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白石病院 ECHELON Vega
脊椎疾患とスポーツ医学に特化した専門外来でMRI検査を3種類のレベルから選択
3D MRI/CT Fusion Imagingで脊椎の神経根を描出
2013-9-25
右から加藤 修室長,鴨川淳二医師,羽藤泰三医師,森實辰則技師
愛媛県今治市の慈風会白石病院(白石三思郎院長)は,1910(明治43)年開院の,100年にわたって地域医療に貢献してきた民間病院である。なかでも整形外科では,鴨川淳二氏,羽藤泰三氏を中心に,脊椎疾患とスポーツ医学に特化した診療を行っており,脊椎の診断から手術,スポーツにおける腰痛治療など,専門的で質の高い医療を提供しているのが特長だ。スポーツ・脊椎外来では,脊椎疾患のスクリーニングのための“Whole spine MRI”から,手術のシミュレーションを目的とした“3D MRI/CT Fusion Imaging”まで,日立メディコ社製の超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」が最大限に活用されている。同院での脊椎MRIの取り組みについて,鴨川医師,羽藤医師と放射線科の加藤修室長にお話をうかがった。
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脊椎・スポーツ外科に特化した診療を展開
今治市(人口約16万人)は,愛媛県の北東部,しまなみ海道の四国側の玄関口であり,造船や今治タオルなどで知られる。白石病院は,今治駅や市役所などがある市の中心街に位置している。診療科は,内科,外科,整形外科,放射線科,リハビリテーション科,病床は100床(一般病床60,療養病床40)で,白石院長の専門である糖尿病治療や救急医療などで地域医療に貢献している。
同院では,整形外科の専門外来としてスポーツ・脊椎外来を設け,鴨川,羽藤両医師の専門領域である脊椎に特化した診療を行っている。診療内容としては,脊柱管狭窄症,神経根症などの手術治療を中心とする脊椎疾患と,スポーツ外来では中高生を中心とする若いアスリートに対する腰痛(腰椎分離症)の診療である。領域を特化した診療のねらいについて鴨川医師は,「脊椎疾患やスポーツ障害に対する診療は,診察や画像診断,治療に多くの時間がかかります。領域に特化した診療体制を取ることで,患者さん一人ひとりの症状に合わせた専門的で時間をかけた診療が可能になります」と説明する。
羽藤医師は,脊椎領域に絞ったスポーツ外来の展開について,「一般的に,スポーツ外科では運動に伴って発生する障害全般の診療を窓口的に行うことが多いのですが,われわれは脊椎という専門領域をバックグラウンドとして,スポーツ障害の中でも腰椎分離症にターゲットを絞った診療を行っています。腰椎分離症は,若年のスポーツ選手に多く見られる疾患ですが,まだ研究があまり進んでいない領域で,診断や治療方法も定まったものがありません。腰痛に悩むアスリートに対して,専門性を生かした診療を提供しています」と語る。
脊椎関連の手術は,顕微鏡視下による脊柱管狭窄症に対する手術を中心に,月間約13例を行っている。同院では,2012年6月に手術室をリニューアルし,より安全で精度の高い脊椎・脊髄手術が可能な体制を整えた。また,スポーツ外来では,柔軟性チェックシートを使った根本的なフィジカル面からのフォローも行っている。羽藤医師は,「専門的な治療だけでなく,腰痛や肩や肘の故障の原因は,身体の硬さにあることが多いので,根本のところから対応する意味で取り組んでいます」と言う。
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背骨を中心に疾患を素早く探る“Whole spine MRI”を実施
同院では,2009年に整形外科の脊椎の撮像と心臓MRIまでを視野に入れて,1.5T MRIの「ECHELON Vega」を導入した。導入にあたっては,脊椎の神経根の描出がポイントになることから,MRIメーカー各社に神経根の描出を依頼して検討を行い,日立メディコを含む2社が最終候補となったが,シーケンスの検討やサポート体制などをトータルに評価してECHELON Vegaが選定された。鴨川医師は,「各メーカーに神経根の描出が可能かどうか,要望を出して画質を検討しました。病院として国産メーカーに期待する部分もあって,日立メディコのMRIの導入となりました」と経緯を説明する。
