セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2022年10月号
第103回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー16 明日から役立つERCP関連手技のコツ
ERCPでCアームを使いこなす ~結石治療への応用~
遠藤 壮登(筑波大学 医学医療系消化器内科)
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は腹臥位で行うため、体位変換が困難であり、通常のX線透視装置では視野が制限される。一方、キヤノンメディカルシステムズ社製のCアーム型透視装置「Ultimax-i」では、Cアームを回転させることで多角度での照射が可能であり、最適な視野の確保や三次元的な情報を取得することができる。本講演では、Ultimax-i を用いたERCPにおけるCアームの運用と結石治療の実際を報告する。
筑波大学消化器内科の紹介
消化器内科には、炎症性腸疾患(IBD)や化学療法、肝臓、消化器内視鏡など幅広い分野のスタッフが在籍し、土屋輝一郎教授を中心に専門的な医療を提供している。また、当院の内視鏡用X線TV室には、Cアーム型透視装置である Ultimax-iと、天吊り式の55インチモニタを設置。患者の頭側と術者側に広いスペースを設け、術者や介助者が効率良く動けるよう設計されている(図1)。
Cアームの回転と描出される画像の対比
1.Cアームの構造
CアームはX線発生部と平面検出器で構成されており、X線照射を上から行う方式をオーバーチューブ、下から行う方式をアンダーチューブと呼ぶ。術者の被ばく低減の観点からは、アンダーチューブが推奨されており、当院でもアンダーチューブで透視を行っている。
2.Cアームの回転と画像の対比
1)RAO・LAO回転
本稿では、放射線入射方向からRAO(right anterior oblique):右前斜位とLAO(left anterior oblique):左前斜位を記載する(注:ERCPは腹臥位で行う検査であるため、X線システムのモニタ上のRAO/LAOの表示と、本稿で意味するRAO/LAOは異なる可能性がある)。
Ultimax-iのCアームの可動域は、円弧動(横方向、RAO/LAOの回転)は−41°〜90°、縦方向の回転はcranial(CRA:頭尾方向)45°~caudal(CAU:尾頭方向)45°と非常に広いのが特長である
図2は、aがCアームの回転とCT画像の対比のシェーマ(腹臥位にてアンダーチューブで撮影する場合の上下反転像)、bがMRCPアキシャル像、cがX線透視におけるRAO回転での撮影に相当する角度(bを—で切った断面に相当)のMRCP画像である。X線管をRAO回転させることで、左右肝管合流部が明瞭に描出可能となることが、MRCP画像(図2 c)から推定できる。
当院におけるCアームの回転方向の履歴をまとめたところ、RAO回転の頻度が最も多く、次いで正面、LAO回転の順であった(図3)。一方、回転方向は部位によって異なることから、部位別の履歴を調べたところ、総胆管はほぼ正面、左右肝管合流部はRAO回転が多く、かつ20°以上回転させていた(図4)。前後区域枝は、一部の症例でLAO回転させていたが、多くの症例はRAO回転であり、左肝管も同様であった。膵臓には、あまり傾向は見られなかった。なお、RAO回転は、身体を左側に回転させることであるが、ERCPを施行中は頭と身体の向きが逆になるため体位変換に限界があり、Cアームが必要となる。
症例1は積み上げ結石症例で、正面では左右肝管合流部がほぼ描出されないが、RAO 22°回転で明瞭となった(図5)。
3.小 括
Cアームを有効活用するための回転方向は、左右肝管合流部の確認に当たっては、正面またはRAOに回転させるとよい。後区域枝を確認する場合は、まずはRAOに回転させ、向きが合わない場合はLAOに回転させる。また、肝内胆管枝の腹側、背側を明瞭に分離したい場合は、CRAに回転させると良好な画像が得られる(図6)。
肝内結石治療の実際
1.肝内結石治療におけるCアームの有効活用
肝内結石治療におけるCアームへの期待としては、各肝内胆管枝を分離して、肝内結石や胆管狭窄を明瞭に描出することが挙げられる。
症例2は、胆道再建後の胆管腔腸吻合部狭窄の症例で、正面からでは左右肝管合流部や結石の同定が困難であるが、CアームをRAO30°回転させて左右肝管を視認できるようにすることで、結石を明瞭に描出できた(図7)。
2.肝内結石の治療戦略
『胆石症診療ガイドライン2021 改訂第3版』1)における肝内結石の治療戦略は、胆道再建の既往の有無によって大別される。胆道再建の既往があり、肝内胆管がんの合併や肝萎縮がない場合は、経口的内視鏡治療や経皮経肝胆道鏡下治療が選択されるが、治療困難な場合は体外衝撃波結石破砕法(ESWL)や電気水圧式衝撃波結石破砕法(EHL)を併用するとの記載があり、当院ではEHLを積極的に行っている。しかしながら、当院における肝内結石の内視鏡治療の成績を見ると、完全結石除去率は約80%であり、しばしば治療困難な症例が存在する。以下では、そのような症例に対する当院の工夫を紹介する。
3.治療困難例に対する当院の工夫
症例3は、89歳、女性、後区域枝(B6)の肝内結石の症例である。MRCPにて結石を認めたものの、本症例は区域性胆管炎のため頻回の入院加療を行っており、胆道気腫もあるため透視上、肝内結石は見えづらいと考えられた。しかし、Ultimax-iでは比較的速やかに後区域枝が造影されて肝内結石が明瞭に描出され、かつ管球を回転させることで後区域枝が長軸に描出されたため(図8 a)、ワイヤの誘導も非常にスムーズに行うことができた(図8 b)。造影像からは結石のあるB6には明らかな狭窄を認めず、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルを用いて繰り返し結石除去を行い、肝内結石の透亮像は消失した(図8 c)。術後のMRCPでもB6内の結石の消失が確認された(図8 d)。
症例4は、77歳、男性、胆道再建後の治療に難渋した肝内結石の症例である。胆囊がん術後4年で、胆管炎を繰り返していた。MRCPでは左右肝管合流部に肝内結石を認めた。小腸鏡では吻合部の狭窄を認め、8mm径のバルーンカテーテルで高圧に拡張したが、吻合部狭窄のノッチが残存した。結石を可及的に除去したが、処置後のMRCPでは結石の残存が確認された。2回目の治療では、吻合部をバルーンカテーテルで再拡張して結石の除去を試みるも、やはり吻合部拡張が不十分となり結石除去困難であった(図9 a,b)。そこで、胆管金属ステントによる吻合部拡張の戦略に切り替えた(図9 c)。1週間後にステントを抜去しようとしたところ、ステント内に結石が入り込んでいたため、ステントごと結石を除去することができた(図9 d)。
まとめ
ERCPという体位変換が制限される処置においては、Cアームの回転は非常に有用である。特に左右肝管合流部や肝内胆管の描出に、RAO方向の回転が有効なケースが多い。また、肝内結石の内視鏡治療は時に難渋するが、Ultimax-iでは結石をきわめて明瞭に描出できるため、内視鏡治療を成功に導く心強い道具であると考える。
* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)日本消化器病学会 編:胆石症診療ガイドライン2021 改訂第3版. 南江堂、東京、2021.
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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