セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2021年12月号
第44回日本呼吸器内視鏡学会学術集会ランチョンセミナー1 びまん性肺疾患、肺がんの生検における正診率向上にむけて〜CアームX線システムの活用〜
気管支鏡室内の状況 〜駒込病院の場合〜
細見 幸生(がん・感染症センター東京都立駒込病院 呼吸器内科)
当院では、最近の10年間で院内の改装やCアーム透視装置の更新などを経験した。気管支鏡検査を行う環境については、各施設でさまざまな工夫が行われているが、今回は当院での装置更新の経緯や、組織採取や検体保管についての気管支鏡室での運用における試行錯誤を紹介する。
当院の気管支鏡検査の現状
当院の気管支鏡検査は、原則外来で年間400〜450例行っている。スタッフ3名と研修医2〜3名、看護師2名で行い、診療放射線技師ではなく医師が透視を行っている。
気管支鏡検査で重視すべきは、「腫瘍組織を採取できているか」と「検体の質(DNA、RNA)」の2点である(図1)。組織採取については、透視のほか、迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation:ROSE)やナビゲーション、経気管支肺クライオバイオプシーなど、病変部を正確に、かつ十分な量を採取するための技術が進歩している。また、採取した組織は検査に最適な状態と量で処理し、保存する必要がある。当院では、パラフィン包埋したブロックは病理部、気管支洗浄液や凍結検体は当科でそれぞれ保存している。
本講演では、正確かつ十分な組織採取を行うための透視の有用性や、検体の質の確保のための工夫について紹介する。
Cアーム透視装置更新までの経緯
演者は、当院に16年間勤務しているが、赴任当初から当院にはCアーム透視装置が設置されており、常にその必要性を実感していた。しかし、2015年に、当時使用していた装置が製造中止後10年を迎えるため、部品の供給が不可能になるという通知が届いた。当院では、Cアーム透視装置は放射線科が管理しており、X線撮影装置やCTなど、日常的に使用する頻度の高い装置の更新が優先されていたことを、その際に初めて認識した。
まず、Cアーム透視装置の必要性について改めて検討したが、気管支鏡検査、特に胸膜直下の病変採取では、さまざまな角度からの透視が必要なことは異論がなかった。演者が以前に勤務していた施設ではCアーム透視装置がなかったため、側面の確認を行う際はスタッフが患者の体を移動させていた。しかし、安全性の面でも、鎮静(セデーション)を行ったまま患者を移動させるのは危険な上、医療従事者の被ばくという懸念もある。
他方で、施設側からアンギオ室での検査や手術用移動式Cアームの使用などを提案された。しかし、当院の内視鏡センターとアンギオ室はまったく別の場所にあり、また、緊急アンギオが必要になっても、施行中の気管支鏡検査を中止することは困難である。さらに、移動式Cアームを検査ごとに気管支鏡室に移動させることは難しく、いずれも断念せざるを得なかった。これらの経緯を経て、最終的に通知から4年後に装置更新が実現。設置性の良さや実績などから、キヤノンメディカルシステムズ社製のCアーム透視装置である多目的デジタルX線TVシステム「Ultimax-i」を導入した。
当院の被ばく対策
当院では、気管支鏡検査時の被ばく対策として、フィルムバッジを着用し、被ばく線量を確認している。また、図2のようなX線防護具を使用する。身体の前後面が保護された防護服を大小サイズでそろえているほか、防護メガネや首用の防護具も装着し、結核疑いの可能性がある場合はさらに装備を追加する。防護メガネを着用するとフェイスガードを装着しにくくなるという課題はあるが、N95マスクも着用し、ほぼ完全防備で行っている。
また、装置自体も被ばく線量低減に向けて進化している。今回導入したCアーム透視装置Ultimax-iは、タッチパネルで線量モードをNormal、Mid、Low(←)の3段階に切り替え可能である(図3)。Lowモードでは線量をNormalモードの35%に低減でき、当院では基本的にLowモードで行っているが、検査に支障はなく、大幅に線量を低減できている。さらに、透視のパルスレートの切り替えでも線量の低減が可能である(図4)。実際の検査において鉗子やキュレットの先端の位置や向きが確認できるなど、気管支鏡検査に求められる画像の質を維持しつつ、被ばく線量を低減できている。患者だけでなく、自らを守るためにも被ばく低減の工夫は必要であり、透視装置に関する少しの知識と、検査時にその知識を生かすことで、被ばく線量を大幅に低減できていると言える。
当院の気管支鏡室の運用
次に、検体の質の確保をするための当院の工夫について紹介する。
図5は、当院の気管支鏡室の見取り図である。約10年前に院内改装が行われた際に、看護師らと相談し、随所に工夫を施した。
図6に、患者の動線を示す。診察室で咽頭麻酔を行った後(図7)、寝台(図5、6の□)で検査を行い、検査後は車椅子やストレッチャーなどで出口から退出し、安静にする。万一、ショック状態や大量出血などが生じた場合は、救急カートで処置を行い、別の出口から救急外来に搬送する(図6↓)。また、結核疑いの患者の安静には、前室を使用する(図8)。
モニタは天井吊り下げ式で、CT画像と気管支鏡内腔画像、透視像用の3面を設置した(図9)。Cアーム透視装置Ultimax-iは、気管支鏡室内では比較的大きなスペースを占めているが、装置自体はコンパクトであるため、動線を邪魔することなく配置できた(図10)。また、気管支鏡ファイバーや吸引装置などの保管庫、鉗子やキュレット、プローブなどを保管する棚なども室内に配置した(図11、12)。
さらに検体の保管のため、通常の冷蔵庫(4℃)と2台の冷凍庫(−20℃、−80℃)を当科の研究費で購入し、気管支鏡室内に設置した(図13)。そのため、検体を採取後、1分もかからず凍結することが可能である。
加えて、操作室には2台の電子カルテと透視の操作台のほかに、遠心分離機を設置した(図14)。気管支洗浄液や外来で採取した胸水を遠心分離機でペレットにして凍結、保存することで、当院も参画している希少肺がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Asia」への提出が容易になる。施設にもよるが、これらの作業を専門で行う技師などがいない場合は、このような機器が有用ではないかと思われる。
まとめ
気管支鏡検査は、正確に十分な量の検体を得るための工夫を今後も継続していくべきである。まず、適切な検体採取のためにCアーム透視装置Ultimax-iが必要であり、さらに、遺伝子パネル検査などを始めとする検査法の増加に伴い、検体の採取量や処理法、保存方法などを事前に考慮し、検査に合った検体採取を行うことが求められる。同時に、検体処理や保存に必要な機器の増加も見込まれるが、購入に時間を要するケースも想定され、計画的に準備していく必要がある。また、透視装置の機能を活用した被ばく低減や結核感染などから検査従事者を守ることを常に考慮することが重要である。
* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム
Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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