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ECHELON OVALによる心臓MRIの共同研究を経て心臓ドックを開始
世界第1号機を導入した昭南病院が造影剤や被ばくのリスクがない心臓MRIで地域の予防医療に寄与
2016-4-25
心臓MRI検査の様子(イメージ)
良好な画像を得るためには,被検者の動きを抑制し,
かつ苦しくならない適度な強さで固定する必要がある。
医療法人愛誠会昭南病院は2012年9月,日立メディコ社製1.5T MRI「ECHELON OVAL」の世界第1号機を導入した。特長である楕円形状のワイドボアを生かして日常診療に活用しつつ,主軸としていた頭部や下肢の非造影MRAのブラッシュアップを図り,地域における画像診断の要となっている。2013年からは最も撮像が困難な心臓領域に挑み,昭南病院と日立メディコ,落合礼次医師(医療法人社団如水会今村病院放射線科部長)の三者による共同研究として取り組んできた。その研究が結実し,2016年4月から心臓MRIドックがスタートする。共同研究の経緯や成果,心臓MRIドックのねらいについて,朝戸幹雄院長,診療放射線科の熊谷繁夫技師長,健診センター室の大倉義史室長にお話をうかがった。
ECHELON OVALを活用し高精度な画像診断を提供
昭南病院(診療科:12科目,病床数:154床)は,鹿児島県の大隅半島北部の曽於市に位置する民間病院である。診療の柱として「脳卒中を中心とした神経系疾患」「糖尿病を中心とした生活習慣病」「健診・ドック」の3つを掲げ,地域に根ざした医療を提供している。
同院を率いる朝戸院長は放射線科専門医であり,ステントグラフトなどの血管内治療も手掛けるが,循環器や脳神経領域などのより専門性の高い治療は,近隣の専門病院に紹介している。同院の特徴について朝戸院長は,「当院の地域における役割は,的確に診断を行って高度な専門医療を提供する施設に確実につなげ,術後のフォローアップを行うことです。その役割を果たすために画像診断機器を整えており,地域では最良の画像診断を提供できていると自負しています」と話す。
同院は2012年9月に,日立メディコ社の1.5T MRI「ECHELON OVAL」と64例マルチスライスCT「SCENARIA」を導入した。導入当初はECHELON OVALの性能を引き出すための画質向上に取り組み,現在では頭部を中心に,脊髄,腹部領域など,平均で月間130件ほどの検査を行っている。また,下肢の造影・非造影検査を年間70件ほど施行している。朝戸院長は,下肢診療における有用性について,「導入直後と比べて飛躍的に画質が向上し,慢性動脈閉塞症や閉塞性動脈硬化症は確実にとらえられます。深部静脈血栓症は命にかかわるので,下肢の腫れがある患者さんはすぐに紹介してもらい,診断から治療まで引き受けています。超音波とMRIを組み合わせてスクリーニングをすることで,格段に診断能が上がっていると感じます」と評価している。
さらにECHELON OVALは,地域における脳卒中の診療戦略にも影響を及ぼすようになってきた。
「ECHELON OVALにより非常に高度な質的診断が可能になりました。特に頭部領域では,早期の脳梗塞もとらえることができるため,発症後1〜2時間以内に当院で診断できれば,すぐに脳外科の専門病院に移送してt-PA治療も可能になります。そのことを広く知ってもらえれば,地域における脳卒中に対する戦略そのものが変わり,より良い医療を提供できるでしょう」と朝戸院長は語る。
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非造影の心臓MRIをめざし共同研究を開始
ECHELON OVALの導入は,更新前の0.3TオープンMRIでは時間がかかるために実施が難しかった脳ドックを可能にした。人間ドックや健康診断のオプション検査として実施しており,人間ドック受診者のうちの3〜4割,健診受診者のうち1〜2割が脳ドックを追加している。
脳ドックも軌道に乗り,次の段階として取り組んだのが心臓MRIである。その理由について朝戸院長は,「当院ではPCI(経皮的冠動脈形成術)を行わないため,心臓カテーテル検査も行っていません。そうなると,冠動脈評価の選択肢として造影CTがありますが,当院のCTは64列のため,心拍を抑えるための投薬が必要となり,造影剤や被ばくといったリスクが出てきます。これらのリスクをできるだけ排除して検査できるのが心臓MRIであり,ECHELON OVALであれば挑戦できると思いました」と説明する。
