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JA長野厚生連 富士見高原医療福祉センター 富士見高原病院
ECHELON OVALの能力を引き出し臨床からの多様な検査ニーズに対応
非造影MRAやプラークイメージングにも挑戦
2016-4-25
JA長野厚生連 富士見高原医療福祉センター 富士見高原病院は,2014年1月,病院の増築工事に伴い,MRIを日立メディコ社製の1.5T MRI「ECHELON OVAL」に更新した。最大の特長である楕円形(OVAL)のワイドボアを生かし,高齢患者の多い地域特性に合った最適な検査環境を実現しつつ,従来は行っていなかった新しい取り組みも開始している。「遠くの親戚よりも近くの高原病院」をモットーに,地域住民が望む医療の実践に取り組む富士見高原病院におけるECHELON OVALの運用について,安達 亙院長,診療放射線科の永井秀人技師長,熊崎憲夫主任,平澤 豊技師にお話をうかがった。
高原のサナトリウムから地域医療を担う医療福祉センターへ
富士見高原病院は,いまから90年前の1926(大正15)年,地元有志により「富士見高原療養所」として設立された。当初は総合病院として診療を行っていたが,その後,結核療養所(サナトリウム)として再出発し,日本の結核医療の分野で一時代を築いた。作家の堀 辰雄や横溝正史,画家の竹久夢二など多くの文化人が療養し,婚約者の療養生活とその死を題材にした堀 辰雄の小説『風立ちぬ』は,まさにここから生まれた。院内には現在,療養所の資料館が設置されており,往時をしのびつつ,療養した文化人が残した作品などを目にすることができる。
同療養所はその後,結核診療に終止符を打ち,1981年にJA長野厚生連 富士見高原病院として再出発。医療はもとより保健予防,介護へとその活動を広げ,富士見町,伊那市,辰野町,原村,諏訪市に老人保健施設や診療所,特別養護老人ホームなどを開所し,地域医療福祉の充実に取り組んでいる。
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設備のさらなる充実をめざしMRIを1Tから1.5Tに更新
同センターの中核を担う富士見高原病院は,内科,神経内科,消化器科,外科,こう門科,放射線科など21科目を標榜し,病床数161床,外来患者数は1日約530人に上る。長野県の諏訪医療圏と山梨県の峡北医療圏の急性期医療を担い,common diseaseに対する高度で安全な医療を提供している。また,救急医療においては,救急患者を断ることなく適切な診療を提供できる体制を構築。医療機器や安全対策機能の充実にも努めている。
こうした中,同院ではさらなる診療体制および設備の充実などをめざした再構築計画が進められ,2011年3月に新診療棟,2013年12月に新病棟を開設した。また,このタイミングに合わせて2014年1月,導入から12年が経過していた他社製1T MRIを,1.5TのECHELON OVALへと更新した。
救急対応と検査の快適性を重視しECHELON OVALを選定
MRIの選定に当たっては,各診療科の医師にも事前にアンケートを行い,旧装置より磁場強度が高く高画質が得られること,操作性に優れ救急時に迅速に撮像できること,着脱式テーブルであること,などが条件となった。さらに,MRIを設置する1階は旧病院の低い天井高に合わせて設計されたため,コンパクトな装置であることが必須だった。このため3T装置は除外せざるを得ず,1.5T装置が対象となった。
安達院長をはじめ放射線科医,診療放射線技師などによる機器選定委員会が組織され,まずは4社の装置に絞られた。その上で,各診療科の医師も参加して各社からのプレゼンテーションが行われ,さらに2社の装置に絞られた。最終的にECHELON OVALが選定された理由について,永井技師長は,「他社の装置にはない広いガントリ開口径を,われわれも放射線科の医師も高く評価しました。また,コンソールが非常に操作しやすく,MRI撮像の経験の少ない技師でも問題なく救急対応可能な点も大きなポイントでした」と述べている。熊崎主任も,「高齢者の多い地域柄,50cmまで下げられる撮像テーブルやワイドボアは大きな魅力ですし,当院らしさを表現できると考えました。また,低い天井でもなんとか無事に設置できたのは,日立メディコ社がMRI室の設計段階から尽力してくれたからです」と語る。さらに,コイルの使い勝手の良さ,高いコストパフォーマンス,国内メーカーならではのサービス面への期待という点でも,ECHELON OVALが多くの支持を集めた。
