4ch-4port RF照射技術と新たな短時間撮像技術の進歩
菅 博人(名古屋市立大学病院診療技術部放射線技術科)
[第一部]
2019-4-25
楕円形のガントリボアを有する日立製作所社製の3T MRI「TRILLIUM OVAL」は,2013年にリリースされ,翌年,臨床用の第1号機が当院に導入された。TRILLIUM OVALは現在,独立制御が可能な4ch-4port RF照射システムの技術向上と,2D画像の高速撮像を可能とする“Iterative Noise Reduction(INR)”(W.I.P.)により,さらなる高画質と高速撮像を実現している。本講演では,臨床画像を提示しつつ,上記の2つの技術について概説する。
4ch-4port RF照射技術の臨床と可能性
4ch-4port RF照射システムは,4つの独立したRFパワーアンプを用い,RF照射コイルの各チャンネルに与える位相と振幅を変化させながら,人体に対してRFパルスをなるべく均一に照射するシステムである。本システムは3T MRIで特に有効であり,体幹部はもとより四肢の撮像時でも照射不均一の少ない画像が得られる。また,強力なコイルの感度補正技術を組み合わせることで,より信号の均一化が図られ,腹部においても高画質が得られるようになった。
これらに加え,同社では現在,4ch-4port RF照射技術によるRFパルス調整方法を工夫し,撮像部位に適したRF照射を行うことで,さらなる画質向上を図る技術“4ch-4port Regional RF Shimming(Regional RF Shimming)”(W.I.P.)を開発中であり,当院にて検討を行っている。Regional RF Shimmingの最大の特長は,部位を絞ったRFシミングを行えることである。これにより,RF磁場(B1)の不均一による画像ムラやSARの低減が可能となり,また,均一なRF照射によって定量値の信頼性が向上すると考えられる。
1.B1 mapの実測によるRF照射の均一性の検討
Regional RF ShimmingによるRF照射の均一性の改善について検討するため,double angle method(DAM)法と,同社の高速・高精度なB1 map計測手法である“Blink Scan”にて膝窩部の画像のB1 mapを計測した。
DAM法によるB1 map(図1)では,Volume RF Shimming(b)と比較して,Regional RF Shimming(a)の方が明らかにRF照射の均一性が向上し,設定値に近いフリップアングルを実現していた。また,Blink ScanによるB1 map(図2)を見ると,Regional RF Shimming(a)では設定の通り片膝だけに均一に照射されていた。
2.Gradient echo法によるT1 mapの測定
さらに,5名のボランティアの膝部周囲の皮下脂肪について,複数箇所にROIを取り,spoiled GRE法にてRegional RF ShimmingとVolume RF ShimmingによるT1値計測の結果を比較した。各ROIの変動係数(CV)は,Volume RF Shimmingの0.5に対して,Regional RF Shimmingでは0.35と有意に小さく,RF照射が均一であると言える。また,脂肪のT1値は約300msであるが,Volume RF Shimmingの200msに対し,Regional RF Shimmingでは250msと正確な値に近づいており,定量値の信頼性も向上している。T1 mapでも,Volume RF Shimmingで見られるT1値の低下がRegional RF Shimmingでは解消し,均一な値が得られていた。
3.症例提示
症例1は,神経鞘腫である(図3)。
通常は撮像が困難な上腕でも,Regional RF Shimmingによりきわめて均一な画像が得られている。
症例2は,二分脊椎症の小児である(図4)。Regional RF Shimmingでは椎体周辺の照射が均一になるよう調整されており,明瞭な画像が得られている。
Regional RF Shimmingは,全身のさまざまな部位に適用可能である。
INRによる2D画像の高速撮像
1.INRの概要
近年注目されているcompressed sensingは,3D撮像に適した技術であり,高いスパース性を利用したアンダーサンプリングを行うことで撮像時間を短縮し,その分の時間を高空間分解能化や高速撮像に振り分けることができる。しかし,3D撮像は一般的に,2D撮像と比べてコントラストが低下するため,臨床ではいまだ2D撮像が主流である。一方,2D撮像はサンプリングの自由度が低いため,compressed sensingを適用するとスパース性が低下し,画像がボケやすい。そこで,同社では,高parallel imaging(PI) factorを利用して増加したノイズを除去するINRを開発中である。
INRは,PI画像に後処理にてg-factorとノイズの情報を加味し,wavelet変換とL1-norm最小化による最適化を行うことでPI画像のノイズを除去する技術である(図5)。SENSE系のPI(RAPID)との併用が可能であり,g-factorが劣化している箇所に荷重したノイズ除去を行う。また,INRは,SE系シーケンスやGRE系シーケンス,さらにはSE-EPI,GRE-EPI,拡散強調画像(DWI)などの2Dシーケンスに適用可能である。特に,DWIでは,検査の高速化と定量値の安定化が期待できる。
2.ファントムによるINRの効果の検討
PIでは,倍速設定(reduction factor)やコイルのg-factorの影響によりSNRが低下する。そこで,装置付属のファントムをPI(RAPID)なしとありで撮像し,INRの強度を変化させてSNRを測定した。RAPID offと比較し,RAPID 2ではSNRが低下していたが,INRを適用し強度を1,3,5,7と変化させると,レベル5以上でRAPID offと同等のSNRが得られた。つまり,本検討の場合,INRレベル5を適用すれば,RAPID offと同等のSNRの画像が約半分の撮像時間で得られるということである。ただし,INRの強度を上げると画像の鮮鋭度が低下するため,部位や検査目的に応じて使い分ける必要がある。
症例提示
症例3は,子宮体がんのT2強調画像である(図6)。RAPID 1.1・INRレベルoffの画像(図6 a)と比較し,RAPID 2.5・INRレベル3の画像(図6 b)では,半分の撮像時間(約1分)で同等の画像が得られている。むしろ,撮像時間を短縮したことで腸の蠕動によるアーチファクトが低減し,病変の辺縁の描出能が向上している。
症例4は,乳管癌のDWIである(図7)。Rapid 1.1・INRレベルoffの画像と比較し,加算回数を半分にして撮像時間を約3分から1分半に短縮しても,INRを適用することでほぼ同等の画質が得られている。なお,低SNRのデータにINR処理を行うと,線状のアーチファクトが見られることがある。本症例では問題ないが,今後の改善に期待したい。
症例5は,踵骨腫瘍ルーチン検査で,すべて3mmスライス厚で撮像しているにもかかわらず,8分19秒で検査が終了している(図8)。INRを適用する際には専用コイルを使用するが,それによって撮像時間をここまで絞っても臨床に堪えうる画像が得られる。
まとめ
撮像部位に特化したRegional RF Shimmingによって,画質および定量値の信頼性が向上し,より均一な画像が得られるようになる。
また,INRを適用すれば検査時間を従来の約半分に短縮可能なほか,定量精度も向上できる可能性がある。検査目的に応じてINRの強度を変更すれば,さらなる検査効率の向上が期待できる。
●参考文献
1)Shoji, H., et al., 46th JSMRM, O3-040, 2018.
菅 博人 Kan Hirohito
2009年 金沢大学医学部保健学科放射線技術科学専攻卒業。2009〜2011年 同大学院博士課程前期,2011年〜博士課程後期。同年 名古屋市立大学病院中央放射線部(現・診療技術部放射線技術科)入職。現在,名古屋市立大学大学院医学研究科研究員(兼任)。
- 【関連コンテンツ】