セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2022年10月号
第103回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー16 明日から役立つERCP関連手技のコツ
悪性胆管狭窄に対する胆道ドレナージのコツ
橋元 慎一(鹿児島大学病院 光学医療診療部/鹿児島大学 消化器疾患・生活習慣病学)
当院では、2021年1月にキヤノンメディカルシステムズ社製Cアーム型透視装置「Ultimax-i」を導入した。本講演では、Ultimax-iを用いた当科の透視検査の実際や悪性胆道ドレナージのストラテジー、留置のコツなどについて概説する。
Cアーム型透視装置Ultimax-iの導入
当院における2021年度の内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)の件数は232件であったのに対し、悪性胆道ドレナージは180件と比較的多く施行している。また、超音波内視鏡(EUS)を600件施行し、そのうち超音波内視鏡下穿刺吸引術(FNA)は146件であり、九州では有数の件数を誇っている。
当院では2021年1月にUltimax-iを導入し、現在、4室ある透視室のうち3室にUltimax-i、1室に最新式のオーバーチューブ装置を設置している(図1、2)。Ultimax-iは、Cアームを左右に振ることで、患者の体位変換を行うことなく手技に最適な観察が可能で、他社オーバーチューブに比べて画像のブレも少ない。検査室の大型モニタでは、術中の透視像や内視鏡像、術前の画像などを同時に表示することができる。また、Ultimax-iでは、高画質・低線量検査コンセプト“octave SP”によって、従来より照射線量を約65%低減しても明瞭な透視像が得られる。透視線量モードやパルス透視の切り替えなどによって、さらなる被ばく低減が可能で、当院では通常、パルス透視を7.5fps、透視線量モードをMidにして検査を行うことで、それぞれ91.2%、95.6%の線量低減を図っている(図3)。図4は透視線量モードによる見え方の違いであるが、Ultimax-iでは90%以上の線量低減を行っても、ガイドワイヤが十分確認できる。また、2021年4月の眼の水晶体の等価線量限度の引き下げに伴い、Ultimax-iの被ばく線量測定を行った結果、3名の医師のいずれも被ばく線量限度を大幅に下回っていた。
悪性胆道ドレナージのストラテジー
膵・胆道がんに対する胆道ドレナージでは、ガイドラインに基づいてステントを選択する。経乳頭的処置や手術の可能性を判断した上で、可能であれば膵がんでは通常、金属ステントを選択するが、手術待機期間が短い場合などはプラスチックステントを検討することとなる1、2)。
当院では、金属ステントは、多くの症例でカバー付き金属ステントを留置している。また、ガイドラインでは、遠位胆管がん症例には経乳頭的ドレナージが推奨されているが、肝門部領域胆管がんの肝切除症例に対しては、当院ではプラスチックステントによる片葉ドレナージを行っている。一方、切除不能な遠位胆管狭窄症例では、膵がんや遠位胆管がんの場合はカバー付き金属ステント、肝門部領域胆管がんでは症例に応じてカバーなしの金属ステントの両葉留置を行うことが多い。
近年、膵がんでは術前化学療法(NAC)が一般的となり、当院でもほぼ全例で行っている。国内で行われたランダム化比較試験(RCT)では、切除境界膵がんに対する術前ドレナージにおいて、プラスチックステントより金属ステントの方がステントトラブルが少ないことが報告されている3)。
遠位胆管狭窄症例に対する金属ステント留置のコツ
遠位胆管狭窄症例に対し、当院では、可能な場合は内視鏡的乳頭切開術(EST)を行っている。ESTを行わなくても術後の膵炎の発症率は変わらないとする報告もあるが、当院ではre-interventionを容易にすることを目的にESTを施行している。また、術後の胆囊炎を抑制するため、胆囊内に造影剤が流入しないよう注意することも重要である。
デリバリーシステムが8.0〜8.5Frと太く硬い場合は、抜去時にガイドワイヤがたわんで逸脱しないよう注意が必要である。また、デリバリーシステムに起上装置をかけすぎるとノッチが入り、ステント展開が困難になることがある。加えて、ステント展開時はデリバリーシステムが引き込まれやすいため、引きのテンションをかけ、特にステントの両端マーカーの位置がずれないよう注意しつつ、一定のスピードで展開することが重要である。なお、ステントの下端が乳頭部から4〜5セル程度出る長さで留置するのが適切と思われる。
ステントトラブルへの対応