同院におけるMRI検査の現状
同院では現在,7名の診療放射線技師のうち3名がMRIを主に担当し,ECHELON OVALを用いて年間約2400件の撮像を行っている。このうち,頭部領域が約750件と最も多く,腰椎が約480件,脳ドックが約300件,MRCPが約130件と続く。検査枠は少し余裕を持たせて1枠30分,ドックも含めて1日13枠を設け,合間に緊急検査にも対応できるようにしている。
緊急検査は脳梗塞疑いや腰椎圧迫骨折疑いが大部分を占め,ほかに骨盤領域の脆弱性骨折や,一般撮影で描出できない微小骨折の精査などがある。いずれも患者の入れ替えや撮像テーブルへの乗せ替えも含め10分以内で検査できるよう,撮像内容をできるだけシンプルにした救急コースを設定し,すべての診療放射線技師が対応できるようにしている。
高い快適性と優れた操作性が検査の多様な場面で威力を発揮
●快適性に優れたワイドボア
稼働から約2年が経過したECHELON OVALの有用性について,熊崎主任はまず,左右74cm×縦65cmの楕円形のワイドボアの快適性を挙げ,次のように語る。
「ECHELON OVALのボアは横に広いため,仰臥位では耐えられないという閉所恐怖症の患者さんでも横向きで撮像できます。当院ではこれまで閉所恐怖症で撮像できなかった例は記憶にありません」
自身も閉所恐怖症だという永井技師長は,「これまでに撮像を体験した装置と比較して,ECHELON OVALはテーブル上部の空間がかなり広く,仰臥位でもほとんど恐怖を感じませんでした」と述べている。
撮像体位を変更すると,適正コイルが使用できない場合は画質がやや低下することもあるが,画像情報を臨床に提供できることの重要性を考慮すると,どんな姿勢でも撮像できるのはすばらしいことだと熊崎主任は評価している。また,ECHELON OVALではガントリの横から患者に手が届くため,閉所恐怖症の患者には診療放射線技師が横に付き添い,撮像前に声をかけながら身体に軽く触れることで落ち着いて撮像可能となる。そのため,同院では女性の患者には女性技師が付き添うようにしている。
このほか,旧装置ではできなかった,高齢で円背の患者の足を上げた状態での頭部の撮像や,体重約120kgと体格の大きい患者の撮像も可能になっており,ワイドボアにより確実に撮像できる患者の幅が広がっていると言える。
●モバイルテーブルとコイルの有用性
ECHELON OVALでは,WIT(Workflow Integrated Technology)をコンセプトにテーブルや撮像用コイルなどを開発している。同院では「WIT Mobile Table」を多用しており,熊崎主任はその有用性を,「テーブルをMRI室の外に出し,患者さんを車いすやストレッチャーから直接乗せ替えることで,MRI対応の車いすへの乗せ替えの手間がなくなり,技師1名の介助で対応できます。高さも床から50cmまで下げられるので,患者さんがテーブルに手をついて自分で身体を移動させられます」と説明する。
さらに平澤技師は,「63cm幅というテーブルの広さと広いボア径の相乗効果で,患者さんに横に少しずれていただくだけで,肩などを磁場中心で撮像できます」と話す。自然体位で撮像できるため患者の負担が少なく,モーションアーチファクトが抑制され,結果として画質の向上にもつながっている。
また,「WIT RF Coil System」は,Spineコイルと頭部用の下側の受信コイルが天板内に設置されているため,脊椎の撮像は寝るだけ,頭頸部の撮像は頭部用の上側の受信コイルをセットするだけで撮像が可能である。これにより,コイル交換時の負担が大幅に軽減された。
●安全性向上に貢献するガントリモニタ
ガントリ前面に搭載された「WIT Monitor」は,被検者氏名,体重,撮像姿勢の設定,接続されているコイルの情報,同期波形などが表示でき,その場で編集も可能である。WIT Monitorを多用しているという平澤技師は,「息止め検査ではその場で波形を確認したり,体重や撮像体位の変更もすぐにできるので,変更忘れがなくなりました」と語る。誕生日も確認できるため患者間違いを防ぐことができるなど,安全性の向上にも貢献している。
