セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2023年10月号
第105回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー9 胆膵内視鏡up to date ~CアームX線TVシステムの有効活用法~
Cアームの角度調整と新画像処理条件を駆使したERCP関連手技
杉山 晴俊(東京女子医科大学附属八千代医療センター 内視鏡科/消化器内科)
当院は、地域中核病院として最新の医療技術の提供に努めており、2021年10月には、キヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステム「Ultimax-i」を導入した(図1)。2006年の開院当初は年間100件程度であった内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は、現在約300件にまで増加している。本講演では、Ultimax-iや、2023年に新たに導入した新画像処理条件を活用したERCP関連手技について報告する。
ERCPにおける「見やすさ」の重要性
ERCPは、医師にとってマルチタスクを要求される手技である。術者としてスコープ操作を行いつつ、ほかのスタッフとコミュニケーションを取り、併せて内視鏡画像と透視像を同時に確認する必要があることから、透視像の視認性が低いと非常にストレスとなる。したがって、画像の「見やすさ」こそが、術者のストレスを低減するために重要である。画像が見やすくなることで手技時間を数秒でも短縮できれば、患者のストレス低減にもつながる。また、「よく見える」ことにより、術者と助手、診療放射線技師、看護師など手技にかかわるチーム内で同じ目標を達成するためのコミュニケーションが取りやすくなる。
Ultimax-iと新画像処理条件の導入
当院では、2021年10月にUltimax-iが稼働を開始した。Ultimax-iは、Cアームを回転させることで、患者の移動や体位変換を行うことなくさまざまな角度での観察が可能であり、最適な視野の確保や三次元的な情報を安全に取得することができる。
また、2023年より、デバイスの視認性を向上する新画像処理条件を使用している。新画像処理条件は、術者が見たい部分のみを強調し、手技を行いやすくすることができる。ERCP関連手技では、ガイドワイヤやバスケット、ステントなどのデバイス、造影剤などを強調し、より視認性を向上することが可能である。Ultimax-iでは、まず、照射線量を従来比65%低減する高画質・低線量検査コンセプト「octave SP」により、被ばくを低減しつつ、より高画質な透視像が得られている。図2は、従来とoctave SPの透視像の比較であるが、octave SPを適用した画像では、照射線量を65%低減しても非常に高画質である。
一方、ERCPの手技に当たり、透視像の不明瞭な部分については、術者が頭の中で補いながら行っているため、ストレスがかかる。新画像処理条件により、ワイヤやデバイスが強調される。図3は通常の画像処理条件と新画像処理条件のコントラストの比較であるが、新画像処理条件を用いた透視像では、コントラストが約2〜2.4倍に改善し、各デバイスの視認性が向上している。これにより、カテーテル先端の把握が容易となるほか、ガイドワイヤがレールとして描出され、バスケットワイヤやステント端のフラップも鮮明に視認できる。
なお、通常の画像処理条件から新画像処理条件への切り替えは、マウスやキーパッドで操作室と撮影室のいずれでも瞬時に行うことができる(図4)。
新画像処理条件によるデバイスの視認性向上
新画像処理条件を使用し、デバイスの視認性が向上した症例を紹介する。
図5は、胆道砕石術と胆管ステント留置術を行った症例である。砕石術後に胆石が残存したためプラスチックステントを留置したところ、胆管内にステントが迷入した。ステントと残石の回収には採石バスケットを使用した。新画像処理条件を適用したところ、ステント下端のフラップや、採石バスケットのワイヤおよびガイドワイヤが明瞭となり、ステント回収(手技)を容易に行えた。
図6は、胆囊炎と胆管結石性胆管炎の治療例で、膵管、胆囊、胆管に計3本のガイドワイヤを挿入した。通常の透視像でもある程度視認できるが、新画像処理条件に切り替えることでガイドワイヤの視認性が向上した。
図7は、胆管狭窄治療例である。新画像処理条件では、造影剤使用時でも金属ステントの展開が明瞭に確認できた。また、ERCP後膵炎対策として細径(4〜5Fr)の自然脱落式膵管ステントを使用した場合も、輪郭まで明瞭に確認できた(図8)。
