セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2021年12月号
第44回日本呼吸器内視鏡学会学術集会ランチョンセミナー1 びまん性肺疾患、肺がんの生検における正診率向上にむけて〜CアームX線システムの活用〜
びまん性肺疾患における気管支鏡診断の今
宮本 篤(国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 呼吸器センター内科)
Ultimax-iの気管支鏡検査への活用
当院では、2019年の新病院への移転を機に、キヤノンメディカルシステムズ社製の多目的デジタルX線TVシステム「Ultimax-i」を導入した(図1)。Ultimax-iは、検査の安全性や画質、被ばく線量の低減などに優れ、多くの気管支鏡検査で汎用している(図2、3)。本講演では、びまん性肺疾患診断における気管支肺胞洗浄(BAL)法の現状や経気管支肺クライオバイオプシー(TBLC)について解説する。
びまん性肺疾患診断におけるBAL法の現状
当院では、Ultimax-i導入に伴いCアームに準拠した検査室を設置し、検体処理なども検査室内で行っている。BALをはじめとする気管支鏡検査でUltimax-iを活用しているが、Cアームにより、体位変換せずに側臥位などと同等の生検を行えるため、安全性が向上した。さらに、Ultimax-iには、高画質・低線量検査コンセプトの“octave SP”が搭載されているため、デバイスを明瞭に視認でき、検査をスムーズに行うことが可能になった。
症例提示
米国胸部学会(ATS)のガイドラインでは、間質性肺疾患(ILD)が疑われる患者に対しBALを行い、好酸球高値であれば好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia)、リンパ球高値の場合は薬剤性を疑うとされている1)。
一方、特発性肺線維症(IPF)の国際的ガイドラインであるATS/欧州呼吸器学会(ERS)/日本呼吸器学会(JRS)/ラテンアメリカ胸部医学会(ALAT)国際診断ガイドラインでは、まず高分解能CT(HRCT)撮影を行い、通常型間質性肺炎(UIP)パターンを示す場合はBALを行わず、それ以外のパターンを示す場合は条件付きで行うことを提案するという記載にとどまり、BALの位置づけは明確には定められていない2)。
2020年に発表された過敏性肺炎(HP)の臨床診断ガイドラインでは、HRCT撮影後、BALによるリンパ球増多(lymphocytosis)の有無や病理所見により、HP診断の確信度を判断するとされており、ガイドライン診断にBALが位置づけられたという点で非常に革新的であった3)。
BALの施行部位について、ATSガイドラインでは、「伝統的に選択されてきた右中葉および左舌区を機械的に選択するのではなく、6週間以内に撮影されたHRCTの結果に基づき決定し、びまん性肺疾患を疑う場合は、気管支肺胞洗浄液(BALF)の細胞分画を測定すべき」とされている1)。
また、BALの実施にあたっては、生理食塩水100〜300mL以内を3〜5回に分けて注入するとされている。通常、1回50mLの生理食塩水を3回注入する施設が多いが、それよりも注入量や回数の幅が広いと言える。
症例提示
当院で、BALを行った症例を紹介する。
●症例1
症例1は、咳と痰を主訴とする77歳の女性である。HRCTでは分類不能型間質性肺炎と考えられたが、胸腔鏡下肺生検(VATS)により器質化肺炎(OP)と組織診断された。臨床診断は分類不能型特発性間質性肺炎とした(図4)。VATS前に行ったBALでは、回収率は非常に良好であった。BALFの細胞分画の解析をフラクション1と2/3に分けて行った結果、総細胞数や好中球、リンパ球の比率が異なる結果となった(表1)。また、フラクション1からは多くの細菌が検出されたが、2/3では陰性であった。
本症例のように、フラクションにより所見が異なる症例が存在する。
●症例2
症例2は71歳の女性で、症例1と同様に分類不能型間質性肺炎であった(図5)。乳腺の悪性リンパ腫が見つかり、検査の結果、抗Ku抗体が陽性だった。皮膚筋炎や多発筋炎の身体症候はなかったが、悪性リンパ腫に伴う筋炎関連(myositis-related)間質性肺炎に準じた病態と考えた。CT画像では、網状影とすりガラス陰影が見られた(図6)。
BALFをフラクション1と2/3で分けて細胞分画を解析した結果、リンパ球はそれぞれ22.5%、52.5%であった(表2)。仮にフラクションを分けずに解析した場合は約30%となり、HPガイドラインのBALF中リンパ球増多の基準は30%であることから、BALFをすべてまとめて解析すると病態が不明瞭になる可能性が考えられた。
これらの症例から、「フラクション1は気管支領域、2/3は肺胞領域の性状を反映する」という仮説に立てば、フラクションを分けて検討することも有用と考えられ、その有用性や意義について今後、議論が必要と思われる。
また、BALFの細胞形態の解析により、サルコイドーシスや過敏性肺臓炎など特定の疾患を診断できるケースがある。現状では、必ずしも重視されているとは言えないが、議論を行い、普及を進めることが必要ではないかと考えている。
TBLCの安全性
次に、TBLCについてレビューを中心に紹介する。TBLCは、二酸化炭素ガスを利用して凍らせたプローブで組織を凍結させ、引きちぎって採取する検査法である。中枢側のがん、あるいは末梢病変の生検や異物除去に対して保険適用されている。
TBLCを行う上での課題は、気胸と出血である。胸膜直下では気胸が、中枢側では出血の危険があり、適切な生検ゾーンが推奨されている。699例を対象とした検討では、3検体以上の採取により気胸が21.6%、1〜2検体では11.4%で発生した4)。また、システマティックレビューでは、気胸の発生率は約10%であった。TBLCを安全に実施するためには、透視像でデバイスと胸壁の位置関係が明確に確認できる必要があり、Cアーム型装置Ultimax-iでは患者が体位を変換することなく検査できるので、患者の鎮静が必要なTBLCにおいては非常に有用である。
国内では、50例で平均3回の組織採取を行った結果、気胸や重篤な出血は生じなかったとの報告がある5)。TBLCを多数例積極的に実施している日本の施設では、経験値を積むほど安全性が向上していることから、十分な対策を講じることでTBLCは診断に寄与しうる手技になるのではないかと考える。
TBLCのエビデンス
TBLCのエビデンスレベルについても考察した。