●緊急検査に威力を発揮するコンソール
ECHELON OVALの導入時に要望の多かった緊急検査に,最も貢献しているのがコンソールであると平澤技師は述べる。
「OSがWindowsベースのため,画像選択やマウス操作が通常のPCと同じように直感的に行えます。条件変更を求められた際,以前のコンソールは英語表記のため苦労しましたが,いまはSuggestion機能により代替条件が一覧表示されるので助かっています」
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ECHELON OVALの高画質が術前検査に貢献
一方,ECHELON OVALの画質について,消化器科,こう門科などの診療を行う安達院長は,「肝胆膵の領域では手術前にMRIをオーダしますが,MRCPの画質が大幅に向上し,初めて見たときは驚きました」と評価する。MRCPはほかの医師からも評価が高く,日常の診療以外にも生かしたいとの強い要望があり,同院では人間ドックの新しいオプションとして2015年4月から膵臓ドックが追加された。膵臓がんの多くは膵管拡張を伴うため,同院ではMRCPにて膵管を描出し,拡散強調画像と三次元処理をしたT2強調画像を踏まえて,死角のない検査を行うよう心掛けている。現在,膵臓ドックの検査枠は通常検査開始前の1枠のみであり,これまでに約60件の検査が行われた。
さらに,複雑痔瘻の術前検査にもMRIを活用している。安達院長は,「以前は複雑痔瘻のMRI検査はほとんど行っていませんでしたが,撮像してみると瘻管の走行がきわめて明瞭に描出されました。複雑痔瘻を多く扱う施設の報告では専用コイルが必要とのことでしたが,専用コイルがなくてもまったく問題なく,術前精査として有用です」と述べている。同院では複雑痔瘻の撮像はTorsoコイルを用いて行っている。症例数が少ないため検査数はわずかであるが,手術時に病変の取り残しを防げるなど,安達院長は大きなメリットを感じているという。
■症例1:膵臓ドック
■症例2:鎖骨下動脈狭窄
■症例3:頸動脈MRプラークイメージング
■症例4:複雑痔瘻
より高度な医療の提供につながる新たな撮像法に挑戦
ECHELON OVALを導入後,同院では,旧装置ではできなかった新しい撮像にも挑戦し,成果を上げつつある。その1つが,3D BASG(Balanced SARGE)シーケンスを用いた非造影MRA“VASC-ASL”による腹部血管撮像である。単純CTにて腹部大動脈に高度石灰化が認められたが造影剤禁忌の症例をVASC-ASLで撮像したところ,良好な画像が得られ,石灰化および血流の状態が確認可能で
あった。
もう1つは,体動アーチファクト補正技術であるradial系スキャンの非同期2D RADARをT1およびT2強調撮像に適用し,頸動脈のプラーク性状診断を行う“MRプラークイメージング”である。熊崎主任は,「解析は容易に行えます。当院では他院からの術前検査の依頼などに使用していますが,医師からの評判が上がってきており,オーダも増えています」と述べている。さらに現在は,プラークの広がり診断に有用な,可変フリップ角を用いた3D FSE撮像“isoFSE”にも取り組んでおり,同院では1回目の撮像でisoFSEによりプラークの位置を確認し,2回目の撮像で2D RADARにより性状診断を行っている。
このほか,同じく非造影MRA“VASC-FSE”による鎖骨下動脈や門脈の撮像も行っている。こうした血管系の撮像が今後臨床でどのように展開していくか,現状ではまだ未知数であるが,同院ではECHELON OVALの能力を最大限に引き出し,より高度な医療の提供へと向けた努力がこれからも続けられていく。
(2016年2月17日取材)
〒399-0214
長野県諏訪郡富士見町落合11100番地
TEL 0266-62-3030
URL http://www.fujimihp.com/
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