セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年11月号

第60回日本消化器がん検診学会総会ランチョンセミナー4 新しいX線TVシステムAstorex i9の使用経験

胃X線検査「ここまで見える」 Astorex i9の使用経験から

吉田 諭史(慶應義塾大学病院予防医療センター)

吉田 諭史(慶應義塾大学病院予防医療センター)

本講演では、当院で新たに導入したデジタルX線TVシステム「Astorex i9」における胃X線検査の精度を支える技術や解像限界に関する考察を交えつつ、同装置の物理データや臨床例を提示する。また、Astorex i9に搭載された“i-fluoro”と“i-slice”の2つの技術について、胃X線検査での活用法を考察したので紹介する。

撮影と読影:X線検査の精度を支える3つの技術

「良いX線写真」について、慶應義塾大学医学部放射線科元教授の熊倉賢二先生は、「胃粘膜面の肉眼形態を忠実に表したもの」であると述べている。この表現は撮影の心構えそのものであることは論を待たないが、一面では抽象的にも感じられる。そこで今回、私は実際に撮影・読影する視点から、画像の質についてあらためて考察することにした。
X線検査の精度を支える技術は、(1) 被写体を平面像として撮影する、(2) 平面像から立体像を推測する、(3) 立体像から立体構築を類推する、の3段階に分けられる。このうち撮影とは、本来は立体である構造物を平面像として表す行為である。しかし、撮影する時点では立体、つまり胃粘膜面の真の姿かたちはわからない。そのため粘膜面の立体的な形を可能な限り真の姿に近づけて表現するための撮影法が生み出されてきた。
そのうち、歴史的に最も古い撮影法が充盈法である。またレリーフ法は、少量のバリウムで胃粘膜の大まかな凹凸を表すことができる方法である。ただし、レリーフ法は胃内の空気が少ない状態で行うため、胃の前壁と後壁が近接し、1枚の平面像、すなわちX線写真に前壁と後壁の情報が一度に現れる場合があることに注意が必要となる。また、圧迫法もレリーフ法と同様に、前壁と後壁の情報が1枚の写真として現れる。別に言い換えると、両撮影法は前後壁の情報が重なって表現されるということである。これらの3法と比較して、二重造影法は標的部位や病変が存在する壁側を表現しやすく、立体的な胃や病変を平面像として表すことができるため、術前検査や胃がん検診の撮影法として主流になっている。
読影では撮影と逆の順序をたどることになり、読影者の脳内で平面像から立体像(図1)に還元する必要がある。図2 aは体上部前壁病変を正面像として表した腹臥位二重造影正面像、図2 bは同じ病変を側面像として表した背臥位二重造影第2斜位像である。実際の読影では、これらの平面像を見て、思考の中で立体像を推測することになる。
図2 cの噴門側胃切除術後のホルマリン固定標本では、丈が低く、輪郭に部分的に切れ込みがある隆起性病変を確認できる。
立体像(外観:そとみ)を基にして立体構築(内観:なかみ)を類推するには、X線像と組織像とを比較・対比するという症例検討の経験が活かされる(図3)。図4には、外観である立体像(a)のほか、立体構築の一部である断面像(ルーペ像、b)と立体構築を表した再構築像(c)を示した。
以上が、私が考える撮影から診断に至るまでのステップである。

図1 平面像から立体像を推測する

図1 平面像から立体像を推測する

 

図2 平面像から立体像を推測する(症例) cは位置関係をa、bと合わせるため、口側を上側に、肛門側を下側に配置した

図2 平面像から立体像を推測する(症例)
cは位置関係をa、bと合わせるため、口側を上側に、肛門側を下側に配置した

 

図3 立体像から立体構築を類推する

図3 立体像から立体構築を類推する

 

図4 立体像から立体構築を類推する(症例)

図4 立体像から立体構築を類推する(症例)

 

全体と部分:何を写し、何を観察すべきか

続いて、X線検査では何を写し、何を観察すべきかについて、胃癌あるいは胃癌と鑑別を要する疾患を拾い上げることに焦点を絞って述べてみたい。
既述のように、撮影とは、立体から平面への濃縮あるいは転写する作業、読影とはそれを立体に還元する作業と定義でき、図解すると図5のようになる。この定義のもとで検討した結果、胃癌および胃癌と鑑別を要する疾患が存在する「場」は、図6のような視野別に表現できると考えられた。
大視野では胃の位置や隣接臓器との関係を、中視野では胃の形や輪郭を観察することになる。小視野では粘膜ひだや粘膜ひだ間の様子を、微細視野では胃小区や胃小溝の状態を観察することになる。その胃小区や胃小溝が粘膜を構成する超微細な腺窩や窩間部で成り立っていることは周知の事実である。だから、正常/異常という質の判定を目的とする場合には、まずもって平面的な濃淡像であるX線像を解読し、粘膜面の形を推測する必要がある。
この「場」は胃癌をはじめとする胃疾患の診断の基準あるいは出発点でもある。そのような基準の場を構成している凹凸や模様に着目してみると、質的に正常と判定されやすいタイプと、炎症や萎縮などの異常と判定されやすいタイプに大別できるように思われる。そこで、所見をもとにして新しいX線読影・診断学を展開したいと考えている私どもは、前者を「原型」、後者を「改築型」と呼ぶことを提唱したいと考えている(図7)。改築型という名称は、胃粘膜の改築現象というドイツ学派に倣ったものであることを追述しておきたい。
さて、これらの形態学的特徴をさらに理解するために、X線写真を材料として胃小区のサイズ測定を行ったところ、原型例の胃小区は胃長軸方向に細長く、密に規則正しく配列することが特徴であることが明らかとなった。また、椎骨の長軸径を25mmと見做して胃小区の短軸径を概算してみると、中央値600μmの正規分布が示された。さらに、先行研究を参照しつつ検討した結果、原型例の微細な胃小区は腺窩5〜6個の配列に相当することが推定された(図8)。一方、既報1)したように、改築型例の胃小区や胃小溝の大きさ、幅や形、配列は、原型例と比較して不規則であり、胃小区サイズの分布は原型例に比べかなり幅広い(図9)ことが特徴である。なお、本研究により、X線写真の解像限界が200~300μmと推測されることが判明した。