COLDICE試験は、外科的肺生検(SLB)とTBLCの診断精度を検証した研究である6)。65例の連続症例にSLBとTBLCを同時に行い、SLBとTBLCの組織学的な一致率や病理学的なUIPパターンの認識度、多分野合議による診断(multidisciplinary discussion:MDD)後の最終診断の差異について検討を行った。その結果、組織病理学的な診断一致率は70%、MDDにおける臨床診断の一致率は76%など、良好な成績が示された。また、426例を後ろ向きに検討した研究では、MDDによるIPFの診断では、TBLCはSLBに劣らないという結果が示されている7)。
さらに、SLBとTBLCを行った7例を対象とした研究では、ATS/ERS/JRS/ALAT国際診断ガイドラインにおけるUIP診断のための組織所見は7例中5例で一致しており、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)や密な線維化巣(dense fibrosis)、線維化の小葉辺縁分布(perilobular distribution)などの情報は、TBLCでも判定が可能という結果が得られた8)。
一方、蜂巣肺(honeycomb fibrosis)はTBLCでは同定が困難であり、これは蜂巣肺の構造が比較的大きいためと思われた。また、間質性肺炎や肺胞炎症などのびまん性病変はTBLCでは過大評価が生じやすく、さらにOPや肉芽腫(granuloma)、細気道病変(airway centered fibrosis)などの散在性病変は、採取検体に病変部位が含まれていないと診断できないため、結果のバラツキが多かった。
以上の結果より、TBLCはATS/ERS/JRS/ALAT国際診断ガイドラインに基づいて、UIPパターンの認知度の診断は可能と思われるが、病因学(Etiology)的な臨床診断の可能性については議論が必要である。そのため、TBLCで診断可能な疾患と、SLBを行うべき疾患の判別が今後の課題と考えられる。また、従来のSLBにおける組織診断とは別に、TBLCのための診断基準を設ける必要性も考えられる。
* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)Meyer, K. C., Raghu, G., Baughman, R. P., et al. : An official American Thoracic Society clinical practice guideline : the clinical utility of bronchoalveolar lavage cellular analysis in interstitial lung disease. Am. J. Respir. Crit. Care. Med., 185(9) : 1004-1014, 2012.
2)Raghu, G., Remy-Jardin, M., Myers, J. L., et al. : Diagnosis of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am. J. Respir. Crit. Care. Med., 198(5) : e44-e68, 2018.
3)Raghu, G., Remy-Jardin, M., Ryerson, C. J., et al. : Diagnosis of Hypersensitivity Pneumonitis in Adults. An Official ATS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am. J. Respir. Crit. Care. Med.,202(3) : e36-e69, 2020.
4)Ravaglia, C., Wells, A. U., Tomassetti, S., et al. : Diagnostic yield and risk/benefit analysis of trans-bronchial lung cryobiopsy in diffuse parenchymal lung diseases : a large cohort of 699 patients. BMC Pulm. Med., 19(1) : 16, 2019.
5)Kuse, N., Inomata, M., Awano, N., et al. : Management and utility of transbronchial lung cryobiopsy in Japan. Respir. Investig., 57(3) : 245-251, 2019.
6)Troy, L. K., Grainge, C., Corte, T. J., et al. : Diagnostic accuracy of transbronchial lung cryobiopsy for interstitial lung disease diagnosis (COLDICE) : a prospective, comparative study. Lancet Respir. Med., 8(2) : 171-181, 2020.
7)Tomassetti, S., Ravaglia, C., Wells, A. U., et al. : Prognostic value of transbronchial lung cryobiopsy for the multidisciplinary diagnosis of idiopathic pulmonary fibrosis : a retrospective validation study. Lancet Respir. Med., 8(8) : 786-794, 2020.
8)Zaizen, Y., Kohashi, Y., Kuroda, K., et al. : Concordance between sequential transbronchial lung cryobiopsy and surgical lung biopsy in patients with diffuse interstitial lung disease. Diagnostic. Pathology, 14 : 131, 2019.
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム
Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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