セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第1回日本放射線医療技術学術大会が2024年10月31日(木)~11月3日(日)の4日間,沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)で開催された。10月31日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー2では,つくば国際大学医療保健学部診療放射線学科の柳田 智氏が座長を務め,聖マリアンナ医科大学病院診療放射線技術部の田沼隆夫氏と獨協医科大学病院放射線部の瀬﨑英典氏が,「一般撮影FPDの新たなソリューション~Intelligent NR とBuilt-in AEC Assistance~」をテーマに講演を行った。

2025年1月号

第1回日本放射線医療技術学術大会 ランチョンセミナー2 一般撮影FPDの新たなソリューション ~Intelligent NRとBuilt-in AEC Assistance~

〈講演1〉ノイズ低減処理の最前線! Intelligent NRの魅力を伝えます

田沼隆夫(聖マリアンナ医科大学病院 診療放射線技術部)

田沼隆夫(聖マリアンナ医科大学病院 診療放射線技術部)

聖マリアンナ医科大学病院では,一般撮影室5部屋とポータブル撮影装置3台のFPDを,すべてキヤノン社製のデジタルラジオグラフィ(DR)「CXDIシリーズ」で運用してきた。その中で,人工知能(AI)技術の一つであるディープラーニングが用いられた,ノイズ低減処理ソフトウエア「Intelligent NR(INR)」については,小児のポータブル撮影を中心に共同研究を進めると同時に,臨床においても活用している。本講演では,INR技術と検証結果,実臨床での評価とその魅力を報告する。

従来型のノイズ低減処理の課題

従来型のノイズ低減処理の基本原理は,元画像からノイズ成分を抽出してそれを減算することでノイズ低減画像を作成するものである。従来のノイズ成分の抽出は,ルールベース(人間が決めたルール)に基づいて,平滑化処理をベースに多重解像度分析で周波数ごとにノイズを抽出し,それを入力画像から減算するフィルタ処理が行われていた。そのため,構造の信号の一部が含まれてしまい,強く処理をかけられないなど課題を残す状態であった。

新しいノイズ低減処理技術INR

INRは,これらの課題をクリアすべく開発された新しいノイズ低減処理である。INRは,ディープラーニングを活用し,教師データには約3000枚の臨床画像やファントム画像を使用した。また,学習データの教師画像にキヤノン独自のノイズシミュレーション技術を用いてさまざまなノイズを付加した画像を作成し,ノイズを学習させたことで,より粒状性を改善し,低線量部でノイズを低減した画質の提供が可能になった。
INRが低線量部に強い理由は,学習データに用いる高度なノイズシミュレーション技術にある。ディープラーニング技術の良し悪しは学習データの数とその質で決まるが,INRでは線量ごとにノイズの周波数特性を模擬することで数千万通りのノイズを再現している。その質に関しても,入出力特性や蛍光体のMTF特性などCXDIの物理特性に基づいてシミュレーションを行いノイズを模擬している。また,FPD(CsI)では入射表面線量(entrance surface dose:ESD)が低くなるに従い電気ノイズの割合が増加する1)ことから,システムノイズの影響を受けやすい低線量部の特性を考慮した学習を行い,自社比最大50%のノイズ低減効果を発揮する。

INRの効果検証と評価

1.差分画像(肺野)
胸部ファントム画像を用いて,処理なしの画像から従来処理とINRの差分画像による検証を行った(図1)。従来処理は差分画像に肋骨や骨梁などの構造の一部も含まれているが,INRではノイズのみが抽出されており,構造の変化がほとんどなく,より自然なノイズ低減効果が得られていることが検証できた。

図1 差分画像(肺野)2)

図1 差分画像(肺野)2)

 