スポーツ・脊椎外来では,MRI検査について,全脊柱を短時間でスクリーニングする“Whole spine MRI”,領域を絞った局所MRI撮像,手術を前提とした詳細な“3D MRI/CT Fusion Imaging”と,症状や病態に合わせたメニューを作成している(表1)。鴨川医師は,「腰や足の痛みで来院する患者さんに対して,早く正確に診断を行い,適切な治療を行うためにMRI検査の撮像メニューを選択してシステム化しています。診察前に看護師が行う問診をもとに,スクリーニングから手術前提の詳細検査までを振り分けて,最短の時間で最適な検査を選択し,実施することがねらいです」と説明する。
問診は,病歴,既往症,睡眠習慣から家族構成,個人の嗜好などの独自の問診票を作成し,診察前に看護師が時間をかけて行う。全脊柱を対象に脊椎,脊髄のスクリーニングとして実施されているWhole spine MRIは,T1およびT2強調矢状断像のみで,撮像時間は約20分。T2強調画像のみであれば10分で終了するため,その結果から腰の局所MRI撮像が必要かどうかその場で判断し,骨病変が疑われる場合にはSTIR(short T1 inversion recovery)法を追加している。鴨川医師はWhole spine MRIについて,「1回の撮像で頭頸移行部から仙椎までが描出でき,圧迫骨折や靭帯骨化などの骨病変や脊柱管狭窄症,ヘルニアなどの椎間板病変などの診断が可能です。脊椎全体が撮像できることで,重複病変の把握や,小脳,甲状腺周囲,骨盤内など,他科の疾患の発見にもつながります。場合によっては,初診で単純X線写真を撮らずに,Whole spine MRIのみで診断することもあります」と言う。
MRI(神経根)とCT(椎体)のFusion Imagingを作成
3D MRI/CT Fusion Imagingは,CTで撮影した椎体と,MRIによる神経根や脳脊髄液(CSF)などの情報を,画像処理ワークステーション(SYNAPSE VINCENT:富士フイルム社製)を使って重ね合わせて,痛みの原因の特定や顕微鏡下手術前の治療計画などに利用している。脊椎は骨と神経の複合体で,診断では器(骨)と中身(神経)の両方の関係をとらえることが重要になるが,従来,それを同時に描出する方法がなかった。鴨川医師は,「神経痛を伴う脊椎疾患では神経根の情報が重要になりますが,造影ができない神経根の描出は非常に困難でした。また,再手術の際には,最初の手術の癒着や血管走行の確認の必要から,脊椎と神経根,および周辺の血管の情報が重要です。骨と神経根を同時に描出する手法として,脳神経外科などで行われているCTとMRIのFusion Imagingをヒントに取り組みました」と,Fusion Imagingに取り組んだ経緯について述べる。
Fusion Imagingでは,ワークステーション(WS)を使って,MRIで撮像したデータから神経根やCSFの情報を抽出し,CTで撮影した骨(椎体)や血管(造影データ)などと重ね合わせて,3D画像として作成する。脳神経外科における脳腫瘍などの術前シミュレーション画像などと同じ手法だが,脊椎領域では神経根の描出が困難なこと,また,神経根の走行がランダムで基準となる目標や境界がないため,フュージョンの際にも細心の注意が必要となる。鴨川医師は脊椎のFusion Imagingの難しさについて,「頸部神経根をとらえるMRIの撮像技術が開発されていないこと,CTとのフュージョンにミスアライメントが発生することがFusion Imagingの課題でした。WSを使っても,CTとMRIの画像を正確に重ね合わせるには,大変な手間と時間がかかります。始めた当初は,1症例に8時間,現状ではWSの機能向上により多少短縮しましたが,それでも5時間程度かかっており,実際の作業を行う放射線科のスタッフの協力が欠かせません」と言う。Fusion Imaging作成作業は,放射線科の加藤修室長と森實辰則技師が担当している。加藤室長は,「当初は,MRIのデータから,MPR像で神経根が一番良く描出されている断面を選択して,角度を変えながら手作業で抽出していました。WSのバージョンアップによって,CPRによる中心線の抽出から神経根の描出が可能になり少し効率化しましたが,CTデータの椎体分離やMRIとCTの位置合わせに時間がかかります」と,Fusion Imagingのポイントを説明する。
■症例1:Whole spine MRI(Level1のMRI検査)
■症例2:神経根MRI画像(Level2のMRI検査)
■症例3:腰椎分離症(Level2のMRI検査)
■症例4:3D MRI/CT Fusion Imaging(Level3のMRI検査)
神経根描出のためにMRIの能力を最大限に引き出す
