MR enterocolonographyにおける日立3T MRI“TRILLIUM OVAL”の有用性
北詰 良雄(東京医科歯科大学医学部附属病院放射線診断科)
[第一部]
2019-4-25
MR enterocolonography(MREC)は,消化管造影剤を使用して,主にクローン病患者の小腸と大腸を同時に評価する撮像法である。クローン病は消化管に全層性炎症が起こる原因不明の疾患で,病変は全消化管に生じる。完治はせず,再燃と寛解を繰り返すのが特徴であり,近年では,治療目標が臨床的寛解から内視鏡的粘膜治癒へと変化してきた。そのため,内視鏡による定期的な疾患活動性のモニタリングが必要であるが,MRIは非侵襲的に内視鏡の代替または相補的な役割を担えることから,欧米を中心にクローン病のMRI検査が盛んに行われている。
当院では,2014年から日立製作所社製の3T MRI「TRILLIUM OVAL」が稼働しており,2016年から当大学の潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センターにて3T MRIを用いたMRECを開始し,年間150件以上実施している。本講演ではまず,クローン病におけるMRECの撮像法・読影法をレビューした上で,TRILLIUM OVALの特長と有用性について,実際の臨床例を提示して報告する。
当院におけるMRECの撮像法
MRECの撮像法については近年,欧州と米国からconsensus statementが発表されており1),2),当院ではこれらを踏まえて撮像を行っている。具体的には,まず前処置として,前日にマグコロールP 50gと水200mLを服用し,当日はMRI検査60分前にニフレック1000mLを服用する。MR撮像後,さらにニフレック1000mLを追加して,経肛門バルーン内視鏡検査(BAE)を実施する。撮像法は,T2強調画像,T1強調画像,造影T1強調画像を基本とし,オプションとして拡散強調画像(DWI)と高速撮像を用いたシネMRIを撮像する。
実際の撮像の流れは以下のとおりである。まず,シネMRI(balanced sequence,冠状断像,スライス厚10mm,撮像間隔0.4秒,25相)にて腹部全体を撮像する。次に,腸の蠕動運動による画質劣化を抑制するため鎮痙剤(ブスコパン)を投与し,T2強調画像(shingle-shot fast spin-echo)の冠状断像(スライス厚4mm,脂肪抑制あり/なし)と横断像(スライス厚5mm)を撮像する。この時,マトリックス数を上げた方が空腸のヒダが明瞭に描出されるため,当院の3T MRIにおけるマトリックスサイズは,冠状断像では384×512としている。続いて,fat-saturated single-shot fast spin echo(冠状断像もしくは横断像)と造影前後のfat-saturated 3D T1強調 gradient echo(冠状断像,横断像,スライス厚3mm)を撮像し,最後に高b値(600〜900s/mm2)のDWI(冠状断像,スライス厚は最大5mm)を撮像する。
MRECの読影のポイント
クローン病のMRECの読影のポイントは,活動性炎症と合併症(狭窄病変,穿通性病変)であり,読影方法については米国の腹部放射線学会,消化器病学会,小児放射線学会によるconsensus recommendationが2誌に同時に掲載されている3),4)。
クローン病は,非特異的な炎症から始まり,炎症と寛解を繰り返すことで徐々に腸管壁が肥厚し,さらに線維化が進むと狭窄を生じる。狭窄部には穿孔が起こり,それがほかの腸管とつながって瘻孔を形成する。狭窄を生じると薬物療法では治療できず,手術による切除などが必要となるため,いかに狭窄を来す前の段階で病変を検出し,抑制するかが重要となる。
1.活動性炎症の評価
活動性炎症の評価で重要なMRIの所見は,以下のとおりである。
・壁肥厚(wall thickening):軽度(3〜5mm),中等度(5〜9mm),高度(10mm以上)に分類
・造影増強効果の亢進(hyperenhancement):造影T1強調画像で,正常の腸管よりも高信号になる。壁の層形成も活動性を示唆する所見として重要である。
・壁内浮腫(mural edema):T2強調画像で明瞭な高信号となる。脂肪抑制を併用した方が,壁内浮腫はより明瞭に描出される傾向がある。
・管腔面の潰瘍(luminal ulceration):粘膜面の不整または局所的な陥凹として確認できる。
・偏側性の炎症(asymmetric inflammation):粘膜付着部側の有意な壁肥厚と線維化による短縮を来す。脂肪抑制併用のT2強調画像で肥厚した壁は高信号を示す。
・蠕動運動の低下(diminished motility):シネMRIにて,壁肥厚のある部分の蠕動運動の低下が確認できる。
これらの評価に当たっては,MRIの空間分解能の限界やピットフォールなどに注意する必要がある。
