの臨床応用
●症例1:多発性硬化症
1)症例概要
症例1は32歳,女性,主訴は四肢異常感覚。四肢の異常感覚があり,5か月後に錐体路徴候,小脳症状も出現,翌月にMRIを施行した。既往歴にもさまざまな神経症状が見られ,年齢からも多発性硬化症(MS),あるいは視神経脊髄炎(NMO)が考えられた。
MRIのルーチン検査では,T2強調画像やT2 FLAIR画像にて,側脳室周囲にMSプラークに典型的な斑状の高信号が確認されたが,造影T1強調画像では明らかな造影効果は認められない。疾患活動性を確認するCSI(Chemical Shift Imaging)では,コリンと乳酸の上昇が見られ,Cho/NAAマップではプラーク周辺を中心にCho/NAA比の上昇が確認でき,活動性のあるプラークであると診断された。
2)QPMによるミエリンマップ
本症例に対しQPMを追加し,定量値からミエリン(髄鞘)に相当する画像を作成した。ミエリン量は,r1に比例し,T2値に反比例して10〜20msと短いことが知られている。そこで,r1,r2マップから髄鞘密度強調マップ(ミエリンマップ)を作成した(図1)。
正常例のミエリンマップ(図1 a)では,白質部分が非常に高信号に描出されるが,本症例ではミエリンの減少(脱髄)により,プラーク部分がほぼ信号欠損として描出された(図1 b)。また,T2強調画像(図1 c)では,プラーク周辺の白質の信号に異常は認められないが,ミエリンマップ(図1 b)では不均一な信号低下が認められた。これはnormal appearing white matterを反映していると考えられる。さらに,ルーチン画像では異常を認めない小脳においても,ミエリンマップでは不均一な信号低下があり,臨床所見と一致する変化が示唆された。ただし,ミエリンマップでは短いT2の成分を強調するため,金属沈着の影響も反映し,黒質や歯状核などは高信号となることを考慮する必要がある。
3)QPMによるその他の定性画像
本症例について,QPMによるほかの定性画像をSE法の画像と比較した(図2)。QPMでは,3Dで一度に撮像するため多少解像度が低下するが,SE法と同様のコントラスト画像を得られることがわかる。
また,磁化率画像(QSM)も作成可能で,GRE法のT2*強調画像と同じように,QPMのT2*強調画像でもプラーク部分に高信号が認められる(図3 a)。また,QSMの高信号は磁化率の増加を反映することから,出血の存在も疑われる(図3 b)。
4)QPMの臨床応用の利点
QPMでは10分以内の1回の撮像で,SE法と同等の三次元形態画像を取得できる。MPRで任意断面が可能であり,かつ三次元画像として標準化などの集団処理が容易なため,データベース画像として人工知能(AI)診断などでの利用が期待できる。
r1,r2値などの定量マップから,ミエリンマップなど新たなコントラスト画像を得られることや,QSMとして定量マップを取得できることも大きな利点である。
なお,QSMはマルチエコーで撮像することが多いが,日立の最新3T MRI「TRILLIUM OVAL Cattleya」にはシングルエコーQSMも搭載された。そこで,シングルエコーとマルチエコーのQSMを比較検討した。脳転移症例の造影前後の画像では,シングルエコーとマルチエコーで同等の画像が得られた。また,造影前後のQSMを差分し,造影剤濃度マップを作成すると,出血と思われる高信号が,シングルエコー,マルチエコーともに外側優位に描出された(図4)。QSM撮像においてはエコー数の影響はなく,造影剤集積も評価できる可能性がある。
●症例2:てんかん
1)症例概要
症例2は18歳,男性,主訴はてんかん。12歳時に全身痙攣,15歳時よりめまい増加,発作抑制が困難で,複雑部分発作が週2,3回あり,MRIで異常所見が指摘され,精査,手術目的で当院紹介となった。
海馬硬化が疑われ,冠状断のFLAIR画像で海馬付近にやや高信号が認められた。STIR反転画像でも,左側の信号が低下しており,側頭葉てんかんと考えられた。
2)QPMによる評価
QPM(図5)では,T2強調画像とT2*強調画像で左側海馬に軽度の信号変化を認める。一方,FLAIR画像では同部に明らかな高信号,r1マップでは側頭葉内側から下部にかけて明瞭に低信号が認められた。また,ミエリンマップでも海馬付近に低信号が認められ,髄鞘の低下が示唆された(図6 a)。側頭極レベルではさらに信号が低下し,左側のミエリン密度の低下と菲薄化が確認できた(図6 b)。FDG-PETでも,左側皮質側にFDG集積の低下,アシンメトリーマップでもFDG低下が確認できたことから,QPMは神経変性を表していると考えられる。
QPMでは各種パラメータ画像で病変のコントラスト変化を網羅的に評価できるため,診断能の向上が期待できる。また,ミエリンマップなどの組織特異的な情報も非常に有用である。ただし,皮質構造などの詳細な形態評価には,空間分解能向上が必要であり,撮像高速化と併せて今後の課題である。
QPMの実用上の有用性
3DQPMは,レトロスペクティブにさまざまな定性画像と定量画像を作成できる点が,臨床実用上の大きなメリットとなる。MRI検査で得られる情報は多岐にわたるが,日常診療においては,検査時間の短縮や高齢者・小児など被検者による制限増加,安全性の確保が求められるため,プロトコール選択のバランスが難しくなっている。これに対して3DQPMは,撮像種を取捨選択せずに,検査プロトコールを簡素化し,短時間で最大限の形態情報を取得可能な撮像法であり,将来的には「とりあえず3DQPMを撮像しておく」という選択ができるようになる可能性がある。
また,3DQPMの定量的データはデータベースとして整備しやすく,AIなどの新たな解析技術を促進する基盤技術になると期待される。そして,定量的データから作成できる新たなコントラスト画像は,MRIの付加価値を飛躍的に向上させるだろう。
原田雅史 Harada Masafumi
1986年 徳島大学医学部卒業。90年 同大学院医学研究科修了。92年 米国ペンシルバニア大学医学部生理・生化学教室研究員などを経て,95年 徳島大学医学部放射線科講師,2002年 同大学医学部保健学科診療放射線技術学講座教授。2006年 同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部画像情報医学分野教授。2010年 同大学病院放射線科教授・放射線部長。2011年より現職。
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