TOPICS 第3回 Hi Advanced MR セミナー
MR enterographyによるクローン病の評価
北詰 良雄(東京医科歯科大学医学部附属病院放射線診断科講師)
2016-9-26
当院は2012年に「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」を開設し,MR enterographyを積極的に用いた診療を行っている。MR enterographyは年間191例(2015年実績)にのぼり,そのうち108例が同日に大腸/小腸内視鏡検査を行っており,内視鏡所見とMR所見を対比することで,MR enterographyの診断能向上をめざしている。
本講演では,MR enterographyによるクローン病の評価についてと,2014年に導入した3T MRI「TRILLIUM OVAL」(日立製作所社製)によるMR enterographyの使用経験について述べる。
クローン病の評価
クローン病の全層性炎症と粘膜治癒の評価については,MRIが腹部に応用されるようになった1990年代頃から,多くの研究者が検討を重ねてきた。
従来,クローン病の治療目標は症状の緩和であったが,生物学的製剤により粘膜治癒が得られた症例は再燃と入院,手術の率が有意に改善することが示されたことで,最近は内視鏡で評価可能な粘膜治癒が治療のエンドポイントとなっている。クローン病は正当化された粘膜治癒の定義はないが,内視鏡スコアであるCDEISやSES-CDがゼロとなることが推奨されている1)。
クローン病の画像診断では,穿孔や膿瘍を合併した緊急の症例ではCTが有用だが,MRIはコントラスト分解能が高いことに加え,繰り返し検査を行う若年患者の検査において被ばくがない点も有益である。当院では小腸と大腸を同時に評価するMR enterocolonography(MREC)の診断法を開発し,MRECが内視鏡の代替手段となりうるかについて検討を行っている。
MR enterographyによるクローン病の評価
●撮像法
当院でMRECと内視鏡を同日施行する場合のプロトコール2),3)は,以下のとおりである。前処置として,前日にマグコロールP(50g)と水(200mL),当日のMRI検査60分前にニフレック(1000mL)を服用する。MRI撮像の途中で鎮痙剤を投与し,撮像後にニフレック(1000mL)を追加して経肛門バルーン内視鏡を行っている。
MRIの撮像シーケンスは,鎮痙剤投与前にcine MR(balanced sequence,冠状断像,スライス厚10mm,1秒あたり1フレーム以上)を複数回に分けて撮像し,腹部全体のcine画像を得る。その後,balanced sequence(冠状断像,スライス厚6mm),single-shot fast spin-echo(スライス厚5mm)の冠状断像(脂肪抑制あり/なし)と横断像,さらに造影前後の3D fat saturated T1強調gradient echo(スライス厚5mm),最後に拡散強調画像(冠状断像,スライス厚6mm)を撮像する。一連の検査時間は30分程度である。
●クローン病のMR所見
クローン病の画像分類のサブタイプは,「活動性炎症」「穿孔・瘻孔」「線維狭窄」「修復・再生」の4つに分類される4)。また,クローン病の臨床指標としてはCDAIスコアが用いられており,合計スコアが150以上でアクティブと評価される。
クローン病のMR所見は,サブタイプごとに次のような所見が得られる。
●活動性炎症:粘膜面と外膜の増強効果,壁内の浮腫,腸間膜のリンパ節腫大,腸間膜付着部側の小腸壁肥厚など。なお,CDAIスコアとMR所見が乖離する場合もある。
●穿孔・瘻孔:腸管同士の癒着と瘻孔の形成,1か所に収束するような小腸の癒着(star sign)と瘻孔の形成など。
●線維狭窄:狭窄部口側の局所的拡張,粘膜優位の増強効果と口側拡張,偽憩室形成,弧状変形(偏側性変形)など。
●修復・再生:潰瘍の瘢痕化によるハウストラの消失,腸壁の非薄化,増強効果の消失など。
Rimolaらの文献調査5)でも,壁肥厚,壁の増強効果,粘膜面不整や潰瘍,浮腫やtarget sign,腸間膜血管の拡張,リンパ節腫大などの所見が,クローン病の活動性と関連性が高いとされている。また,活動性を反映していると考えられている層状の増強効果などの造影パターンは,撮像のタイミングで変化しうることを留意する必要がある。ほかの活動性病変の所見としては,拡散強調画像で高信号,蠕動の消失,腸管周囲の浮腫を反映したT2強調画像での高信号などが知られている。
●クローン病の活動性スコア
クローン病におけるMRのスコアは数多くあるが,検証試験が行われている代表的なスコアにMEGS6),CDAS6),MaRIA7)がある。それぞれリファレンスが異なり,MEGSは臨床所見,CDASは病理所見,MaRIAは内視鏡所見と対比している。
なお,クローン病の内視鏡スコアであるCDEISと,これを簡略化したSES-CDは,「潰瘍の深さ/大きさ」「潰瘍の進展の割合」「潰瘍とその他の病変の割合」「狭窄」の4つのスコアを合計して評価を行う。CDEISとSES-CDには強い正の相関があることが示されている8)。
内視鏡をリファレンスとしたMaRIAは,CDEISに対する独立した予測因子である「壁の厚さ」「造影前後の増強効果」「壁内浮腫の有無」「潰瘍の有無」の4項目を評価して,スコアを算出する評価法である。診断能の高い評価法として提唱されているが,算出に手間がかかることが難点である。
そこでわれわれは,SES-CDに準拠した簡便なMREC score3)を考案した。SES-CDとの対比では,正の相関があることが示されている。
●MRスコアの検討
われわれは,MREC scoreについて2つのテーマで検討を行った。
(1)MREC scoreはMaRIAの代替手段になりうるか9),10)。
