セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
東芝メディカルシステムズ(株)主催の首都圏支社第6回東芝DRユーザーズセミナーが2014年3月8日(土),東芝ビルディング(東京都港区)にて開催された。医療法人社団進興会 オーバルコート検診クリニック院長の馬場保昌氏を座長に,東京都がん検診センターの小田丈二氏と入口陽介氏,慶應義塾大学病院予防医療センターの杉野吉則氏の3名が講演を行った。
2014年7月号
首都圏支社第6回東芝DRユーザーズセミナー 胃X線造影検査の今を知る
ピロリ感染を考慮した胃X線検査
入口 陽介(東京都がん検診センター消化器科)
ピロリ感染を考慮した胃X線検査をテーマに,背景粘膜の質的構成から,組織型・肉眼型の関連性,分化型癌における陥凹型・隆起型と背景粘膜との関係について,症例を提示し解説する。さらに,ABCリスク分類の経験から得た知見を説明し,最後に胃X線検診の精度向上に向けて,診療放射線技師が担うべき役割などを述べる。
背景粘膜の質的構成
ピロリ感染すると,正常粘膜は炎症を起こし萎縮して,腸上皮化生粘膜へと変化する。X線検査は,“面”として萎縮や腸上皮化生粘膜などの全体を観察できるため,複数の画像を観察しなくてはならない内視鏡に比べて有利である。
ピロリ感染した初期の患者の場合,鳥肌胃炎(リンパ性濾胞性胃炎)といった炎症が見られる。これが未分化型癌が発生する背景となっており,前庭部を中心に顆粒状の背景粘膜が見られる。一方,血管透見性のある境界が明瞭な萎縮が見られる場合,または内視鏡で発赤と褪色の箇所が斑状を呈しているものは,分化型癌が発生しやすいとされている。
症例1は20歳代の女性で,内視鏡で鳥肌胃炎が見られた胃体部の未分化型癌である(図1)。切除標本(図1a)を見ると,萎縮も少なくきれいに見えるが,体下部から前庭部にかけて顆粒状の背景粘膜が認められた。Hp抗体検査,ペプシノゲン検査ともに陽性であり,ABCリスク分類ではC群となる。背景粘膜を観察するにあたっては,胃炎のところだけでなく,広い範囲を見ていく必要がある。
同じく症例2は,50歳代の女性の鳥肌胃炎である(図2)。切除標本(図2a)では,前庭部に顆粒状の背景粘膜が見られる。このような粘膜の場合,胃体部にも強い炎症が見られることが多く,X線画像(図2b)では胃体前壁に襞の集中を伴う深いバリウムの溜まりがあり,Linitis plastica-type型胃癌と診断された。
症例3は,胃体部に炎症が起きており,顆粒状の背景粘膜を呈していた胃炎である(図3)。X線画像(図3b)では,粘液が多く,顆粒状の変化を認める。内視鏡(図3c)でも襞の集中・中断を認め,未分化型印環細胞癌と診断された。炎症が胃体部に及んでいる場合,癌ができやすいので,襞の走行異常や集中,中断などを参考に,襞の中の病変を拾い上げていくことが重要である。
症例4は,半固定標本で褪色した顆粒状の背景粘膜が認められるが,症例3に比べて襞も少なく萎縮が進んでいる(図4)。背臥位の第一斜位のX線画像(図4b)でも襞の異常が見られ,顆粒状の背景粘膜が認められた。内視鏡(図4c)では,粘膜の境界が異なる色調で描出されており,未分化型癌であることがわかる。
症例5は,78歳,男性で,深達度がMの高分化型管状腺癌である(図5)。内視鏡(図5a)では斑状の褪色があり,腸上皮化生粘膜を伴っている。淡い発赤調の領域があり,前庭部の小彎後壁に癌があることがわかる。X線画像(図5b)では,辺縁隆起を伴う不整形のバリウム斑として,明瞭に描出されている。さらに,インジゴカルミン法(図5c)では,高度萎縮のある背景粘膜の中に分化型癌が認められた。