カバー付き金属ステントの閉塞時は、逆流防止弁付きの金属ステントが有用であることが報告されている4)。カバー付き金属ステントによるステントトラブルが生じた30例にDuckbill型逆流防止弁付き金属ステントを留置すると、time to recurrent biliary obstruction(TRBO:胆管閉塞状態の再発が起きるまでの期間)が有意に改善した。本報告の対象症例の97%が膵がん症例で、43%が十二指腸狭窄を合併しており、逆行性胆管炎の予防には逆流防止弁付き金属ステントが有用であると言える。
症例1は、膵頭部がんに対し化学療法を施行した症例である。術前に金属ステントを留置したが、黄疸が悪化したため、Duckbill型逆流防止弁付き金属ステントに変更した。Duckbill型逆流防止弁付き金属ステントは、内視鏡下ではマーカーが見えにくいため、透視下で十二指腸下行脚部を確認しつつ問題なく留置することができた(図5)。
また、ステント逸脱もステントトラブルの大きな要因となる。膵がんによる遠位胆管狭窄におけるステント逸脱のリスク因子として、化学療法症例やラジアルフォースが弱い金属ステントなどが報告されている5)。化学療法症例の6か月後の逸脱率は12%と、BSC(best supportive care)症例の3.6%と比較して高いことが示されている。
症例2は膵頭部がんの多発肝転移症例である。金属ステント留置後、化学療法により腫瘍が縮小し、留置5か月後にステントの逸脱が生じた(図6)。化学療法を継続し、re-interventionが必要になったが、上十二指腸角(SDA)が狭窄していたため、ガイドワイヤとカテーテルを先進させてナビゲーションしつつ、愛護的にストレッチをかけてガイドワイヤを十二指腸下行脚に到達させた。乳頭との距離をとることが困難であったが、以前にESTを行っていたため無事にステントを留置できた(図7)。
非切除肝門部胆管狭窄のドレナージ方法
非切除肝門部胆管狭窄のドレナージ方法には、下端を重ねて留置するPartial stent in stent(PSIS)法、金属ステントを並列に2本留置するSide by Side(SBS)法、それらを組み合わせたHybrid法、プラスチックステントを胆管内に留置するInside stent法がある(図8)。
PSIS法とSBS法を比較したメタアナリシスでは、ステント開存期間はPSIS法の方がより長期に及ぶものの、手技成功率や臨床的成功率、re-interventionの割合、手技関連死亡率などは2群間で差がないことが示された6)。SBS法ではステント内腔が狭くなることが、開存期間に差が生じる要因ではないかと考えられる。
そのため、当院では通常、PSIS法を選択している。しかし、PSIS法を成功させるためには、(1) 胆管閉塞部位へのガイドワイヤの挿入、(2) 1本目のステント留置後の対側へのステントメッシュを介したガイドワイヤの挿入、(3) ステントメッシュおよび閉塞部へのデリバリーシステムの挿入という3つのハードルがある(図9)。その対策として、親水性ガイドワイヤや先端可動式カテーテルにより狭窄突破を行うほか、狭窄が強い場合は拡張用カテーテルやバルーンなどで狭窄を拡張する必要がある。また、細径デリバリーシステムの金属ステントの使用も有用である。当院での検討では、非切除悪性胆道狭窄の胆管両葉ドレナージでは、6Fr未満の細径デリバリーシステムの金属ステントを用いた場合の手技成功率が有意に高かった7)。また、傾向スコア(Propensity Score)を用いて患者背景をそろえて比較した結果、デリバリーシステム6Fr未満では6Fr以上の半分の時間でステントを留置できた。
肝門部両葉金属ステント留置のコツ
肝門部両葉金属ステント留置においては、治療前の準備が非常に重要である。肝容積と胆管拡張、感染の有無に基づいて事前にドレナージする胆管枝を決めておき、胆道感染があれば、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)などで感染をコントロールした上で金属ステントを留置する。また、実際の留置に当たっては、区域性胆管炎を防ぐため目的外の胆管枝に造影剤やデバイスを挿入しないよう留意し、ステント留置前に必要に応じて胆管拡張を行う。さらに、ガイドワイヤやデバイスの挿入のしやすさに応じてステント留置の順番を決定するが、通常は肝門部の屈曲が強い左から右の前区あるいは後区の順で留置することが多い。
症例3は、卵巣がん術後の肝門部リンパ節転移症例である。肝門部の左側は完全に閉塞しており、左から右へとステントを進めた。メッシュの間隙をバルーンで拡張し、2本目のステント留置を行った(図10)。