70症例を対象に,小腸と大腸を計8区域に分けて粘膜病変の深さや潰瘍,浮腫,リンパ節腫大などでスコア付けを行い,MREC scoreとMaRIAの診断能を比較した。内視鏡で判明した深層潰瘍の検出能におけるAUCは,MREC scoreが88.0%,MaRIAが88.6%(P=0.75),浅い潰瘍も含めたAUCは,MREC scoreが77.8%,MaRIAが77.3%(P=0.80)という結果となり,両者はほぼ同等であった。非劣性試験でも,MaRIAに対してMREC scoreは非劣性であることが有意に示されたことから,代替手段になりうると考えられる。
(2)MREC scoreとMaRIAのスコアは部分粘膜治癒を描出できるか11)。
古典的に消化性潰瘍の治癒過程は,active stage(活動期),healing stage(治癒期),scarring stage(瘢痕期)に分けられる。このうちhealing stageは治療への反応を評価するために重要であるが,クローン病のスコアでは評価項目に含まれておらず,どのようなMR所見を示すかはわかっていない。
そこで,89症例を対象に小腸と大腸を計8区域に分けて,病変の状態を5段階に分類し,MREC scoreとMaRIAのスコアの分布を統計解析で比較した。その結果,両スコアともactive stageとhealing stageで有意に差がつき(共にP<0.001),MRでも部分粘膜治癒を描出できることがわかった。MRスコアは,早期の治療効果を反映していると言えるだろう。
●MR診断のピットフォール
クローン病のMR所見としては,増強効果や壁内浮腫,壁肥厚,狭窄などがあるが,ピットフォールもあるので注意を要する。例えば,壁が薄く狭窄を生じているように見えても,実際には腸管の収縮や拡張不良であることがある。見分けるには慣れが必要だが,増強効果の弱さや壁内浮腫の程度をポイントに鑑別するといいだろう。また,拡張不良や潰瘍のない炎症性ポリープでも壁が肥厚しているように見えることがあり,浮腫の有無や肥厚に対する浮腫の程度がポイントとなる。なお,検査中に腸管の内容物が移動し,拡張の程度が変わって見えることがしばしばあることを留意しておく必要がある。
潰瘍病変の診断では,壁の厚さ,増強効果の亢進の判定が重要であるが,最終的にはT2強調画像で壁内浮腫の有無を確認することが非常に重要であると考える。
3T TRILLIUM OVALによるMR enterographyの使用経験
当院では,1.5T MRIでMR enterography を行ってきたが,TRILLIUM OVALの導入を機に3T MRIによる検討を開始した。
3T TRILLIUM OVALの画像で特筆すべきは,明瞭な拡散強調画像である。図1は,内視鏡で病変が認められなかった症例である。single-shot fast spin-echo(図1 a)でも異常所見は見られないが,拡散強調画像(図1 b)では明瞭な高信号として描出されている。1.5Tでは異常のない腸管はほとんど描出されないことが多いが,3Tの良好な信号雑音比(SNR)を反映していると言えるだろう。病変と間違えないように注意が必要である。
図2は,造影T1強調画像で近位回腸もしくは空腸に高い増強効果と小腸間膜のリンパ節肥大が認められた。T2強調画像で壁内浮腫を伴う病変が描出され,空腸潰瘍と診断した。同日に行われた小腸内視鏡で,空腸潰瘍が確認されている。
図3は,同日に大腸内視鏡のみを行った症例で,大腸には異常は認められなかったためフォローとなったが,MRIでは空腸と近位回腸に壁肥厚と浮腫が認められ,造影T1強調画像でも増強効果の亢進が見られたことから,空腸の病変を指摘することができた。
このほか,粘膜の不整や直動脈,空腸ヒダなどの描出能においても,3T TRILLIUM OVALは1.5T MRIを凌駕しており,診断能の向上が期待できる。
まとめ
MRI装置の性能や撮像技術の発達に伴い,クローン病のMR enterographyに関する論文が多く発表されている。当院からも最近,ダイナミックMRIや拡散強調画像,cine MRIなどについてのレビュー12)を発表したので参照されたい。
●参考文献
1)Annese, V., et al., JCC, 7・12, 982〜1018, 2013.
2)Takenaka, K., et al., Gastroenterology, 147・2, 334〜342, 2014.
3)Hyun, SB., et al., Inflamm. Bowel Dis., 17・5, 1063〜1072, 2011.
4)Maglinte, D.D., et al., Radiol. Clin. North Am., 41・2, 285〜303, 2003.
5)Rimola, J., et al., Abdom. Imaging, 37・6, 958〜966, 2012.
6)Makanyanga, J.C., et al., Eur. Radiol., 24・2, 277〜287, 2014.
7)Rimola, J., et al., Gut., 58・8, 1113〜1120, 2009.
8)Daperno, M., et al., Gastroint. Endosc., 60・4, 505〜512, 2004.
9)Kitazume, Y., et al., ECR 2015, C-2382.
10)北詰良雄・他,第43回日本磁気共鳴医学会大会,O-2-020E, 2015.
11)Kitazume, Y., et al., ECR 2016, C-1853.
12)Ohtsuka, K., et al., Intest. Res., 14・2, 120〜126, 2016.
北詰良雄(Kitazume Yoshio)
2000年群馬大学医学部医学科卒業。同年東京医科歯科大学医学部画像診断放射線治療科,2001年大森赤十字病院放射線科,2001〜2008年青梅市立総合病院放射線科,2008年東京医科歯科大学医学部附属病院画像診断放射線治療科助教,2015年より現職。
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