症例6は,胃全摘術を行った症例である(図6)。本症例は15年前にピロリ除菌を行っており,実際には8個の癌が見つかっている。新鮮切除標本(図6a)を伸ばすと発赤があり, II cの癌が2つある。X線画像(図6b)では胃体中部前壁に顆粒状の粘膜形成が認められるが,内視鏡(図6c)では病変を拾いにくい症例であった。萎縮が進んだ状態でピロリ除菌を行うと病変の発見が難しくなることがある。また,自然除菌の場合も同様に,病変の拾い上げが困難になる。
ABCリスク分類から学んだこと
当センターでは,ピロリ除菌者を除く発見胃癌571例を対象として,Hp抗体検査と,ペプシノゲン法によるABCリスク分類を行った。日本胃がん予知・診断・治療研究機構のABC分類での胃がんリスク分類では,A群からD群になるに従って,リスクが高くなるとされている。この分類では,A群を管理対象から除外し,二次精検をB群は3年に1回,C群は2年に1回としている。これが適切かどうかを当センターの分類結果から検討した。
571例中Hp抗体検査とペプシノゲン法とも陽性だったC群は53.1%を占め,高リスク群であった(図7)。一方,両検査とも陰性のA群は11.6%となっており,超低リスクとまでは言えない結果であった。A群66例の萎縮度をX線画像と内視鏡像を用いて見たところ,高萎縮が62.1%を占めていた。A群のうち,まったく萎縮がないと判断できたのは6例(1.2%)しかなかった。現在の採血検査では,超低リスクと考えられる“真のA群”を正確に診断するのは困難であることが判明した。
また,深達度を見た場合,C群とD群は,MとSMの早期癌率が80%を超えており,それと比較してA,B群は低率であった。これは,C,D群では萎縮が進み,隆起型の分化型癌が含まれているからである。さらに,組織型を見た場合,全体的に分化型癌が多いものの,B群では未分化型癌の割合がほかに比べて高率であった。肉眼型は陥凹型が多いが,隆起型ではC,D群の割合が高くなっている。A群も隆起型が16.7%とやや高い傾向にあるが,これはピロリ除菌や自然除菌によって,D群だったものがA群になるといった要因が考えられる。
以上のことからABCリスク分類は,胃がんの高リスク群の判定には有用であるが,超低リスクと考えられるA群の中には自然除菌された既感染例や偽陰性例が含まれており,A群の判定を複雑にしている。また,ABC分類でハイリスク群となっても,継続して内視鏡検査を受け続ける受診者が少ないことも課題である。今後は,A群に対してX線や内視鏡検査を組み合わせ,粘膜面の性状,襞の形,襞の分布からピロリ未感染胃を正確に診断することが必要である。
胃X線検診精度向上へのシナリオ
胃X線検診の精度向上には,検査を担当する診療放射線技師の撮影技術と読影の補助の役割が重要である。「新・胃X線撮影法ガイドライン」の基準撮影法に加え,診療放射線技師が透視観察・追加撮影を行うことで画像精度だけでなく,読影精度の向上が得られ,精度の高い検診につながる(図8)。
座長:馬場保昌 氏
1969年 久留米大学医学部卒,同年第二内科入局。71年 癌研究会癌研究所病理研修。75年 癌研究会附属病院内科医員,95年 同総合健診センター所長。2001年 早期胃癌検診協会中央診療所所長。2011年 安房地域医療センター消化管診断科部長。2014年〜進興会オーバルコート健診クリニック院長。
馬場座長のコメント
ピロリ感染を考慮した胃X線検査について,検診背景粘膜の質的構成,ABCリスク分類の観点から講演していただいた。背景粘膜の質的構成,萎縮の状態をX線や内視鏡検査で見ることで,癌の組織型や肉眼型を想定することができ,今後の検診の方向性が見えてくる。
入口 陽介(Iriguchi Yosuke)
1990年 熊本大学医学部卒業(医学博士)。同年 第2内科入局。関連病院勤務後,96年 昭和大学藤が丘病院,97年 多摩がん検診センター。2010年,東京都がん検診センターに名称変更。現在,消化器内科部長。
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