図5 平面への転写(撮影)と立体への還元(読影)

図5 平面への転写(撮影)と立体への還元(読影)

 

図6 存在診断・質的診断・量的診断の基準 (NPO日本消化器がん検診精度管理評価機構読影基準検討会での議論を基に作成)

図6 存在診断・質的診断・量的診断の基準
(NPO日本消化器がん検診精度管理評価機構読影基準検討会での議論を基に作成)

 

図7 濃淡(グレースケール)平面像における読影と診断

図7 濃淡(グレースケール)平面像における読影と診断

 

図8 基準型/原型の肉眼的な胃小区と組織学的な胃小区との対応想定 (佐賀県健康づくり財団 中原慶太先生との議論を基に作成)

図8 基準型/原型の肉眼的な胃小区と組織学的な胃小区との対応想定
(佐賀県健康づくり財団 中原慶太先生との議論を基に作成)

 

図9 X線写真における原型と改築型の胃小区サイズの比較

図9 X線写真における原型と改築型の胃小区サイズの比較

 

時間を切り取る:Astorex i9とoctave iの性能

以上のことをふまえつつ、2021年4月に発売されたデジタルX線TVシステムAstorex i9(キヤノンメディカルシステムズ社製)の性能について私見を述べてみたい。
Astorex i9には、従来の低線量・高画質検査コンセプト“octave”をさらに進化させた“octave i”が搭載されており、特に透視観察の性能が向上している。以下に、その根拠となる物理データを示す。
図10は、従来システムとoctave iの粒状性の比較である。octave iは粒状性が改善されているため、粘膜面の模様が明瞭に確認できる。また、octave iは濃度分解能(CNR)が向上し(図11)、濃淡つまり粘膜面の凹凸が以前にも増して認識しやすくなっている。加えて、視野サイズ18cmに対応する高解像モードが搭載されており、同モードの空間分解能は大幅に向上している(図12)。
Astorex i9で実際に撮影した胃癌症例を提示する。症例1は、体下部小彎の丈の高い隆起病変であり、小視野や微細視野レベルで粘膜ひだや小区単位の分析が可能であった(図13)。症例2は、噴門部小彎の胃癌例である。明瞭な輪郭を持つたまりの中に、丈の低い隆起部が確認できた(図14)。周囲の粘膜面には大小の不規則な胃小区像が認められるのに対して、病変部では同様の模様像を確認できないことから、本例は粘膜下組織に浸潤した陥凹型胃癌の肉眼的な特徴がX線画像上に現れた症例である、と私どもは捉えている。

図10 octave iと従来システムの比較:透視像の粒状性

図10 octave iと従来システムの比較:透視像の粒状性

 

図11 octave iと従来システムの比較:透視像の濃度分解能

図11 octave iと従来システムの比較:透視像の濃度分解能

 

図12 octave iと従来システムの比較:透視像の空間分解能(高解像モード)

図12 octave iと従来システムの比較:透視像の空間分解能(高解像モード)

 

図13 Astorex i9による撮影例1 a:背臥位正面位二重造影(側面像)、b:腹臥位正面位二重造影(正面像)

図13 Astorex i9による撮影例1
a:背臥位正面位二重造影(側面像)、b:腹臥位正面位二重造影(正面像)

 

図14 Astorex i9による撮影例2

図14 Astorex i9による撮影例2

 

Astorex i9の新技術への期待:i-fluoroとi-slice

最後に、Astorex i9の新技術であるi-fluoroとi-sliceの、胃X線検査での活用法を考察したい。
i-fluoroとは、受診者や天板、映像系を移動させることなく、標的部位を任意に拡大観察・撮影できる技術である。現在主流となっている遠隔操作でのX線TV装置における活用が期待される。実際に、標的部位別の限界解像力と透視線量、撮影線量について検討した結果、視野の位置にかかわらず線量や限界解像力はほぼ一定であり(図15)、受診者と撮影者両方の要求に応えることができる。
トモシンセシス i-sliceは、特定の面での画像を再構成することができ、胃に重なった椎骨や十二指腸の陰影を除外して胃粘膜面を観察することが可能である(図16)。ただし、i-sliceを用いると検査時間が長くなるとともに、被ばく量が増加するため、現時点では研究レベルの技術として位置づけられよう。例えば、本技術により見たいものと天板、FPDの高さを具体的に確認できることを利用して、先に挙げた胃小区サイズの計測研究などに応用することができる。すなわち、Astorex i9の新技術は胃X線検査に変革をもたらす可能性を有している。

図15 i-fluoroの限界解像力と透視・撮影線量

図15 i-fluoroの限界解像力と透視・撮影線量

 

図16 i-sliceを用いたスクリーニング検査症例

図16 i-sliceを用いたスクリーニング検査症例

 

〈謝辞〉
この度の講演では、中村祐二朗技師、杉野吉則先生のご協力をいただいたことに感謝申し上げます。

* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)吉田諭史, 杉野吉則, 岩男 泰, 他:胃X線検診の基準撮影法と異型度判定の基準. 臨床消化器内科, 36(8):81-91, 2021.

 

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