下肢や頸部などの血管を明瞭に描出できるようになり手応えは感じていたが,実際に心臓MRIが可能かどうかは未知数であった。造影剤を使う話も出たが,非造影で検査ができることが心臓MRIにおける最大メリットであることから,非造影での実現をめざし,日立メディコとともにデータの収集を始めた。画像評価においては,心臓CTでの冠動脈評価の経験が豊富な落合医師に協力を求め,2013年5月に第1回心臓MRI検討会を開催し,翌年から正式に三者による共同研究が始まった。
熊谷技師長は,「最初の検討会は雲をつかむような状態でしたが,ECHELON OVALは基本的にスペックの高い装置ですので,心臓を撮像できるだろうという目星はつきました。体重や心拍数などいくつかのテーマを決めてボランティアデータを集め,半年に1回開催する検討会で検証とテストを繰り返しました」と経緯を振り返る。
“横隔膜ナビ”の改良により呼吸が不安定な被検者にも対応
検討会では,収集したデータから課題が洗い出され,ソフトウエアや撮像法など,多角的に改良がなされていった。検討において最も難しかったのは,心拍数と呼吸が撮像に及ぼす影響を解析することだったと熊谷技師長は話す。
「検討していく中で撮像に最も影響するのが心拍数と呼吸であることがわかりましたが,これらと画像の関係を検証することが大変でした。モニタに録画機を接続して,検査中に呼吸状態や心拍数がどのように変化するかを記録し,落合先生が1つ1つ画像と照らし合わせて細かく検証していきました。心拍数については,薬によるコントロールをせずにどこまで撮像可能かを検討したところ,心臓CTよりも高い75〜80bpmでも撮像できることがわかりました」
一方,呼吸については,ECHELON OVALに搭載された呼吸同期機能“横隔膜ナビ”のさらなる改良が求められた。課題と要望が日立メディコの開発部門にフィードバックされて改善が図られたことで,同期のためのデータの検出精度が大きく向上し,呼吸が安定しない被検者での成功率を効率的に向上させることにつながった。
延べ70人ほどのボランティアの撮像と検証,改善を経て,臨床で十分に使えるとの判断に至り,心臓ドックを開始することが決まった。心臓ドックを実施する理由を,朝戸院長は次のように述べる。
「心臓は,がんと比べて発症すると緊急性が高いため,高脂血症や糖尿病がある,身内に心疾患の人がいるといった場合には,検査を受けてリスクの程度を知っておくことは大切です。検査を受けていただくためにも,造影剤や被ばくのリスクがない心臓MRIドックに意味があると言えます」
また,ドック・健診は自由診療であるため,診療報酬に影響されやすい病院経営の安定化にも貢献する。大倉室長は,「人間ドックや健診のメニューが増えることは,地域住民の健康意識への啓発にもなります。これまでは,心臓ドックを受けるために鹿児島市など遠方まで行く必要がありましたが,当院で実施できることを広報し,検査を受けてもらうことで予防に努めるとともに,地域経済にも貢献できると考えています」と述べている。
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成功率を向上させるための検査方法を確立
心臓の撮像では,検査における工夫も重要となる。セッティングでは,呼吸による動きを抑制するために腹帯を3枚使って固定するが,被検者が苦しくならない適度な強さで締めることがポイントとなる。また,電極の配置も検討し,トリガーとなるR波を検出しやすいL字型貼付とした。コイルは,心臓用コイルと寝台埋め込み型の脊椎用コイルを使用する。
検査では,直前にニトログリセリンを舌下投与する。血管が拡張し,呼吸状態も安定しているうちに,Balanced SARGEシーケンスで冠動脈の撮像を行う。続いてシネMRIを3方向,最後にblack-blood法によるT2強調画像を撮像する。検査時間は30〜40分ほどで,再撮像も考慮して検査枠は1時間を設定する。解析にはワークステーションを用い,マニュアル操作で冠動脈の抽出を行う。
熊谷技師長は,心臓領域におけるECHELON OVALの到達点と課題について,次のように述べる。