なお、PSIS法ではレーザーカット型金属ステントを用いる施設が多いが、レーザーカット型はステントの下端が引っ掛かりやすいため、愛護的にデバイスを挿入し、破損を防ぐことが重要である(図11)。
金属ステント留置後のre-interventionのコツ
金属ステント留置後のre-interventionのコツは、留置時と同様に、目的外の胆管枝に造影剤やデバイスを挿入せず、肝内胆管は十分洗浄することである。また、through the mesh typeのプラスチックステントなど、専用デバイスを使用する。ガイドワイヤがメッシュ間隙を通過しない場合はバルーンにて狭窄部を拡張し、デバイスはできるだけ直線化した上で挿入することが重要である。プッシャビリティ向上のため、0.035inchスティッフタイプのワイヤへの変更も有用である。また、両葉ドレナージが困難な場合は、右肝内胆管を主体にドレナージを行い、左肝内胆管は超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-HGS)を検討する。
なお、イングロース症例では、内腔が狭窄している上、2本目のステント留置に当たっては1本目のステントによりさらに狭くなっているが、ステント先端をうまく通すことで留置が可能となる。
* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編:膵癌診療ガイドライン2019年版 第5版.金原出版、東京、2019.
2)日本肝胆膵外科学会胆道癌診療ガイドライン作成委員会 編:エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第3版.医学図書出版、東京、2019.
3)Tamura, T., et al.:Covered self-expandable metal stents versus plastic stents for preoperative biliary drainage in patient receiving neo-adjuvant chemotherapy for borderline resectable pancreatic cancer: Prospective randomized study. Dig. Endosc., 33(7):1170-1178, 2021.
4)Yamada, Y., et al.:A novel laser-cut fully covered metal stent with anti-reflux valve in patients with malignant distal biliary obstruction refractory to conventional covered metal stent. J. Hepatobiliary Pancreat. Sci., 28(7):563-571, 2021.
5)Nakai, Y., et al.:Risk factors for covered metallic stent migration in patients with distal malignant biliary obstruction due to pancreatic cancer. J. Gastroenterol. Hepatol., 29(9):1744-1749, 2014.
6)de Souza, G.M.V., et al.:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography drainage for palliation of malignant hilar biliary obstruction - stent-in-stent or side-by-side? A systematic review and meta-analysis. World J. Hepatol., 13(5):595-610, 2021.
7)Fujita, T., et al.:Factors Associated with the Technical Success of Bilateral Endoscopic Metallic Stenting with Partial Stent-In-Stent Placement in Patients with Malignant Hilar Biliary Obstruction. Gastroenterol. Res. Pract., 2019.
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
- 【関連コンテンツ】