内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術(ENBD)では、患者の負担を考慮して6Frの細径ENBD留置チューブを使用しているが、新画像処理条件により、チューブがより鮮明に描出される(図9)。さらに、新画像処理条件によりガイドワイヤの視認性が向上したことで、胆管生検時に生検鉗子で誤ってガイドワイヤを把持してしまうケースが減少した(図10)。
Cアームの有用性
CアームX線TVシステムを未導入の施設では、目的とする部位の透視が難しいケースの対処法として、患者の体を傾けるか、スコープのポジションを変える、あるいは我慢して手技を継続するかのいずれかが考えられる。しかし、(1) 亀背や頸部の痛み、気管内挿管や人工呼吸器装着中、腹部膨満などの理由から腹臥位を取れない、(2) スコープが抜けやすい症例や、体重が重い、体幹の固定具を使用中などの理由で患者の体を持ち上げられない、などの場合には、Cアームが有用である。Cアームは、角度調整が片手で容易に行える上、X線照射を下から行うアンダーチューブ方式では、術者の水晶体被ばくも低減する(図11)。
肝門部、肝内胆管、膵管に対しては、Cアームがない場合は患者の左側を持ち上げる必要があり、患者とスタッフ双方の負担となるが、Cアームがあれば、アームを正面から20°、あるいはそれ以上回転させることで対応可能となる。
Cアームと新画像処理条件の活用例
以下に、当院でのCアームと新画像処理条件の活用例を提示する。
●症例1:左肝内胆管狭窄(図12)
左肝内胆管は椎骨と重なって描出されることがよくあるが、本症例も末梢側の肝内胆管が拡張し、狭窄部が完全に椎骨と重なっていた。また、左肝内胆管はtangent方向に位置し、狭窄長の評価が難しいケースがある。しかし、Cアームの角度を適切に調整することで、椎骨と重なることなく、狭窄長を計測しやすい画面を表示することが可能となる。
●症例2:胆管狭窄(図13)
本症例は、胆管結石治療を複数回にわたり行ったが、胆管炎を繰り返すことから検査目的で入院した。左肝内胆管の形状が若干いびつであったが、椎骨と重ならないよう造影し、胆管の評価を行った。新画像処理条件を用いたことでカテーテルの視認性が向上し、カテーテルを奥まで挿入して狭窄を正確に評価できた。続いて行ったブラシ細胞診では、新画像処理条件によりガイドワイヤが明瞭となり、ガイドワイヤと細胞診ブラシの位置関係を容易に確認できた。
●症例3:膵管拡張精査(図14)
膵管の評価においても擦過細胞診の重要性が指摘されている。本症例は、MRIやCTの画像では腫瘍が確認できなかった。ERCPでは正面からの透視像では椎骨と狭窄部が重なっていたが、Cアームの角度調整により、膵管の評価やブラシ細胞診が可能であった。
●症例4:肝門部胆管がん(図15)
肝門部〜肝内胆管狭窄や前区域・後区域分岐の評価、ガイドワイヤによる枝の選択、複数本の金属ステント留置に際しては、胆管を三次元的にとらえる必要がある。最近は、金属ステントのre-interventionも可能であるとの報告が増加しているが、2D画像では問題ないように見えても、実際には困難なケースも多い。
本症例は、金属ステント3本を留置後10か月で肝B8に膿瘍が生じ、ステントが変形したため、金属ステントのre-interventionとドレナージを行った。当初表示していた角度で問題なくガイドワイヤを進められると考えたが困難であり、Cアームの角度を変えたところ、実際には方向がずれていると判明したので、ガイドワイヤをいったん引いて再度挿入したところ、問題なくルートを確保できた。このように、肝門部においてはdimensionを変更することが重要なポイントとなる。
まとめ
Ultimax-iのCアームを活用することで、目的部位をより見やすい角度で表示可能となる。また、体位変換が不要となり、スタッフのストレスが軽減するほか、バイタルチェックやガイドワイヤ操作に集中できるようになり、手技時間の短縮や患者のストレス軽減につながる。
さらに、Cアームに新画像処理条件を加えることで、見たい部分がより鮮明に描出されるようになった。新画像処理条件は、ワンタッチで切り替えが可能なため、当院では普段から積極的に使用するようにしている。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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