脊椎のFusion Imagingのもうひとつのボトルネックが,MRIでの神経根の描出が難しいことだ。神経根は脊髄からつながる神経組織で,腹側の前根系と背側の後根系があり,直径が1〜5mmと細いことと,血管のように自由に走行しているため位置を特定しづらいことから,MRIでの撮像が難しい。同院では,神経根の撮像には,高速グラディエントエコーシーケンスであるT1 RSSGを使って,描出したい神経根に合わせて角度を決めて撮像している。撮像する角度は,頸椎の場合であれば,前彎角,後彎角,ストレートのそれぞれに決めて撮像している。加藤室長は,「これまでの経験から撮像する角度の基準を決めていますが,継続的にデータを集めて最適な撮像方法を試行錯誤している段階です」と言う。
鴨川医師は,脊椎領域のMRIの可能性について,「MRIは,高い能力とさまざまな可能性を持った性能の高い“乗り物”ですが,その能力を十分に引き出すためには良い“運転(ドライブ)”が必要です。3T装置も登場していますが,特に脊椎領域では,1.5T装置でも本来の性能の半分も引き出せていないと思います。当院では,加藤室長が日立メディコとも協力して,最適なシーケンスや撮像方法などを検討し,ECHELON Vegaの持つ能力の6割ぐらいまでは引き出せています。それでも,まだ,そのポテンシャルを使い切ってはいないと思います」と説明する。加藤室長は,ECHELON Vegaによる神経根の撮像の取り組みについて,「シーケンスの改良などは,われわれだけでは限界があり,日立メディコの技術やサポートの協力を得ながら,描出能の向上や撮像時間の短縮など,さらに上をめざしていきたいと考えています」と言う。
誰が見てもわかる“at a glance(一目瞭然)”の画像をめざす
鴨川医師は,大学病院での経験からMRIの検査枠や時間の自由がきかないこと,臨床医がほしい画像や見たい部位に必ずしもフォーカスされないことにストレスがあったという。
「大学病院では,多くの診療科からのMRI検査オーダがあるため,どうしても検査枠や時間に制約がありました。また,MRIは検査時間の長さや撮像中の騒音など,患者さんにとって心地良い検査でないことはわかっていましたので,患者さんの症状に合わせた最適な検査を提供したいと考えていました。当院に赴任して,加藤室長をはじめ放射線科のスタッフと,検査枠や撮影時間,Whole spineからFusion Imagingまでのランク付け,画像に求められる臨床的な意義などについて,ディスカッションを重ねて,現在の検査体制を実現しました。スタッフが,時間と手間がかかるFusion Imagingに取り組んでくれるのも,臨床での必要性を理解してくれているからこそだと思います」と語る。
Fusion Imagingなど脊椎のMRIの取り組みについて,鴨川医師は,誰が見てもわかる,“at a glance(一目瞭然)”の画像をめざしてきたと言う。
「Fusion Imagingによって,術前に神経根の位置を確認することで,実際の手術でのトラブルを防ぐことができます。術前地図(mapping)と呼んでいますが,地図を持って山に入れば迷うことが減ります。同時に,誰が見ても一目瞭然の画像であれば,スタッフ間の情報共有が可能になり,手術のレベルも向上します。昔のように読影のスキルが必要な画像ではなく,わかりやすい“at a glance”の画像を作ることで,医療従事者だけでなく,患者さんやその家族も含めて理解できることが,本当に必要とされていると思います」
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臨床現場で医学の進歩に貢献する検査に取り組む
脊椎領域におけるMRIへのこれからの要望について,鴨川医師は次のように語る。
「MRIが登場して30年あまりで,腫瘍や血管の描出では画質の向上やさまざまなシーケンスの開発などが進みましたが,運動器の領域は残念ながら大きな進歩がありません。われわれは,地域の民間病院の最前線で,日々,患者さんに向き合いながら診療を行っています。一歩でも医学を前に進めて真実に近づきたいという情熱を持ってMRI検査にも取り組んできました。MRIを開発するメーカーにも,臨床のニーズを理解して,さらに技術力を磨いていってほしいと望んでいます」
白石病院では,脊椎の病態を把握する手段として,MRIの能力を最大限に引き出すべくスタッフが一丸となって,次のステージに向けて努力が続けられている。ECHELON Vegaを活用した今後の展開が期待される。
(2013年7月24日取材)
医療法人慈風会 白石病院
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