2.低線量長尺画像の評価(TTF)
現在,INRについて低線量長尺画像での効果について評価を行っている。思春期特発性側彎症の全脊椎の撮影を想定し,アクリルファントムを使用して椎体と同等のコントラストとなるようアルミニウムのプレート(2mm×直径20cm)で調整し,0.07mGyのESDで撮影した。これは,小児の思春期特発性側彎症患者の撮影を想定した低線量プロトコールで,腰椎正面のDRL2020(3.5mGy),日本医学放射線学会修練機関(57施設)の中央値(1.55mGy)よりも低く,側彎症のアライメントの確認のための低線量撮影の線量設定である。解析用元画像(図2)では,従来処理では辺縁にざらつきが認められるが,INRではノイズが良好に低減されている。TTFのグラフ(図3)では,従来処理はTTFが低下しているが,INRは処理なしとほぼ変わらず,鮮鋭性が保たれていることが検証できた。
従来処理とINRの視認性(VGA)の評価も行った。思春期特発性側彎症患者28名に対して,5名の評価者が4段階でスコアリングを行い,評価者間の一致の信頼性をICC(intraclass correlation coefficient)で評価した。その結果,従来処理に比べINRの方が点数の中央値は有意に高く,評価者間の一致度も0.881と高かった。INRは,条件の厳しい低線量部においても,自然で強力なノイズ低減の効果が得られることを検証によりデータとして示すことができた。

図2 低線量長尺画像のTTF:解析用元画像

図2 低線量長尺画像のTTF:解析用元画像

 

図3 低線量長尺画像のTTF

図3 低線量長尺画像のTTF

 

INRの臨床画像の評価

図4は股関節立位の画像で,0.1mGyという低線量で撮影されている。従来処理ではアライメントの評価は可能だが,ノイズが残っており骨梁の確認までは難しい。INRでは,ノイズの影響が除去され骨梁がきれいに描出されており,不顕性骨折があった場合でも微細な変化も評価可能になると期待される。図5は全脊椎のOne-shot長尺撮影である。思春期特発性側彎症患者で低線量プロトコールで撮影されている。特発性側彎症では,側彎度(Cobb角)や椎体回旋(Nash&Moe法)の評価を行うが,INRの画像では椎体がクリアに描出されている。これらの検証により,INRは低線量部でノイズの影響によって劣化した画像の視認性を改善することが最大の魅力だと言える。

図4 股関節立位

図4 股関節立位

 

図5 全脊椎One-shot長尺撮影

図5 全脊椎One-shot長尺撮影
特発性側彎症 : 100kVp,Cu 0.2mm,ESD 0.07mGy

 

今後のノイズ低減に必要となる通念

INRは,AI技術の活用により低線量撮影でも従来以上にノイズ低減の効果が期待できる処理であるが,あくまでノイズ低減処理にとどまる。つまり,極端な低線量撮影時に元画像にない信号や識別不可能な信号を,ソフトウエアで復元または画像生成する機能ではない。高度なノイズ低減処理の登場で重要になるのは,元画像で識別可能な信号を得るための線量(SNR)は最低限必要であり,過剰でも過小でもない,適正な線量での撮影が求められるということである。

まとめ

INRは,ノイズによる視認性の劣化に対して強力かつ自然なノイズ低減効果が得られ,視認性の向上が可能な魅力的なノイズ低減技術である(図6)。INRを有効活用するためには,良い元画像が必須であり,良い元画像を得るためには,撮影する診療放射線技師の役割が重要となる。さらに考慮すべきは,線量と画質を最適化したALARAの法則に則った撮影が求められる。線量の最適化のためには,基本的物理特性やSDNR,CNR,TTF,視覚評価など現場における評価も不可欠であると考える。
今後の期待としては,必要最低限の線量で運用するために,一定の線量で撮影することが求められる。そのためにも,FPDセンサにAECの採光野機能「Built-in AEC Assistance」を搭載したキヤノン社製「CXDI-Elite」の活用に期待したい。

図6 AI技術を活用したINRの魅力

図6 AI技術を活用したINRの魅力

 

●参考文献
1)國友博史,他,日本放射線技術学会雑誌,68(8):961-969,2012.
2)田沼隆夫,他,第37回日本放射線技師会学術大会,口述発表,2021.

一般的名称:X線平面検出器出力読取式デジタルラジオグラフ
販売名:デジタルラジオグラフィ CXDI-Elite
認証番号:304ABBZX00003000
製造販売元:キヤノン株式会社

*Intelligent NRはノイズ低減処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*医療機器の添付文書もご参照ください。

 

田沼 隆夫(Tanuma Takao)
2006年 駒澤短期大学専攻科卒業。同年,聖マリアンナ医科大学病院画像センター入職。医療情報技師,医用画像情報専門技師。

 

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