「現状で80〜85%の成功率となっており,十分に心臓に対応できます。ただ,BMIが高いとうまくいかないこともあり,脂肪が軟らかく動きやすいことで心臓の動きが複雑になることが理由として考えられます。今後,横隔膜ナビが三次元的に追従できるようになればアドバンテージがありますし,より簡単に撮像できるようになれば,ECHELON OVALによる心臓MRIは普及すると思います」
心臓ドックは,人間ドックや健診のオプション検査として,週に6件の枠で2016年4月からスタートする予定だ。ただし,被検者によっては十分な画像を得られるとは限らないため,評価可能な画像を得られない場合には,検査費用の返金もありうるとしている。
ECHELON OVALで地方でもトップレベルの診断を実現
昭南病院では,遠隔画像診断を行えるインターネット環境を構築し,唯一の放射線科医である朝戸院長が院内にいなくても,ノートPCやスマートフォンを用いて診断支援を行っている。
心臓MRIは落合医師に読影を依頼する体制とし,専門性の高い診断を可能にした。朝戸院長は,「現在は,落合先生が得意とする領域は,心臓に限らず読影を依頼しています。遠隔画像診断ができる環境を整えることで,当院のような地方の病院でもトップレベルの画像診断が可能になりました。良好な画像を得られることが条件となりますが,ECHELON OVALはその期待に応えてくれています」と述べている。
最後に朝戸院長は,組織再編を控えた日立の開発力強化に期待を示すとともに,ECHELON OVALの活用について次のように展望した。
「認知症診断へのニーズが高まっていますが,ECHELON OVALではVSRADだけでなく,DKIによる鑑別診断も期待できます。当院ではRIも行っていますので,将来的には複合的な認知症診断も行っていきたいと思います」
MRI撮像における“最大の難所”とも言える心臓領域を乗り越えたECHELON OVAL は,今後よりいっそう地域医療を支える同院の力となるだろう。
(2016年2月8日取材)
医療法人愛誠会 昭南病院
〒899-8106
鹿児島県曽於市大隅町下窪町1
TEL 099-482-0622
URL http://www.aisei-kai.com
ECHELON OVALの心臓撮像機能
ECHELON OVALには,各種の心臓撮像機能が搭載されている。“Cardiac Imaging Package”として提供される機能には,まず,ISC機能,横隔膜ナビ機能,ナビスライスポジショニング機能といった,撮像位置決定に関する機能がある。
ISC(Interactive Scan Control)機能は,動画撮像を行いながら撮像断面を変更することで,リアルタイムに断面更新撮像を可能にする。
横隔膜ナビ機能は,呼吸に伴って変動する横隔膜の位置を部分撮像データで把握し,呼吸変動に合わせた撮像制御をすることで,動きのアーチファクトを低減した撮像を可能とする。励起方法はクロス法とBeam法の2種類があり,撮像位置や条件により最適化される。
●心筋Perfusion MRI
心筋Perfusion MRIは,ガドリニウム系造影剤を静注し,造影剤通過に起因する信号変化を利用して心筋での虚血領域を描出する撮像法である。
ガドリニウム系造影剤は,心筋細胞内には入らず血管内から細胞外液へ速やかに拡散するため,心筋内血流にかかわる情報が信号変化に反映されるのは,造影剤ファーストパス通過による信号立ち上がり期間に限定されるという制約がある。このため,高時間分解能ダイナミック撮像を行って画像を取得する。
●心筋遅延造影
心筋遅延造影は,ガドリニウム系造影剤投与から10~20分経過後にT1強調撮像を実行し,梗塞した心筋を高信号に描出する撮像法である。
T1強調法として,BASGシーケンスに先行して非スライス選択のIRパルスを印加する。IRパルスとBASGシーケンスとの時間間隔TIを正常心筋のnull timeとすることにより,梗塞した心筋を高信号に描画する。
心筋遅延造影の撮像は,TI-surveyと本撮像に分類される。TI-surveyの目的は,正常心筋のnull timeを判断し,最適なTIを決定することである。その後,TI-surveyで決定したTIを用いて本撮像を行う。
●心筋タギング計測機能
この計測機能は,縦磁化を空間的に変調するプリパルスを適用することで,心筋に低信号の目印(タグ)を付加し,タグの時間変化を計測する機能である。タグが変形する様子から,心筋の局所的な変形を確認することができる。
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