上記所見について,内視鏡所見との比較を行ったところ5),壁肥厚,造影増強効果,壁内浮腫の有無,潰瘍形成の有無,偏側変性の有無の5つが内視鏡での進行度の評価と相関していた。また,病理スコアや内視鏡所見との相関性などを検討したいくつかの報告では,壁肥厚,壁内浮腫,層状の造影増強効果の重要性が示唆されていた。さらに,MaRIA(Magnetic Resonance Index of Activity)スコアなどのMRIスコアも提案されているが,日常臨床で煩雑なスコアの計算を行うのは困難である。そこで,MRIの形態的な所見をスコア0(活動性炎症なし)〜スコア4(活動性炎症重度,潰瘍あり)の5段階に分類して視覚評価を行い,診断能についてMaRIAスコアと比較したところ,ROC解析では,深い潰瘍の検出における診断能はほぼ同等であった5)。
2.狭窄病変と穿通性病変の評価
狭窄病変のMRI所見としては,2018年に発表されたexpert consensus6)で,限局性の内腔の狭小化(内径<50%),壁肥厚(25%以上),狭窄前拡張(内径>3cm)と定義されている。しかし,内視鏡所見と対比すると,狭窄前拡張が3cmに満たない症例も見られることから,今後は内視鏡との詳細な対比を行うことが求められる。
穿通性病変においては,腸管外,腸間膜側への炎症の波及を評価する必要があるが,炎症を示唆する造影増強効果やT2強調画像での高信号は,脂肪抑制を併用することで,より明瞭に描出可能となる。また,穿通性病変は小腸間などで瘻孔を形成し,asterisk-shaped,あるいはclover leaf appearance,star signと呼ばれる星型の所見が見られることがあるため,こうしたサインを拾い上げることが重要である。
TRILLIUM OVALの特長と有用性
TRILLIUM OVALの特長の一つは,FOV 50cmの広範囲撮像が可能なことである。4ch-4port RF照射システムがRF照射不均一の低減に大きく寄与しており,広範囲を撮像しても均一な信号が得られる(図1)。辺縁には若干,脂肪抑制のムラが生じるが,腸管全体を十分に評価可能である。
また,脂肪抑制に優れている点も大きな特長である。これは,“H-Sinc”という同社独自の技術によるものであり,CHESSパルスを複数回印加するなどしてRFパルスを最適化し,RF照射不均一の影響を低減することで,広範囲で均一な脂肪抑制効果が得られる。クローン病では肛門周囲膿瘍を合併することがあるため,肛門周囲の病変を検出できることが重要であるが,肛門はMRECの撮像範囲ぎりぎりに位置するため,どうしても脂肪抑制のムラが生じる(図2 b)。しかし,MREC画像を拡大すると,病変のある中央部分は脂肪抑制が良好であり,十分に評価可能である(図2 c)。
TRILLIUM OVALのデノイズ処理(W.I.P.)も有用である。図3は,同一患者の画像をデノイズの有無で比較しているが,デノイズあり(a)の方が全体にノイズが低減され,回腸末端部の病変や背景信号のコントラストが明瞭である。
さらに,TRILLIUM OVALでは,b=2000s/mm2以上の高b値のDWIでも評価可能で,消化管造影剤のT2 shine throughが消失するほか,腸管壁の信号の残存がわずかに確認できる(図4)。他社製装置では,b=1500s/mm2程度で腸管壁の信号が背景信号に紛れてしまうため,TRILLIUM OVALは基本的な信号強度が強いという印象である。
まとめ
広範囲撮像と良好な脂肪抑制の得られるTRILLIUM OVALは,MRECに適した装置であり,きわめて有用性が高いと考える。
●参考文献
1)Taylor, S.A., et al., Eur. Radiol., 27・6, 2570〜2582, 2017.
2)Grand, D.J., et al., Abdom. Imaging, 40・5,953〜964, 2015.
3)Bruining, D.H., et al.,Radiology, 286・3, 776〜799, 2018.
4)Bruining, D.H., et al., Gastroenterology, 154・4, 1172〜1194, 2018.
5)Kitazume, Y., et al., AJR, 212・1,67〜76,2019.
6)Rieder, F., et al., Aliment. Pharmacol. Ther., 48・3, 347〜357, 2018.
7)北詰良雄・他, 映像情報Medical, 50・14, 93〜98, 2018.
北詰 良雄 Kitazume Yoshio
2000年 群馬大学医学部医学科卒業。同年 東京医科歯科大学医学部画像診断放射線治療科。大森赤十字病院,青梅市立総合病院などを経て,2008年 東京医科歯科大学医学部附属病院画像診断放射線治療科助教。2015年〜同大学放射線診断科講師。
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